異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】   作:PUKIKA

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【小林と夜の畑にて】

 

 

 

「どれぐらい経った?」

「一時間くらいじゃない?」

「まだそんなもんかよ」

 待機組のアキラと小林は畑の中でうずくまっている。探索組の篠原と成田が出発したあとも、例の家を見張り続けている。太陽はとっくに沈み、畑の中は地獄のように暗い。

 小林がため息をつく。

「なんかあったら逃げろっつってたけど、逃げてどうすりゃいいんだって話だ」

「言わんとするところはわかるよ」

 今度は深く重いため息。「こんなとこで何してんだろうな、おれら」

「その疑問もわかる」

 しばらく押し黙ってから、小林がふたたび口を開く。

「成田のやつが羨ましいわ」

「なんで?」

「あいつ、昨日の夜からずっと楽しんでる。ぜんぜん悩んでないっつーか、生き生きしてる。脳みそお花畑とかいうレベル通り越して、ガチでアタマおかしい。でもある意味……」言葉が尻すぼみになる。

「ま、神経が太いのは確かだね」

「どうなると思う、これから?」

「今は、五分以上先のことを考えないようにしてる」

 小林は聞いていない。「もし帰れなかったらって思うと、マジぞっとする。ぜんぶあっちにあるのに。家族もツレもインターハイも。カノジョも。将来の夢も。LINEのくだらないやり取りも。やりかけのゲームも。行きたい大学も。当たり前のもんがぜんぶ」

 その声に微かなヒステリーの響きを聞き取って、アキラはちらりと隣を見る。小林はいよいよ参りかけているようだ。その兆候は昨晩からあったが、今や危険域に達した感がある。かくいう自分もかなり無理をしている。

 気が紛れるかもしれない、とアキラは軽い話題に誘導する。

「将来の夢って、やっぱJリーグ?」

「え? いや、ちげーし。サッカーはただの部活」

「じゃあ何?」

「医者。お医者さん」

「へえ。意外だ」

 小林が肩をすくめる。

「なんのお医者さんか当ててみせようか?」アキラはあえて茶化す口調で言う。「第一志望は産婦人科医。決め台詞は――パンツはわたしが脱がせましょう、この仕事の一番好きな部分なんです。第二志望は女子高限定の身体測定専門医。決め台詞は――お嬢さん、その邪魔なブラを取って早くおっぱいを見せなさい」

 吐息のような笑い。「くだらねえ。第三志望は?」

「お医者さんごっこ専門医。ガンかもちれまちぇんね、検査ちまちゅからぱんちゅ下ろちて」

「何おまえ、おれをそんな風に見てんの? ぜんぶちげーから」

「いたって真面目な動機だと」

「まあ……医者の家系だし? ちっさい頃から憧れてたし?」

「親、医者なんだ? うちの母さんも医者。頭の」

「脳外科?」

「メンタル系。何してんのかはよく知らないけど、精神科医」

「奇遇じゃん。おれのオカンもそっち方面。心療内科。疲れた現代人に薬とアドバイスと冗談を処方してる」

「お母さん、いいお医者さんぽいね。お父さんは?」

「も、医者。つーか全員」

「全員?」

「んん。爺さんも親父もお袋も姉貴も叔母さんもみんな医者。兄貴も地方の病院でインターンやってる」

「エリート一家だ」

「おれは不器用だから、夢を諦めるべきなんじゃねえかって考え中だけど。いやマジな話、不器用な医者って患者さんにしてみりゃ最悪だろ? アキラ、おまえは? 将来の夢」

 アキラは冗談でかわしかけるが、結局、素直に答える。「幸せになること」

「えれー漠然としてんな」

「好きなことやって暮らして、温かい家庭を持つこと」と言い直す。

 先より明るい笑い。「でけぇ目標じゃん。好きなことやって暮らせるのは一部のやつだけだし、温かい家庭ってやつも、なんだかんだで一番ムズイっつーし」

「それが本当なら、ぼくは首をくくるしかない」

 みたび笑い。「マジな話、機能不全家族の末っ子やってる身としては、かなり実感するわ。おれは家族全員と仲良いけど、家族同士はそうじゃない。ガチで冷え切ってる。例えばうちの爺さん。美容整形外科医の親父を金の亡者って蔑んでる。親父のほうは、大学で教えてる爺さんを頭でっかちの骨董品って見下してる。我の強い兄貴は勘当寸前で、親は離婚寸前で、しかもお袋は、家庭問題を論じた本を何冊か書いてるその筋の権威。皮肉じゃね? こういうの普段から見てるとさ、家柄も学歴も肩書きも、幸せにはあんまカンケーねえなって思うわ、実際」

「なんて言うか、ご愁傷さま?」

「いや、別に?」深刻な話題のはずだが、小林はあっけらかんとしている。「昔からあんなだから気にしてねえし。さっきも言ったけど、おれは全員と仲良いし。おまえんちはどう?」

「睡眠導入剤の代わりになる程度にはフツーかな」

「兄弟はいんの?」

「妹が一匹」

「もうそれだけで仲悪いのわかるわ」

 定位置のソファに寝転んでファッション誌を読む妹の姿をアキラは思い出し、ホームシックに駆られる。口ではこう言う。「別に悪くはないよ。生意気すぎて時々殺してやりたくなるだけで。にしても腹減ったな」

「晩飯がチョコ一粒とかマジ死ねるわ」小林の声がまた沈む。「完全に忘れてたけど、魚釣っとくんだった」

「シノとナリが食べ物、見つけてくるかも」

「篠原が許すか、そういうの? あいつ、ウザいくれぇ用心深いだろ?」

「あの態度は正しいと思うよ」

「いや、別に批判してるわけじゃねえから。正しいのはおれもわかる。どんくれぇで戻るっつってたっけ、あいつら? 一時間?」

「早くて二時間」

「じゃあ、かなーり待たされそ――」

 正面に見えている家のドアが不意に内側からひらき、畑の中の二人は凍りつく。戸口から蝋燭か何かの黄金色の光が漏れ出、月下に人型のシルエットが現れる。

「カモン、ボーイズ!」成田のおちょくるような声が呼びかけてくる。「出ーておーいでー。誰もいない。マジ安全」

アキラと小林は顔を見合わせてから、ためらいがちに畑を出る。その慎重な足取りを見て、成田が笑い声を響かせる。

「早く来いってば。ここら一帯、廃村っていうかさ、空き屋ば――」

「死ぬほどビビらせやがって」アキラは珍しく怒りをあらわにして成田に詰め寄る。「畑に戻ってくる予定だったろ?」

「いや、悪かったって」と成田。「空き家ばっかだし、この家も絶対そうだってことになって、軽く予定を変更したわけ。で、裏の丘から近づいて、誰もいないの確認して、今ココ。ビビらせたんならほんと謝る」

 アキラは戸口から屋内を覗き込む。粗末な玄関ホールに見えないこともない。物置の上の受け皿みたいな燭台の灯りがそこかしこに深い影を作っている、ほぼ空っぽの大部屋。両サイドには別の部屋に続く戸口。正面の脇には手すりを備えた階段。成田に顔を戻す。

「〝空き家ばっか〟?」

「そ。でもま、空き家っつーか、村人総出で夜逃げでもした感じ? テーブルとかベッドとか箪笥とか、デカい家具はそこそこ残ってんだけど、細かいもんはあんま残ってない」

 成田が蝋燭を指さす。

「あの蝋燭と台、別の家で見っけたんだけど、家の外にタンスみてえのと一緒に放置されてた。ドアも開けっぱだったし、住人が急いで荷造りして運べるもんだけ運んだ、みたいな。ほかの家も似たようなもん」

「シノは?」

「二階。使えるもんがないか漁ってる。あと地図探してる」

「家は何軒あった?」

「確認できた範囲で、ここ入れて六軒。丘の裏に二軒、シノが怪しいっつってた西側の丘の向こうに二軒、その先に牧場っぽいのが一軒。あとは倉庫」

「じゃあ、規模は集落ってとこ?」

「見た感じ、そんなもん」成田が漠然と辺りに顎をしゃくる。「とりあえず、周囲一キロには誰も住んでなさ気だから、早めに戻ってきたんスわ」

「このあとは?」小林が尋ねる。

「篠原きゅんの指示待ち」

 ちょうどそのとき、上階から足音が聞こえる。スニーカーの柔らかい靴音と蝋燭の灯りが階段を下りてきて、篠原が姿を見せる。最後の数段を下りながら三人に言う。

「若干の懸念はあるけど、今夜はここに泊まろう」

「懸念って?」とアキラ。

「明日話す。探索の続きをしてはっきりしたら、そんときに」

「泊まるの、裏の家のほうが良くね?」と成田。「ほら、丘に近いほう。あの家、居心地良さそうだったし、ベッドに毛布があった」

 篠原が忍耐をにじませた声で言う。「意見を口にするなら、果たしてそれが正しいのかどうか、考えてからにしてくれ」

「考えましたってば。あっちには毛布がある」

「わかった、レクチャーしてやる。あっちは道のどん詰まりで、しかも丘の陰になってる。もし誰かが来たら、そいつはもうおまえのケツを拭ける距離にいる。でもこの家は高台にあって、二階の西側の角部屋から周囲を見晴らせる。理解したか?」

 成田がうなずき、ポケットから出した何かを口に放り込む。

 酸味のある香りがアキラの鼻孔をくすぐる。

「何食べてんの?」

「あ、そうそう。食いもん見つけたぞ。ほれ、手ぇ出してみ」

 アキラは渡された一センチ大の粒を月光にかざす。「ブドウ?」

「か、どうかは知らん。果樹園みたいなとこに生ってたなんかの実」

 アキラは篠原に目を向ける。

「おれは食べてない。でもまあ、この盗み食い野郎が明日の朝になっても盛大に吐いたり痙攣したりしていなかったら、そして健康な肌色で生きていたら、おれも食べるかも。雨宮、小林、おまえらもそうするべきだと強くお勧めする」

 成田が軽く受け流す。「大丈夫ですってば。こんなに美味いもんが毒なわけがない」

 篠原が血の巡りの悪い七歳児を見るような目で成田を見やる。「もう一回言うけどな、おれたちはこの世界にとって異分子だ。土着のウイルスや細菌にまったく免疫がない。海外旅行ですら食事と水に気を遣うってのに、自殺願望でもあんの、おまえ」

「こっちももう一回言わせてもらうけど、だったら飢え死にするしかないじゃんよ。だいたい、ウイルスや細菌なら、この世界に来た瞬間からリスクにさらされてる。とっくに川の水も飲んでるし」

「その主張は認めてやる。でもな、食べるにしても少量だけ試して、様子を見るもんだ。食用かどうかすら怪しい未知の果物をばくばくやるのは――」篠原が言葉を切り、首を振る。「小林、自己責任だぞ」

 小林がもぐもぐやりながらうなずく。「いや、篠原の言ってることはわかるんだけどさ、ハラ減りすぎて我慢できなかった」

「その一粒でやめとけ。朝になったら死体が二つ転がってました、なんて洒落にならねえ」

 アキラはしばし迷ってから、果物の粒をポケットに入れる。「さっきの話だけど、夜も交代で見張る感じ?」

「もちろん」と篠原。「異存がなければ、昼の組分けでやろう。おれと小林が早いシフト、雨宮とナリが遅いシフトで、五時間交代。明日は順番を入れ替える。昼寝すれば睡眠不足は補えるし、早番・遅番の向き不向きがはっきりしたときは、どっちかに固定したり組分けを変えたりして、臨機応変にやる。その日の体調も考慮する。早番・遅番は当座の間に合わせだ。今後、三交代、四交代に変えてもいい」

 誰も異議を唱えない。「いま七時一〇分。雨宮とナリは先に寝てくれ。二階にたくさん部屋が――いや、ばらけて寝るのはマズイな。見張りと近いほうがいいか。角部屋の隣にベッドを二つ移動させて、そこを寝室にしよう」

 

 

 

 




次話は明日12時05分に投下いたします。

【告知】
 コメント欄は半無政府状態の解放区です。ノーベル文学賞とバッド・セックス・イン・フィクション賞ではどちらがクールなのか、ヘミングウェイとアップダイクがフーターズに繰り出したらハメを外しすぎて店を叩き出されるのはどちらか。グリーンデイ対BLINK182、田中角栄対アメリカ政府、純愛対なんか人に言えないやつ、優しい嘘対愉快犯な嘘、といった自由なテーマで、クイーンズベリー・ルールに準拠した言葉のボクシング(敬語・丁寧語・ビジネス文書・お嬢様言葉・演劇風)で気兼ねなくお話ください。
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例文:「実在の人物のみ伝記の題材にされるからして、シャーロック・ホームズは実在するのである。口に入ならないサイズの釣り針などではない! 決して! オックスフォード大学の研究で判明したところ、アーサー・コナン・ドイルはワトソン博士のペンネームであり、バッキンガム宮殿にすら忍び込む悪質なパンティ泥棒だったホームズJrがオーストラリアに流刑され、身分洗浄で名前を変え、そしてホームズの曾孫にあたるのがアカデミー賞5冠のカーク・ラザルスなのだ。でなければ、伝記や正伝の描写と似ても似つかない風貌の俳優を抜擢する道理がないではないか! ……ところで、ロンドンのパン屋の屋根裏からシェイクスピアの未発表原稿が発見された世紀のニュースはご存知か? ロイヤルシェイクスピアカンパニーが来季にかけるそうだよ、砂漠の嵐作戦前夜に起きた米海兵隊偵察隊員とフセインの娘の禁じられた悲恋『ハムレットPART2: スカッドミサイルの夜』を」


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