異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】 作:PUKIKA
成田教授のチート能力101は昨晩すでに受講済みなので、アキラは相槌を打ちながらほぼ聞き流し、頃合を見て話を戻す。
「で、スケールのデカい成り上がりっていうのは?」
「ひと言で言うと、ヒロイック・ファンタジー。チート能力があってもなくても、弱小国とか虐げられてる民とかの軍師役に収まって、国家存亡の危機を救ったり国を興したりする。責任と難易度がくっそ高い公務員って感じ? ミスると死んじゃう的な」
「フツーの高校生四人には、いきなり宇宙飛行士になって大活躍するよりもハードルが高いと思う。言い方は悪いけどさ、地に足の着いた案はないの?」
「ありますですよ、旦那。スケールの小さな成り上がりが、ご所望の案にございます。おれらのアドバンテージをフル活用できる――かもしれない」
アキラは成田のほうへ顔を向ける。
「アドバンテージって?」
「見たまえ、窓の外を」と声が笑いを含む。「異世界だ。そして見よ、この家を。設備も家具も小物も、現代的な要素がまるでない。ほかの家もおんなじ」
「さっきシノが、一二世紀から一八世紀のあいだのどこかじゃないかって言ってた」
「つーことはだ、現代の知識が武器になる」
「あー……なるほど、なるかも。具体的には?」
「便利グッズを開発して売る商人、異世界人を魅了するメシ屋、農業改革アドバイザー、等など。要は、異世界にないものを売りにする」
アキラは二秒ほど考える。「言いたいことはいろいろあるけど、ナリんち、農業関係?」
「いや、うちは建築関係」
「だったらアドバイザーなんて無理だし、建築業やるほうが芽があるんじゃない?」
「おれ、建築のことなんも知らんし。一二世紀だか一八世紀だかでポストモダンが受けるとも思えねえし。でも農業ネタは異世界ものにしょっちゅう出てくるから自然と憶えた。牧畜方面じゃサイロの発明は画期的だったとか、クローバーと石灰は土壌改善に役立って農作物がすくすく育つとか」
「この世界にクローバーと石灰があれば。そしてサイロがまだ誕生していなければ」
「そう、そこがネック。時代によっては便利グッズも厳しいな。製造技術がないとか、すでに似たような物があるとかだと、試合終了。ポンプがまだ登場していなければ、荒稼ぎできそうなんですけどねえ」
「ポンプって、あのポンプ? 水をくみ上げるあれ?」
「それ。異世界ものの鉄板ネタ。構造が単純って書いてあるからさ、気になって調べてみたわけ。実際、そう難しいもんじゃない。製鉄技術が一定以上あれば実現可能。あとは特許を取って左団扇ですわ」
「特許の概念があるかな?」
「おれは五分五分と見るね。建物の感じからして、この世界の住人の知性はおれらと遜色がない。文明が成熟する過程で、頭のいいやつが特許のシステムを考えつくはず。特許は保険と同じくらいの歴史があるって聞くし、とっくに実用化されてるかも。
そういった諸々に左右されにくい方向だと、やっぱメシ屋だな。結構いけそうな気がする。和食は調味料が特殊すぎて無理くさいけど、パスタ、ピザ、ハンバーグ、揚げ物あたりなら再現できそうじゃね? 可愛いと美味しいは正義」
「料理の腕と開店資金と食材の問題をクリアできれば、いけるかも」
「最初の問題はクリアしてる。答えは、このわたくし」
「ナリ、料理できんの?」
「得意中の得意。人様に自慢できる唯一の特技です」
「素直に感心する。ぼくはさっぱりだ」
「ほら、ラノベの主人公って家事スキル持ちが多いからさ、ならおれもいっちょやってみますか、って軽いノリで始めたら、めっちゃハマった。今じゃ和食、中華、洋食、一通り作れる。パンもパスタも生地から作れる。スイーツも、チーズケーキくらいなら目隠ししてても作れる。そこらの主婦には負けませんよ。
さっきおまえが挙げた問題点だけど、あとの二つも要はやりよう。最初は皿洗いでもいいからどっかの店に雇ってもらって、こっちの料理と食材を一から勉強して、徐々におれらのメシを再現して、シェフとしてのし上がりつつ、開店資金を貯める。結果が出るまで時間がかかりそうだけどさ、絶対無理ってもんでもないでしょ?」
「成田シェフと愉快な仲間たちか。マジでいけるかもだね」
「おれたちの現状を鑑みるに、いま考えてる中ではこれが一番堅実で、実現性が高いんじゃないかと踏んでる。こいつメインでやりながら、副業やってもいいわけだし」
「さっき言ってたポンプ?」
「うんにゃ。娯楽関係」
「娯楽?」
「そ。これも鉄板ネタ。オセロ、チェス、将棋、囲碁を流行らせる仕掛け人。娯楽はいつの時代も需要がある。似たようなものがすでに存在していても、面白ければ誰だって食いつく。可愛いと美味しいと面白いは正義」
「それも課題が多そうだけど?」
「確かに。なんの後ろ盾もないおれらがいきなり製造から販売まで手がけるのは無理だわな、実際。しかも利権を守りつつとか無謀もいいとこでスわ。どっかにアイディアを売って実績を積み重ねていく方法もあるっちゃあるけど、博打の要素がデカい。出会いに恵まれないと、アイディアを売り込む段階で頓挫するか、アイディアを盗まれるかしそうだし。だからサイドビジネス。まずこっちの世界に馴染んで、市場をリサーチして、然るべき人脈を作ったら、電撃作戦みたいに次から次へと流行を仕掛ける。エンタメ業界の革命児になるのも夢じゃないぜ。ビル・ゲイツ並みの大富豪の革命児に。どうよ、これ?」
「最後のほうは願望色が強いけど、いいね。いいと思う」
「ご拝聴ありがとうございました。ちったあ前向きになれたか、雨宮さんや?」
見張りが終わる頃、アキラは改まった口調で尋ねる。「ナリ、一つ訊いていいか?」
「どんとこい」
「マジでおまえ、どう感じてんの? こんなことになって」
「一分一秒が土曜日の朝」
「一分一秒が土曜日の朝。つまり?」
「今日は何があるのかなってわくわくしてる、あの感じ」
「それ、本心? 強がりとかじゃなくて?」
「何を強がる必要があるというのかね? 我々は約束の地にいるというのに」
成田の声には、自宅にいるような寛ぎと、はちきれんばかりの喜悦がありありと満ちている。
おまえはどうかしてる、とコメントする代わりに、アキラは口を閉ざす。数拍の間を置いて、成田が夢見る口調で続ける。
「予感がある。こっちに来てからずっと。こっちに来た瞬間から」
「なんの?」
「何かどデカいことが実現する予感」
「どデカいことならもう実現してる。この異世界」
「違う、そうじゃなくて、異世界ならではの、何かどデカいことが実現する。魔法の才能、救国の英雄、億万長者の玩具屋さん――何かそういうやつ」
「予感がはずれなければいいね」
「おれは一度として、この手の予感をはずしたことがないんスわ。ほとんど予言の域」成田が官能的に息を震わせる。「ああ……スゲー楽しみ。つーか、もうすでに楽しくてたまらん。この何年かで今が一番、生を実感してる。アキの字、見てろよ。この約束の地で、おれらの人生、めっちゃ凄いもんになるぞ」
アキラは小さくかぶりを振る。「ナリさ、元の世界に未練とかないわけ?」
「ないこともない。漫画の新刊とか、新作アニメとか、やりかけのFFとか。でもあっちじゃ基本、死ぬほど退屈してた。篠原先生が大層ご心配なさっている不安要素があっても、おれはこっちの世界のほうが断然いい」
我慢できなくなってアキラは言う。「良くも悪くも、おまえは狂ってるな」
「ま、自覚はある」
東の空が白みだす。
篠原から預かっているオメガにアキラは視線を落とす。「一日二四時間みたいだね」
「おお、新しき朝よ、悦びの太陽よ、汝は何をもたらさんや?」
次話は本日21時05分に投下いたします。