異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】   作:PUKIKA

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【ささやかならざる懸念と決断】

 

 

 

「ここにも地図はなさそうだな。落書きレベルの簡単なやつでいいのに」篠原が家捜しを諦めて成田に尋ねる。「どうだ?」

「食えんことはない。めっちゃぱさぱさしてるけど」

 便宜上、牧場と呼ぶことにした囲い地には倉庫があり、最初の家の倉庫と同じく、収穫された赤いぶつぶつの房が大量に保管されている。一つ異なったのは、入口の脇の棚に、大皿サイズの薄紅色の円盤が山と積まれていたこと。隅のテーブルの上に放置されていた食べかけから察するに、ピンクの円盤は赤いぶつぶつを加工した食べ物らしい。合成着色料まみれの干からびたナンに見えなくもない。

「味は……」モルモットに志願した成田の目が、言葉を探して上方に泳ぐ。「なんだろうな、これ? 塩気のないポテチ? かなーり良く言って」

「やっぱ傷んでんじゃねえの、それ?」と小林。

「いや、傷んでる味ではない……はず。カビだって生えてねえし、虫も湧いてねえし、いける……はず」

 篠原が棚の上のピンクの円盤/ナンの層に指を滑らせる。「保存食っぽいな」

「あー、かも。水気ゼロだし。シノっちも食ってみ」

「今これを食ってる」と、行きがけに果樹園でもいだ黄色い房を掲げて、ぷっと皮を吐き出す。「二四時間後におまえがまだ生きてたら、そのフリスビーも食うよ」

「その果物、マジうまうまじゃね?」

「キュウイとバナナをいっしょくたにしたみたいな味がする。ちなみに、どっちもおれの食いたい物リストに入ってない。でも好き嫌い言ってらんねえからな」

 どちらも食べたい物リストに入っているアキラは、謎の果物を一発で気に入る。皮に妙な苦味があるし、食感がどことなくゴムを連想させるが、マジうまうまだ。空きっ腹も相まって、手が止まらない。

「雨宮、食いすぎるなよ」と篠原。「合う合わないの体質的な個人差があるかもしれない。おれもこいつを食い終わったら、体調に変化がないか様子を見るつもりだ」

「なあ」小林がしかめっ面で暗い倉庫内を見回す。「さっきも言ったけどさ、なんか気味わりぃんだけど、この村。なんで無人なわけ?」

「若者がいなくなったとかじゃないスか」成田がピンクの円盤をひょいと振る。「いかにも過疎ってそうな場所じゃん。親戚んちの近くにあった限界集落も、二、三年でここみたいになってた。聞いたら、住民がお亡くなりになられたり老人ホームに入ったり親類に引き取られたりで、あっさり潰れたんだと」

「学校で習ったな、そういうの」

「幸運に感謝しとこうぜ。元の住人にはお気の毒さまだけど、おかげで当座の寝床と食いもんが手に入ったんだし」

「でもなんか腑に落ちねえっつーか……」

 篠原が戸口にもたれて、外を眺めながら言う。「それ関係で、あとで話がある」

「何? なんで今じゃねえの?」と小林。

「優先順位の問題。先に確認を終わらせる」

「お」成田が棚の陰から細くて長い棒を取り上げる。「釣り竿発見。コバっち、おいらがおまえっちのためにヌシを釣り上げるから元気だすっスよ」

 小林が苦笑する。「リールなしで川釣りとかムズいんじゃね?」

「なんとかなるで……んー? なーんかヘンなライン使っとりますな、こいつ」

「糸じゃねえの?」

「糸っつーより……よくわからん。針、針、針はどこじゃらほい」

「握りんとこにあるぞ。ラインで巻きつけてある」

「へーえ、木かなんかを加工して作ってある、この針。ま、釣れれば問題ナッシング。餌は……そこらの虫でいいか。シノっち、今からお魚を釣りに行っていい? ボク、今夜はお魚パーティーするんだぁ」

「まだ西側の確認が残ってる」

「もう確認したじゃん。丘の上から」

「それだけじゃ足りねえよ。ほら、行くぞ」

 慎重な歩みの一〇分と七二〇メートル後、四人はトウモロコシ的な畑の終端に立ち、起伏の激しい丘陵地帯を眺める。川と道は丘を回り込むようにして南西寄りの方角へ逸れ、また西のほうへ曲がっている。

「よし、なんもない」と成田。「おれは魚を釣る」

「その前に聞いてほしいことがある」と篠原。

「おい、シノ――」

「大事な話だ」

 篠原が三人と向き合う。

「小林、おまえさっき、腑に落ちないって言ったろ?」

「ああ」

「おれも同感。そこで提案がある。可能な限り早く、次の村か街を探すべきだ」

 小林が成田とアキラのほうを見、篠原に顔を戻す。「理由は?」

「見てのとおり、この集落には住人がいない。家畜を飼ってる形跡があるのに、家畜もいない。重い家具以外は一切合切運び出して、ろくに戸締りもしていない。倉庫の中の、嵩張る収穫物もそのままだ。それと、さっき確認して回ったときに気づいたんだが、どの家も埃がたまってない。畑も手入れが行き届いてる。つまり住人は、おそらくここ一週間のあいだに、持てるだけのものを持って、急いでどこかへ行ったことになる。

 ナリ、限界集落説を全否定するつもりはないぜ。でも今挙げた理由から、おれにはそう思えない。むしろおまえが昨日言ってた〝夜逃げしたみたいだ〟ってやつのほうがしっくりくる。状況もそっちを示唆してる。となると、問題は原因だ。住人が一斉に消えるなんてただ事じゃない。自然災害、紛争、肉食獣の脅威――いくつか考えられるが、とにかくマズイことがあったんだろうよ」

 肉食獣と聞いて、アキラと小林は辺りに不安な眼差しを向ける。成田も興を削がれた様子で釣り竿をだらりと下げる。

 アキラは篠原に尋ねる。

「それが昨日の夜言ってた懸念?」

「ああ。でもあの時点では確信がなかった。ここが町外れの打ち捨てられた一角で、ちょっと行けば住人がいる可能性があったし。でも……」と丘陵地帯のほうへ頭を振り動かす。

「丘から見たとき、近くに誰かが住んでる気配ゼロだったな」成田が空を見回す。「日が昇って結構経つのに炊事の煙が一つもねえし」

「朝は冷たい食事で済ますってことも考えられるが、ああ、それもある」

 成田がうなずく。「オーケイ、次の人里を探すに賛成」

 アキラと小林にも異はない。

「で、いつ出発すんの?」小林が尋ねる。「やっぱ今すぐ?」

「早くて正午」と篠原。

「昼? なんで昼まで待つわけ?」

「ナリとおまえはフリスビーを食って、おれと雨宮は果物を食った。移動中にもし体調が急変したら?」

「ちょっといい?」と成田。「そういうことならさ、食う前に今の話をしてほしかったんですけど。おまえどうせ、もっと早い段階で出発するつもりでいたんだろ?」

「これでも妥協してるんだよ」篠原が言い聞かせるように言う。「おれたちは今、カロリーがまったく足りてない。自覚があってもなくても、体力が落ちてる。だから食料の確保を優先した。幸い、半日前に果物を食ったおまえと小林がぴんぴんしてる。原住民の農作物の安全性が〝いくらか〟保証されたわけだ。思えば、この世界の環境それ自体がヒューマンフレンドリーだよな。呼吸できる空気とか、違和感のない重力とか、地球と大して変わらん植物とか。でも――」

 成田が芝居気たっぷりに両手を大きく広げる。「謝意を表してくれてもいいんですよ、篠原くん。おれの命懸けの献身に対して」

 篠原が中指を立てる。「こいつをくれてやる。おまえが馬鹿やってることに変わりはねえよ。それから、まだ話の途中だ」

「続きをどうぞ」

「あの果物がナリと小林には問題なくても、おれと雨宮は受けつけないかもしれない。ナリもフリスビーを食べたばかりだ。四、五時間、様子を見る。何も異常が出なければ、果物とフリスビーを集めて出発する」

「異常が出たときは?」と小林。

 篠原がやや投げやりに肩をすくめる。「そのときに決めるしかない。わかんねえことが多すぎる。ただ、症状が軽い下痢程度で、ちゃんと物が食えるようなら、出発してもいいかもな。たぶん、次の人里まで遠くても二、三〇キロってところだ」

「なんでそう思うわけ? 二、三〇キロって」小林の声が不安と期待でか細くなる。それに応じる篠原の声は事務的だ。

「なぜなら、この集落が完全な自給自足でやっているのでない限り、足りないものを他所で手に入れているはずだからだよ。馬車か徒歩で日常的に行ける距離って考えると、遠くてもそんなもんだろ。つっても、あくまで予想だぞ」

 小林の顔が不満そうに曇る。「つまりさ、ちょっと予想が違ってても、無理すれば一日で歩ける距離ってことだろ? ここがヤバいんだったら、準備とか悠長なこと言ってないでさっさと出発するべきじゃねえの? チョコとかまだ残ってんだし」

 アキラが横から言う。「次の町でリッツホテルにチェックインして、ルームサービスでお腹いっぱい食べられるのなら、準備なしで無理するのもアリかもね」

「はあ? どういう――ああ、そっか。おれら、使えるカネがねえもんな」

「雨宮が言ったのはそういう意味じゃねえよ」と篠原。「関わっても大丈夫な連中か見極めるまでのあいだ、おれたちは野宿して、体力を消耗し続けるって意味だ。だから最低限の準備は必須だ。ぶっちゃけ、最低限にも届かねえだろうけどな。あと、自分の体力を過信するなよ。カロリー不足のガス欠は急にがくっとくるぞ」

「ああ、知ってる。部活で経験ある」不安が勝ったらしく、小林の声音から期待が抜け落ちる。

「じゃ、一旦最初の家に戻ろうか?」篠原が優しく言う。

 

 

 

 




次話は明日12時05分に投下いたします。

【告知】
 コメント欄は半無政府状態の解放区です。ノーベル文学賞とバッド・セックス・イン・フィクション賞ではどちらがクールなのか、ヘミングウェイとアップダイクがフーターズに繰り出したらハメを外しすぎて店を叩き出されるのはどちらか。グリーンデイ対BLINK182、田中角栄対アメリカ政府、純愛対なんか人に言えないやつ、優しい嘘対愉快犯な嘘、といった自由なテーマで、クイーンズベリー・ルールに準拠した言葉のボクシング(敬語・丁寧語・ビジネス文書・お嬢様言葉・演劇風)で気兼ねなくお話ください。
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例文:「実在の人物のみ伝記の題材にされるからして、シャーロック・ホームズは実在するのである。口に入ならないサイズの釣り針などではない! 決して! オックスフォード大学の研究で判明したところ、アーサー・コナン・ドイルはワトソン博士のペンネームであり、バッキンガム宮殿にすら忍び込む悪質なパンティ泥棒だったホームズJrがオーストラリアに流刑され、身分洗浄で名前を変え、そしてホームズの曾孫にあたるのがアカデミー賞5冠のカーク・ラザルスなのだ。でなければ、伝記や正伝の描写と似ても似つかない風貌の俳優を抜擢する道理がないではないか! ……ところで、ロンドンのパン屋の屋根裏からシェイクスピアの未発表原稿が発見された世紀のニュースはご存知か? ロイヤルシェイクスピアカンパニーが来季にかけるそうだよ、砂漠の嵐作戦前夜に起きた米海兵隊偵察隊員とフセインの娘の禁じられた悲恋『ハムレットPART2: スカッドミサイルの夜』を」


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