異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】   作:PUKIKA

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【住民】

 

 

 

「東のほうに住んでる連中が大挙して逃げた跡、と見るべきなんだろうな」篠原が乾いた土の路面を見下ろしながら言う。

 土手道には、先の枝道とは比べ物にならいほどの痕跡が残っている。何十本も重なった車輪の跡はもとより、無数の靴跡と動物の足跡が混然一体となって西に向かっている。

「川を下った先にデカい街でもあるんでしょうね」と成田。「プチ民族大移動のあとなら、肉食獣の危機は小さくなったんじゃない?」

「気を抜くなよ。逆に住民の気配に誘い寄せられた、ってこともあり得る」

「うへぇ」

  しかし道中は平穏そのもの。辺りを徘徊する肉食獣はおろか、草食獣の姿すらない。一時間ほど行くと、道は高台の天辺へ向かい、川のほうは、高台を回り込んで大きく左へ逸れる。勾配を半分ほど上ったとき、最後尾を行く小林が注意の声を上げる。

「おい、後ろ」

 一斉に振り向く。

 あとにしたばかりの森から、がたがたコトコトと四頭立ての大きな幌馬車が――

「なあ、どうする?」小林が囁くように尋ねる。

「こうなったらもう行き当たりばったりでやるしかないだろ」と篠原。「隠れるには遅すぎる。今から逃げても不審がられるだけだ。雨宮、御者がどんなやつか見えるか?」

「まだちょっと遠いけど、人間だね」

 成田が不満気な声を出す。「おれとしては、話のわかるエルフのお姉さんか、細かいことにこだわらないモフモフのお姉さん希望なんだけど」

「夢を壊して悪いけど、男だ」アキラの声が緊張で掠れる。

「どんな?」と篠原。「古臭いデザインの帽子被った外国人。すぐわかるよ」

 四人は路肩に寄って、近づいてくる幌馬車を見守る。次第にほかの三人も、日除けの影になった御者台の人物がはっきりと見て取れるようになる。赤毛で赤ら顔の太った中年男。服装は肩の膨らんだ漆黒の上着と、羽根飾りの付いた小粋な帽子。史劇の登場人物のような格好をして幌馬車に乗っている点を除けば、別段変わったところはない。ごく普通の人間だ。

「馬車曳いてるの、昨日の不思議生物じゃありません?」と成田。

「だね」とアキラ。「あいつら家畜に使えるのか」

「相乗りさせてくれないかな。マジもう歩きたくない」

「ちょっと黙ってろ」篠原が静かに命じる。

 少年たちは御者を食い入るように見つめる。御者は御者で、少年たちをまじまじと見つめている。相手の顔つきは、いやに険しい。着衣が乱れ、屋根裏かどこかを這いずり回ったかのように薄汚れている。

「あのオッサンも逃げてきた口か?」成田が囁く。

 のろのろと進む馬車に篠原が歩み寄り、「Excusez-moi, monsieur.」と丁寧に話しかけ、フランス語はできるかと尋ねる。ろくに反応がないので、「Then, er, do you speak English, sir?」と言葉を変える。

 やはり無反応。

 リカルドに少し習ったガイドブックレベルのスペイン語でアキラも尋ねる。「¿hablas español?」

 ここでようやく御者が短く答える。ちんぷんかんぷんの言語と発音で。

 篠原が困ったように両手を広げて、「あー、日本語がわかったりとか……?」

 御者が猛烈な勢いで言葉を吐き出し、しっしっ、と追い払う手振りをする。用心深い眼差しを少年たちに注ぎながら、エルクもどきの尻を手綱でぴしりと打つ。幌馬車が速度を上げて、逃げるようにして四人を追い抜く。後部で大きく口を開けている幌の中が覗く。使い込まれた衣装棚やら鏡やらフライパンやら、雑多なものが隙間なく積んである。

 篠原がまた両手を広げて、かぶりを振る。「あのオッサンの言葉、カンペキに意味不明。なんかラテン語っぽい響きが交ざってたけど、おれにわかる限り、ヨーロッパの主要言語でもロシア語でもない。雨宮、おまえにはどう聞こえた?」

「ぼくにもさっぱり」

 遠ざかる幌馬車を目で追いながら、小林が喉に詰まった声で言う。「異世界だし、言葉の問題は当然っちゃ当然だけど、でも……マジどうすんの、これから? 言葉が通じねえとか、どうにもならねえじゃん」

 篠原が小林を冷ややかに見やる。「言いたかねえけど、泣き言を吐きまくって許されるは三歳までだ。なあ、いいか、言葉の通じない国でも意外となんとかなる。思考停止せずに臨機応変にやれば。できないことじゃなくて、できることに集中しろ」

「いっちゃんきついパターンか、これ?」

 浮かない顔の成田にアキラは目を向ける。

「何が?」

「いや、おれは期待してたわけ、もしかしたら加護が与えられてんじゃないかって。いざとなったら言語スキル発動って風に。でもしなかったってことは、タイムトラベルのノリに近いリアル路線で確定かも。リアル系の主人公は、言葉を一から覚えることも含めて、めっちゃ苦労する。理不尽な目にも遭いまくる。なんとかがんばって一発逆転するのは、最後の最後。あー、でも待った、逆境はユーモア・ファンタジーにも共通するから――」

「ナリ、本とかアニメは忘れたほうがいい。物語と現実は違う」

「それ、現実。現実に物語みたいなことが起きてんだから、もうちょい物語みたいなことが起きてもおかしくないと思わん?」

「こっちに来てすぐのときは思った。今はあんま思わない」

 成田が気を取り直すように言う。「ま、カスみたいな状態でスタートして、きっかけ一つでチート炸裂ってのはよくあるパターンだし? 予感もあるし?」

 篠原が二人の鼻先で指をぱちぱち鳴らす。「お嬢さんたち、いつまでもくっちゃべってないでそろそろ行こうか?」

 台地に近づくにつれて、道は目に見えて勾配がきつくなる。ようやっと長い坂が終わったとき、小林が抑揚のない声で言う。

「街だ」

 

 

 

 




次話は明日12時05分に投下いたします。


【告知】
 コメント欄は半無政府状態の解放区です。ノーベル文学賞とバッド・セックス・イン・フィクション賞ではどちらがクールなのか、ヘミングウェイとアップダイクがフーターズに繰り出したらハメを外しすぎて店を叩き出されるのはどちらか。グリーンデイ対BLINK182、田中角栄対アメリカ政府、純愛対なんか人に言えないやつ、優しい嘘対愉快犯な嘘、といった自由なテーマで、クイーンズベリー・ルールに準拠した言葉のボクシング(敬語・丁寧語・ビジネス文書・お嬢様言葉・演劇風)で気兼ねなくお話ください。
※ただし、他者への純粋な罵倒・誹謗中傷表現は「警告なしの一発退場(即座に銃殺処分・コメント削除)」といたします。洗練された紳士・淑女のリングをお楽しみください。
「もっとハードコアを寄越せ!」と抑えがたい魂の叫びを残すだけでもアリ寄りのアリです。ぜひ叫びを聞かせてください。
例文:「実在の人物のみ伝記の題材にされるからして、シャーロック・ホームズは実在するのである。口に入ならないサイズの釣り針などではない! 決して! オックスフォード大学の研究で判明したところ、アーサー・コナン・ドイルはワトソン博士のペンネームであり、バッキンガム宮殿にすら忍び込む悪質なパンティ泥棒だったホームズJrがオーストラリアに流刑され、身分洗浄で名前を変え、そしてホームズの曾孫にあたるのがアカデミー賞5冠のカーク・ラザルスなのだ。でなければ、伝記や正伝の描写と似ても似つかない風貌の俳優を抜擢する道理がないではないか! ……ところで、ロンドンのパン屋の屋根裏からシェイクスピアの未発表原稿が発見された世紀のニュースはご存知か? ロイヤルシェイクスピアカンパニーが来季にかけるそうだよ、砂漠の嵐作戦前夜に起きた米海兵隊偵察隊員とフセインの娘の禁じられた悲恋『ハムレットPART2: スカッドミサイルの夜』を」 
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