異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】 作:PUKIKA
地下食料庫に残っているのは、白黴にコーティングされているようにしか見えないドライフルーツっぽいものと、真夏に三日間放置された生ゴミとよく似た臭いを発している黄色い木の実と、どす黒く変色した肝臓を思わせる何かの臓器の干物。それらを新たに見つけた布袋にひとまとめにしてから、歩きずくめの四人は二階の角部屋で休息を取る。
鎧戸を一センチほど開けると、暗い室内に暗赤色の西日が射し込む。アキラは暮れなずむ夕空を見上げ、表の小道/農道を見下ろす。
篠原が隣の窓で同じように外を覗く。「おまえも休めよ」
「見張りは必要だろ?」答えながら、アキラは暗い室内を振り返る。
大の字で床に寝転がっている成田はいいとして、問題は小林だ。小林は急速に限界を迎えつつある。この数時間、暗い眼差しで押し黙り、話しかけられてもほとんど反応せず、今は、体育座りで頭を抱えている。
すぐ隣でカキンと小さな金属音が響く。篠原がジッポーの蓋を親指でもてあそびながら、火の点いていない煙草を見つめている。
「持ってたんだ、煙草?」
「ナリがそう言ったろ?」
「じゃなくて、鞄と一緒に埋めなかったのかってこと」
悪戯小僧のような笑み。「大っぴらに吸うつもりはなかったけんだけど、こう、手元にないと不安で、つい。中毒患者の悪い癖だ。あと二本しかねえし、これを機に禁煙するかな」
「というより、禁煙するしかないんじゃ?」
「こっちの世界に喫煙文化がないとも言い切れないだろ? そのときは……止めても無駄かも。誘惑に負ける自信がある」
「美味いの、それ?」
篠原がシガレットケースをあけて、最後の一本を無言で差し出す。アキラは好奇心から受け取る。篠原が続いてライターの火を差し出す。
「違う。先っぽを火に近づけてストローみたいに吸うんだ。じゃないと火が点かない。火が点いたら、今度は煙を肺に入れる」
アキラは言われたとおりにする。人生初の喫煙は、ハッカの味。
「なんかすーすーする」
「メンソールだからな」
篠原が自分の煙草に火を点けて、深く、ゆっくりと煙を吐き出す。アキラも煙を吐き出し、紫煙がスリット状の西日の中を渦巻く様を眺める。
「漫画みたいにむせると思ったのに、そうでもないんだね」
「一番軽いやつだし。アメスピの一ミリ」
「何が一ミリ?」
「ニコチンとタールの含有量」ペットボトルの水を飲み、つぶやく。「エスプレッソ飲みてえ」
ぼくは紅茶がいい、とアキラは胸の中で応じる。舌を火傷するほど熱くて濃い紅茶。
「コーヒーもあるかどうか」「カフェインの供給も断たれたら神を呪うよ、おれは」空のシガレットケースに篠原が灰を落とす。「吸殻、そこらに捨てるなよ。吸い終わったらこれにどうぞ」
アキラは鷲を模したブランド・マークまで吸い、篠原は未練がましくフィルターぎりぎりまで吸う。煙草を揉み消してから、パチンとシガレットケースを閉じる。
「対岸の家捜しがまだだが、時間が惜しいな。食料ならそこそこあるし……完全に暗くなる前に出るか。そのほうが荷物を掘り出しやすいだろ」
篠原がふいと窓辺を離れて、小林の傍にしゃがみ込む。そして、相手の肩に手を置いて静かな低い声で語りかける。どんな言葉をかけたのか、小林が小さく微笑する。形式的な笑みではなく、目に達した笑みだ。幾ばくかの安堵と共にその様子を見ながら、アキラは口に残る煙草の味を水で洗い流す。
「そろそろ行く感じ?」台の字で寝転んだまま成田が尋ねる。
「ああ、もう少し暗くなったら」と篠原。
空が深い紫色に変わる頃、四人は家を出、穀倉地帯の農道を西進する。
皆、疲れが溜まっている。
この地を早くあとにしようと気が急いている。
無人の農地を歩いている安心感から緊張に緩みが生じてもいる。
アキラは何も見逃さず、なんの物音も耳にしない。
が、畑を抜けたその瞬間、一ダース前後の民兵らしき集団に取り囲まれる。ショックと狼狽の中、細部がでたらめに目に飛び込んでくる。不揃いの上着と不揃いの帽子。弱い残光を反射する細い刀身と槍の穂先。数名は石弓を構え、四人の少年にぴたりと狙いを定めている。杖の先を向けている女も一人いる。
彼らの中央から、膝丈の上着を着た男が進み出る。鍔の広い帽子を被り、レース飾りの袖を風にそよがせて、ピストル大のマスケット銃を構えている。男が良く通る声でまくしたてる。その激しい語調からして、詰問するか命じるかしているようだ。でも何を?
アキラの視野の隅で動きがある。篠原だ。篠原がピッチフォークを放り捨てようとする。その動きが二名の射手を刺激する。アキラは、石弓のつるが解放された音と、矢尻が肉に突き立つ鈍い音を聞く。二本の太矢が篠原の右胸と腹に吸い込まれるのを見、後ろ様に倒れるのを見る。
小林が叫び声を上げて駆け寄る。篠原が仰向けの姿勢でわずかにもがく。首をもたげて自分の負傷の程度を確認している。そして濡れた咳と共にごぼごぼと血の泡を吐き出し、後頭部をどさりと地面に戻す。
アキラも駆け寄ろうとする。しかし数歩も行かないうちに、頭の天辺から爪先まで衝撃が駆け抜けて、意識を刈り取られる。
次話は本日21時05分に投下いたします。
【次回新章突入】