異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】 作:PUKIKA
【四人は仲良し】
アキラ、篠原、成田、小林の四人は停学仲間だ。
停学の原因は――
高校生活が始まって間もなくの頃、アキラは通学路で不品行に行き会った。その横断歩道には信号機がなく、脚に障害を持つ同じ学校の女子生徒がゆっくりと渡るあいだ、軽自動車がプップカプップカ、クラクションを鳴らしまくっていたのだ。のちに判明した事情によると、運転手と同乗者はどちらもパチンカス。新装開店のジャンジャンバリバリを目当てに遠出と洒落こんで、急いでいたらしい。
運転席から降り立った男がつかみかからんばかりの勢いで女子生徒に怒鳴りだすに至って、アキラは思わず割って入った。第三者の介入で頭が冷えればと期待してのこと。男の息は酒の臭いがした。「おまカンケーねえだろチビ、コラ」と頬を張られたアキラは、反射的に相手の股間を蹴り上げてやり返し、ほぼ全教科の教科書類が入っている重い通学鞄をフルスイングした。あとで聞いたところによると、鞄の一撃でくそ運転手の前歯が二本折れたそうだ。助手席から飛び出した同乗者がアキラに踊りかかったものの、通りすがった三人の新入生、篠原と成田と小林が加勢しくてれて事なきを得た。これまたあとで聞いたところによると、くそ同乗者は複数の打撲傷に加えて肋骨が何本か折れたそうだ。しつけのなっていない二匹のチンパンを組み伏せているところへ、今度は通勤中の教員が止めに入ってきて――
暴力は暴力、というのが学校側の下した沙汰。
悪いのは向こう、と証言する生徒が複数いたにも関わらず。
善行の報酬が停学かよ、薄のろ教師どもが、と篠原は吐き捨てたもの。おれらむしろ市長と署長と総理から感謝状をもらって然るべきじゃね? と成田。ちょいやりすぎたかもな、と反省の色を見せたのは小林ただ一人。
なんにしろ、この件を機に出身中学もクラスも性格もバラバラの四人は親しくなった。週に何度か、登校前に駅ビル近くのファミレスで一緒に朝食を取るほどに。四人とも親が忙しいのだ。
いつもの朝活は宿題を写し合ったりダラダラ過ごしたりするのが通例だが、今朝は違う。
高校生活一回めの中間試験を数時間後に控えて、成田と小林は最後の悪あがきをしている。慌てる必要のない篠原はオンライン版の〈フィガロ〉を読み、アキラはゲーム雑誌。
「あかん、これムリなやつ」成田が教科書を放り出す。「コバっちも一緒に補習で挽回しようぜぇ」
「補習食らってる時点でアウトだろ」小林はまだ試験を投げておらず、一つでも多くの英単語を脳細胞に焼き付けようと奮闘している。「つか今はマジで話しかけんな」
成田が対面の篠原に目を向ける。
「満点様は余裕っスね」
篠原が名門の一角の私立西条学園――偏差値七二――の開校以来一〇人めの全教科満点合格者になったことは在校生の誰もが知るところだ。石器時代の教育システムを採用している西条学園では、あらゆる試験結果が貼り出される。
「一学期の中間でひいこら言っててどうするよ」篠原は携帯端末から目を上げようともしない。
「いやこれ、よそのガッコの期末の範囲ヨユーで超えてますから。悪しき詰め込み教育もいいとこですから」
「そういう学校だとわかってて入ったんだろ?」
「だから絶賛後悔中なんスわ。あーもう、無理して入るんじゃなかった。記念受験のノリだったのに、なんで受かっちゃったかなぁ」
「おまえさ、うだうだやってないで小林を見習ったら?」「いやいや、今ごろ教科書一〇ページ開いてる人を見習うとか。どうがんばっても手遅れ」
「よけーなお世話だ、三二〇位」小林が成田の入学順位を持ちだす。
「ちっくしょう、三一七位め。目くそが鼻くそを笑いやがる」
その慣用表現は公正さを欠く、と篠原が異議を唱える。「小林は毎日サッカーで何時間も汗を流してる。おまえが漫然と食い物をクソに変えてるあいだに」
「読書とかしてますけど?」
「ラノベだろ? 語義を冒涜すれすれまで拡大解釈すれば、ああ、〝読書〟に入るかもな」
「なんつーこと言うんだ、おまえ。ちょっとアッキー、聞きました、今の? この人チョー上から目線で失礼なんですけど……アッキー? おーい、アッキー、応答せよ。アッキー?」
丸めたストローの包み紙を投げつけられたアキラは、ようやく雑誌から顔を上げる。
「ん? 何? 呼んだ?」
「うん、めっちゃ呼んだ。なーにを夢中になって読んでんの?」成田がテーブルに身を乗り出して、ゲーム雑誌を反対側から覗き込む。「ああ、これ。ネットでCM観たわ。一般参加アリのやつ?」
「アリのやつ」
「もしかして応募しちゃう感じ?」
「しちゃわない感じ。てか、アマ枠の予選、もう終わってる」
「お、賞金スゲェな。アッキーFPS上手いんだしさ、メンバー集めて出りゃ良かったじゃん」
というか出るんだ、とアキラは胸の中で言う。
テスト明けの週末に控えたプロデビュー戦が、この競技会なのだ。生放送直前に「実はぼく……」と打ち明けるびっくり計画を温めているので、クラスメイトはおろか、この三人にもまだ、プロゲーマーになったことを教えていない。
「そのうち出るかも」と何食わぬ顔で応じる。
「アッキーならプロ相手でも善戦できると予想。つってもプロの人ら、人間やめてるけど。動画見たらくそヤベェの。反応速度が神。あとアレ、最近流行ってるリアル系、めっちゃやること多いのな」
「おい、ナリ」ノートに被っている成田の腹を小林がシャープペンで突く。「邪魔」
「ごめんちゃい」
八時ちょうど、四人は荷物をまとめて席を立つ。
店を出しなに成田が祈る。
「神さま、どうか学校がテロリストに襲撃されますように」
「テスト受けたくないにもほどがあんだろ」と小林。
「ガソリン撒いてマッチ擦るほうが確実では?」とアキラ。
「〝天は自ら助くる者を助く〟らしいぞ」と篠原。「自助努力しねえやつの面倒は見てくれないとよ」
「自助努力か」成田が考え深げに復唱する。
そして駅前広場をゆく勤め人や学生のほうへ進み出、機内で重病人が発生した客室乗務員を裏声で演じだす。ただし、呼んでいるのはお医者様ではなく――
「ムジャヒディンの方! この中にムジャヒディンの方はいらっしゃいますか!?」