異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】 作:PUKIKA
「どっかに橋が架かってるんじゃね?」成田が、鋭いカーブを描いている下流のほうへ進む。
「おい、ナリ、どこ行くんだ?」と篠原。
成田が不可解そうな顔になる。「〝どこ〟って家に行くんでしょ? え、行かねえの?」
「行くとも。食料がろくにない現状、行くしかない」
「だったらなんで止めたわけ?」
「どっかの考えなしが原住民の住まいにずかずか乗り込んで、ことによると相手を死ぬほど驚かせようとしてるからだよ」と篠原。
「お行儀良くしますってば。ずかずか乗り込んだりしませんよ、あたしゃ」
「行儀の問題じゃねえ。地球仕込みの行動様式と先入観が問題なんだ」
成田がわざとらしく天を仰ぐ。「この世界の住人は靴を履いてて、家に住んでて、しかもこの……なんだかよくわからん赤いぶつぶつを育ててる。洞窟暮らしのネアンデルタール人じゃない。とりま農耕文化に達してる文明人です。礼儀正しく振る舞えば、お茶に誘ってくれるかもしれない人たちとも言える。これは先入観とかじゃなくて、事実の観測に基づく演繹から導き出された蓋然性高めの論理的な仮定なんですけど」
「気のいい田舎農夫みたいな連中って前提だろ、それ」
「そこも訂正させてもらうと、文明社会に暮らす知的な存在っていう前提」
「文明が高度になればなるほど、知的な存在は異質なものを無暗に忌避するって点が抜け落ちてるぞ。肉体上の相違が大きいとき、相手から見たおれたちは化け物か、良くて下等な存在だ。その場合、どんな反応が返ってくるだろうな?」
「珍獣扱い?」
「歴史を見ろ。肌の色が違うだけでスポーツみたいに殺し合ってる」
「おやおや? それって地球仕込みの先入観では?」
「つまらねえ揚げ足を取って満足か? 最悪を想定しろっつってんだ」
成田が降参するように両手を挙げる。「ほいで? どうすんの?」
「住民を観察する」篠原が言う。「外見はともかく、着てる物と使ってる道具と振る舞いを見れば、文明の程度とおおよその気質に関して、まずまずの推測が成り立つ。もちろん、推測を間違う恐れはある。でも手掛かりゼロよりはマシだ。だから気づかれないように近づいて、観察する。ばったり出くわしたときは……覚悟を決めて即興でやるしかない」
「つまり、ストーカーになるわけか」
「文句があるなら理に適った代案を出せ」
「いえ、文句なんてないですとも。それでいきましょう」
小林が呆れ口調で言う。「おまえら喧嘩してないと死ぬ病気にでも罹ってんの?」
「違うと思うな」とアキラ。「きっと歪な愛情表現なんだよ」
篠原が目を剥く。「雨宮、おまえまでナリみたいな口利くなよ、頼むから。ステレオでたわ言を聞かされるとマジで気が狂いそうになる」
「ごめん。でも冗談でも言ってないと……こう……」
「わかるよ。でもやめろ」篠原が携帯端末をアキラに返す。「雨宮、先頭頼む。おまえの目を当てにしてる。どんな動きも見逃すな。なんなら、畑の植物が少し揺れるたびに止まるぐらい――やりすぎってぐらい――慎重にやってほしい。臆病な兎になったつもりで」
「了解。一応、斥候のやり方は知ってる」
「どこで習ったんだ、そんなもん」篠原が不思議そうに尋ねる。
「いや、ゲームの話。FPSの」
「とにかく慎重にな」
「了解」
篠原が全員の顔を眺め渡す。
「緊急手順を決めとくぞ。問題が発生したときは絶対に、出鱈目に逃げるな。迷子どころか遭難しかねない。逃げるときは、この道沿いに、来たほうへ戻る。隠れるにしても、なるべく道を確認できる場所にする。それなら万が一はぐれても、ほかのやつと合流しやすくなる。ナリ、復唱しろ」
「だいじょぶ。理解しました」
「復唱しろ」
嘆息。「テキトーに逃げない。来た道を戻る。道に近いとこに隠れる」
「今からお喋りはなしだ。周りに注意して、少しでもおかしいと思ったら声をかけろ。いいな? 雨宮、行ってくれ」
アキラはゆっくりした足取りで下流側のカーブを曲がる。そこから先は――小林の肩の上で見たとおり――川がほぼ一直線に流れている。緑の壁に挟まれた通路を進むようなもので、数百メートル先まで見通しが利き、どれほど些細な動きであっても見逃すほうが難しい。逆に、付近にいるかもしれない住民から発見されやすくなったのも確かだ。
とはいえ、辺りは静かだ。
動きどころか、気になる物音一つ聞こえてこない。風に撫でられた畑から葉擦れの音が響いたり、たまに極彩色の小鳥が地面から飛び立ったりする点を除けば、世界が静止したかのような印象すら受ける。
そして、大して進まないうちに橋を見つける。川に渡された数本の丸太に板切れを打ちつけただけの、ごく簡便な代物。向こう岸では、畑を突っ切るようにして小道が伸びている。
「あの横道、さっきの家のほうに行くんじゃない?」とアキラ。「方向は合ってる」
「橋を渡ったら――」篠原が囁き返す。「道をはずれて、畑の中を進もう。人が通れるくらいの隙間はある」
「マジすか」と成田。「野菜泥棒と間違われんじゃね?」
「見つかったらな。雨宮、先頭、代わるか?」
「大丈夫」
後続の三人が丸太橋を渡り終えるのを待ってから、アキラは畑の中に足を踏み入れる。穂先を揺らさないように横歩きし、行く手を遮る大きな葉や房を手で払う。視界はほぼゼロだ。『SNAFU』を思い出すじゃん。あの農場マップはディフェンス側がめっちゃ有利だったっけ。
横歩きすること一五分、前方で、太い茎や葉っぱの隙間からちらちらと光が射す。アキラは背後に向けて片手を突き出す。
「畑が終わる」
第10話は本日18時05分に投下いたします。