◆異世界役者密着24時!!転生者の快適な異世界生活を支えるその舞台裏に密着!!! 作:ビスケッチュⅡ世
転生者が転生してくるこの世界で、
その快適な生活を裏からサポートするプロフェッショナルがいる。
我々が今回密着するのは、
カマセ役者、Kさんだ。
この道一筋25年のベテラン、その一日をお届けしよう。
――Kさんの朝は早い。
我々取材クルーが彼のアパートを訪ねると、既に稽古を始める姿がそこにはあった。
「うっ……!」
苦悶の声を上げ、倒れるKさん。
あまりにも迫真の演技に、動揺する取材クルー。
すぐに立ち上がり、首をかしげながら同じ動作を繰り返している。
何度か繰り返したあと、炊飯器の呼び出し音で一旦の終了を見せた。
カップ味噌汁をすすりながら卵かけご飯をかきこむ彼に、我々はインタビューを実施した。
――何をなさっていたのですか?
「死亡訓練。ルーティンになってるから。ここ20年くらいかな……本番は一回きりでしょ。その時に深刻すぎてもだめだし、軽すぎてもだめじゃない。喉を開いておかないと、本番でとちったら転生者さんに申し訳がたたない。」
――最初はなかったルーティンなんですか?
「うん。正直新人のころとかはこの仕事どっか舐めててね。どうせ適当でもばれやしねえと思ってたのよ。ところが……ちょうど5年目ね。多分慣れてきて余計に油断したんだろうね。……本番当日、俺……遅刻してさ。」
「いないわけ。カマセ役が本来いるべき場所にいないって、そりゃどうなったと思う?転生者は役者がいなくてもくるわけよ。……結局ね、ヒロインの子がアドリブで悪役になってくれたのよ。その子新人よ?本当は真っ当にメインヒロインで行くはずだったのに、俺がキャリアをゆがませちまった。」
「結局その時の転生者の方はいわゆるざまぁ系を体験してもらわなくちゃいけなくなってさ。用意してあった台本も全部作り直し。もう俺怖くてみんなの顔見れなくてさ。そん時監督に言われた一言が今でも忘れらんない。『お前、この現場を死ぬまで忘れんな』って。」
顔をゆがませ、涙を落とすKさん。
カメラは、今でも続くその後悔をしっかりと画面に収めていた。
その後、片付けが終わったKさんが出かけるとのことで、我々も追随。
目的地は、来週の転生予定地とのこと。
――来週なのに現地入りされるんですか?
「当たり前だよ。遅刻したくないのもそうだけど、先に現場見ておきたいんだよね。建物の陰とか、床の材質とか見て、イメージ固めておけばアドリブもきくでしょ」
――アドリブ?台本はあるんですよね?
「もちろん。きちんと台本はあるよ。誰をどういう流れで人質にとって、とか。でもね、この仕事は本気なの。転生者の方は本気でこの世界を生きてるの。人生に台本も何もないでしょ。彼らが思ったことをしたときに、台本がなくちゃできませんじゃやっていけないよね。」
そういうと、Kさんはしばしの休息に入った。
目的地までは馬車で移動する。
当然車もあるが、Kさんは馬車を好むという。
曰く、もう自分たちは転生者と同じ世界に生きている。肌からなじませてこそ、本気で向き合えると。
ゴト、ゴトと揺れる馬車は明らかに寝苦しいはずだが、目をつむるKさんの表情はずっとこの世界で生きてきたかのように安らかだった。
現場に到着。
Kさんはパッと目を覚まし、御者と現場に一礼すると現地入りを果たした。
――現場にも一礼されるんですね。
「うん。多分みんなやるんじゃないかな。どうしてもやっぱり、運が絡む部分って出てくるわけでさ。最後は運頼み。でも、そこに至るまでは努力しないとダメ。」
驚くべきことに、現地には既に何人ものスタッフが集まり始めていた。
Kさんは挨拶をして回っている。
そこで、意外な顔を見つけた。
今回の魔王役、新人のMさんだ。
Mさんは我々を見かけると、緊張した面持ちで笑顔を浮かべた。
「Kさん!お疲れ様です!!ご無沙汰しています!」
「Mくんじゃん!お疲れ様!……あれ?台本変わったんだっけ?」
「あーいえ、そういう話は自分受けてないです」
「え、じゃあ何でここに?見に来たの?」
「はい。緊張がすごくて……現場をきちんと見ておきたかったのもあるんですが、とにかくじっとしてられなかったんです」
「そっか!あんまり無理すんなよ、大丈夫、俺たちがいるからな」
「……めっちゃうれしいです。ありがとうございます……!」
「泣くの早いよ」
笑うKさん。
そのまなざしは、一生懸命な後輩を優しく見つめている。
何度もお辞儀をしながら去っていく背中を見送りながら、Kさんはぽつりとつぶやいた。
「すげえよ、あの子は。あの年で、あの責任感と真面目さ。……だから魔王役抜擢されたんだろうね。」
――魔王役は難しいんですか?
「難しくはないよ。求められることはだいたい一緒だし、悪そうにしておけばいいからね。だから新人向けの役ではあるの。でもね、難しくないことと、楽だってのはちがうのよ。」
「……まあ、それは今度、あの子に密着したときにわかると思うよ。俺はそれをいざというときに支えるだけだね」
その後、現場を一通り見終わったKさんは、暗くなった時のロケーションも探っておきたいとのことで、我々取材クルーはナイター取材を断念した。
ライトが邪魔をしてしまうためだ。
果たして本番、Kさんはどのように演技をするのか。
照れくさそうに手を振るKさんをカメラに収める。
そこには、常に本気で転生者に向き合う、一人の職人が映っていた――
「へっへっへ!!!人質がどうなってもいいのかぁ!?」
「く……卑怯だぞ貴様!」
「手も足も出ねえなあ!?」
「ぐあああああっ!!!そ、そんな、この俺様が、貴様なんかに……!!」
今日も、Kさんは、カマセを演じている。