オラリオ北西部。黒い塔、バラド=ドゥーア。その正門前に、一台の豪奢な馬車が停車した。白銀の装飾。上質な布地。そして、フレイヤ・ファミリアの紋章。馬車から降り立ったのは、美の女神フレイヤだった。その背後には、オッタルが控えている。
「……ここが」
フレイヤは塔を見上げた。巨大だった。バベルとは異なる威圧感。ただ高いだけではない。黒い石壁の一つひとつに、何らかの意思が宿っているかのようだった。
「フレイヤ様」
オッタルが静かに声をかける。
「お気をつけください」
「分かっているわ」
フレイヤは微笑んだ。だが、その笑みには以前のような余裕がなかった。二度の魂への干渉。二度の警告。そして、最後通告。彼女は理解していた。この場所では、自分が女神であるという事実は、何の免罪符にもならない。正門が開いた。黒い甲冑の兵士が現れる。
「フレイヤ及び随行者オッタル。入場を許可する」
「……随分と事務的なのね」
「本日の会談は、事前に合意された条件に基づいて実施される」
兵士は淡々と告げた。
「無断の精神干渉、霊的観測、魅了及びその他の権能行使は禁止されている」
「承知しているわ」
「違反が確認された場合、会談は即時終了する」
オッタルの眉がわずかに動いた。しかし、フレイヤは静かに頷いた。
「ええ。約束は守るわ」
兵士は一礼した。
「では、こちらへ」
女神は黒い塔へと足を踏み入れた。
*
バラド=ドゥーアの内部は、フレイヤの想像とは異なっていた。冷たい石壁。黒鉄の柱。そして、整然と並ぶ兵士たち。だが、そこに混乱はなかった。恐怖によって無理やり統制された軍隊とも違う。兵士はそれぞれの役割を理解し、必要な行動を淡々と遂行していた。
「……奇妙ね」
フレイヤが呟く。
「何がでしょう」
オッタルが尋ねた。
「この塔の者たちよ」
フレイヤは周囲を見渡した。
「彼らは、私を見ても何の反応も示さない」
それは彼女にとって珍しい経験だった。美の女神。その存在は、神であれ人であれ、多くの者の心を揺さぶる。しかし、塔の兵士たちは彼女を見ても、ただ職務を続けるだけだった。
「……私の魅力が通じないのかしら」
「分かりません」
オッタルは答えた。
「ですが、少なくとも彼らは任務を優先しているようです」
やがて、巨大な扉の前に到着した。扉が開く。その奥には、広大な謁見室があった。そして、最奥の玉座。そこに、黒い甲冑をまとった存在が座していた。サウロン。かつて中つ国を恐怖に陥れた冥王。フレイヤは足を止めた。その瞬間、記憶が蘇る。一度目。魂を覗き、逆探知された時の恐怖。二度目。本質空間へ引き込まれ、膝をついた時の絶望。
彼女は反射的に魂を見ようとしかけた。だが、寸前で踏みとどまった。サウロンが口を開く。
「……来たか」
低い声。それだけで、広間の空気が重くなった。
「ええ」
フレイヤは静かに答えた。
「正式な会談を求めて参りました」
「承知している」
サウロンは彼女を見下ろした。
「では、始めよう」
*
「まず、過去の件についてお話ししたいの」
フレイヤが切り出した。サウロンは無言で続きを促した。
「私は、あなたの魂を二度、無断で覗こうとした」
「事実だ」
「最初に警告を受けたにもかかわらず、再び同じことをした」
「事実だ」
フレイヤは一度、息を整えた。
「……申し訳ありませんでした」
オッタルは微動だにしない。サウロンも動かなかった。やがて、冥王が口を開く。
「謝罪は受理する」
フレイヤの表情がわずかに緩んだ。しかし、次の言葉で止まった。
「ただし、過去の行為が消滅するわけではない」
「……ええ」
「謝罪とは、事実を認める行為だ。過去を書き換えるものではない」
フレイヤは頷いた。
「理解しているわ」
「ならばよい」
サウロンは机上の書類を確認した。
「今後、同様の干渉を行わぬこと。それが最低条件だ」
「約束するわ」
「その言葉が真実であるかは、今後の行動によって判断する」
フレイヤは小さく息を吐いた。彼女は気づいていた。この男は、自分の謝罪に感動しない。許しを与えることで優位に立とうともしない。ただ、事実として記録する。それだけだった。
*
「一つ、尋ねてもよいかしら」
フレイヤが言った。
「内容による」
「あなたは、何を望んでいるの?」
サウロンは沈黙した。
「この都市に現れ、塔を築き、商売を始めた。神々を警戒させながら、同時に取引を持ちかけている」
「それがどうした」
「あなたの目的が知りたいの」
冥王は答えた。
「秩序だ」
「……秩序?」
「安定した生産。予測可能な取引。明確な義務。そして、それらを維持する制度」
フレイヤは眉をひそめた。
「それだけ?」
「それだけで、十分に大きな目的だ」
サウロンは続けた。
「この都市は、神々の気まぐれに左右されすぎている」
オッタルの目が細くなる。だが、サウロンは構わず言葉を続けた。
「ある神は娯楽のために争いを起こし、ある神は欲望のために他者の意思を踏みにじる」
フレイヤは黙った。
「ある神は、契約書を読まずに署名する」
その瞬間。オッタルの口元が、ほんのわずかに動いた。フレイヤも思わず視線を逸らした。ヘルメス。あの男の顔が、二人の脳裏に浮かんでいた。サウロンは淡々と続ける。
「力を持つ者が、その力に相応する責任を負わぬ社会は不安定だ」
「……あなたは、神々を支配したいの?」
フレイヤが尋ねた。サウロンは答えた。
「支配に価値があるならば、支配する」
その言葉に、オッタルの身体がわずかに強張った。しかし、サウロンは続けた。
「だが、全てを直接支配する必要はない」
「どういう意味?」
「自ら秩序を維持する者は、そのままにしておけばよい」
サウロンはフレイヤを見た。
「問題は、秩序を破壊する者だ」
女神は、その言葉が誰に向けられているのか理解していた。
*
同日。バラド=ドゥーアの別棟。そこでは、まったく異なる会談が行われていた。
「……これは」
ヘファイストスは、目の前に置かれた金属片を見つめていた。黒銀色。薄い。しかし、驚くほど重厚な存在感がある。
「帝国産のミスリルだ。こちらに流通するものとの違いを調べたい」
説明しているのは、サウロンの配下である技術官だった。
「軽量でありながら強靭。加工には特殊な技術を要する」
ヘファイストスは金属片を手に取った。
「……面白い」
その声には、明確な興奮があった。
「魔力を通した時の反応は?」
「通常の鉄とは異なります」
「熱処理は?」
「高温での加工が可能ですが、一般的な鍛造法では性質を十分に引き出せません」
「なるほど……」
「いいわね。実にいい」
隣にいた椿も、金属片を覗き込んでいる。
「これは、とんでもない代物だね」
「ええ」
「でも、これを量産できるの?」
技術官は答えた。
「現時点では、原料の供給に制限があります」
「なら、代替合金の開発が必要ね」
「そのための共同研究です」
ヘファイストスは満足そうに笑った。
「話が早いわ」
彼女は机に広げられた図面を確認した。そこには、複数の合金設計案が記されている。魔石との複合構造。熱処理による結晶制御。魔力伝導性の調整。そして、耐久性の向上。
「……これ、本当に全部見せていいの?」
「契約で定められた範囲です」
「なるほど」
「なら、こちらも相応の技術を提供しないとね」
椿が笑う。
「こりゃ、しばらく工房に籠もることになりそうですな!」
「望むところよ」
鍛冶神の目は、完全に職人のものになっていた。
*
謁見室。フレイヤとの会談は続いていた。
「あなたは、私に何を求めるの?」
女神が尋ねた。サウロンは答えた。
「現時点では、何も」
「……何も?」
「お前との取引を必要としていない」
フレイヤは言葉を失った。それは、彼女にとって想定外の返答だった。彼女は強大なファミリアを持つ。オラリオ屈指の戦力。豊富な資金。広範な情報網。そして、美の女神としての影響力。取引相手として、価値がないはずがない。
「……私には、利用価値がないと?」
「価値はある」
サウロンは即答した。
「だが、価値があることと、取引する必要があることは別だ」
フレイヤは黙った。
「お前の軍事力は強大だ。情報網も有用だろう」
「ならば……」
「しかし、現在の私には、それらを必要とする理由がない」
サウロンは続けた。
「一方、ヘファイストスには明確な価値がある」
「……鍛冶の女神?」
「技術だ」
その一言に、フレイヤは目を細くした。
「技術?」
「金属加工。魔石利用。武具製造。そして、生産体制」
サウロンは淡々と説明した。
「それらは、都市の基盤を強化する」
「……私の力よりも?」
「比較する必要がない」
フレイヤは息を呑んだ。
「お前の力と、ヘファイストスの技術は用途が異なる」
サウロンは言った。
「現在必要なのは後者だ」
それだけだった。美の女神は、静かに視線を落とした。彼女は初めて、自分の価値を認められながら、必要とされないという経験をしていた。
*
一方、その頃。オラリオの街角。ヘルメスは、アスフィと向かい合っていた。
「……団長」
「何でしょう、ヘルメス様」
「僕の信用を回復する方法を考えたんだ」
アスフィは嫌な予感がした。非常に嫌な予感だった。
「……まず、内容を伺っても?」
「もちろん!」
ヘルメスは胸を張った。
「黒い塔に、新しい顧客を紹介するんだ!」
アスフィは目を閉じた。
「……具体的には?」
「神々だよ!」
「…………」
「神々にサウロンとの契約を勧めて、紹介料をもらうんだ!」
アスフィは、しばらく何も言わなかった。そして、静かに尋ねた。
「ヘルメス様」
「何だい?」
「ご自身が契約違反によって神性を差し押さえられたことは、覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん!」
「では、そのような契約を他の神々に紹介して、問題にならないとお考えですか?」
「いやいや、今回はちゃんと説明するよ!」
「……契約書の内容を?」
「うん!」
「全条項を?」
「……できるだけ」
アスフィの目が細くなった。
「ヘルメス様」
「はい」
「全条項です」
「……はい」
「そして、紹介料については、事前にサウロン側の承認を得てください」
「もちろん!」
「それから、契約内容の説明に誤りがあった場合の責任も確認してください」
「……うん」
「さらに、紹介先の神々が不利益を被った場合の対応も必要です」
「…………」
ヘルメスの笑顔が消えていった。
「……アスフィ」
「何でしょう」
「商売って、こんなに面倒だったっけ?」
アスフィは即答した。
「信用を失った方が、信用を使って商売をしようとすれば、当然です」
ヘルメスは肩を落とした。
「……厳しいなぁ」
「当然です」
*
翌日。バラド=ドゥーア。ヘルメスは、正式な紹介代理店契約の申込書を提出した。サウロンは書類を確認した。
「……紹介業務か」
「そう! 僕の顔の広さを活かしてね!」
「紹介料を要求するのだな」
「もちろん! お互いに利益があるだろう?」
サウロンは黙って書類をめくった。
「紹介先の信用調査は?」
「え?」
「契約内容の説明責任は?」
「……えっと」
「紹介によって発生した紛争への対応は?」
「…………」
「紹介者自身の信用評価は?」
ヘルメスは沈黙した。サウロンは別の書類を取り出した。
『ヘルメス』
『信用評価:要監視』
『契約違反歴:複数』
『担保権実行履歴:一件』
『追加契約審査:不承認』
サウロンは書類を机に置いた。
「却下する」
「早い!?」
「理由は明白だ」
「いや、でもさ! 紹介くらいなら!」
「紹介自体は自由だ」
サウロンは答えた。
「ただし、私の名を用いて代理権を主張することは認めぬ」
「……紹介料は?」
「発生しない」
「……信用回復は?」
「既存契約を履行せよ」
ヘルメスは机に突っ伏した。
「……世知辛い」
サウロンは淡々と言った。
「契約とは、そういうものだ」
やがて、ヘルメスが顔を上げた。
「……じゃあさ」
「何だ」
「僕がちゃんと契約を守り続けたら、信用評価は戻るの?」
「戻る可能性はある」
「本当!?」
「ただし、過去の違反履歴は消えぬ」
「……厳しいなぁ」
「信用とは、失うのは容易く、取り戻すのは難しいものだ」
ヘルメスは深くため息をついた。そして、ようやく理解した。この男に対して、小細工は通用しない。いや。小細工そのものが、信用評価を悪化させる。
「……分かったよ」
ヘルメスは立ち上がった。
「まずは、ちゃんと契約を守ることにする」
「それが最善だ」
ヘルメスは扉へ向かった。そして、出ていく直前に振り返った。
「……ちなみに、神性を返してもらう方法ってある?」
サウロンは答えた。
「買い戻しの交渉は可能だ」
ヘルメスの目が輝いた。
「本当かい!?」
「ただし、現在のお前には十分な対価がない」
「…………」
「まずは債務を完済せよ」
ヘルメスは、何も言わずに退出した。その背中には、深い哀愁が漂っていた。
*
一週間後。ヘファイストス・ファミリアの工房。巨大な炉が赤く燃えていた。椿が槌を振るう。金属が火花を散らす。その傍らには、黒い塔から派遣された技術官が立っていた。
「……温度を三十度下げてください」
「了解!」
椿が炉の調整を行う。
「次に、魔石粉末を投入します」
「よし、来い!」
青白い光が金属の表面を走った。金属が変化する。黒銀色。しかし、先日見たミスリルとは異なる。より重く。より硬く。そして、魔力を通しやすい。
「……できた」
椿が呟いた。ヘファイストスが近づく。
「見せて」
金属片を手に取る。軽く叩く。魔力を通す。そして、微笑んだ。
「……成功ね」
技術官が頷いた。
「第一試作品としては、十分な成果です」
「名前は?」
椿が尋ねた。
「……黒銀鋼」
技術官が記録する。
『新規合金:黒銀鋼』
『共同開発:ヘファイストス・ファミリア及びバラド=ドゥーア』
『用途:高耐久武具、魔力伝導部材』
『量産性:要検証』
ヘファイストスは満足そうに頷いた。
「さて」
「次は、これで剣を打ってみましょうか」
椿の目が輝いた。
「腕が鳴りますな!」
*
バラド=ドゥーア。サウロンは、黒銀鋼の試験報告を読んでいた。
「……上々だ」
その声には、わずかな満足があった。試作品は、既存の鋼鉄を上回る性能を示していた。魔石との親和性も高い。さらに重要なのは、製造工程の一部がオラリオの設備で再現可能であることだった。つまり、量産への道筋が見え始めている。サウロンは、机の上に並べられた三つの書類を見た。一つ目。ヘファイストスとの技術提携。進捗良好。二つ目。
ヘルメスの契約履行状況。改善傾向。三つ目。フレイヤとの会談記録。過去の敵対行為を認め、再発防止を約束。ただし、信用評価は低いまま。サウロンは、それぞれを確認した。そして、静かに呟いた。
「……興味深い」
三柱の神。それぞれ、異なる性質を持つ。ヘファイストスは、技術と利益によって関係を築く。ヘルメスは、失敗を重ねながら信用を学ぶ。フレイヤは、自らの欲望と他者の意思の境界を理解しようとしている。だが、サウロンにとって、その内面に特別な意味はなかった。重要なのは行動だった。約束を守るか。利益を生み出すか。秩序を維持するか。それだけだ。
サウロンは新しい書類を取り出した。
『オラリオ経済圏統合計画』
そこには、複数の項目が並んでいた。金属加工。武具製造。魔石利用。物流。金融。契約制度。信用評価。そして、神格存在との取引規則。
「……次の段階だ」
サウロンは筆を取った。
「市場を整える」
黒い塔の内部で、巨大な歯車が動き始めていた。それは軍隊ではない。魔法でもない。ましてや、神々の権能でもない。経済という名の、もう一つの支配機構だった。
*
その夜。
『豊穣の女主人』。
ロキは、ヘファイストスから黒銀鋼の話を聞いていた。
「……で、アンタはあの黒い塔と組んだん?」
「ええ」
「怖ないん?」
「契約内容は全部確認したわ」
ヘファイストスは酒を飲んだ。
「それに、技術的な利益が大きいもの」
ロキは眉をひそめた。
「ヘルメスみたいになったらどうすんねん」
「ヘルメスと一緒にしないでちょうだい」
即答だった。ロキは吹き出した。
「ぶはっ! そらそうや!」
ヘファイストスは肩をすくめた。
「そもそも、あの男は契約違反をした相手に厳しいだけよ」
「……それだけか?」
ロキの目が細くなる。
「少なくとも、今のところはね」
その言葉に、ロキは笑みを消した。
「……アンタも分かっとるんやな」
「ええ」
「あの男は、善人じゃない」
「せやな」
「でも、だからといって、取引できない相手でもない」
ヘファイストスは続けた。
「むしろ、契約に関しては驚くほど一貫しているわ」
「……なるほどな」
ロキは酒を飲んだ。
「つまり、約束守っとる限りは安全ってことか」
ヘファイストスは首を横に振った。
「そこまでは言っていないわ」
「……ん?」
「契約を守ることと、相手が善良であることは別でしょう?」
ロキはしばらく黙っていた。そして、ゆっくりと笑った。
「……せやな」
ヘファイストスは杯を置いた。
「私は、あの男が何を考えているのか、まだ分からない」
「…………」
「ただ、一つだけ確かなことがあるわ」
「何や?」
「オラリオの神々は、あの男を甘く見すぎている」
ロキは天井を見上げた。
「……ほんま、それな」
二人はしばらく黙って酒を飲んだ。やがて、ロキがぽつりと呟いた。
「……ところで、ヘルメスは?」
ヘファイストスは答えた。
「信用回復のために、真面目に働いているそうよ」
「…………」
ロキは杯を置いた。そして。
「ぶっはははははは!!」
店中に笑い声が響いた。
「ヘルメスが真面目に働く!? あのヘルメスが!?」
ヘファイストスも、思わず笑った。
「ええ。契約書を毎日確認しているらしいわ」
「腹痛い! もう無理や!!」
その夜。オラリオの酒場では、一人の神の信用回復努力が、盛大な笑い話になっていた。一方、その本人は。
「……アスフィ」
「何でしょう、ヘルメス様」
「今日の情報提供、期限内に終わったよね?」
「はい。問題ありません」
「……よかったぁ」
ヘルメスは机に突っ伏した。
「神になってから、こんなに真面目に働いたことないよ……」
アスフィは静かに答えた。
「これを機に、今後も続けてください」
「……善処します」
「善処ではなく、実行してください」
「……はい」
そして、黒い塔の最上層。サウロンは、新たな契約書を作成していた。その表題は。
『オラリオ共通商業契約規格』
神も。人も。冒険者も。商人も。等しく、契約に拘束される制度。それは、神々が気まぐれに支配してきた都市に、まったく新しい秩序をもたらそうとしていた。冥王は、静かに筆を置いた。
「……よい」
その眼光が、オラリオを見下ろす。
「次は、都市そのものだ」