指輪の王は世界を鍛える   作:ゆいニキ

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椿の口調とか諸々おかしい所ありますけど、どうか気にせずに()


第18話 鍛冶の神と 創造のマイア

オラリオ、ヘファイストス・ファミリア本拠地。早朝から、工房には槌の音が響いていた。カンッ。カンッ。カンッ。椿・コルブランドは、赤熱した金属を金床の上で打っていた。彼女の前にあるのは、黒銀鋼。黒曜帝国との共同研究によって生まれた、特殊な合金である。その強度は、既存の高級金属に匹敵する。

 魔力伝導性にも優れ、魔剣や魔道具への応用が期待されていた。だが、椿には納得できないことがあった。

「……違うね」

 槌を置く。金属を水へ沈める。蒸気が立ち上った。

「何が違うの?」

 背後から声がした。ヘファイストスだった。椿は試験片を持ち上げた。

「手前が打ったこいつと、サウロンが打ったものさ」

 二つの金属片が、作業台に並べられる。見た目は、ほとんど同じ。しかし、魔力を流すと違いが現れた。椿の試験片は、魔力を均等に伝える。一方、サウロンが鍛えたものは、魔力が特定の経路を通り、内部で循環する。しかも、魔法陣を刻んだ形跡がない。

「手前のは、いい金属だよ。そこは自信がある」

 椿は腕を組んだ。

「でも、あいつのは何かが違う。まるで、金属が最初からその流れを知ってるみたいなんだ」

「ええ。私も同じことを考えていたわ」

「神様でも分からないのかい?」

「仕組みの一部は分かる。でも、どうやってそこへ到達したのかが分からない」

 ヘファイストスは、サウロンの試験片を指先で弾いた。澄んだ音が響く。

「これは付与魔法じゃない。金属の内部に、意図した性質を作り込んでいるのよ」

「だったら、本人に聞くしかないね」

「そのつもりよ」

 ヘファイストスは、一通の書状を取り出した。黒曜帝国の紋章が押された返信だった。

『共同研究に関する技術討議の申し入れを受諾する。明日、第三刻。バラド=ドゥーア地下工房にて』

 椿が目を輝かせた。

「へえ。今度はあっちの工房を見せてくれるのかい」

「ええ」

 ヘファイストスは微笑んだ。

「ただし、見学だけで終わらせるつもりはないわ」

「というと?」

「勝負を申し込むのよ」

 椿は、思わず笑った。

「鍛冶勝負?」

「そう」

 ヘファイストスは、黒銀鋼を手に取った。

「同じ素材、同じ炉、同じ時間。それぞれが一本の剣を打つ」

 椿は、にやりと笑った。

「そいつは面白いね」

 ヘファイストスも笑った。

「でしょう?」

 しかし、その瞳には、鍛冶の女神としての真剣な光が宿っていた。

*

 翌日。バラド=ドゥーア。巨大な黒い塔の地下深く。ヘファイストスと椿は、案内役に導かれて長い階段を下りていた。壁には、古い文字が刻まれている。どれも、オラリオでは見たことのない書体だった。椿が興味深そうに眺める。

「……ずいぶん古そうな文字だね」

「ええ。でも、装飾じゃないわ」

「分かるのかい?」

「壁そのものに、何かの機能を持たせている」

 ヘファイストスは指先で石壁に触れた。

「……温度が一定に保たれている」

 椿も触れてみる。

「本当だ」

「それに、振動がほとんどない」

「鍛冶場の下なのに?」

「そう」

 ヘファイストスは、静かに言った。

「この塔そのものが、一つの巨大な工房なのかもしれないわね」

 やがて、巨大な扉が現れた。黒い鉄。銀の紋様。そして、中央に刻まれた燃える眼。扉が開く。その向こうには、広大な地下工房が広がっていた。幾つもの炉。巨大な金床。天井から吊り下げられた鎖。そして、壁一面に並ぶ工具。だが、ヘファイストスが最も驚いたのは、炉だった。そこには、燃料が見当たらなかった。にもかかわらず、炎が燃えている。青白く。

 静かに。まるで、炉そのものが火を生み出しているかのようだった。

「……これは」

 ヘファイストスが呟いた。その時。奥から、重い足音が響いた。黒い甲冑。巨大な体躯。そして、燃える眼。サウロンだった。

「来たか、ヘファイストス」

「ええ」

 ヘファイストスは、堂々と答えた。

「今日は、あなたに挑戦しに来たわ」

 サウロンは、わずかに首を傾げた。

「……挑戦?」

「鍛冶勝負よ」

 そして。サウロンが、低く笑った。

「……ほう」

 その声には、珍しく興味が滲んでいた。

「私に鍛冶を挑むか」

 ヘファイストスは腕を組んだ。

「不満?」

「いや」

 サウロンは答えた。

「久しく、そのような申し出は受けておらぬ」

 そして、静かに続けた。

「よかろう」

*

 地下工房。二つの金床が並べられた。素材は、同一の黒銀鋼。重量も、成分も同じ。使用する炉も、同一の条件に調整されている。椿が審判役を務めることになった。

「それじゃあ、始めようか」

 ヘファイストスは槌を握った。サウロンも、同じように槌を手に取る。

「制限時間は?」

 椿が尋ねる。ヘファイストスが答えた。

「三時間」

「十分だ」

 椿が笑う。

「では、始め!」

 槌の音が響いた。ヘファイストスの鍛造は、美しかった。一打ごとに、金属が正確な形へ整えられていく。熱の扱い。力の加減。そして、素材の癖を読む感覚。すべてが洗練されていた。椿は、思わず見入った。

「……さすがだね」

 鍛冶の女神。その技術は、まさしく神業だった。だが、サウロンの鍛造は異なっていた。彼は、槌を振り下ろすたびに、金属へ何かを語りかけていた。低い声。古い言葉。椿には、意味が分からない。しかし、金属が反応していることだけは分かった。槌が落ちる。金属の内部で、魔力の流れが変わる。もう一度。今度は、金属の組織そのものが整列する。

 椿は、息を呑んだ。

「……何だい、あれ」

 ヘファイストスも、作業の合間にサウロンを見た。彼の槌は、単に金属を変形させているのではない。素材に、あるべき形を命じている。そして、素材がその命令に応じている。

「……まるで」

 ヘファイストスが呟いた。

「……創造そのものね」

 サウロンは、槌を止めなかった。ただ、静かに答えた。

「創造ではない」

「……何ですって?」

「既に存在するものへ、正しい秩序を与えているだけだ」

 ヘファイストスは、思わず手を止めた。サウロンは続けた。

「金属には、性質がある」

 槌が落ちる。

「炎には、性質がある」

 もう一度。

「そして、形あるものには、それぞれの秩序がある」

 彼は、静かに言った。

「私は、それを知っている」

 ヘファイストスは、しばらく彼を見つめていた。そして、再び槌を振るった。

「……なら、私も負けていられないわね」

*

 三時間後。二本の剣が、金床の上に並べられた。ヘファイストスの剣。銀色の刀身。無駄のない形状。魔力の流れは、均一で安定している。椿は、剣を持ち上げた。

「……見事だね」

 刃を軽く振る。空気が鋭く裂けた。

「手前が見ても、文句のつけようがないよ」

 ヘファイストスは微笑んだ。

「ありがとう」

 続いて、サウロンの剣。黒銀の刀身。表面には、装飾らしいものはない。ただ、深い黒が光を吸い込んでいた。椿は、それを手に取った。

「……ん?」

 重さは、ほとんど同じ。だが、感覚が違う。剣が、手の中で奇妙な存在感を放っている。

「……何だろうね、これ」

 椿は、軽く振ってみた。その瞬間。剣が、まるで自分の動きを先読みしたかのように、滑らかに動いた。

「……へえ!」

 椿は目を見開いた。

「こりゃ面白い!」

 ヘファイストスが尋ねる。

「どう?」

「手前が振るより先に、剣が動きを理解してるみたいだよ」

 ヘファイストスは、剣を受け取った。そして、ゆっくりと振る。

「……なるほど」

 彼女の表情が変わった。

「これは、単に扱いやすい剣じゃない」

 サウロンは、黙って見ていた。ヘファイストスは続けた。

「使用者の動きに合わせて、内部の魔力の流れが変化している」

「その通りだ」

 サウロンは答えた。

「剣が、持ち主の意思を読み取る」

 椿が尋ねる。

「……そんなことができるのかい?」

「できる」

 サウロンは、静かに答えた。

「だが、それだけではない」

 ヘファイストスが顔を上げた。

「……どういうこと?」

 サウロンは、剣を指差した。

「その剣は、持ち主の意思に従うよう作られている」

「……ええ」

「だが、もし私が望めば」

 彼は、静かに言った。

「持ち主の意思より、私の意思を優先させることもできる」

 ヘファイストスの表情が凍りついた。椿も、笑みを消した。

「……それは」

 サウロンは続けた。

「武器が持ち主に従うとは限らぬ、ということだ」

*

 地下工房。ヘファイストスは、サウロンの剣を金床へ戻した。

「……あなた」

 声が低くなる。

「これまでの共同研究でも、同じことをしていたの?」

 サウロンは、静かに答えた。

「否」

「……本当ね?」

「お前たちに渡した黒銀鋼には、そのような仕掛けはない」

 ヘファイストスは、しばらく彼を見つめた。そして、頷いた。

「……なら、いいわ」

 しかし、表情は硬いままだった。

「でも、どうしてそんな技術を持っているの?」

「……鍛冶を学んだからだ」

 椿が苦笑した。

「いや、そりゃそうだろうけどさ」

 ヘファイストスは、静かに尋ねた。

「誰から?」

 サウロンは、槌を置いた。そして、炉の炎を見つめた。

「……アウレ」

 その名が、地下工房に響いた。ヘファイストスは、眉をひそめた。

「……アウレ?」

「そうだ」

 サウロンは答えた。

「物質を愛し、形あるものの創造を司った偉大なる者」

 椿が尋ねる。

「……神様なのかい?」

 サウロンは、少しだけ首を傾げた。

「お前たちの言葉で語るならば、神に近い存在だろう」

 ヘファイストスは、静かに言った。

「……あなたの師匠?」

「かつてはな」

 サウロンは答えた。

「私は、彼の下で多くを学んだ」

 炉の炎が揺れる。

「金属の性質。石の構造。炎の扱い。そして、形あるものへ意思を込める術」

 ヘファイストスは、息を呑んだ。

「……それで、今の技術があるのね」

「一部はな」

 サウロンは続けた。

「だが、私が歩んだ道は、彼の教えから大きく離れた」

「……どうして?」

 サウロンは、静かに答えた。

「私は、秩序を求めた」

「アウレは、創造されたものを愛した」

 サウロンは続けた。

「だが、私は考えた。創造されたものが、勝手に争い、壊れ、失われるのであれば、それは不完全ではないかと」

 ヘファイストスは、黙って聞いていた。

「ならば、すべてを正しく動かす意思が必要だ」

 サウロンは、静かに言った。

「それが、私の答えだった」

*

 ヘファイストスは、サウロンを見つめた。

「……それは、創造じゃないわ」

 サウロンは答えなかった。彼女は続けた。

「あなたが言っているのは、支配よ」

「そうだ」

 即答だった。ヘファイストスは、少し驚いた。サウロンは続けた。

「私は、支配を否定せぬ」

「……なぜ?」

「秩序を維持するためだ」

 サウロンは、静かに答えた。

「お前たちは、自由を尊ぶ」

「ええ」

「だが、自由は争いを生む」

 ヘファイストスは、首を横に振った。

「それでも、自由には価値があるわ」

 サウロンは、わずかに笑った。

「価値があることと、正しいことは同じではない」

 椿が口を開いた。

「……手前は、ちょっと違うと思うね」

 二人の視線が集まる。椿は、金床の上の剣を指差した。

「剣ってのは、使い手によって変わるもんだよ」

 サウロンは、黙って聞いていた。

「手前たちは、使い手が自由に振るえるように作る」

 椿は続けた。

「でも、あんたの剣は違う」

「……どう違う?」

「最初から、あんたの意思が入ってる」

 椿は、静かに言った。

「それじゃ、使い手のための剣じゃない」

 そして、はっきりと続けた。

「あんたのための剣だ」

 サウロンは、しばらく椿を見つめていた。やがて、低く笑った。

「……よく見抜いた」

 椿は、少しだけ眉を上げた。

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「そうするとよい」

 サウロンは、剣を手に取った。

「この剣は、私の意思を優先するよう作られている」

 ヘファイストスが尋ねた。

「……それを、誰かに渡すつもりだったの?」

「否」

 サウロンは答えた。

「これは、試験のためのものだ」

「……試験?」

「お前たちに、技術の可能性を示すためのな」

 ヘファイストスは、深く息を吐いた。

「……なるほど」

 そして、静かに言った。

「なら、私はその技術を使わない」

「それも、お前の選択だ」

*

 地下工房。ヘファイストスは、共同研究の契約書を取り出した。

「……確認しておきたいことがあるわ」

 サウロンは、静かに答えた。

「申せ」

「黒銀鋼の共同研究には、魂や神性を担保とする技術を持ち込まない」

「契約に記されている」

「ええ」

 ヘファイストスは続けた。

「でも、今の剣みたいに、持ち主の意思へ干渉する技術については、明確な規定がない」

 サウロンは、わずかに目を細めた。

「……なるほど」

「だから、追加したい」

 ヘファイストスは、はっきりと言った。

「共同研究で開発する武具には、使用者の意思を奪う仕組みを組み込まないこと」

 サウロンは、しばらく彼女を見つめた。

「……それは、技術の可能性を狭める」

「分かっているわ」

「より強力な武具を作る機会を失うかもしれぬ」

「それでもよ」

 ヘファイストスは答えた。

「私は、使い手の意思を奪う武器を作りたくない」

 サウロンは、静かに言った。

「……よかろう」

 ヘファイストスは、少し驚いた。

「……いいの?」

「共同研究の範囲に限るならば、異論はない」

 サウロンは答えた。

「私自身の鍛造まで制限されるのでなければな」

「もちろん。そこまで口を出すつもりはないわ」

 サウロンは、契約書へ手を伸ばした。

「ならば、条項を追加せよ」

「……ありがとう」

 サウロンは答えた。

「礼には及ばぬ」

 そして、低く続けた。

「私は、契約を守る」

 その言葉に、ヘファイストスは苦笑した。

「……そこだけは、疑っていないわ」

*

 鍛冶勝負が終わり、地下工房には静けさが戻った。ヘファイストスは、サウロンの剣を見つめていた。

「……一つ、聞いてもいい?」

「何だ」

「あなたは、アウレという存在を尊敬しているの?」

 サウロンは、しばらく沈黙した。炉の炎が揺れる。やがて、答えた。

「……かつては」

「今は?」

 サウロンは、低く答えた。

「その技を否定することはない」

 そして、続けた。

「だが、その思想には従わぬ」

「……あなたらしいわね」

 サウロンは、彼女を見た。

「そうか」

「ええ」

 ヘファイストスは、微笑んだ。

「あなたは、誰かに教わったことを、そのまま受け入れるような性格じゃないもの」

 サウロンは、わずかに笑った。

「……違いない」

 椿が、二人の間へ割って入った。

「さて、難しい話はそのくらいにしようか」

 ヘファイストスが振り返る。

「椿?」

「せっかく、こんな工房まで来たんだ」

 椿は、目を輝かせた。

「手前にも、何か打たせておくれよ」

 サウロンは、彼女を見た。

「……何を望む」

「そうだね」

「今まで見たことのない金属を、打ってみたい」

 サウロンは、しばらく彼女を見つめていた。そして、低く笑った。

「……よかろう」

 彼は、奥の棚へ向かった。そこから、一つの小さな金属塊を取り出す。銀色。しかし、光の当たり方によって、わずかに青く輝く。椿は、目を見開いた。

「……何だい、これ」

 サウロンは答えた。

「ミスリルだ」

 ヘファイストスの表情が変わった。

「……ミスリル?」

「そうだ」

 サウロンは、静かに続けた。

「古き時代より伝わる、極めて優れた金属だ」

 椿は、金属塊を手に取った。その軽さに、驚いた。

「……軽い!」

 ヘファイストスも、興味深そうに覗き込む。

「……それでいて、密度が高い」

 サウロンは、静かに言った。

「その性質を、黒銀鋼へ応用している」

 椿は、にやりと笑った。

「……なるほどね」

 そして、槌を握った。

「手前の腕が、どこまで通用するか試してみようじゃないか」

*

 それから数時間。地下工房には、再び槌の音が響いていた。椿は、ミスリルの小片を慎重に打っていた。サウロンは、少し離れた場所から見ている。ヘファイストスは、椿の作業を見守っていた。

「……難しいね」

 椿が呟いた。

「熱の入り方が、普通の金属と全然違う」

 サウロンが答える。

「炎を強めるな」

「……どうして?」

「その金属は、熱によって性質を失うのではない。熱の与え方によって、内部の秩序が変わる」

 椿は、槌を止めた。

「……つまり?」

「力で押し切るな」

 サウロンは、静かに言った。

「金属が変わろうとする方向を見極めよ」

 そして、頷いた。

「……分かった」

 槌が落ちる。一度。二度。三度。今度は、先ほどとは違う音が響いた。サウロンが、わずかに頷いた。

「……よい」

「へえ。今のは良かったのかい?」

「先ほどよりはな」

「手厳しいね」

「鍛冶とは、そういうものだ」

 ヘファイストスは、その様子を見て微笑んだ。しかし、同時に思っていた。サウロンは、確かに鍛冶師なのだ。それも、極めて優れた。だが、彼の鍛冶には、常に一つの思想がある。素材を理解する。性質を見極める。そして、最終的には、自らの意思に従わせる。それは、鍛冶の技術であると同時に、支配の思想でもあった。ヘファイストスは、静かに呟いた。

「……あなたは、本当に厄介な鍛冶師ね」

 サウロンは、彼女を見た。

「……何か言ったか」

「いいえ」

「ただ、負けていられないと思っただけよ」

 サウロンは、低く笑った。

「……ならば、精進することだ」

*

 夜。バラド=ドゥーア。ヘファイストスと椿が帰った後。地下工房には、サウロン一人が残っていた。金床の上には、二本の剣。ヘファイストスの剣。そして、サウロンの剣。彼は、二本を見比べた。どちらも優れた武具だった。だが、その思想は異なる。ヘファイストスの剣は、使い手を助けるために作られた。サウロンの剣は、使い手を導くために作られた。

 そして、必要ならば、使い手の意思を上書きすることもできる。サウロンは、静かに呟いた。

「……アウレ」

 かつての師。創造を愛した者。彼は、形あるものを生み出すことに喜びを見出した。だが、サウロンは違った。彼は、創造されたものが、正しく機能することを望んだ。そして、その正しさを決めるのは、自分自身だった。

「……自由とは、未完成の秩序だ」

 サウロンは、低く呟いた。

「いずれ、すべては一つの意思の下に整えられる」

 その指には、黄金の指輪。唯一の指輪。その内部には、彼自身の力が宿っている。かつて、エレギオンの鍛冶師たちは、彼の教えを受け入れた。彼らは、より優れたものを作ろうとした。そして、サウロンは、その願いを利用した。今も同じだった。ヘファイストス。椿。黒銀鋼。共同研究。そのすべてが、彼にとって新たな可能性を示している。

 だが、サウロンは急がなかった。彼は、数千年を生きてきた。帝国を築き、軍勢を従え、王たちを支配してきた。一つの都市を理解するために、数年を費やすことなど、何の問題もない。

「……いずれ、分かるだろう」

 サウロンは、静かに言った。

「私が与える秩序の価値を」

 炉の炎が、静かに揺れた。そして、黒い塔の奥深く。九つの影が、主の意思を感じ取っていた。冥王は、まだ剣を抜いていない。だが、彼の支配は、既に静かに広がり始めていた。それは、炎による征服ではない。創造による支配だった。

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