ヴァルザークが持ち帰った試料には、オラリオで採れたものと似た流れがあった。形は違う。帝国東部のものは固く乾き、迷宮の試料は今も微かに脈打っていた。
「同じものか」
王が尋ねると、サウロンは首を振った。
「似ていることと、同じであることは別だ。東の調査は続けさせろ。私は、こちらを確かめる」
「御意」
王は試料を収め、剣帯を締めた。
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迷宮では、階層の境目を越えるたびに空気が変わった。サウロンは通路を飛ばさなかった。壁を抜ければ早いが、どこへ繋がっているか分からないものまで壊すことになる。王は半歩後ろを歩いた。怪物が現れると、剣が一度動く。倒れたものの魔石は、その場で砕かず、袋へ収めた。
「通常の個体とは、反応が違う」
王が言った。
「どこから強くなる」
「この壁の先でございます」
サウロンは、岩の上へ手を置いた。中には、幾つもの流れが重なっていた。生命の力。それとは違う、物を一定の形へ押し固める力。さらに古い、消えかけた意志の跡。触れた瞬間、壁が震えた。
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奥から現れたものには、定まった顔がなかった。腕が伸び、別の腕が途中から折れ曲がる。声に似た響きが通路を満たした。王が剣を上げる。
「下がっております」
サウロンが命じた。炎が床へ落ちた。触れた怪物は、灰になるより先に形を失った。広がりかけた火を、サウロンは掌へ戻す。壁の奥にある全てを、焼くつもりはなかった。残った塊は、まだ彼へ手を伸ばしていた。
「命令を受けているのか。それとも、残った動きを繰り返すだけか」
返事は、声に似ていた。だが、問いへの答えにはならなかった。自我ある相手と決めるには足りない。サウロンは、塊を壁から分け、刃を入れた。活動が止まる。王が、その内側から白い破片を拾った。骨にも見えた。魔石ではなかった。
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さらに奥へ続く壁で、金と銀の光が瞬いた。サウロンが近づくと、根に似たものが動いた。こちらを遠ざける反応だったが、先ほどの塊とは違う。その向こうへ意識を伸ばすと、細い流れが幾つも消えかけていた。何を守っているのか、まだ分からない。サウロンは手を引いた。
「今日は、これだけ持ち帰る」
王が袋を閉じる。迷宮の壁は、二人が去った後も、ゆっくりと動き続けていた。
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地上では、ギルドが異常の報告を集めていた。短い振動。発生数の偏り。深層で見えた、通常と異なる炎。
「あなたの行動と、関係がありますか」
エイナに問われ、サウロンは袋の一つを差し出した。
「私が倒したものはある。それ以外は、場所と時間を比べろ。全てを同じ原因とするな」
彼女は袋を受け取り、記録を取った。ウラノスへは、別に試料が渡された。老神は白い破片を見たが、その場では名を付けられなかった。フェルズが、保管場所と採取位置を書き留める。後に同じ構造が見つかったとき、比べられるように。
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夕食には、王も同行した。酒場の椅子は鎧の幅に足りず、店員が別のものへ取り替えた。
「お待たせしました」
「構わぬ」
王は座り、主の杯が満たされるのを待った。サウロンは料理を一口食べ、別の皿を頼んだ。
「迷宮は、どう思う」
「造られたものに見えます。ですが、全てが同じ手によるものとも思えませぬ」
「私もそう見る」
サウロンは杯を置いた。
「面白い。しばらく、帰る必要はなさそうだ」