病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
よろしくお願いしますと、感想は可能なら優しくお願いします。
自分は豆腐メンタル以下なのです。
とある黒髪の青年は今、テンペウ城の王の間に立ったまま困り果てていた。
「なに、これ……?」
名前はという。遠橋高校2年生の
「ま、マズいことになってしまったのか……?」
テンペウ王もまた困ると同時に恐怖していた。
冷汗を流しユキナリとその左隣にいる灰色髪のショートカットの女性を見ては、心底マズいことになったと渋面になる。
「おいおい。何がどうなればこうなるんだ?」
「山本が羨ましい……あんな美女に懐かれてるらしいのが……」
「でも、怖ぇよ。あの威圧感からして、とんでもない何かじゃないのか?」
主に男子のクラスメイト達が今のユキナリの状態を見ては戸惑うか、羨ましがるかする中。
「お前の名は確か、ユキナリ・ヤマモトと言ったな?」
「はい」
騎士団長のゴルドーもまた、灰色髪の女性を見ては内心で『とんでもないことをしたな』と言いたくなりつつ。
「お前の天職である【
「天職の話の前にすみません。この女性は誰ですか?」
「知らないから俺に聞かないでくれないか?」
クラスメイト達ごといきなり異世界召喚されてから、王宮の鑑定師により鑑定をされたら謎の病喚士ということが判明。
判明した後、ユキナリをどうするべきかと考えていた矢先に、謎の女性が召喚しようとした訳でもないのに王の間にいたユキナリの目の前に現れた。
「ユキナリ。この人達は殺してもいいの? ユキナリの天職名が不吉だからって、危害を加えようとしたかもだし」
「とにかく駄目。今はとにかく今の状況と情報整理がしたい」
「はーい」
この女性は幸成の天職名を見聞きするなり「不吉だからどうする?」や「始末するべきなのか?」やらと騎士達と兵士達、魔導師達が呟きだすなり突如になんの前触れもなく現れた。
現れたなり周囲に敵意と威圧をぶつけてきたものだから、クラスメイト達もだが王の間の全員が腰を抜かした。
その後に威圧をやめるなり幸成の左隣に立っては「殺していいの?」と聞いてきたので、当然とめてからの何故にこうなったのかと頭を悩ませ痛めそうになる。
「まず、貴女は誰ですか?」
「ヴァルティ。吸血姫と呼ばれてた」
悩ませながらも先に確認するのは、ユキナリが召喚か何かをしたらしい女性はなんなのか。
何の前触れもなく現れ、ユキナリを除く王の間にいる全員からすれば恐ろしい威圧感を与えたのは一体何者なのかを聞いてみると。
「き、吸血姫?」
「そう。一応言っておくけど、この世界の存在じゃないわ」
つまりこの異世界ではない別の異世界から来た、吸血姫ヴァルティとのこと。
そのヴァルティは何故に幸成を守るような行動をした理由を聞いてみる。
「俺は何も感じなかったけど、この場にいるみんなに何かした理由は?」
「ユキナリを守るため。これは当たり前のことだよ?」
「なんで? 俺からすれば貴女とは初対面だと思うけど?」
「ある意味そうね。初対面ね」
ある意味で初対面。その言い方からして別の形で出会ったことがあるようなので、幸成は首を傾げてしまう。
「ユキナリが私のことを知らなくても仕方ないわ。私は今のユキナリに『知らない誰か』と思われる覚悟をした上だし、この先もずーっと守るから安心してね」
その言葉の内容はどういう意味なのだろうか。幸成からすれば謎の一言しか頭から出せない。
「まさか、俺の前世がどうのとか言わないよね?」
だから当てずっぽうに冗談じみた質問をする。
「ある意味で合ってるかもだけど違う。けど、私にとってはそんなの関係ないんだ。ユキナリがいれば、ね?」
質問すれば探るような形で的中していた。
しかも、答えたヴァルティの言いようからすれば『ユキナリがいれば』と言っていることからして、下手をしたら他はどうでもいいと思っているかもしれなかった。
「ところでユキナリはなんで、こんな所にいるの? 事と次第によってはユキナリをここへ連れてきた輩共を殺さなきゃならないかもだけど」
ヴァルティはヤバいかもと思う幸成をよそに、そのヴァルティが空気を読むか読まないかの発言。
その途端、騎士達と兵士達がテンペウ王を守るために身構えるが。
「理由を正直に話せるよね?」
再びの重すぎる威圧を放つ。今度は幸いにもクラスメイト達にはぶつけられなかったが、騎士達と兵士達は押し潰されたかのように倒れ伏してしまい身動きが取れなくなる。
「う、ぐ!?」
「う、うああっ……!?」
ゴルドーもまた騎士達と同じく倒れ伏して、テンペウ王は玉座に座る形で身動きができなくなる。
完全にヴァルティに与えられる、視界が歪み意識が飛びそうなほどの恐怖に呑まれてしまっていた。
「話してよ。……ね?」
最早これはお願いではない。脅迫だとしかクラスメイト達も幸成も思えない。それだけ今のヴァルティからの問いかけは迫力がありすぎた。
「は、話す。正直に話すから、まずはその威圧か何かを収めてくれぬか? このままでは、話もままならぬ……」
ヴァルティは権力がまるで通用しないナニカだと思い知り始めたテンペウ王は、正直に説明をするから重すぎる空気も含めてやめてほしいと懇願するように頼む。
「……もし話の内容が後に嘘だとわかったら、何かするかもしれないから」
頼まれた後、ヴァルティは一応は収めてくれた。そのお陰で王の間の全員は幾分か呼吸がしやすくなる。
「な、なあ。ヴァルティさん」
「ユキナリなら私の名を呼び捨てでいいよ」
「な、ならヴァルティ……ここへ連れてこられた理由をまだ知らないから助かる部分はある。けど、やりすぎだと思う」
「なんで?」
「みんなして怯えちゃってるんだ。だから、かなり優しくしてほしいかなーって」
ヴァルティの発言と行動内容からして、せめて制限をかけないと非常にマズいと幸成は思わざるを得ない。
だから遠回しに威圧やらをするのはもうやめてほしいと頼んでみたが。
「この後の話の内容によるわ」
頼んだのは無駄だったかもしれない。この後の内容次第でヴァルティはまた何かをするかもしれなかった。
そんな危うい回答が返ってきた。お陰で幸成の内心はハラハラドキドキどころではない。心臓と胃にまるで厳しい状況のままだった。
「で、では、余から説明させて、もらおう……」
頼むから説明内容がかなり悪くない理由であってほしい。幸成は心底願いながらテンペウ王から語られる言葉を待つ。
「お前達をここへ召喚した理由は……『ダンジョン破壊』が主な理由だ……」
「ダンジョン攻略?」
「そうだ。ダンジョンの数があまりにも多くなりすぎたために、異世界人の助力も借りないとマズいことになりはじめた。その増えすぎてしまったダンジョンの破壊をしてもらいたいと、召喚したお前達に頼もうとしていた」
幸いにも戦争や魔王関連ではなかった。いや、どちらにせよ生きるか死ぬかの命懸けになるなら十分すぎるほどヤバいと、幸成もクラスメイト達も思う。
「へぇ? つまり、ユキナリとその他に死ぬかものダンジョン破壊とやらをさせたいと?」
「そ、その通りだ。召喚された者達からすれば誘拐どころではない所業なのは理解している……だが、こちらもそうしないとならぬほどに切羽詰まっているのだ……」
戦いに身を投じろと言っているようなものだとヴァルティが指摘したが、テンペウ王を含むこの世界側も必要に迫られてやらざるを得なかったと返すしかない。
「ユキナリ達を元の世界に帰らせる方法はあるの?」
「……残念ながら、ないのだ。召喚する方法はあっても、元の世界へ帰す方法はない……」
しかも、テンペウ王とヴァルティの会話内容からすると、元の世界へは二度と帰れない。そう聞かされた幸成とクラスメイト達は絶望感を背負わされる。
「帰れない?」
「ゆ、誘拐どころじゃないぞ!?」
「そんなの嫌よ!? お家に帰して!!」
クラスメイト達が絶望感に負けて酷く喚き、泣きそうになる。
「……本当に、帰れない、のか?」
幸成も帰れない事実を知ると、意識が一瞬遠くなるか揺れるほどの衝撃を覚える。
「なら作って」
「……作れ、だと?」
「ないなら作ればいい。召喚する方法があるなら、逆の方法もあってもいいでしょう?」
「…………」
幸成とクラスメイト達が酷く悩まされる中、ヴァルティはテンペウ王に『ないなら作れ』と言い出した。
その言葉にテンペウ王は暫しの沈黙をする。作ることは可能なのだろうかと。
「ペリエ。召喚とは真逆の魔法を作ることは可能なのか?」
それを知るために王宮筆頭魔導師のペリエという名の老年の男に訊ねてみる。
「理論上は可能ですが、それなりの年月を必要とします。なにしろ、異世界人の召喚自体も初めての試みでした。異世界人達を送還させるための魔法を組み立てるのも同じく、かなり時間を要します」
「予想年月は?」
「異世界人召喚の魔法は3年かかりました。その真逆の魔法も最低でも、その程度はかかるかと思われます」
「……そうか」
理論上は可能。但し、作れたとしても年単位の時間がかかると予想されたことにテンペウ王は。
「ならば、ペリエを含む王宮の魔導師達は総力で送還の魔法を作れ。そうしなければ後々マズいことになる」
「承知しました」
召喚してしまった以上は最低限の責任を取らないとならない。そう判断してペリエ達に送還魔法を作ることを命令した。
召喚した責任もあるが作ることが叶わなければ、テンペウ王達がヴァルティにより手にかけられてもおかしくない。
それに後々に手にかけられたら、その後のテンペウ国は誰が治める以前の話にもなる。
「ユキナリ。年単位はかかるみたいだけど、帰れるかもしれないってさ」
「……いや、あの、さ。ありがたいとかありがとうの前に、王様を脅しすぎじゃないの?」
テンペウ王とやり取りをした後、ヴァルティは幸成に緩んだ両目と声を向けてくる。
つい先程まではかなり鋭い目と声だったのに、この大きなズレはなんだと思う幸成は脅迫しすぎなのではと言いたくなってしまう。
「そう? ユキナリに危害を加える可能性の芽も含めて摘み取っただけなのに? ユキナリ達はこいつらに誘拐されたようなものなのに、そこを気にするの?」
「そうなんだけど。確かにそうなんだけど……!」
だがヴァルティは幸成達は被害者だから何も気にする必要はないとばかり。言い分は間違いないとしても、テンペウ王を含む偉い立場の者達を脅迫していい理由になるかと言われると、幸成としては違う気しかしない。
というか今後次第の展開によってはヴァルティもだが、幸成も危険人物扱いされそうだ。だって幸成に危害を加える=ヴァルティを敵に回すという式が成り立つのだから。
「おい。あの女をなんとか倒す方法はあるか?」
「無理です。斬り掛かったら即座に挽肉になる未来しか見えてこない」
「総員で掛かっても無惨な形で返り討ちになるかと思われます」
実際にゴルドーと騎士達が小声で、ヴァルティをなんとかできないかと聞いてみたり。
「騎士達ですら、この有様。兵士の俺達は尚更無理ですって」
「というか書類仕事や頭を使う仕事ばかりの内務の貴族達は、みんなして気絶したままだぞ。これ、どうするんだよ?」
「というか王にこんなことができる女が、今日から滞在する? かなりマズくないか?」
兵士達も主に生きているが倒れたまま動かない貴族達を見下ろしたり、ヴァルティを見たりを繰り返しては今後はどうなるのかと大きすぎる不安を抱く。
「かなり警戒されてしまっている。本当になんでこうなった?」
「あのままだとこいつらがユキナリを殺すかもしれなかったから、警戒されるのは我慢しよう?」
「天職名の時点で嫌な予感がしたと思えば、斜め上89度の形で的中するとか。病喚士って本当なんなの?」
ヴァルティは警戒されるのは必要なことだから我慢と言えば、幸成は病喚士とはなんなのかと思う。
もしかしたら病喚士という天職は、呪われていないだろうかと思えてしまう。
「召喚士ならぬ病喚士、か。もしかしたら、何かがおかしいナニカを幸成が召喚できるとか?」
「病気とかを呼び寄せる訳じゃない。けど、ヤバいナニカを召喚するから病喚士?」
クラスメイトの2人こと田村と水村が、幸成の天職の内容を予想してみる。それを聞いた他のクラスメイト達は『合ってそう』と頷きかけてしまった。
幸成も内心で頷きたくなる。実際ヴァルティというヤバい存在を呼び寄せようとした覚えはないのに、何故か勝手に来たのだから。