病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
その後もブリュテは暇があれば畑と牧場で働く幸成と会話をすることを、より積極的にしていく。
ブリュテからすれば、誰かに崇められず親しく会話する機会なんてない。
だから、幸成に強い興味を持ち始めてしまう。
『そういえば、ブリュテさん。大精霊って、何ですか?』
『この世界には大精霊と呼ばれる存在達がいて、それぞれの土地を守る役割を持っています』
幸成に大精霊のことについて尋ねられた。
だから、ブリュテは大精霊とは何かを簡単に説明する。
『大精霊かぁ。俺には縁のない存在です』
『ユキナリは異世界人ですからね。大精霊のことを説明されても、理解できるかは別の話だと思います』
『確かに』
そうして会話をしていくうちに、徐々にブリュテは幸成に惹かれていった。
一方で幸成はブリュテの気持ちに気づけないでいた。
理由は仕事の忙しさもあるが、異世界の常識の勉強もあるので毎日が疲れるからだ。
それもありブリュテの恋心に気づけないまま、3年が過ぎた頃。
『ブリュテ様! 異民族です! 異民族が攻めてきました!?』
『! 今すぐに私が対処します。その間にあなた達は戦闘の準備を!』
『はい!』
ブリュテが治める土地は平和そのものだった。
しかし、その平和が音を立てて崩れ去る日が訪れる。
異民族の軍勢が攻め込んできてしまった。
『ブリュテ、だったな。今すぐに我々の元へ来い! そして、この土地と街を差し出してもらおうか!』
その異民族は既に畑や牧場を焼き払い、街の中まで攻め込んでいた。
そこでブリュテを待ち構えていたのは、異民族のリーダーとその軍勢。
『そのような横暴、許されるわけがありません!』
『許されない、か。だが、お前にとっての弱点らしい者は我々が人質にしている』
ブリュテは許さないと反論するが、相手はこの3年間を過ごしてきた幸成を人質に取っていた。
『は、離せ!?』
『無理に動くな。まだ長生きしたいだろう?』
その幸成は異民族のリーダーの副官のような男に捕まり、抵抗しようとしたら首を絞められそうになった。
あまり抵抗できないと悟った幸成は。
『ブリュテさん! なんで貴女がここにいるかが今、わかりました。貴女が大精霊とやらだったんですね?』
『……!』
ブリュテがここに来た理由を察しながら、あることを決断した。
対するブリュテは知られたくそとを知られてしまった後。
『ユキナリ! 一体何を!?』
『貴女が無事なら、それでいいです。後は頼みました。…………最後に、今までお世話になりました。本当にありがとうございました』
幸成は自分自身を犠牲にすることを選択した。幸成を人質にする物の剣に自ら喉を思い切り突き刺させた。
その行為に異民族の者達は騒然となり、リーダーと副官は怒り狂った後に、幸成の死体を殺した者が蹴り飛ばす。
『余計なことを!?』
『自殺しやがった……! 人質として使おうとしたのに!!』
『よくも、よくも、ユキナリをそこまで追い詰めて……!? 最早、あなた達全員を生かして帰すわけにはいかなくなりました!!』
『『『!?』』』
この時、ブリュテは初めて誰かに対する敵意、殺意を抱いた。
敵意と殺意を抱いたブリュテは容赦なく、異民族達を滅ぼした。
『ユキナリ……う、うぅっ……』
滅ぼした後、ブリュテは初めて大切な何かを失ったことを実感した。
実感してから、ブリュテは街の人々に泣いている姿を見せまいと、いつもいる立派な建物に戻っては1人で泣き続けた。
幸成を喪う以前までは居心地悪くなかった。
だが、その建物は泣くのを隠すためでしかない場所となった。
『ユキナリは私の前で死んでしまいました。私は、守れなかった……』
ブリュテは後悔と喪失感に苛まれたまま泣き続けた。
『おや? お困りかい?』
泣き続ける最中、いつの間にかブリュテに語りかけてくる胡散臭い男の声のみが聞こえてきた。
『あなたは、誰?』
『私が誰かを気にする? そんな余裕がまだあったのかな? ユキナリ少年を守れなかったのに』
この時、ブリュテはその胡散臭い男の声から幸成の名前を聞いて、どうして知っているのかが気になってしまった。
『どうして、ユキナリの名前を?』
『そこは理由があってね。それよりも、キミにチャンスを与えたいと思ってさ』
『……何を企んでいるのですか?』
胡散臭い男の声は何かを企んでいるとブリュテは判断した。
だから、警戒を強くした。
『私は本当に、キミにチャンスを与えに声をかけているだけだよ。但し、条件付きであることは、あらかじめ言っておこうか』
『その条件とは?』
だが、胡散臭い男は本当にブリュテにチャンスを与えようとしているらしい。
ただし、条件付き。
それが何なのかは不明だった。
それでもチャンスの内容が何故か気になると、ブリュテは胡散臭い男の声から話を聞いた。
『1つはキミのことを何も知らない、ユキナリ少年に出会わせることだよ』
『ユキナリに? 私がユキナリを知ってるのに、ユキナリは私を知らない?』
『そう。別の世界にいるユキナリ少年の元へキミを向かわせるようにする。その代わり、もう1つの条件として、この世界からキミは離れることになる。そうなれば、街の人々は次の大精霊が来るまでは、自分達で土地を守ることになる。それでもユキナリ少年に会いたいかい?』
この世界をも捨てるようなものだと、胡散臭い男の声は忠告してくる。
それでも幸成に会いたいかと聞いてくるとブリュテは。
『………………私がいた街と、この世界の人々には申し訳ないですが、私はユキナリに会いたいです』
長い葛藤の後に決断した。
今のブリュテにとって、この世界より幸成が優先だ。
その言葉を聞いた胡散臭い男の声は。
『よし。なら、キミもまた導こうか』
告げた後に声が消えると、ブリュテは光に包まれた。
その後、ブリュテは途切れ途切れにだが暗い闇しかない空間の中で、幸成が異世界召喚されてからの流れを見知る。
そして、幸成が病喚士という天職を得たのを見た。
『ユキナリ。今度こそ、私が必ず守ります』
守りたい相手を、愛しい人を守るために、ブリュテは早く召喚されることを願う。
暗い闇しかない空間の中でひたすら祈り続けた。
1つの始まりから3年後に起きた出来事。
その後に起きた胡散臭い男の声による誘導。
そこからブリュテは別の世界で異世界召喚された幸成の元へ辿り着けたのだった。
「これが、昔の私に遭った過去です」
「俺が別の世界で別の人生を生きてて、ブリュテも俺を喪ってた……」
「はい。私はユキナリを喪い、悲しみで押し潰されそうになりました」
過去の語りを聞いた幸成は、ブリュテもまた、別の世界の自分を喪っていたことをなんと思えばいいかはわからない。
その幸成自身がブリュテを守るための犠牲になったこと。
そうすることで、ブリュテが街を守れるようにしたことの決意がどれほどのものかも、まるでわからなかった。
「ある意味、俺が招いてしまったことなのか……」
「いいえ。あれは私が油断をしていたのが悪いのです」
自責の念を抱く幸成に、ブリュテは悪いのは自分だと否定する。
油断がなければ幸成を傷つけさせなかったはずなのだからと。
「改めて思うけど、胡散臭い奴は本当に何を考えてるんだろう? まるでもなく見てたかのような印象がある」
「それはわかりません。ただ、今はユキナリを優先したいです」
過去の出来事を聞いた後、幸成は胡散臭い男の声について思うことがある。
まるで見計らっていたかのように、ブリュテにも語りかけたと思える。
「そうだよ。胡散臭い奴の目的なんて、私とブリュテからすればどうでもいい。今はユキナリを優先する」
「今後のことを考えると本当、怖いよ……」
ヴァルティとブリュテは胡散臭い男の声のことなど、どうでもいいと言った。
今は幸成を優先するのが先。
それが2人の意見なので幸成は胃に痛みを感じてしまいそうになる。
「ところでさ、ブリュテの過去を聞いている間に深夜になったから、そろそろ寝た方がいいよ。特にユキナリは明日の訓練があるんだから」
「確かに。じゃあ、寝よう」
「では、寝室の方へ行きましょう」
そうこうしている間に深夜の時間帯となると、ヴァルティが寝ることを促す。
確かに眠気が今になって襲ってきた幸成は頷く。
「今日は3人で寝るから」
「うん。……えっ?」
「添い寝をしましょう」
そして、今日は3人で添い寝するとヴァルティが言うなり、ブリュテも同意見だと示す。
「ちょっと待って! 同じベッドに2人も入って寝ようとするのは無理があるから!?」
ヴァルティだけでも理性的に辛い。
なのにブリュテも一緒に入ってきたら幸成の理性は保たないかもしれない。
「ブリュテ。ユキナリを挟んで眠るよ」
「そうしましょうか」
しかし、幸成の意見は聞かれることなく、ヴァルティとブリュテは2人して幸成を挟んで眠る気満々だった。
「ほら。ユキナリも早く来て」
「早く来てください」
「か、勘弁してほしいんだけど。理性的な意味でさ……」
その2人に幸成はやめてほしいと訴える。
「したくなったら、いつでもしていいよ?」
「寧ろ、してほしいかもしれません」
なのにヴァルティとブリュテからは許可をされた上で、寧ろしてほしいと言われてしまい幸成はもう諦めるしかなかった。
「…………わかった。添い寝だけね? それ以上のことは絶対にしないからね?」
「わかった」
「わかりました」
だから幸成は絶対にこれ以上はしないという条件付きで添い寝をすることにした。尚、この日の夜は理性が保ちながら眠れたことに幸成は内心で安堵した。
異世界召喚されてから14日目の早朝。
昨夜は無事なんとか眠ることができた幸成が意識を覚醒させた後、両腕に柔らかな感触を感じた。
その感触に違和感を覚えつつも意識を覚醒させ終えた後、ゆっくりと瞼を開ける。
「……こうなったか」
すると左半身にヴァルティ、右半身にブリュテ。その2人がユキナリを離したくないとばかりに抱きしめてきていた。
2人して添い寝はしたものの、寝るなり抱きしめてきたらしく、幸成の両腕は2人の胸に当たってしまっている。
昨日に引き続き刺激的すぎる朝となり、幸成に精神的に大変な時間となった。
「や、やっぱり、そう簡単には動けない……」
その状態から身体を起こそうと試みるも、2人が抱きしめているせいで動くことができない。
結局、幸成は2人が目覚めるまでこの状態でいるしかない。
その際、どことは言わないがかなり熱くなる思いをする。
「それにしても、幸せそうに寝てるなぁ」
まずは頭を動かしてヴァルティの顔を見る。
灰色髪のショートカットの女性であるヴァルティは幸せそうに眠っている。
次にブリュテの顔を見る。こちらもまた長い深緑色の髪の美しい女性であるブリュテも幸せそうに眠っている。
朝の日差しで艶のある髪を煌めかせる2人は幸せだから、眠る顔が緩みきっている。
それが一目でわかるほどだ。
「本当、理性に優しくない状況だ」
眠る2人から漂ってくる香りや髪の煌めきを堪能したい気持ちはある。
だが、それ以上に理性に優しくないと幸成は頭を痛めた。
そんな幸成が2人を起こそうとせずにいるのは、2人の過去の話を聞いたからだ。
2人して悲劇を味わう結果になったことを知った以上は、起こすのは気が引ける。
「どちらにしても、起きてもらわないとマズい」
気が引けるが身支度の時間が必要になる。
だから、このまま2人を起こさずにいるわけにはいかず、まずはヴァルティに声をかける。
「ヴァルティ。起きて」
ヴァルティの耳元に口を近づけてから呼びかける。
しかし、ヴァルティは起きる様子がない。寧ろ声をかけた途端に抱きしめる力が少しだけ強くなってしまった。
起こそうとしたら逆効果になってしまった。
「ブリュテ、起きてほしいんだけど」
なので次はブリュテに声をかけるが、こちらも同様で起きてくれない。それどころか、ブリュテも抱きしめる力を強めてくる。
「俺は、どうしたらいいんだろう……?」
2人を起こすことができない。
その上に身体も動かせない。
ベッドの上で幸成はどうしたものかと途方に暮れてしまう。
しかもヴァルティとブリュテの口から零れる寝息と耳元に優しく吹きかけられる吐息が耳をくすぐってくるのは恥ずかしいと、幸成は顔も熱くさせてしまう。
「……ここは時計がないから、太陽で時間を確認するしかないんだよな」
それでもなんとかならないかと思って窓を見る。
カーテンの隙間から太陽の光が差し込む位置から予想すると、まだ朝の早い時間であると幸成は判断する。
時間はまだ十分に余裕がある。
それもあり2人に抱きしめられたまま、二度寝をしてもいいかと考えてみようとする。
「二度寝するよりも、今は離れたいんだけどなぁ……」
それでも幸成としては二度寝より今すぐにこの状況から脱したい。
だが現実問題として動けない。
どうしたものかと悩んだ後、ここは冗談半分で思いついた言葉を試してみる。
「このままだとクラスメイト達やゴルドーさん達に、添い寝をしていることを知られることになるよ?」
ヴァルティとブリュテに対してゴルドー達に知られるかもしれないと告げる。
起きてこないと、そのうちに起こしに来る誰かにより知られてしまうと。
すると効果は覿面で、ヴァルティとブリュテの2人はほぼ同時に目を覚ました。
「それは勘弁してほしい。ゴルドー達に公にするのは避けたい」
「私としても、ユキナリと添い寝をしていることを知られるのは避けたいです」
2人揃って起きると同時にヴァルティとブリュテはそのように言って、幸成を解放した。どうやらゴルドー達に知られるのは駄目だったらしい。
その理由は恥ずかしいの前に、知られたら幸成に迷惑を更にかけてしまう。
例えるなら『女2人と添い寝している』と噂されるだけで、幸成が悪く言われてしまうかもしれない。
ただでさえ病喚士という天職名で不穏な印象を与えかねないのに、悪評の種をまくのは駄目だとわかっていたからだ。
「やけにあっさりと起きた……もしかして、もう意識は起きてた?」
「……なんとなくだけど」
「私もです」
「なら、2人は起きているのに添い寝を続けてたってこと?」
「そうなるね」
「その通りとなります」
「そ、そう……」
ここで幸成はヴァルティとブリュテが起きていたのではと思う。
言葉にするなり2人は起きていたと言う。
起きているのにずっと添い寝を続けていたらしい。
それだけ幸成のことが恋しいか、抱きしめていたかったのか。
2人は悪びれた素振りをまるで見せずに告げてきた。
「…………とにかく、身支度しないと。今日の訓練があるから」
「そうだね。支度をしよっか」
「そうしましょう」
最近は頭痛がすることが多くなってきたと思い始めた幸成はともかく支度を済ませるように促して、自分の着替えこためにカーテンで区切られた方へ移動する。
ヴァルティとブリュテもまた支度を済ませると、外に出ようとする。
その際食堂で朝食を食べている奈々や笹原達に挨拶をしてから席に着く。
「おはよう、みんな」
「おはよう、幸成」
「ああ、おはよう。山本」
朝の挨拶の後、今日の朝食内容を見てみる。
何の魚かはわからないが切り身となった塩焼き、野菜サラダ、そして炊きあがったばかりの白米。
洋食寄りだが、これだけでも幸成を含むクラスメイト達は大満足な朝食だった。
「あーっ。米の味を噛み締められる。幸せだ」
「同感だ……」
「米が食べられるだけでこんなに嬉しい」
「山本とブリュテさんのお陰だな」
「ただ、箸じゃなくてスプーンで白米を食べるのに違和感あるね?」
「そこは仕方ない。異世界に箸はないんだから」
米が食べられることがこんなにも嬉しいからか、幸成達は味わいながら食べていく。
一方でヴァルティとブリュテは、昨日に引き続きまだ食べ慣れない白米を美味しそうに食べる中。
「白米は美味しいね。ところで、肉じゃがは?」
「にくじゃが? それはどういう料理ですか? 恐らくユキナリの知る料理だと思いますけど」
「簡単に言うと、こんぶとかいう海藻をダシにした調味液で、肉と芋を煮た料理らしいよ」
「海藻類が必要になるのですか。味噌はまだ製作途中なのですから、いずれは味噌を使用した料理は作れると思います。ですが、にくじゃがとやらは今は無理だと思います」
肉じゃがは今に作れるかとヴァルティが尋ねる。ブリュテは幸成の知る料理と察した上で、海藻類が必要になると言った。
味噌はある程度の完成の見込みはあるが、それでも今は肉じゃがを作るのは無理だと言う。材料である昆布がない以上は無理だ。
「あれ? みそとやらは製作途中? いつの間にそんなことしてたの?」
「はい。味噌は簡単に言えば発酵食なので、完成させるには時間がかかります。なので、そこは魔法で時短ができるようにと私が方法を城の魔道士達に教えてました」
「そうだったんだ? 知らなかった」
「ええ。ですので、まだ味噌は完成していません」
味噌は発酵食なので、完成させるには時間がかかる。
だからこそ味噌は今のところまだ完成していない。
「味噌? てことは、いつかは味噌汁も飲めるのか!?」
その会話が聞こえるなり、亀田は味噌が完成した後は味噌汁が飲めることを知るなり喜びを見せる。
「だけど、味噌汁にもダシが必要だよ。カツオか昆布のどちらか。それがないと味気ないはず」
しかし、佐伯は味噌汁に必要なダシのことを口にする。
「そうだね。ダシは必須。かといって、その2つがこの異世界に存在してるかは不明」
「ダシがなくても味噌汁は味噌汁であるんだけど……それだと、美味しくない味噌汁になるんだよな」
味噌汁に必要なダシのことを思えば、異世界にカツオか昆布があるかはわからない。
なので無い場合は味噌汁を作っても美味しくなくなる。
そこを指摘されたら、鈴原と笹原も、クラスメイト達も今は残念だと思うしかなかった。
「けど、ダシは使わない日本食の再現なら可能だと思う。例えば焼き鳥とか」
「タレか、塩胡椒を振りかけるか。どちらかに悩むな?」
「けど、タレに必要な醤油も発酵させなきゃ作れない。ここは塩胡椒一択だ」
今はダシのことは後回しにして、今に再現可能と思える日本食の話で盛り上がる。
焼き鳥の話題になると幸成は醤油味のものか塩味のものかを想像して余計に食べたい気分になる。
そんな賑やかになれた朝食を終えたら幸成達は訓練のために、ゴルドー達と共にダンジョンへ向かうことになる。
但し、以前まで行っていたダンジョンではない別のダンジョンへだ。
理由は今、そのダンジョンは破壊を試みられている最中だ。
今日の訓練に使用されるダンジョンは、王都の北東に位置する。
そこで幸成達は経験を積むことになる。
別のダンジョンへ移動した後、ゴルドーはダンジョンの内容についての説明を始める。
「ここは少し難易度が上がったダンジョンだ。魔物も人型のものもいるが、獣型のものもいる。階層は15程」
「今までのダンジョンより多いですね?」
「ああ。まだ奥は未検証だ。下層の魔物は情報が少ない」
「大丈夫なんですか、それ?」
「未検証の部分もあるが、上層部分なら何度か調査済みだ。だから、今日の訓練は主に上層で行う」
ダンジョンへ着いた後入る前にゴルドーから説明を受ける。
今度のダンジョンの難易度は前にいたダンジョンよりは高く、魔物の中には人型以外もいる。
なので訓練は上層部で行うと聞かされた。
上層部なら危険度はまだ低い。
「行くぞ」
ゴルドーの号令の下で幸成達はダンジョン内へと入っていく。
以前と同じように幸成達は前衛、中衛、後衛に分かれる。
後衛に回る幸成は前衛にいる奈々や笹原達のことが心配になるものの、今はヴァルティとブリュテと共に身を守ることを優先する。
「おっ? 少し以前と比べたら格段に動きがよくなってるな」
様子を見ながら進んでいくと、以前よりも前衛組の動きが良くなっているようにゴルドーは思えた。
「久しぶりに白米を食べることができたのもあって、前よりも活気があります」
前衛の動きが良くなっている理由は白米を食べたお陰と奈々が答える。
前衛の動きを見てはゴルドーは期待しながらも気は抜かない。
「ユキナリはどうだ?」
「もっと魔法の腕を磨かないと。実戦で使える魔法が限られてますから」
「風属性魔法を扱えるなら十分。お前は後衛だ。まだ何もしなくても大丈夫だ」
対する幸成は自分の魔法の腕を磨かないといけないと戦力としての不安を吐露する。
そんな幸成にゴルドーは援護能力があるだけでも十分だと伝えた。
「わかってはいますが、その場に応じて使い分けられないと不安なんです」
それでも幸成は場に応じて、まだ魔法を使い分けられない。
だから自分の魔法にまだ不安を感じていた。
「もしもの時は大丈夫だよ、ユキナリ。余裕があったらだけど、一応はユキナリのクラスメイト達を守るのもするから」
「ヴァルティがそう言うなら、なんとか頑張ってみる。ヴァルティが味方にいてくれてるだけで、心強いから」
「任せて。ユキナリのためにも、クラスメイト達もついでだけど守ってあげる」
その不安を打ち消したいのかヴァルティがそう伝えてくる。
なら、心強いと幸成が伝えるとヴァルティは任せてほしいと告げてきた。
しかし、その内容にはあくまでもクラスメイト達は『ついで』だとの言葉が含まれているのを聞いて、やはりヴァルティは幸成しか見ていないらしいと実感してしまう。
「私も余裕があれば守ります。ですが、最優先はユキナリですので」
そんなヴァルティに続くように、ブリュテも余裕があればクラスメイト達を守ると告げてくる。
但し、ブリュテも最優先は幸成と断言した。
過去の語りからして、昔のブリュテは分け隔てない存在だったらしいのに今のブリュテからはそうした意思はあまり感じられない。
「その言い方だけは改善してほしいかな……」
「それは無理よ」
「無理ですね」
「だろうね……」
せめて言い方だけは改善してほしいと思う幸成だったが、ヴァルティとブリュテは改善するつもりはないらしい。
これを聞いていたゴルドーとしては、強力な戦力であるヴァルティとブリュテの関心が幸成に偏っているので、頭を悩ませたくなる。
「本当になんとかならないものだろうか?」
思わず愚痴をしても仕方ないと戦いに集中するしかない。
暫く進むと人型の魔物であるオークが現れる。
「オークか! こいつは豚に近い魔物だ。然程強くはないが注意しろ。数が多い魔物だからな!」
「はい!」
ゴルドーの警告に従いながら、幸成達はオークを迎え撃つ。
まだ弱い方だが数が多い。なのでクラスメイト達は連携して戦う。
「はあぁっ!」
笹原の剣がオークの胴を袈裟斬りにする。
同時に亀田の矢も別のオークの頭に突き刺さり、倒していく。
「ふっ!」
奈々が振るうハンマーもオークを頭から叩き潰し、殴り倒す。
魔法が得意な碇谷と鈴原達は前衛にいるクラスメイト達の援護に徹する。
「それいけ!」
中衛にいる佐伯が炎の槍を放ち、オーク3体を貫いて倒す。
進行は順調。
順調な中で幸成もゴブリンとは違う人型魔物のオークの首へ目掛けて風の刃を放つ。
「うん。魔物相手なら、かなり躊躇わずに倒せるようになった」
「そうだな。最初はどうなることかと思ったが、お前達は白米を食べてからは本当に動けるようになっているぞ」
風の刃によってオークの首を落としたことから幸成も魔物相手なら人型でも、そこまで躊躇わずに倒せるようになった。
その変化をゴルドーも感じている。
久しぶりの白米が活力を高めているのかもしれないと思いつつ、訓練は続く。