病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
30分ほどは北へ歩いて辿り着いたダンジョンの入口前には人集りがあった。
「どうだ! このベルセバッファローの大きさは!」
「これはなかなかのものですね。後に血抜きを終えたら、ギルドの職員が査定いたします」
「査定額が期待できそうだな!」
人集りの中央には、1体の赤い体毛の巨大な牛のような姿を持つ魔物が倒れている。
それがザンガ達から聞いたベルセバッファローだろう。
人集りは魔物の肉を狙う者達。
「これがベルセバッファローか」
その巨体を眺める幸成は思わず呟く。
ベルセバッファローの背丈は幸成の倍以上はある。
この大きさを持ってきてほしいとなると、大変そうだ。
「運搬には苦労しそう。普通ならだけど」
「我々はヴァルティさんに影魔法を教えてもらいましたからね。幸いにも影の中にしまえば、運搬は容易いです」
だがヴァルティのお陰で幸成もザンガ達も影魔法を習得している。
影に収納できるので運搬の問題はない。
「とにかく狩りに行こうか。乱獲しよ、乱獲」
「それはやって大丈夫なの?」
運搬には何の問題はない。
なのでヴァルティは乱獲しようと言い出した。
幸成はダンジョンの魔物を乱獲するとマズいのではと思ってしまう。
「問題ありません。寧ろ可能なら乱獲してほしいとまで思います。今の食糧難の状況なら、魔物の肉が多少増えたところで悪くなりません」
それを聞きながらザンガは寧ろ乱獲をしてほしいと言い切る。
それぐらいに他の国もだが、今のテンペウ国も食糧難という状況である。
「魔物が減ったとしても、また魔物が出てくるだけ。なら、溢れ出す前に倒した方がマシだと考えていった方が建設的なんですよ」
「そっか。なら、溢れ出す前に減らさないとだよね」
ロッソも乱獲しても魔物は出てくると続ける。
その発言を聞くとヴァルティは、溢れ出す前に減らそうと改めて言い出す。
「じゃあ、入ってみようか」
乱獲しても問題ならと、幸成は入ろうと促すが、その際にヴァルティが注目されてしまう。
「おい。あのやけに強い美女がいるぞ」
「ああ。ダンジョンから魔物が氾濫した際に大暴れしてた1人だな」
「ドラゴンを文字通り振り回した女がここに来たのか」
激しい戦闘を見ていたらしいダンジョン破壊者達はヴァルティが来ていると話すが、当人は全く気にせずダンジョンへ入ろうとしている。
「ユキナリ、早く行こう? お肉が待ってる」
「その前にドラゴンを振り回したって、何したの?」
「尻尾を掴み抱えて振り回して、周囲の魔物達を片付けたこともしただけだよ」
「ドラゴンが使い捨ての武器扱いされたのか……」
テンペウ国そのものが危機の中、ヴァルティは相当派手に暴れてくれたのだろう。
幸成はなんとなく光景が予想できた。
「……その、ドラゴンを振り回したヴァルティさんを見た時、俺は巻き込まれて死ぬんじゃないかとすら感じましたね。それぐらいに凄かったです」
ロッソはその場にいたので、ヴァルティの大暴れを見た際に恐怖したことを幸成に話す。
その顔は引き攣っている。
「その場にいなくてよかった。俺はそう思うな」
ザンガは別の場所にいたので見ていなかった。
しかし、ロッソから聞いては自分もその場にいたら死んでたかもと想像すると、ヴァルティの近くにいなくてよかったと思っている。
そんな会話をしながらダンジョンの中へ入ってみると、以前に入ったことがある光景とよく似ていた。
大体のダンジョンは薄暗くも広い洞窟の空間が広がり、そこら中に青白い色の鉱石が壁や天井に露出しており、道中を淡く照らしている。
しかし、例外はある。
ダンジョンの内部の全てが、一つの砂漠や氷雪、草原の環境となっていたりする。
そんな環境に適さない装備で探索をすれば、すぐに凍傷などを負う。
このダンジョンは天井は白い鉱石の露出が多いのと、幸いにも普通の探索してもいい洞窟空間となっている。
「今回の目的は魔物のお肉だもんね。さっさとベルセバッファローを狩っちゃおうか」
さて、探そうとヴァルティは言いながら耳を澄ませる。近くにいないかと探ってみる後に。
「少し奥に行けば、5体の魔物がいる。2体の足音は大きいから、ベルセバッファローだよ」
「ヴァルティさん。もしかして、聞こえましたか?」
「うん。足音からして、2体はベルセバッファローだけど、他の3体はわからないかな」
2体はベルセバッファローの可能性が高いとヴァルティは推測する。それを聞いたミールは聞こえたのかと驚く。
「ヴァルティは五感も鋭いのか」
「じゃないとサバイバル生活なんてできなかったからね。私はそれを頼りにしてた」
ヴァルティは強すぎるがために周囲から疎まれてきた。
だから隠れてひっそりと暮らすしかなかったので、五感を鋭くなるしかなかった。
「一応、食事は必須だしね。そこら辺は自力で調達するしかなかったよ」
気楽そうに言いつつだが、その裏にある内容が重いのを知っている幸成は、なんと言っていいかわからなくなる。
そうやって生きてきた以上、サバイバルには慣れているが、その裏には色々とあった。
「とにかく、5体の魔物がいるなら全部倒してしまいましょうか」
「そうだね。乱獲したいから、探しては倒すのを繰り返さないと」
ザンガは話題を変えたかったのか、話を魔物討伐の件に戻すとヴァルティも同じく倒しに行くかと告げて歩き出す。
少し歩けば確かにベルセバッファロー2体がいたのだが、残りの3体は黄色の毛皮の猪のような魔物がいた。
ベルセバッファローほどではないが、その3体の身体も大きい。
「イエローボアですか。突進のスピードだけならベルセバッファロー以上なので、気をつけてください」
その魔物さイエローボアというらしく、ザンガは幸成へと注意を促すと魔物達は幸成達の存在に気付いた。
向こう側は戦闘態勢を取るどころか、幸成達を見るなり5体して突進してくる。
「見るなり一斉に突進してくるの? なら、こうしようか……
幸成とザンガ達はその勢いを見ては恐怖しそうになるが、ヴァルティは怖がらない。
寧ろ、ベルセバッファロー達が接近する前に、自身の影に魔力を込めては広げ始める。
その影を2体のベルセバッファローと、3体のイエローボアが踏んだ途端に足が止まる。
いや、正確には足半分が影の中に沈んだ。
「からの
次はヴァルティの影から細く鋭い針が生え出しては、五体の顎から頭の上まで貫通。
その針を引き抜くと5体の魔物は息絶える。
「……あっという間に5体を仕留めるなんて、凄い」
影針で魔物達を仕留めた光景を目の当たりにした幸成は、そうとしか言えなくなる。
ザンガ達は言葉が出てこない。
「とりあえず、影の中に入れておこうかな」
その幸成とザンガ達をよそにヴァルティは5体の魔物を影の中へしまう後。
「で? イエローボアのお肉は美味しいの?」
イエローボアの肉は美味しいのかを幸成達に問う。
「は、はい。イエローボアの肉はベルセバッファローほどではないですが、十分に食べられます」
「脂もあり、肉の旨味もありです」
「塩と胡椒などで味付けしても美味いですからね」
ザンガ、ミール、ロッソは美味しいと断言する。
それならこれも回収した意味はあったとヴァルティが歩き出す。
幸成とザンガ達も歩くが、途中から道が三つに別れていた。
「3つに分かれてる。なら、魔物が多い道を選んだ方が効率的だね」
「普通なら少ない方を選びますよ!? 多い方をわざわざ選ぶ人はいません!」
途中から3つの道に別れている。
幸成はベルセバッファローを可能な限り狩りたいので、3つのうちどれを選ぶかを考える中、ヴァルティはあっさりと魔物が多い道を選ぼうとする。
それを聞いたザンガが思わずツッコミをした。
「大丈夫。私は強いから」
「それに巻き込まれるのはユキナリ殿と、我々なんですが?」
「えっ? ユキナリは巻き込まれないよ。私が守るから」
「つまり、危なくなったら自力で対処しろと? 無理ですよ! 普通の魔物の群れに突っ込むだけでも危険なのに!」
だが、ヴァルティは幸成だけなら守ると言い切る。
つまりザンガ達は選ぶ道の内容次第では、自力で対処ししないいけないということらしい。
下手をしたら魔物の群れに突っ込むのは無茶とザンガは叫ぶが、ヴァルティからすれば気にする必要はない。
「ヴァルティ。ここは魔物が少ない道を選ぼう。ザンガさん達が怪我でもしたら、ゴルドーさんに申し訳ないから」
ザンガ達もだがゴルドーへの申し訳なさもあって、幸成は少ない方を選ぶべきと提案する。
するとヴァルティから出た言葉は。
「お肉のために来たのに、それだと非効率的だけど? でも、ユキナリが選んだ道を行こっか。そこは任せるよ」
「えっ? わかった。なら、少ない方はどの道かな?」
ヴァルティは幸成の意向を尊重してくれた。
幸成が選ぶ方へと向かう意思表示をすると、幸成もどの道が一番少ない方を選ぼうとし始める。
「聞こえてくる音からして左は20体くらいはいるね。次に少ないのが右。その右は15体」
「ヴァルティが選ぼうとしてた真ん中の道はどのくらい?」
「50体。その道は多い方だから、私はユキナリに合わせるよ」
「なら、右の道にしよう。その方がまだいい気がするから」
「わかった。そっちにしよっか」
ヴァルティは魔物の気配と音を拾っている。
幸成の選んだ道を尊重してくれたので、幸成は右の道を選んだ。その方がまだ魔物も少ない。
右の道を選んだ幸成達は進む。
途中で2体のベルセバッファローを見かけたヴァルティが本当に宣言通り、頭をかち割って倒したりした。
「幸いにも一気に来ることはないな?」
「ユキナリ殿に感謝します。もし50体もいる道に行くことになったら、俺達は絶対に最低でも怪我を負ってたと断言できますから」
「怪我の治療は回復魔法があればある程度は平気でしょ」
「限度がありますから。ヴァルティさんの場合は参考になりませんよ」
道を選んでから20分ほど進んでは倒すを続ける中で幸成に感謝するザンガとロッソだが、ヴァルティは回復魔法があれば平気と口にする。
ザンガからすればそういう問題ではないと言い返す中、途中から右へ曲がる道を見つけた。
「ヴァルティ。その道の先には何があるの?」
「魔物の数は……ごめん、わからない。数が多すぎるのか、音が多すぎて数が数えられない」
某ゲームのモンスターハウスかもしれない。
そう幸成が内心で思った時に、ヴァルティは申し訳なさそうに首を横に振る。
あまりにも魔物の数が多く、音を拾いすぎた結果として数えられない。
「それは恐らく群生部屋、ですね。この先からは転移トラップがどこかにあるかもしれません」
「トラップを踏んだら群生部屋の中へ強制的に移動されられるから、転移トラップが潜んでいる可能性が高くなりますね」
ザンガとロッソは、この先のどこかには転移トラップがあると告げてくる。
なら、右へ曲がる道を避けたとしてもどこかで転移トラップを踏んで、群生部屋へ飛ばされるリスクがある。
転移トラップは探っても見つからないことが多いとのことなので、どうすればいいのかと考えた幸成は。
「一旦、引き返そう。群生部屋に行かされるよりはマシだから」
「それがいいかもしれませんね。危険は避けた方が無難ですから」
引き返すことを決めた。ロッソも同意をすると引き返す。
引き返しては元の3つに別れた場所まで戻る後に。
「次は左か真ん中。どちらかの道となりますが、どうしましょうか? もし、真ん中の道の先に開けた空間があったら、50体の魔物を相手取ることになりかねません」
ミールは真ん中はやめた方がいいと幸成に告げる。
「でも、あの時に左へ行っていたら魔物の数は20体ですよね?」
「ヴァルティさんの五感を信じるなら、そうなりますね」
ヴァルティは50体の魔物がいると判断した。
最初に選ぼうとした左の道の先もそうならば、20体ほどの魔物を相手取る方が楽かもしれない。
「なら、左の道を選んだ方がまだマシです。左へ行きましょう」
「ですね。我々とユキナリ殿はヴァルティさんのように強くはありませんので、ここは安全を優先に動いた方がいいでしょう。ヴァルティさん、左の道へ向かいましょう」
幸成が左の道を選んだので、ザンガも同意して魔物の数が少ない道へ向かうことを決めた。
ヴァルティも特に何も言わないので左へ進んでみる。
しかし、進み始めたミールの足が地面を踏みしめた途端に周辺が光を帯びる。
「しまった!?」
「なんでこんな所に転移トラップがあるんだよ!!」
ミールが転移トラップを踏んでしまう。
普通なら群生部屋を避けて通り過ぎた以降の道に設置されているはずのに、こんな場所にもあったことにロッソは叫ぶが遅い。
5人が光に包まれると景色が変わる。
石造りの高い天井と壁に覆われた、広い空間の中央にいた。
その空間の中には当然だが、ベルセバッファローとイエローボア、巨大な馬のような魔物のタイラホースが多数いた。
3種類の魔物の頭数を合わせれば、最低でも200体以上はいる。
明らかに多すぎる魔物の数に幸成達は顔を青ざめさせる。
「そこの兵士。確かミール、とか言ったよね? 後で殴るから」
「なんで俺が悪いことになってるんですか!? いや、悪いのはそうですけど!!」
ヴァルティから殴られる対象にされたミールは文句を言う。
ただ、悪いのは自分であるのも理解している。
そんな会話の中、3種の魔物達は幸成達を外敵として認識したのか、一斉に襲いかかってきた。
「くっ!? 今はユキナリ殿を守るぞ!!」
「そうだな! ユキナリ殿に何かあったら、それこそヴァルティさんに俺とロッソまで殴られかねない!!」
「絶対に死ぬなよ!!」
ザンガ、ミール、ロッソの3人は必死に槍を構えて、ベルセバッファローの群れを迎え撃つ。
しかし、数が多い上に突進の威力は半端ではない。
「これでも食らえ!」
そこで幸成は自分達の周囲の地面に土魔法と水魔法を掛け合わせて、あることをした。
それは泥沼化して魔物達の足を沈ませること。
泥沼化でベルセバッファローとイエローボア、タイラホースが足を沈めて動きが鈍くなると、その隙にザンガ達は槍で攻撃していく。
「ユキナリ殿! 助力ありがとうございます! お陰で数を減らしやすくなりました!」
「どういたしまして!」
ミールが幸成の助力に礼を言ってから突き刺し、倒れたベルセバッファローの身体を踏んで上から別のベルセバッファロー達を突き刺す。
そのやり方に倣って、ザンガとロッソも次々と倒していくが、魔物の数は多いままだ。
「ヴァルティは大丈夫かな?」
魔物達の数は多い。
幸成は泥沼化で少しでも足止めをしつつ、ヴァルティの心配をする中。
「それ!」
ヴァルティはタイラホース一体を上へと殴り飛ばした後、風を纏わせた右手を振るう。
振るわれると風は複数の刃となり飛んで、タイラホースの大きな身体はバラバラに切り裂かれ、大量の鮮血が舞う。
「……
その鮮血は今、ヴァルティの魔力で操作された。
ヴァルティの血雨という言葉と同時、魔力の込められた鮮血は魔物達に向けて降りかかる。
「「「ギュワァァァァァァッ!!?」」」
「「「ガギャアァァァァァァッ!!?」」」
「「「ビヒィイィィィィィィィッ!!?」」」
血雨は正確に頭と心臓を貫いていく。
少しの時間が経ち、血雨が止む頃には全ての魔物達は絶命して倒れ込んでいた。
「……あれを真似するのは無理」
その光景を見ていた幸成は、ヴァルティのやり方は真似できないと心の中で思う。
数が多いからといって、ここまで無慈悲に鮮血の雨を降らせて魔物達を屠っていくのはできない。
そう思う矢先、生き残っていた最後のイエローボア1体が幸成へ目掛けて突進する。
「ユキナリ殿ぉっ!」
突進を目にしたロッソが叫んだ。
幸成は咄嗟に避けることができない。
このままイエローボアの突進が、幸成を跳ね飛ばすと思った時にヴァルティが風魔法で加速しながら走る。
「させるか!!」
幸成の前へと出ると迫るイエローボアの頭を左手で掴み、頭蓋骨ごと握り潰して絶命させる。
「ふう。……ユキナリ、大丈夫?」
「な、なんとかね。でも、ヴァルティは大丈夫? かなり消費しそうな大技に見えたけど……」
握り潰したイエローボアを影へとしまう後、ヴァルティは心配そうに幸成へ問いかける。
幸成はなんとかと返し、血雨を使ったヴァルティを心配していると、ヴァルティは幸成へ両腕を伸ばして抱きしめた。
「……ヴァルティ?」
「ごめん。今はユキナリを抱きしめていたくなった」
抱きしめられた幸成は、ヴァルティに問う。
ヴァルティは戦いが終わってすぐの余韻で、幸成に抱きしめてほしくなったと返す。
「ユキナリが危険な目に遭いそうになった時にね、心臓が潰れそうな感覚がした。ユキナリをまた失いそうになったと思ったから……だから、ユキナリを抱きしめたくなった」
抱きしめながらヴァルティは理由を話す。理由を聞いた幸成は今だけはと抱きしめるヴァルティの身体を抱き返す。
「俺は死んだりしないよ」
「ユキナリがそう思ってても、そうならない可能性もある。不慮な状況はいつか起こるかもから」
「なら、できる限りは無茶をしないようにするよ」
できる限りは無茶をしない。
そう決めてから4分後、幸成とヴァルティは抱擁を終えて離れる。
その後、ヴァルティはミールへと顔ごと視線を向けるなり。
「はい、ミール。殴るから歯を食いしばって」
右手を握ってはミールを殴ろうと構える。
「えっ? ちょっ!? 俺、さっきまで頑張って魔物達を相手取ってましたよね? ユキナリ殿を守ろうとしてましたよね!?」
「貴方が転移トラップを踏まなかったら、こんなことにならなかったから殴る」
「そんなことされたら、俺が死んでしまいます!?」
「大丈夫。手加減は一応してあげる」
ヴァルティの行動理由を聞いてミールは顔を青ざめさせ、ロッソは「あーあ」と言いたげな目を向けていて、ザンガも同じ目を向けている。
「ユキナリ。ミールは殴るべきだよね? というか、止めても殴るから」
「……ミールさん、無事を祈ります。なんとか耐えてください」
「ユキナリ殿も酷い!? 俺を殴るのは酷くないですか!?」
「ユキナリに何かあったら、貴方を殺してたところ。ユキナリを危険な目に晒したことに関して、貴方に責任があるんだよ?」
ヴァルティは厳しい。
手加減は一応するが、それでも怒りがある。
「というわけで、殴る」
「ぼぉっ!?!」
そうしてミールの腹部にヴァルティの右拳がめり込むと、ミールは吹っ飛ばされて壁にぶつかってから地面に倒れる。
気絶はせずに済んだミールだが、腹部を押さえては蹲ってしまう。
殴られた箇所は青黒く変色してしまっている。
「さて、倒した魔物は影にしまっておこうか」
ミールの様子をチラリと見ながらヴァルティは、倒した魔物達を影にしまっておこうとする。
ザンガとロッソも今は影にしまう中、幸成はミールの元へと駆け寄り回復魔法による治療を行う。
「すみません、ミールさん。でも、さっきのヴァルティを止めるのは難しいです」
「い、痛い……鍛えてるのも含めてなかったら、絶対に気絶してた……」
ミールの腹部に回復魔法による緑色の光を当てる後、幸成は難しいと言い訳をしつつ治療を行う。
思っていたよりはまだ軽傷だと理解しながらも、さっきのヴァルティは怖かったと幸成は思えてしまう。
最悪のことになっていたら、ミールは本当に殺されていた。
それぐらいの怒りだった。
治療してから他の魔物達も影の中にしまうと、群生部屋の隅に上へと続く階段が見えた。
ここを登り引き返していけば無事に帰ることが叶う。
「まあ、ミール。今はこう考えるんだ。大量の肉が手に入るから助かる、とな」
引き返し移動しながらザンガは慰めようとする。
実際、倒した魔物の数は多いため、ザンガ達は大量のベルセバッファローとイエローボア、タイラホースの肉を得られたのだからと。
「タイラホースの肉もなかなかの美味だからな。それも手に入り、食料の心配が減ると思えばいいさ。な?」
「まあ、そう考えるしかないか」
ロッソも慰めながら話している中、ヴァルティは幸成へと顔を向けてから右手を、幸成の左手を恋人繋ぎの形で握る。
「うん。温かい。生きてる」
「ヴァルティ、その、歩きにくいから離してほしいな?」
「まだ離さない。まだこうしてたい」
幸成の手の温もりを求めるヴァルティに幸成は歩きにくいと指摘しても、ヴァルティはまだ離さない。
その態度に幸成は『仕方ないか』と歩きにくさを堪える。
「なんだか、凄く怖い戦いの直後とは思えない光景だな?」
「ヴァルティさんの事情は知らないが、ユキナリ殿のことを大切に想っているのは確かだろう。だからこそ、ミールは殴られたんだな」
「だな。下手したら俺も殴られていたかもしれんし。ミールが代表して殴られてくれたと思えば、仕方ないか」
「その殴られた衝撃と痛みが半端じゃなかったんだけど? 手加減されてなかったら、今頃の俺は死体だったんだけど?」
ヴァルティと幸成の様子を見たザンガとロッソは、ヴァルティが幸成を想っているからミールを殴ったのだと思う。
幸いにも殴られたのはミールだけだったので、ザンガとロッソはまだ良かったと言えた。
殴られたミール本人はまだ痛む腹部を擦りながら、殴られた時の衝撃と痛みを思い出す。
そう思い返しながらダンジョンの入口まで戻ると、その先にある光景は。
「俺が倒したイエローボアの方がデカい!」
「いやいや、俺の方だぞ!」
「なんだと!? このイエローボアの大きさがわかってないのか!」
「そっちこそわかってるのか!」
入り口前にはまだ多くの者達が陣取っている。
目的はダンジョンでの魔物狩りからの食肉調達なのに、倒して運んできたイエローボアの大きさ比べをして言い争っていた。