病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
「何を言ってるんだか。同じような大きさだぞ?」
「そうですね。あれぐらいの差では、どっちも同じイエローボアですよ」
ザンガとロッソはまるで背比べをしている子供を見ている気分になる。
2人が持ってきてるイエローボアの大きさは、大体同じぐらいだ小さく呟くと。
「なんだと? さっきダンジョンから出てきた割には何も運んできてない奴は黙ってろ!」
「そうだ! 何も持ってない奴に言われたくない!」
その小さな呟きを耳にした2人はザンガとロッソへと睨みをきかせる。
しかし、うるさいと感じたヴァルティは自身の影から巨大なイエローボアの死骸を取り出し、地面に叩きつける。
「このイエローボアと比べたら、貴方達が持ってきたイエローボアの大きさの差は同じだと思うけど?」
突然叩きつけられた巨大なイエローボアに場が静まり返り、叩きつけた張本人は2人が持ってきたイエローボアと比べたら同じだと言ってきたことに唖然としてしまう。
「ヴァルティ? なんでそこで取り出したの?」
「うるさかったから黙らせたくなった」
何故に取り出したのかと幸成は問うと、ヴァルティはうるさかったからと答える。
ザンガとロッソもミールも呆気に取られている中、2人は顔を真っ赤にさせてしまう。
恥をかかされた。
そう感じた2人は、巨大なイエローボアをこの場に出してきたヴァルティに怒りを覚える。
「うるさいってなんだよ! 女に言われる筋合いはない!!」
1人が怒りに任せ、ヴァルティに殴りかかってきた時。
「何してるんだ!? ヴァルティさんに手を出すな!」
ザンガが殴りかかってきた男の腕を掴んだ。
「この人は魔物の氾濫の時に暴れまくってたんだ! 迂闊に手を出せば下手したら殴り殺されるぞ!?」
集まっていた他の者の1人からも忠告が飛ぶ。
すると男は忠告を聞いて殴ろうとした手を引っ込める。
その際にヴァルティに睨みを利かせるが、ヴァルティに睨み返されると男は途端に腰を抜かしてしまう。
「ひ、ひい、ぃ……!?」
ヴァルティからすれば軽く敵意をぶつけた程度でしかないが、それだけでも腰を抜かすほどの怖さを男は感じ取ってしまった。
ヴァルティに殺されかねない。
そう思わされた。
「ヴァルティ。誰かを怖がらせたら駄目だから」
「だって、うるさかったんだもの。でも、ユキナリがそう言うなら手を出さない」
腰を抜かす男を見た幸成はヴァルティを窘めると、ヴァルティは渋々ながらも頷く。
それを見た集まる者達は、ヴァルティもだが幸成は何者なのだろうかと疑問を感じていた。
ヴァルティがここまで大人しく幸成に従うのは何故かと。
「さて、まさかのトラブル続きだったから疲れました。なので、テンペウ国に帰りましょう」
「そうですね。危険なことがありましたが無事に済んだので、帰って休みましょう」
そのヴァルティに助けられた形となっているザンガとロッソは、テンペウ国へ帰ろうと促した後に帰路を辿り始める。
ミールと幸成、ヴァルティも続く形で背中を向けて去り行く中。
「あれは一体、なんなんだ?」
「さあ、な。ただ、とんでもない女なのは確かだ」
残された者達はヴァルティがなんなのかと思うしかなかった。
幸成達がテンペウ国に辿り着いてみれば、崩れていた民家などは既に綺麗に撤去されていて、後は基礎工事からの建て直しが行われていた。
「予想外に撤去作業が終わったな。これもルアン殿のお陰だ」
「私のゴーレム達なら、この程度のことは簡単よ」
その立て直しを眺めるゴルドーは予想外なほどに速く崩れた民家の撤去作業が終わったことに驚く。
その理由は、ルアンのゴーレム達にある。
更にルアンは、人型のゴーレムを使って民家の土台作りを手伝っていることにも、ゴルドーは感謝している。
「この大規模作業が簡単なことと言われてしまうとはな」
感謝しているが同時にルアンが怖いとも思える。
今こそ後始末をしてくれているがダンジョンを発破したり、土台作りのための穴掘りをゴーレム達にさせたりと、他のことでも力業を披露されている。
ルアンがもしも、敵側の存在だったらどうなっていたかを考えると、ゴルドーの背筋が震えそうになっていた。
「ゴルドーさん、ただいま戻りました」
「ユキナリ殿は無事です」
「トラブルはありましたが問題なく終わりました」
そのゴルドーの後ろからザンガ、ロッソ、ミールが帰ったことを報告してくる。更に後ろから幸成とヴァルティも来たとゴルドーが気付くと。
「3人共にご苦労。……さて、ユキナリにヴァルティ殿。お疲れ様の前に、手に入れた魔物を出してもらっていいか?」
「わかりました。ただ、数が結構ありまして」
「数がある? まさかとは思うが、群生部屋に自ら向かったのか?」
「実はですね……」
ゴルドーは労いの言葉を3人にかけた後、幸成達から魔物の肉を出してほしいと頼むが、聞いた幸成は数が多いと答えるしかない。
それを聞くなり群生部屋に行ったのかと聞くゴルドーにザンガが生部屋に向かった経緯を話す。
「なるほどな。ミールが転移トラップを踏んだか」
「本当に申し訳ございません。ですが、あの位置に転移トラップがあること自体が間違っています」
「確かにそうだ。災難だったが、その前に、そこはなぜかを後で調べとく必要はあるかもしれん」
「ありがたいです」
謝罪するミールに転移トラップの位置はおかしかったとゴルドーは返し、何故そこにあったのかを後で調べることにした。
そうしないと被害が拡大するかもしれない。
「ふぅん。結果的にユキナリくんが危険な目に遭いかけたと……話の内容からして、ダンジョン側には悪意があるとも言えるわね?」
話を聞いていたルアンは、ダンジョンには悪意があると思えた。
不意または油断を誘わせることで、幸成達を狩ろうとしていたのではと考える。
「ルアンさんの言う通りかもしれません。転移トラップを踏ませるためだったとも考えられます」
「確かにそうかもしれないわね。ユキナリくんに怪我がなかったことが救いだわ」
「そうだな。幸いにも怪我はなく、肉を大量に持ってこれたのなら儲けものだ」
「ミールだけが痛い目に遭ったけどな」
「お陰で、ユキナリ殿に治療をされても、まだ腹が痛いです……」
ミールはルアンの言葉には一理あると考え、ゴルドーも同じく。
ロッソは被害に遭ったのはミールだけと指摘すれば、当のミールは治療されたとはいえ腹部の痛みはまだ引いていない。
「ヴァルティ。怒るならまだしも、殴るのはやりすぎじゃないかしら? 手加減を間違えていたら、彼のお腹が吹き飛ぶか抉れていたのよ?」
ヴァルティがミールを殴ったことを聞いたルアンは、やりすぎだと言いたくなる。
もしこれでミールが亡くなるなんてことになれば、幸成がどう思ってしまうかと気にする。
「うっ。それはそうだけど……ユキナリが危険になったから、つい」
「ユキナリくんを想う気持ちも大事だけど、殴られた彼の気持ちも少しは考えなさい。今回は罠に嵌められたようなものとしか言えないし、彼は反省をしているのだから」
「ルアン殿の言う通りだな。ユキナリを想う気持ちは理解するとして、部下のミールがそんな理由で死ぬのは俺は嫌だ」
ルアンもだがゴルドーもヴァルティに言うが、ヴァルティは渋々頷くだけ。
確かにやりすぎかもしれないと思っていても、幸成が危険な目に遭いかけた切欠のミールが悪いと考えている。
「それで、群生部屋に入る羽目になった戦果はどうなったんだ?」
「ベルセバッファロー、イエローボア、タイラホースの3種を合わせると合計で240体はあります」
「240体か。それだけの肉の量があれば、しばらくは食料には困らんぞ」
そのヴァルティはさて置き、ロッソがゴルドーへ成果の報告をすると、ゴルドーは顔を綻ばせる。
240体ともなればテンペウ国の住人達にも、十分に行き渡らせることができると考えた。
「ベルセバッファロー達はどこに出せばいいんですか?」
「それなら民間に出す一部は、冒険者……今はダンジョン破壊者ギルド内の解体場に出しておけばいい。後はギルドの職員に任せよう」
「わかりました。では、そこに渡しに行きますね」
場所を決めてから幸成達は、影から獲ってきた魔物達を渡しに行くために以前は冒険者ギルドだった建物へと向かう。
その際、破壊者ギルドと呼ばれたことに幸成は。
「前は冒険者ギルドだった、か。……本当に危険な状況なんだな。この世界は」
幸成達が召喚される前に名称を変えざるを得ないほどのことがあったのだと察しては、改めてこの世界は危険なのだと知る。
テンペウ国だけでなくこの世界そのものが、滅びかけるほどの出来事があるようなものだと。
「ユキナリ、大丈夫だよ。そこまで気になるならユキナリが元の世界に帰る前に、さっさとダンジョン達を破壊しちゃえばいいんだから」
「それはそう簡単なことだとは、まるで思えないけどね。あの時に魔物が氾濫してきたから、ヴァルティもだけどブリュテもルアンが来るまで大暴れしたみたいだし」
ヴァルティは心配ないと幸成に言うが、魔物の氾濫があったことを知った上で、幸成は本当に簡単なことなのかと疑問に思う。
「だから氾濫してくる前に壊す。それでいいじゃない」
「まあ、そうすれば危険は減るかもしれないけど……」
ヴァルティは氾濫してくる前に破壊すればいいと言い切れば、幸成は『それもそうかも』と返しながら向かってみれば、ダンジョン破壊者ギルド内は野戦病院となっていた。
ただ、そこには回復魔法を使える者もいるからなのか、幸成達が見た限りでは死者はいない。
「仕方ないけど、戦闘の後みたいだ……」
「そのようね。どうやら戦闘経験が乏しい人が怪我したみたいだけど仕方ないよ」
怪我の理由を考察しながら幸成とヴァルティは、ダンジョン破壊者ギルド内の解体場に魔物達を出すため、先にギルドの受付嬢と話をしているザンガ達の元へ向かう。
「はい? 転移トラップを踏んだ? 群生部屋から生き延びた?」
「えぇ。普通ならまず死ぬところなのですが、ヴァルティさんのお陰で無事に帰ってこれました。その戦果を解体場に出してもよろしいでしょうか?」
話すザンガの内容を聞いた受付嬢は目を丸くして驚いていた。
ミールが転移トラップを踏んでしまった結果、群生部屋に入ってしまい、その結果として魔物240体を狩ってきたと聞かされれば、驚くのも無理はない。
「その魔物達の種類は?」
「ベルセバッファロー、イエローボア、タイラホースです。どれも肉としてはなかなかの極上ものです」
「それなら是非ともお願いします! その量ですと解体場がかなり狭く感じることになりますので、少しずつ順を追って出してください!」
ロッソも説明に入り、魔物達の種類と肉の質が上等なことを教えると、受付嬢は喜びながらお願いをすると解体場の者を呼んできてから、案内された幸成達は順番に解体場に出していくこととなる。
「何体くらい出せば民間人達に行き渡るの? ユキナリが食べる分だけは確実に残したいから、それは出さないからね」
「えっと……群生部屋にいた1体ずつがかなり巨体なのもありますので、今は140体分はあればしばらくは困らないと予想されます」
ヴァルティは幸成が食べる分だけは確保したいと解体する者達に言ってから、順番に影から魔物達を出す。
幸成、ザンガ、ロッソ、ミールも2体ずつ順番に出していっては解体者達が1体ずつ順番に解体していくのを繰り返す。
量があるので時間はかかるが、それでもこの量はありがたいと解体者は感じていた。
テンペウ国内は食糧難の状態で、昨日は氾濫が起きて大混乱も起こった。
「これは助かるな。炊き出しの者達も喜ぶことだろう」
「子供も含めて飢えさせるわけにはいかなかったらな!」
今日はブリュテのお陰もあり大量の作物が手に入るとは予想していたが、ここで140体分の肉が手に入ると、解体者達は気合いを入れた。
「残り100体分は今はここで全部解体してもらい、ユキナリ殿達や我々兵士と騎士達、ゴルドーさん達、最後に王様と保存用に確保したいのですが?」
「流石に100体分も解体するには時間が足りませんので、それは後日になります」
残り100体の扱いは、ザンガが誰に優先して分けるかを言えば受付嬢は、後日また来てから解体してもらうことになると話す。
「そうですか。なら、明日にまた来てから残り100体分の解体を頼みに来ますね」
「はい。お待ちしております」
受付嬢は頷いて返答をする。
その後、解体が終わるのを待ってから幸成達はギルドを後にするが、その頃には空が夕焼けに染まり始めていた。
「もう夕方か。時間が経つのは早いな」
「今日は色々ありすぎた……」
「そうだな。でも、ダンジョンから魔物のお肉を大量に持ち帰れたことは大きい」
ザンガとミールは色々ありすぎたと呟けば、ロッソが魔物を大量に持ち帰れたことを大きいと話す。
確かにテンペウ国にとって大きな利益のあることには変わりないが、その反動でミールは腹部を殴られたが。
「試食用として解体してもらったお肉。これはユキナリと私達用だね。まだ味見したことないから、どんな味か楽しみだよ」
それはさて置き、ヴァルティは解体してもらったお肉を手に入れている。ベルセバッファローとイエローボアとタイラホースの肉を試食する分として、少量だけの塊肉を受け取っている。
この3種の肉の味見をしてから、後にどうしてもらうかを決めようと思っている。
「ザンガさん達は美味しいと言ってたけど、俺達は食べたことがないから気になるかな?」
「一度、ユキナリはこの世界の魔物肉を食べていった方がいいかもだよね。食べ損ねたまま元の世界に帰ると、二度と食べられない可能性があるし」
幸成としてはクラスメイト達にも食べさせてみたいところだ。
ザンガ達は美味しいと言っているが、実際に食べてからじゃないとわからない。
「ユキナリ殿。王都の店ではベルセバッファローとイエローボア、タイラホースの肉を使った料理はありますよ。ですが、基本的に高級扱いなので主に最低でも貴族に売られています」
「どうしてそんなに高級なんですか?」
「肉の品質と味がいいと認められ、取れる肉の量が限られているからですね。そもそも魔物の肉を取りに行くこと自体が命懸け。需要が高くても供給が追い付かないことから、高級品となっているのです」
そうなる理由をザンガが説明すれば、なるほどと幸成は納得した。
ただ、魔物が増える原因になっているダンジョン達を破壊したら、下手をすると二度と食べられなくなる可能性が高い。
「まあ、今回に限れば民達もですがユキナリ殿達も食べれますので、どうぞ楽しんでください」
そんなことは今はおいて、ザンガは幸成に楽しんでほしいと告げる後に王城へと向かう。
そこからザンガ達3人と別れ、城内の食堂まで向かってみれば、復興活動の手伝いをしていた笹原達が重い疲労を抱えた様子。
幸成が見る限りだと近くの4人の女子はテーブルに突っ伏して、5人の男子は床に寝転ぶ状態だった。
残りは眠たげ、床に座り込む、頭が回りにくい状態。
「よ、よお、山本。……お前は、少なくとも、身体は元気そうだな?」
近くにいた新田がテーブルに突っ伏しながら、幸成に聞いてくる。
新田も、かなりの重い疲労を持っているのが幸成にもわかる。
「そうかな? ……うん。今日は俺の方も大変だったけど、新田達の方が体力的に大変だったんだろうなと、察せられる」
「主にルアンさんとゴーレム達のお陰で、少なくとも撤去の方は終わった……後の再建は、大工さん達がやるとよ……」
幸成も大変だったが、体力的には新田や笹原達の方が大変だったと察する。
新田は大工達による再建だけが残ったとだけ、息を荒くしながらも幸成に話す。
「お陰でバテちまったから、今日の夕飯がまともに食えるかが、心配だ……」
「新田達の様子からして、確かにちゃんと食べれそうにないかも……お粥とかの方がいいかな?」
「脂があるのは無理そうだから、その方がいい……」
新田もだが、遠目から見ると奈々と笹原達もまた、まともに食べられるかは怪しく見える。
なので今だけは、粥などの消化に良さそうなものの方がいいかもしれない。
「料理人の人達にこのことを伝えてこようか?」
「だ、大丈夫だ。そこは少し前に笹原が身体に鞭打って、料理人の人達に頼みに行ったから……」
「その笹原は疲労困憊で、今にも眠りそうに見えるけど?」
そう思いついた幸成は料理人に伝えに行こうかと聞くと、新田は笹原が行ってくれたと話す。
しかし、肝心の笹原は頭がフラフラとしていて眠たげにしている。
「……山本。今日は何をしてきたかは知らないが、無事そうでなによりだ」
その笹原が幸成に気づくと、無事そうだと安堵の言葉をかけてくる。
その声からは弱々しさが混ざっている。
「俺達の方は見ての通り、だ。みんなして疲労困憊と言える……」
「そりゃあ、あんな重い石材や瓦礫の山を何十回も運べば、そうなる……俺達も鍛えてもらってなかったら、今頃は喋るのもできなくなってた……」
笹原の後に、反町も会話に入る。
彼らが行った活動の内容からして重い物を何度も持ち運ぶとなると、疲労困憊にさせるには十分すぎる。
「だからお粥にしてほしいと、笹原が頼んでくれた。ただ、料理人達はまだ米の調理方法の全てを知ってるわけじゃないから、麦粥を作ると、言ってたな……それで、山本の方はどうだったんだ?」
「俺達の方は魔物の肉が大量に手に入った。しかも、美味しい高級肉らしいんだけど……」
「今だけは肉関連の話は、無しだ。普段なら食べると言いたいところだが、今は絶対に食べたくない……」
「そう、だな。想像するだけで、胃がもたれそう……」
反町が幸成の方はどうだったのかと聞けば、手に入った肉のことを話すが、肉関連の話は無しと、笹原と反町に言われてしまう。
今は本当に疲労が重すぎる。
「ユキナリ、そろそろ試食用のお肉を焼きたいんだけど」
「やめて、ヴァルティ。それを今やれば、ある意味でテロ行為になる」
「なんで、の前にてろ行為って何?」
「自分の主張または願望を国などに強要する行為のこと。今だとヴァルティが肉を焼いたら、クラスメイト達が大変なことになるから」
その状況の中、ヴァルティは幸成に試食用の肉を焼こうと告げるが、幸成はすぐに止める。
こんな状況で肉を焼いたら、今の笹原達には辛いことだからと。
実際、笹原達が肉を焼きたいと聞くなり、幸成に『なんとかして!!』とばかりの懇願の目を向けていた。
「そっか。なら、明日に焼こう。その時は私もユキナリと一緒にお米も食べたい」
「みんなは、その明日にも響く疲労状態だから、せめて夕飯時にしてほしいと思う」
「わかった」
明日のクラスメイト達も大丈夫とは思えないので、明日の夕食の時にと頼む幸成にヴァルティは頷く。
本当に幸成に対してだけは素直で聞き分けがいいなと、笹原達は心の中で思う。
「今日の夕食をお持ちしました」
そういった会話の後、料理人達が作った麦粥がクラスメイト達の前に置かれる。
置かれるなり笹原達は、ゆっくりと食欲旺盛とはいかないながらも食べ始める。
「うえっ……」
その最中、鈴原が吐くまではいかないが、喉から嗚咽が漏れる。
鈴原だけはなく、他の者もだが重い疲労と眠気が妨害をしてくるので、食べるのに苦労している。
「ただいま戻りました……やはり、みなさんはあまり美味しく食することはできないようですね」
「そうもなるわ。重労働なのだったから」
そこへブリュテが食堂へ入ってくると、笹原達の様子から察する。
ルアンも同じく入りながら、仕方ないと言わんばかりの言葉をかける。
「ところでヴァルティ。ゴルドーさんから後で聞いたのですが、大量の食料を手に入れたようですね」
「うん。おに……」
「今はその単語を出すのはやめなさい」
つい先程までのブリュテは畑で作物の急速成長をさせる作業をしていたので、後からゴルドーに聞いたと言う。
その際、ヴァルティが『お肉』と答えようとしたのでルアンが遮り止める。
「今はみんなが弱ってるから、余計にそれの話はやめなさい」
「そうだった。ごめん」
「後日なら別に構わないわよ。今だけは無理」
「なら、明日の夕食の時で」
「それでお願いね。私も美味しいお肉を食べたいから」
危うく聞かされるところだった笹原達は、ルアンに内心で感謝をする。
その後に夕食を終えるなり、クラスメイト達は即座に自室へと身体をふらつかせながら戻る。
今はゆっくりと寝て休みたかった。
「それじゃあ、俺達も自室に戻ろう」
その笹原達を見送った後、幸成も自室に戻るべく立ち上がり食堂から出ようとする。
その際にヴァルティはルアンに対して。
「ところでルアン。ルアンはどんな感じでユキナリの元にいるわけ? ユキナリは私とブリュテの過去話は聞いたけど、ルアンのは多分まだだよね?」
ルアンの過去の内容を幸成に話したのかと、疑問をぶつける。
その質問にルアンは。
「……夢の形で、既に見せておいたわ。直接に説明したくない内容もあるから、そういう形で教えたのよ」
既に見せたと話した。
「夢の形で? なんで?」
言葉で説明したくない理由を、ヴァルティが聞くと。
「それを話せば長くなるから、部屋に着いてから話すわよ。……この内容は、本来はユキナリくん以外の者達には教える予定がなかったのだけど」
長くなるからと部屋に着いてから話すと告げたルアンは、自室へと着く後に深い溜息をしてから。
「残酷な内容だから、特にヴァルティには知られたくない。もしかしなくても、かなり怒るか殺意を抱く内容だから」
「そこまで不穏な内容だったの?」
「ええ」
ルアンが酷く深い溜息をした理由を聞いた幸成は、確かに夢の形で知ったとはいえ、かなり酷かったと思う。
ヴァルティは首を傾げ、ブリュテも不思議そうにする中。
「まずは最終的な末路から言うわ。ユキナリくんは、ユキナリくんと出会う以前は私の婚約者だった馬鹿男に殺された。しかも、バラバラにされたのよ。動機はユキナリくんに対する嫉妬と逆恨み」
「……!!」
ルアンがいた元の世界では、幸成がバラバラにされたと話す。
その内容を聞いたヴァルティは驚きと、怒りを露わにした。
そんなことをした元婚約者に、怒りが湧き上がる。
「……元婚約者? つまり、ルアンは元は貴族の生まれなのですか?」
ブリュテも一瞬は言葉を失ったが、ルアンの内容に違和感を覚え始める。
今の言葉からして、ルアンは元貴族の生まれではと考えながらも、湧き上がる怒りと悲しみを必死に抑えた。
「ええ。最初に名乗ったように私の名前はルアン……フルネームにするとルアン・フォン・バラディア。元の世界では魔法研究に携わる風変わりのバラディア家の貴族令嬢だった」
ブリュテの問いにルアンは肯定する。
風変わりな貴族令嬢として名を馳せていたが、それはあくまでも魔法研究に熱心だったから。
特にゴーレムの研究と制作を主にしていて、貴族の生まれの3女ということもあり、自由な研究ができていた。
「バラディア家は、主に様々な魔法研究に熱心な貴族家。特に魔法によるゴーレム研究に力を入れていた。私はその家の出身よ。家族構成についてはユキナリくんは関係してないから省くとして、私には元婚約者がいたの。ユキナリくんを殺した男がいた」
「名前はなんだったの?」
「名前はルジア・ツー・カルーグ。ユキナリくん曰く元の世界だと、典型的な貴族のボンボンのような性格をした男」
ルジア・カルーグ。
それがルアンの元婚約者の名前。
幸成がいた世界だと、典型的な悪役そうな貴族だった。