病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
「むう。肉じゃがのことでユキナリをあんなに喜ばせるなんて。……あの女はもしかして、ユキナリを狙ってるとか?」
「いえ、あれは違います。単に食べたいものが食べられる可能性が出たことに歓喜しているだけかと」
クラスメイト達が口にしていく中、ヴァルティは佐伯が幸成を喜ばせたことに、嫉妬めいた様子を見せる。
ブリュテは違うと、ヴァルティを宥めるように伝えた。
「ユキナリくんはお母様の肉じゃがが好きみたいね。……食べてみたいわ」
「そこは同感。ユキナリは死に際に食べたいと口にしたから」
「ヴァルティの方のユキナリくんも、そんなことを言ってたのね?」
それらを見ながらルアンは、幸成の好物に興味を示す。
ヴァルティは、ヴァルティの方の幸成も同じく食べたいと言っていたと話せば、ルアンは納得した。
「私も食べてみたいです。ユキナリの母の肉じゃが」
「ところで肉じゃがって、どういった料理なのかしら?」
「かなり簡単に言うと芋とタマネギとお肉の煮物。ただ、しょうゆとかいう調味料がないから、今はまだ作れそうにないけど」
「醤油も味噌と同じく、魔法で時短する形で製作してもらっている途中なので、今は無理ですね」
ブリュテも肉じゃがに興味を持てば、ルアンは作り方を聞こうとするが、ヴァルティはまだよく知らないのもあり、かなり簡単に説明。
調味料がないので今は作れないと教えれば、ブリュテは醤油も味噌と同じく時短する形で制作を頼んでいる最中だと言う。
「それは残念。可能なら、すぐに作り方を知って作ってみたかったのに」
「ルアン? 抜けがけする気?」
「その意図の前に、ユキナリくんが好む料理の作り方を知って損はないからよ」
そう聞けばルアンは残念そうにしたら、ヴァルティはルアンが抜け駆けする気なのではと、睨むような目付きをする。
それに動じないルアンは、単に幸成が好む料理の作り方を知りたいからだと話す。
「そこは同意したいけど、私が先にユキナリの好む料理を知りたい。そこは譲らない」
「その前にヴァルティ。貴女は料理をしたことがあるのですか?」
「…………煮ると、焼くだけなら」
「駄目じゃないの」
同意はしても、譲れないとヴァルティは反論する。
その上で、ブリュテが料理の経験はあるかと尋ねた。
煮る、焼くだけの経験しかないというヴァルティは、それは駄目だとルアンから言われてしまう。
「仕方ないの! だって、教えてくれる誰かなんてユキナリしかいなかったんだし!」
「貴女なりに苦労したなら、今からでもいいから料理の勉強をしなさい。私が可能な範囲で教えてあげるから」
「私も教えられるだけ教えます。まずは簡単なものから始めましょう」
その理由が料理を教えてくれる人は幸成しかいなかったこと。
それならルアンとブリュテは、今からでもいいから教えると、ヴァルティに料理の指導をどこかのタイミングで始めることにした。
「コロッケとエビフライ辺りなら、まだ再現できるかな?」
「それはありだね。私としてはお鮨も食べたいところだけど、流石に生魚は無理がありそう。だから、ここはちらし鮨にしたい」
「白米繋がりなら、炒飯も食べたくなる。母さんはパラパラにして作るのが上手なんだよ」
その間に幸成を含むクラスメイト達は、肉じゃがから連想する料理の話題を続ける。
あれを食べたい、これも食べたいと話しながら朝食を済ませていく。
「後は肉じゃがもだけど、卵かけご飯も食べたい。醤油をご飯にかけてから、その上に生卵をかける。そして食べて美味い! と言いたくなる」
その中、幸成が生卵をかけた卵かけご飯が食べたいと言い出した。
「駄目よ!! ユキナリくん、下手したら食中毒で死ぬわよ!?」
「ユキナリ! 死ぬ気ですか!? 何があったら、生卵を食べたいのですか!?」
その途端にルアンとブリュテが驚愕した様子で幸成に駆け寄ると、大声で卵かけご飯の危険性を警告する。
「山本くん。日本だと生卵は安全だけど、外国だとサルモネラ菌関連で危ないからね。ルアンさんとブリュテさんの反応からして、この世界も同じくだよ」
「……あっ、そうか。そんな障害があった」
佐伯が頭が痛そうにしながら、日本の外の事情を話すと幸成は納得。
納得するが、幸成もだがクラスメイト達も確かに食べたくなると頷く。
「……ユキナリ。もしかして、生卵ってユキナリがいた世界だと普通に食べるの?」
ヴァルティもかなり引き気味にしては恐る恐ると尋ねると、幸成は正直に答える。
「日本だと普通に食べる。もちろん、衛生管理と鮮度を保った鶏の生卵はだけど」
「ど、どういうこと?」
「確か、徹底した洗浄と殺菌をしてるから、日本だと普通に食べられるんだ」
「な、なんで、そこまでして生卵なの? そんなに美味しいの?」
「美味しい」
「そ、そうなんだ……」
答えるのだが、ヴァルティは食べたいとはまるで思えない。
日本で生卵を食べられる理由を知っても、そこまでするかと思うだけだ。
「日本と外国には、食文化の差異があるよな?」
「中には虫を食べる、なんてのもあれば、魚を生で食べるのもある」
亀田と奈々はそういえば、食文化の差異が大きいと言えば、佐伯は。
「他にもイクラや白子、イカの塩辛。魚の卵と内蔵などを使った食べ物もまた、外国からするとゲテモノ扱い。まあ、こればかりは仕方ないよね」
「いかの、しおから? なんか、ユキナリがいた世界について行くのが不安になってきたよ……」
他の国だとゲテモノ扱いをされるものについてを話すと、ヴァルティは日本食事情についてを聞いたことにより不安を抱き始める。
「やっぱりヴァルティさんは、私達が帰るのについてくる気なのか……」
「ブリュテさん、ルアンさんも同じくとして、帰った後からも大変なことになるな。主に山本がだが」
不安を抱き始めたヴァルティの発言に、奈々もある意味で不安を抱き、亀田は帰った後に幸成が大変になりそうなこととなることに気付く。
「というか、日本だと虫とか食べないよな?」
「いや、長野県だと昆虫食はあるよ。そこは外国と似通ってるところがある」
笹原が日本だと虫を食べないと言えば、佐伯は長野県だと昆虫食があると言うなり、それを聞いたクラスメイトの一部は少し驚いた。
「そ、そうだったのか? 知らなかった」
「知ってはいても、食べたいとは思いにくいな」
「た、例えば何があるの?」
「有名なのは、いなごの佃煮かな」
「おえっ。美味しいかどうかの前に、ビジュアルが最悪……」
鈴原と笹原は知っていても食べたいとは思わないとして、奈々はどんな昆虫食があるのかと聞く。
佐伯が挙げた例に、奈々は絶対に食べないと、顔を顰める。
「なんだか私も、ユキナリがいる世界へ行くのが不安になってきました……」
「昆虫食って……」
「私、食べたくない」
それを聞いてはブリュテもだが、ルアンも不安を抱き始める。
特にルアンは昆虫食と聞くなり出てくる言葉がなくなりそうだし、ヴァルティは食べたくないと断言。
「ユキナリくん? 流石に無理よ、私は……」
「ユキナリ。なんで、そんなものがあるの?」
「そこは日本特有の食べ物としか言えない。……後、昆虫食は生まれた場所のこともあって、俺も無理だからね?」
「よ、よかった。流石に生卵もですが、昆虫は食べたくなかったので助かります……」
ルアンは無理と言うしかないし、ヴァルティは何故にあるのかと聞けば、幸成は日本特有の食べ物としか言えないと言う。
次に生まれ育った場所のこともあって、昆虫食は無理だと伝えたことでブリュテもだが、ルアンもヴァルティも安堵した。
「山本くんの生卵発言のお陰で卵焼きの感動も含めて、どこかに吹き飛んだ気がするよ……」
「そ、それより肉じゃが辺りが食べたいって方向に戻ろう」
「あ、ああ。そうだな。山本も俺達も、食べたいものを言葉にし合っただけだったが、この世界での生卵は危険だったんだと認識できただけでもよしとしよう」
碇谷が卵焼きの感動も含めてどこかに吹き飛んだと言っては、幸成もだが他の者達も食べたいものの話題に戻る。
「さて、麺類だと、うどんと蕎麦も欲しい」
「蕎麦は無理だね。けど、うどんならなんとかなるよ。作るのに苦労するけど」
「ラーメンの麺も無理そうか?」
「スープの作り方はよく知らないから、麺がなんとかなったとしても、再現は難しそう。ちなみに重曹を使えば中華麺はなんとかなるよ」
「麺の前にスープか。確かにラーメンの命でもある」
麺類だと3種類が出てくるが、蕎麦は不可能。
うどんなら苦労さえすれば作れると、中華麺もなんとかなると佐伯が言う。
しかし、スープはどうにもならないとのことだから、猪井も笹原達も残念だと溜息を吐く。
「餃子、ハンバーグ、ミックスフライ、ロールキャベツとか食べたい」
「お好み焼きは可能かな? ホットプレートがないから鉄板かフライパンで焼くことになるけど」
といった感じで、今日の朝食を終えたのであった。
幸成達が朝食を終えた後に復興作業へ行き働く頃、テンペウ城の王の間では。
「復興作業は順調……いえ、あまりにも早く進んでおります」
「それは新たなる規格外こと、ルアン殿のお陰によるもの、か」
テンペウ国の国王が、騎士1人からの報告を聞く。
報告内容は、ルアンが作り上げたゴーレム達の活躍により、復興作業がかなり早い速度で進んでいるという。
「そのために、ある程度の余裕を持ちながらも復興作業の速度を上げること。これが可能になりました」
「ユキナリ殿には感謝しなければならぬな。彼女を呼んでくれたお陰で、復興作業が速く終わらせられそうなのだから」
更に、ある程度の余裕を持ちながらも、復興作業の速度を上げることができるようになれば、感謝すべきはルアンを召喚してくれた幸成。
テンペウ王もだが、報告をする騎士もその功績に深く感謝をしたいと思う。
「加えて、新たに開発された料理はとても美味でした」
「卵焼き、とやらか。貝から取ったダシとやらと、砂糖を卵に混ぜ入れ焼いたらしいが、柔らかくもあり美味であった」
また、新たに開発された料理も美味と聞いており、卵焼きの味は驚くほど美味しかった。
テンペウ王も遅めの時間に食べてみたら、絶賛したくなるほど。
「それと、ブリュテ殿に依頼された、みそとしょうゆの件ですが、何回かは腐敗させてしまったそうです。しかし、失敗してきた積み重ねの甲斐もあって、今は順調に進んでいるとのことでした」
「そうか。ならば、新しい食が楽しみになってきたぞ」
「そうですね。意外なことに国益になる知識と力が揃ってきた。それもこれも、異世界召喚をしたお陰であります」
新たな調味料の開発も今は順調であり、テンペウ王と騎士は喜ぶ。
意外な形で国益になる知識と力が揃い、復興作業を終えれば他国と交易ができるようになれば有利になれる。
それはまさに、幸成達のお陰だとしか言えない。
「だが、同時に異世界人の召喚は非常に危ういことだと、痛感してしまった」
「私もです。下手に召喚してしまったら、ああいった強大なナニカと関わらないといけないのですから……」
なのだが、同時に異世界人の召喚は危険なことだった。
幸成という例外と、幸成繋がりでヴァルティ、ブリュテ、ルアンは力を貸してくれているが、扱いが非常に難しい。
「だからこそ最初は異世界人の召喚を他国に教えようと思ったが、今となっては教えないことにした。この国だけで十分だ」
「その方が賢明かと。下手をすれば、未知の強大な存在が暴走し、新たな脅威となりかねませんゆえ……」
「うむ。国益の点も踏まえても、異世界人の召喚は他国には明かさぬが吉い。有益であると同時に、極めて危険な諸刃の剣なのだからな」
だが、それらの力をかろうじて御せているのは、奇跡的に幸成という特異な存在が彼女達の心を繋ぎ止めているからだ。
安易に他国へ召喚を教えれば、幸成達とはまた別の、制御不能な怪物を呼び出しかねない。
テンペウ王も騎士も、その結論に至って暗澹たる思いを抱いた。
もしも見知らぬ誰かが、これほどの力を踏みにじるような真似をすれば、それは即ち、世界の破滅にすら繋がりかねないと。
「それはもう考えないこととしまして王様、実は最近に密偵がヴァルティ殿達3人を見張ってみたところ、あっさりとバレて追い返されたそうです」
「せめて3人の情報くらいは欲しかったが、駄目だったか……」
その暗澹たる思いを抱く中、騎士は密偵を使ってヴァルティ達3人の監視をしたものの、あっさりバレて追い返されたと報告。
テンペウ王は情報が欲しかったと、深く溜息を吐く。
「お陰で3人方が、なぜにユキナリ殿に拘るのかは不明です。しかし、善良であるユキナリ殿が彼女らの中心人物であるためか、幸いにも喧嘩という名の大災害級の被害を免れています」
「……確かにユキナリ殿が中心人物だな。だからこそ、下手に刺激をせぬようにしないといかぬ」
「そうですね。下手に刺激をしない限り、ユキナリ殿達はこの国に留まってくれる。そう考えた方がよいでしょう」
それも仕方ないと、テンペウ王もだが騎士も幸成がいる限りは大丈夫だと判断。
下手に刺激をしない限りは、この国に留まってくれると頷き合う。
「それで、密偵をした者は大丈夫だったか?」
「はい。幸いにも昨夜に見つかる後に、精神的にも酷い目には遭わされることはなかったそうです。というよりは、ヴァルティ殿が何かをする前にブリュテ殿とルアン殿がそれを止めたそうです」
「ふむ。それは良かった」
「特にルアン殿の立ち振る舞いからして、元貴族なのかもしれません。我々の行動を読み、それとなく密偵をヴァルティ殿から庇い、ブリュテ殿と共に無事に返してくれたので」
「元貴族というなら、ルアン殿にはそれなりの対応をしなければならぬか?」
「それはどう、なのでしょうか? 少なくとも、私から見た限りではあまり貴族として、まるで振る舞おうとしていないようなので……」
密偵の者の安否が気になるが、幸いにも何も起こらずに済んだらしい。
ヴァルティが何かをしようとしたところを、ブリュテとルアンが止めたのも大きい。
ただし、ルアンに関しては貴族らしき行動をあまりとっていないので、扱いが難しい。
「ならば、ルアン殿のことは現時点では保留とする。……それよりも、ユキナリ殿達が3人を連れて異世界へ帰還する魔法の研究と製作はどうなっておるのだ?」
「研究者達曰く、骨組みだけなら完成しているそうです」
「余は新魔法の製作には詳しくないが、骨組みだけでも完成していれば、後はそこを基に調整すればよいのではないか?」
「調整するにも時間がかかるそうで……」
そう思ったテンペウ王は幸成達を元の世界へ送る魔法の開発の進捗を聞くと、骨組みは完成しているらしいが、調整するにも時間が必要らしい。
「そうなのか? どれだけ時間が必要なのだ?」
「それが……」
どれだけの時間を必要とするのかと聞くと、騎士は深く溜息を吐いてからの。
「1年か、あるいは2年はかかるとのことです」
「……そうか。その間にユキナリ殿達には、様々なダンジョンを破壊してほしいところだ」
「そうですね。この世界における脅威を取り除くためにも、ダンジョン破壊をお願いしたくなります」
1年から2年はかかると言われると、テンペウ王はまた溜息を吐いた。
元の世界へ帰る魔法が完成するまでに、幸成達にはこの世界のダンジョン達を破壊してほしいと思う。
「だが、そう簡単にいかぬだろうな」
「その通りでございます。ルアン殿とブリュテ殿なら、まだこちら側の事情を察してくれますが、ヴァルティ殿は恐らくでもなく察してくれないかと……」
しかし、そう簡単にいかないのが現実。
ルアンとブリュテならともかく、ヴァルティは察する気もないと、騎士は言うしかない。
「召喚という形で誘拐したようなものとはいえ、余達の事情を理解してはくれぬか」
「召喚した時の我々の態度と行動次第では関係が悪化していただろうと予想できるので寧ろ、かなりマシだと割り切るしかないかと」
「……そう、だな」
それにテンペウ王は召喚したのはこちらなので、ヴァルティが察してくれないことに焦燥が募りかける。
しかし、召喚時の態度と行動次第では、もっと悪化していたかもと予想できる騎士は割り切るしかないと言うと、テンペウ王もそうだと頷くしかなかった。
その頃のテンペウの街の市場では。
「さしみ? 生で食う? やめとけって。そんなことしたら、腹下すどころじゃないぞ」
「すみません。こちらの世界だと生で食べるかどうかが知りたくて、変な質問をしてしまいました……」
復興作業の休憩中に市場に立ち寄って、新鮮な魚売りのおじさんに刺身はできないかと聞いてみた幸成だが、結果はこの通りだった。
「しかし、生で食うねぇ? 美味いのか?」
「はい。ちゃんと処理さえすれば、美味しいんですけど……」
「悪いな、坊主。お前のいた世界だとできるんだろうけど、生で食べるのは本当にやめとけ」
「……はい」
刺身を食べたことがない魚売りは、本当に美味しいのかと興味はあるものの、危険なので生で食べるのはやめるようにと忠告した。
忠告される後、幸成は改めて魚達を眺めてみる。
やはり、日本のスーパーなどで見たのとは全然違う見た目の魚達ばかりだと、少しガッカリしてしまう。
「ところで、なんで生で食べるのは駄目かを教えてくれませんか? 俺がいた世界だと、アニサキスという寄生虫対策をした上で食べられますけど、ここだとどうなんですか?」
「あにさきす? とやらは知らないが、同じく寄生虫だよ。それをしっかり退治しとらんのを食べると、腹が千切れんばかりの腹痛がしばらく続く」
「あ、あはは。この世界でもリスクは大体同じくですか……」
どうして生で食べるのが駄目なのかと聞けば、やはり寄生虫の影響が大きいらしい。
アニサキスか、もしくは別の寄生虫などが宿っている状態で食べれば、激しい腹痛に襲われたりすると言われてしまう。
「だから火を通さなきゃ、魚は食えねぇんだ。わかったか?」
「……はい。わかりました。ところで、話は変わりますけど、身がオレンジ色の魚はありますか?」
「身がオレンジ? どう言った色だ?」
「簡単に言うと、淡い赤色なんですけど」
「……ギャゲのことか?」
「ギャゲ? それは焼いたら美味しいんですか?」
ならばと、鮭代わりに何かないかと尋ねてみれば、身がオレンジ色の魚をジャゲというらしい。
焼いたら美味しいのかと聞いてみれば。
「焼くと美味いぞ。脂と甘みがあって、身も柔らかい。試食してみるか?」
「いいんですか?」
「構わねぇよ。少し暇してたところだしな」
試食してみるかと言われ、幸成は是非と頷く。
少ししてから、店の奥から小皿に乗ったギャゲを少し持ってくると、魚売りのおじさんはフォークと共に幸成に渡した。
「おお……」
「どうだ? 美味いだろう」
「少しだけ違うけど、鮭の味わいに近すぎる!」
捌かれ焼かれる前のジャゲの見た目からして、あまり見栄えはよくなかった。
しかし、焼き方もほとんど鮭と同じにしてあるからか、ギャゲの身を一口齧ってみては、鮭の味わいに近いと感激する。
「買うか? どうやら坊主は気に入ったようだし」
「けど、その前に、この世界のお金を持ってません……」
感激するが幸成はお金を持っていない。
なので魚売りのおじさんは、困り顔をしながら。
「なら、今度に来るといい。その時には新鮮なギャゲを用意しといてやる」
「はい! そうさせてもらいます!」
新鮮なギャゲを用意しておくと言ってくれたので、幸成はその言葉に大いに喜んだ。
その後、幸成は復興作業へと戻り働きつつ、笹原達にギャゲの存在を伝えると。
「鮭に似た味の魚!?」
「モドキだけど、鮭おにぎりが食べられそうだね!」
笹原もだが奈々も喜び、他にも似た味の魚がいればと話し合う。
ギャゲが手に入るまでに、色々と他の魚をどうにかして楽しめないかと話しながらも、再建を手伝う中。
「ユキナリもだけど、もしかしてニホンジンって、食にかなり拘っちゃうのかな?」
幸成が手伝うからと、仕方なくヴァルティも働きつつ、ふと思ったことを口にした。
「確かにそう思えるわね。白米といい、今に言葉にした鮭といい、それらを食べるための執念みたいなものを感じるわ」
「この世界の魚に少しでも似ているのを探すため、今日に市場へ行ったとも聞きました。彼らは故郷の味を求めているのだと、理解します」
ゴーレム達に指示をしながら、ルアンもブリュテもヴァルティの言葉に頷く。
幸成達は故郷の味を求めていると、理解した上で。
「マグロはなかったか?」
「マグロみたいに大きな魚は見当たらなかったし、切り身もなかった。ここは海から離れた場所らしいから、それは難しいと思う」
「なら、大型ではない魚が主にしないとならない。サバならあった?」
「どの魚も見た目からして別物。だから、焼いた魚を味見しないとわからない」
「味見しないとわからないか。……となると、試食用の魚があるかが焦点になるか……?」
「マグロが食べられそうにないのは残念だけど、サバとかの魚なら食べられそうか。サバの味噌煮は諦めないで済みそう」
そのヴァルティ達3人をよそに、幸成達は作業をしながらも真剣に話し合う。
まだ食べられる日本食が、この世界にあるか否かを。
「熱意が凄いわね。だから、生卵とか生魚を食べたいとか言うのかしら?」
「平和な分、食べることの探究心が強いのですかね? 発酵させて作る味噌と醤油の件もありますから、余計にそう感じます」
「確かに食についてだけは、発達しちゃってるみたいだね」
ルアンが熱意が凄いと言うと、ブリュテもだがヴァルティも真面目に頷く。
食べることのへの情熱と探究心が強いと、3人して思う。
「ところでヴァルティ。その柱をそのまま支えておいて。今から、その柱を土台に固定するまではお願い」
「はいはい。……面倒臭いなぁ」
「今のヴァルティからすると、人々の家を建てることの意味がわからないのでしょうね」
思い互いに頷く後、ルアンがヴァルティに指示を出すと、ヴァルティは面倒臭そうにする。
ヴァルティにとって、家を建てることにあまり意味が見いだせていないのを、ブリュテは知っているからそう思う。
「まあ、そうだね。私からすると、こんなことする必要ある? としか思えないよ。これがユキナリと私達の家ならまだしも、どこの誰かも知らない人達のための家、というのが本当に面倒臭い」
「そのどこかの知らない人達にもまた、私達にとってのユキナリくんがいるようなものよ。そのことの理解だけはしなさい」
「はいはい。わかってる。わかってる」
ヴァルティは見知らぬ人々の家を建てる必要があるのかと、本気で疑問に思う上で面倒臭い。
しかし、ルアンが言わんとしていることの理解はできるから、仕方ないと溜息を吐いて作業を続ける。
「ブリダイコンも食べたいなぁ」
「後はあら汁もありだね。魚の骨取りという面倒臭さはあるけど、美味しいし」
その中、幸成と奈々が魚を使った料理を口にするのが聞こえてくる。
「ぶりだいこん?」
「ブリという魚とダイコンを小さめに切って煮た料理のことですね。それにも醤油が必要となるので、今はまだ作れません」
「ブリュテは詳しいわね?」
「以前にユキナリから、それなりに聞いていましたから」
聞きなれないのでヴァルティは首を傾げたくなる中、幸成からブリダイコンについてを聞かされたことがあったらしいブリュテは、ルアンに説明をする。
「後、ユキナリはどちらかというと煮物か鍋を使用した料理を好みます。なので、ホワイトシチューをそれなりの頻度で作っては、毎回喜んでもらいました」
「へぇ? そうなんだ。意外な一面があるね」
その説明のついでに、幸成は鍋を使用した料理も好むとも聞かされ、ヴァルティは少し意外に思う。
同時に料理ができるブリュテがズルいし、羨ましいと思えた。