病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~   作:タスケ

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第2話 ヴァルティは何者?

 

 

 あの後のことだが、明日から幸成達はダンジョン破壊の準備のために鍛えられることになると説明を受ける。

 

「……あーっ。異世界召喚なんてのは創作の話だけでいいのになぁ」

 

 説明を受けた後は幸成達のために用意された立派な部屋へ案内され、そこで今、幸成は一見簡素だが頑丈で座り心地のいい椅子に座りながら愚痴る。

 言葉通り異世界召喚は創作だけでいいものなのだと思い知らされたと、可能なら早くに家に帰りたいとも思う。

 

「そうかもね。ユキナリからすれば誘拐だもんね。けど、そのお陰で私はまたこうしてユキナリに出会えた。その点だけは感謝しなきゃかな?」

 

 その部屋の中には当然のように頬を少し緩ませ見つめてくるヴァルティがいる。幸成としては叶うなら1人部屋の方がいいと思うが、ヴァルティを大人しくさせるには幸成が近くにいた方がいい。

 テンペウ王とゴルドー達はそう判断して同じ部屋とされてしまった。幸成としてはなんと思えいいかはわからない。

 傍迷惑なのか、それとも事故みたいなこととはいえ申し訳ないとするべきか。

 

「……また出会えた? 最初の時は聞く余裕なかったから今からその辺りについて、詳しく教えてもらうことはできるかな?」

「ごめん。教えるのは無理」

 

 そう思い悩む途中で気になっていたことを、このタイミングで幸成は聞いてみる。しかしヴァルティは無理と返してきた。

 

「だって、私とユキナリと私の関係を話したところで、今のユキナリだとそれを信じてくれないだろうから」

「それでも気になるんだけど?」

「今は話す時じゃない。それだけだよ」

 

 今は話す時ではない。理由は謎めいているが、ヴァルティは寂しげに目を細めながら語る気を見せない。

 

「……ヴァルティが知る俺に、一体何があったんだろう?」

「今はそれを気にするより、明日からのユキナリはどうするの? 確か戦闘訓練とかをするんだよね?」

「それもあった。……俺の天職は病喚士とやらだから、無闇にナニカを喚んだり、何かをしていいものなのか?」

「そこは私が教える。ユキナリの力の使い方は私が知ってるから」

「なんで知ってるの?」

「今は内緒」

 

 気になるが教える気がないなら今は諦める。それよりもヴァルティに言われた幸成はそこもどうしたらと悩む。

 謎の天職の上に厄介なのは確実ものなのだから何をしていいのかがわからない中、ヴァルティが幸成に使い方を教えると言ってきた。

 だが、知ってる理由は今は内緒。つまり、これも語る時ではないようなので、幸成は今だけは気にしないことにする。

 

「内緒か……まあ、今は帰れる時まで生きることを考えないとならないのと、明日以降が不安すぎるから気にしないことにするよ」

「うん。今はそうして……ところでここの夕ご飯は何が出るのかな? 肉じゃがは出るかな?」

「いや。異世界で肉じゃがは絶対出てこない……ん? ヴァルティの口から肉じゃが?」

「私はまだ食べたことないけど、ユキナリがたまに食べたいと零したことがあるから、よくその単語を覚えてる」

 

 懐かしさに浸るようにヴァルティは語る。何気なく零した言葉も覚えているのだから、ヴァルティにとってはよほど幸成のことは忘れ難いのだろうか。

 

「聞くのを忘れてたけど、肉じゃがはユキナリの好きな料理なの?」

「そりゃあ、好きだけど……」

「なら、尚更食べてみたい。どんな味なのかな?」

「その言い方からして、もしかして俺がいた世界についてくる気なの?」

「当たり前。ユキナリが帰る時は当然ついていく」

 

 ヴァルティは幸成が元の世界へ帰る時に一緒に行くつもり満々。というより、ついていくのは当然のこととさえ思っている。

 幸成は彼女が本気でついてくることを確信する。自分が元の世界へ帰るならヴァルティも一緒に来ると。その証拠に目が本気だ。

 

「それは……帰る云々の前に、ヴァルティには現代の常識とかを覚えて、それを守ってもらわないと非常に困るかな……」

「そうなの?」

「えっと、道路交通法とか他にも色々あるけど、特に暴力は駄目なんだ。大問題になる」

「なんで?」

 

 何故にと聞くヴァルティに幸成は現代には法だの警察だのがあるからと説明する。しかし、ヴァルティは理解してくれていない。

 それもそのはずでヴァルティがいた世界は力が支配するようなところだった。弱い者達の集まりが法律を作るだの警察だのを作って守るという概念がなかった。

 なので尚更現代の常識とかを覚えてもらわないとならない。というより実質彼女の保護者になり得るであろう幸成は、今から気が重くなって仕方なかった。

 

「てれび? にゅーす? ねっと? それらがあってすぐに情報が誰か達に伝わるのはわかった」

「だから無闇に暴れたら駄目なんだよ。すぐに情報が拡散して、俺とヴァルティは離れ離れになってもおかしくない」

「そ、それはやだ! ユキナリがいる世界では暴力しないから! だから、ついてきていいよね?」

「駄目って言っても、ついてきそうな気がするんだよなぁ」

 

 情報社会がある地球で血の匂いがするほどに暴れられたら、ヴァルティは現代兵器の力でやられる可能性がある。

 そうならないよう言い聞かせてみると、ヴァルティも本当に別れ別れになるのは嫌なので暴力はしないと言ってくる。

 それを見た幸成からすれば『なんでそんなに俺に拘るの?』と、何度も言いたくなる。

 

「うん。意地でもついてくよ」

「初日から重い苦労を背負ってしまった……」

 

 ヴァルティは絶対に離れないという意思表示をすると、幸成は重たいものを初日から引き受けてしまったと内心で溜息を吐いた後に扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「えっと、どうぞ?」

 

 音の後に幸成はそう言う。すると入ってきたのは騎士団長のゴルドーだった。

 

「そろそろ夕飯の時間だから呼びに来たぞ」

「それはありがとうございます」

 

 幸成はゴルドーの顔を見ながら礼の言葉をする。その顔は少し不自然だった。ヴァルティがいることが理由で緊張をしてしまっている。

 その証拠の1つとして、剣の柄に右手が伸びていきそうになっていた。

 

「ヴァルティとやらも夕飯は食うのか?」

「食べるわよ。今日はなんなの?」

「肉と野菜沢山のスープと白パンだ」

 

 緊張をさせてくるヴァルティはといえば暢気なのか、空気を読まないのか夕飯は何かを聞く。

 今日のメニューは肉と野菜が沢山のスープと白パンだと聞かされると、ヴァルティは不満げになる。

 

「炊いたお米は?」

「コメ? って、なんだ?」

「予想してたけど白米はないか」

 

 不満げになった理由は白米がないから。ゴルドーは、というよりはこの異世界には米が無いようなので全く知らない。

 白米がないと思うと幸成は、予想はしていても残念だと肩を落とす。せめて外国産でもいいから白米が食べたかったと。

 

「内容からして、お前がいた世界の食べ物らしいな? 美味いのか?」

「日本人からすれば主食なのもありますけど、美味しいです」

「どこかにお米はないの?」

 

 肩を落とすのを見たゴルドーはすまなそうにしながら聞けば、幸成は即座に返答。その早さに反応したヴァルティは本当にないのかと普通の口調で質問。

 

「聞いたこともないからな。もしどこかにあったとしても、情報が皆無だから無理だな」

 

 敵意を向けられたわけではない。しかし、王の間であったことを思い出すとゴルドーはまた剣の方に意識がいきかける。

 ゴルドーは冷汗を流しながら対応をするが、ヴァルティは気にした素振りを見せない。なので幸成は早くヴァルティを連れて行かないとマズいと思い始める。

 

「では、食べに行きましょうか」

 

 この雰囲気はマズいと感じた幸成は早くこの部屋の外に出ようと提案する。

 そのお陰でゴルドーもヴァルティに対する苦手意識と緊張からの解放が、少しはできるかと気楽に思えてきた。

 初日からあんなことがあったので、『今は』が付くが。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食は騎士達と兵士達が食堂内に用意していた。クラスメイト達は既に席に座っていて、幸成とヴァルティも空いている席に座ると。

 

「幸成。あの美女さんとはどんな感じ?」

 

 幸成の右隣にいる田村が、ヴァルティの今の様子についてを小声で聞いてくる。その声は少し震えていたが、恐怖より好奇心が勝って聞きたくなったようだ。

 

「今は訳分からん、としか言えない。ヴァルティは俺を知ってるけど、俺はヴァルティを知らないという変な状態だ」

「何それ? 前世の縁とか?」

「それはある意味違うと言われた。なら、ヴァルティはなんなんだろうな?」

「さあ? 美女さんが言わないならわからない」

 

 もう多数人が食べ始めた中、幸成と田村も食べ始める。普段なら『いただきます』と言いたいところだが、今はその余裕はない精神状態。

 今はとにかく食べて明日に備えたいと、クラスメイトのほぼ全員して思っていた。

 

「……ねぇ? ユキナリ。そのタムラって女は誰?」

 

 だというのに、幸成がクラスメイトの田村奈々(たむら なな)と軽い会話をしただけなのに、ヴァルティが少しだけだが鋭く見てきた。その結果は一瞬で食器の音が止まる。会話も止まる。

 今のところ威圧感はなく空気を重くされていないが、ここで回答を間違えたら偉いことになる。嫌な予感がしたクラスメイト達は『無難に頼む!』と幸成に無言で願う。

 

「えっ? 幼なじみだけど」

「悪友とも言うね」

 

 なのに、無難かは危うい回答となった。幸成は『幼なじみ』と、奈々は『悪友』とヴァルティに返したら。

 

「……へぇ? 貴女がユキナリの幼なじみとやら、かぁ。昔に聞いたことがある」

 

 クラスメイト達の体感温度が低くなった気がした。

 

「幸成。この人に話したことあるの?」

「俺は知らない。というか、ヴァルティみたいな美人さんを一目見た覚えは、テレビだけだし」

 

 クラスメイト達の内心を知らない幸成と奈々は、今のところはまだ会話ができている。というよりは、ヴァルティが何故に幸成のことを色々知っていそうなのかが先に気になって仕方ないようだ。

 

「私が美人……じゃなくて。ユキナリ、早く食べ終えようね。今は早くここから立ち去らないといけない」

 

 その際に美人と言われたので顔を少しだけ赤くするが、そんなことはさておいて食事を早く済ませようと言ってくる。

 変に警戒してしまっているのかもしれない。そう判断できる様子なので幸成は落ち着かせるための説得をしてみる。

 

「俺と奈々はあくまでもただの幼なじみ。ヴァルティが考えてるらしいことはないから」

「私と幸成はそんな関係じゃない。貴女が考えているのとは違うよ?」

 

 奈々が発した言葉の内容と現在の状況から、別の何かをヴァルティは想像したらしい。幸成からすれば『なぜに?』と首を傾げたくなる。

 だが、それでヴァルティの警戒は解かれたようで、食事の邪魔はしなくなった。

 その後に奈々がスマホの画面をこっそりと、幸成だけに見えるように見せてくる。

 

[どうやら今まで通りに話し合うのは無理かもしれない。今は身の安全のために距離を置いた方がいい]

 

 ヴァルティは積極的に奈々達に危害を加えるつもりはない。だが、ここでヴァルティに誤解されて危害を加えられるのはたまったものではない。

 今の奈々達は恋愛云々の前に、自分達の命がかかっている。なのにダンジョン破壊とは関係ない理由で危険な目に遭いたくない。

 奈々もだが幸成も同じくなので無言で小さく頷くと、クラスメイト達のために早食いをする。今は1秒でも早く食堂から出た方がいいと判断して、とにかくスープと具を飲み食いしていく。

 

「ユキナリ。そんなにお腹空いてたの?」

 

 そんな幸成の気持ちを知らないヴァルティは微笑ましいものを見るかのような、目を細めて聞いてくる。

 

「うん。思ってたよりお腹空いてたみたいだ」

「そうだよね。大変なことがあった後だとお腹空くもんね」

 

 幸成は表面上は肯定しておく。ヴァルティもそれを信じて幸成のことを見つめてくる。その微笑みは、幸成が知る誰かのようでいて誰とも違うもの。それが何よりヴァルティの不可解な部分だと思い続けながら夕食を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 夕食後、与えられた部屋に戻るなり幸成は。

 

「なあ、ヴァルティ。あの時のヴァルティはなんで奈々を敵視しかけたんだ?」

 

 食堂でのヴァルティの様子は周りが見れば確実に敵視をしていると見えるものだった。なので幸成は尋ねずにはいられない。

 

「だって、私が知る限りのユキナリは幼なじみと付き合ってたかもなの。だから、同じくなのかなと思い込んで……」

「は? 俺が奈々と? ……ない、な。想像できない」

 

 するとヴァルティの口から出た言葉は『付き合っていたかも』という信じられない内容。それを聞いた幸成は首を縦には振れない。

 もし、奈々と付き合っていたというなら、その奈々は一体いつの奈々なのか。幸成の知る奈々とは別の奈々という可能性が浮かぶ。

 

「今のユキナリはそう思うかもだけど、確かにユキナリはそう言ってた。幼なじみのことを大切にしてるように言ってた……」

「……もしかしてヴァルティが知る俺は、平行世界か何かの俺なのか?」

「…………」

 

 別の奈々。つまり、別の幸成もいてもおかしくないかもしれない。世界が違えば関係も違うとしたら、ヴァルティの見知った幸成と今の幸成は違う可能性も十分あり得る。

 ヴァルティからすれば、ここにいる幸成とは違う別の幸成かもしれない。そう思うと色々な疑問が出てきた。

 

「ヴァルティが知る俺とお前に何があったんだ? 何があったら、何も知らない俺の傍にいようとするんだ?」

「ユキナリは帰れずに不幸な形で終わった。それしか言えない」

 

 まずは何故に幸成に拘るのか。それは知る限りで言えば幸成はこの異世界で不幸な形で終わった。

 ヴァルティは語るのも辛いのか、酷く暗く沈みながら「それしか言えない」と口を閉ざしてしまう。

 両目にも力が無い。両肩を小さく震わせて、今にも涙を流しそうな表情はさすがに無理に聞くのはマズいと幸成は察する。

 

「わかった。今は無理に聞かない。けど、本当は1日に1つだけでも、何かしらは知りたい。何も知らないのに何もわからないままだと、ヴァルティにいつか酷いことをする可能性があるから」

「うん。わかった。ユキナリがそうしたいなら、たまに教える。でも今はそれを思い出したくない」

「なら今はベッドに入ろう。流石に今日は疲れたのもあるし……」

 

 幸成はそこで会話を打ち切る。これ以上は無理をさせられないとヴァルティをベッドに促した。

ベッドは部屋の中に2台用意されている。なので別々のベッドに入ろうとしたら。

 

「ねえ、ユキナリ。添い寝してもいい?」

 

 ヴァルティは不安そうな様子。力が無い両目と対照的に問いかける声には少しだけ期待が混じっていた。

 

「いや、流石に駄目だ。俺だって健全な男子高校生なんだから」

 

 当然のことながら幸成は断る。というより、他の男子生徒達は別の部屋なのでいない。なので実際、気にしなくてもいいのだが幸成としては気にする。

 

「そっか。残念」

 

 幸成が断ったことで、ヴァルティは残念そうにする。だがそれで引き下がってくれた。不幸中の幸いである。

 

「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 そして2人は互いに挨拶を交わす。すると間もなくヴァルティが寝息を立てて寝始めた。だが、幸成は直ぐには寝付けない。

 今日は異世界に召喚されヴァルティという吸血姫で謎だらけの美女が現れ、明日からはどうなるかと不安が重なるからだ。

 

「こんな日が続くのか……」

 

 それでもいつかは帰れる希望があるので生きることを頑張ろうと決めて、目を閉じれば早朝まで眠ることができた。

 

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