病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~   作:タスケ

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第4話 命を奪う

 

 

 

「幸成は大丈夫?」

「俺はなんとかね。俺達が帰るためにはいずれは慣れないといけないし」

「大丈夫そうでよかった」

 

 クラスメイト達を引っ張ろうとする笹原を見てから、今ばかりはヴァルティがヤバいから会話は控えたいというのは忘れて、奈々は幸成に心配の声をかける。

 幸成の声にはあまり震えがない。

 それに安堵した奈々は『よかった』と胸を撫で下ろす。

 

「うーん。私は共感しにくいなぁ。敵なんだからサクッとやるのが一番だって思っちゃう」

「「……」」

 

 だが、ヴァルティは共感できないと言う。ヴァルティからすれば人間も魔物も大差がない。邪魔をしたら排除するという考え方が強い。

 幸成と奈々からすれば『なんてことを口走るのかな?』とツッコミたくなるが、今は無視だ。

 

「それにしても、いつかはゴブリンなどといった人型の魔物を、どうにかしなきゃいけないと思うと気が重い」

「やっぱり迷ってる?」

「正直言えば迷ってる。けど、やらなきゃいけないから覚悟しろと言われてから、どうしたらいいのかわからない」

 

 幸成が今悩んでいることは、やはり人型の魔物の始末をしなくてはならないこと。それを考えると気が重くて仕方がない。

 それに付け加えてどうしたらいいのかがわからない。ゴルドーに覚悟を決めろとは言われたが、具体的にどうしたらいいのかはわからない。

 

「奈々はどうなんだ?」

「私は、うん。今はまだ考えてもどうしようもないかなーって思ってる」

「今はまだ、か」

「そう。今はまだ。だから幸成も同じでいいんじゃないかな? 今すぐに決められたら楽だとは思うけど、私達はまだ学生だし、大人でもそう簡単には決められないと思う」

「そうだよな。奈々の言う通り、今はまだどうしようもないかもしれない」

 

 ダンジョンに入ったのは今日が初めてだ。戦うことも初めてだ。今すぐにこうした方がいいとかを考えて、それを実行できるとは限らない。

 それに覚悟を今すぐに決めろと言われても、それが無理な話だ。死にたくないから生きるために戦う。

 しかし、それの有言実行ができないことに奈々はまだ焦らない方がいいのではと思う。そんな奈々の意見を聞いた幸成も『今すぐにどうこうは無理』と考え直した。

 

「ただ、明日以降の戦いをどうしたらいいかは考えないと」

 

 明日以降の戦い。明日からもダンジョンに潜り実戦経験を積まないといけない。その時のことを考えると、幸成は少し気が重くなる。

 人型以外ならまだなんとかなるとして、人型はやはり抵抗感が強くなる。

 

「ゴブリンはあくまでも魔物と見れるための方法はないのかな?」

 

 奈々もそこは幸成と同じで頭を悩ませる。明日以降の戦いをどうすればいいのかを考えては悩んでしまう。

 一方で笹原やクラスメイト達は。

 

「ゴブリンは魔物。魔物なんだけど人型……」

「だよね? 首を刎ねられて転がった時のアレは……思い出しただけで気持ち悪くなった……」

「だ、大丈夫……な訳ないか」

 

 笹原はゴブリンは魔物だと自身に言い聞かせようとしても、人型なのもあってなかなかできない。他のクラスメイト達も同じで吐き気がしてくる。

 いつかのどこかで誰かが戦闘不能になるかもしれない。今はまだ大丈夫でも、何の対策も無しのまま戦い続けていたらどこかのタイミングで誰かの心が壊れかねない。

 

「こりゃ参ったな。まさか、あそこまでみんなして抵抗感が強いとはな…」

 

 それをゴルドーや騎士達、兵士達は見ていると、そう思わずにはいられない。

 

「我々の予想以上に、彼らは魔物を……人型を殺すということに抵抗感があるようです」

「だろうな。ここに来る前に生き物を殺す経験をした者はほとんどいないようだ。いや、そもそも誰かを傷つける経験もないかもしれん」

「だとしたら、かなりマズいかもしれませんね……」

 

 その通り。幸成達は戦争とは無縁の平和な21世紀の日本育ちだ。血生臭い争いの経験はない。

 平和な日本育ちの10代の若者達が、魔物とはいえ人型の魔物の首を刎ねられて転がる姿を平然と見ることも難しい。

 それをゴルドー達は失念していた。というよりは考えもしなかった。その理由は異世界人でも魔物殺しの経験くらいはあるとしか思っていなかったからだ。

 なので今の幸成達の反応が『想定外』だった。このままだと下手したら明日以降の戦いでもゴブリン1体も倒せず、誰かが殺されかねない。

 

「お前達。これはどうしたらいいと思う?」

 

 これはかなりヤバい事態かもしれない。ゴルドーはこのままだと何の解決もしないので、騎士達に意見を聞いてみる。

 

「いっそ、魔物を生物として認識しないよう暗示の魔法で仕向けますか?」

「いや、それだと人間にも害を与えかねない。最悪の事態を招くことになる」

「では、どうしますか?」

 

 騎士達も頭を悩ませる。暗示の魔法で仕向ければいいと言う者もいるが、ゴルドーはそうは思わなかった。

 今の幸成達に暗示の魔法を使えば、場合によっては幸成達がゴルドー達をも魔物として殺そうとしてくるかもしれない。

 人間と魔物の区別がつかなくなり、人間を見たら敵視するようになるかもしれないので、無理矢理に暗示の魔法で仕向けるのは却下とする。

 

「どうすると言われてもな……この中で比較的マシな反応をしてたのは、あの2人か……」

 

 そう言われてもゴルドーも良いアイデアは浮かばない。この中で比較的マシな反応をしていた幸成と奈々をチラ見してから、改めて頭を悩ませる。

 比較的マシな反応をしている2人は、明日以降の戦いをどうすればいいのかを悩んでいる。まだ前向きに今を生きる決意を固めているからこそ悩めているのだろう。

 それはいい。ゴブリンを倒せなくても、今を生きることを頑張ろうという意思は見出せたのは、まだいいことだ。

 だが、他の者達は違う。他のクラスメイト達は頭を抱えて呻いている。一部のクラスメイト達は吐きそうになっている。

 明日以降、他の者達は本当に戦えるのかが危ういと、ゴルドーは思うしかない。

 

「今日は早めに訓練は切り上げ。明日の調子次第で、ゴブリンに慣れる特訓をさせた方がいいかもしれないな」

「そうするしかないですね……」

「とりあえず、今日はこれ以上の訓練は危ないかもしれないから切り上げると、王に伝えておこう」

 

 悩んだ挙句に今日の訓練は中断となり、明日はゴブリンに慣れるための特訓をさせた方がいいかもしれないと、ゴルドーは思うしかない。

 他の騎士達もゴルドーの判断に頷くしかない。誰かが明日までにメンタルを崩さないように祈りたい気分でいっぱいだった。

 

「あー……今日は早めに切り上げるが、明日の訓練はかなり変わってくるからな」

 

 幸成達の元へ戻ったゴルドーは、今日の訓練を切り上げるが明日は変わるかもしれないと伝える。

 

「予想外にお前達が戦い慣れしてないの前に、魔物を殺すことすら常識じゃないようだ。普通に戦いの訓練をしても、お前達の精神に負担がかかるだろう。だから、明日からのお前達には、魔物を殺すことに慣れてもらう」

 

 明日から魔物を殺すことに慣れてもらう。それはつまり、魔物を殺すことに慣れない限りはダンジョンの破壊に着手できないということ。

 ゴルドー達からすれば、幸成達が魔物を殺すことに抵抗感を覚えてしまうのは想定外だったが、この世界へ召喚した以上は生きて帰らせるまで面倒を見る。

 だから幸成達のために、どうにか戦いに慣れてもらえるよう特訓をさせようと決める。そのために、明日から新たな訓練が始まることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の城の食堂での夕食はホワイトシチューなのだが、クラスメイト達は食欲旺盛とは真逆な状態で食べる。

 ゴブリンを殺すことに抵抗感を覚えすぎたせいで、いつもより食べるスピードが遅くなっていた。

 幸成もだが、奈々も同じで少し食べるスピードが遅くなっている。ゴルドーの『殺すことに慣れてもらう』という言葉が頭から抜けず、食欲を削られていた。

 一方でヴァルティはというと、普通の状態で夕食を食べている。今日の出来事に特に心が蝕まれた様子は全くない。

 会話も全くない中でなんのか夕食を食べ終えれば、クラスメイト達は各々の部屋に戻る。幸成もヴァルティと共に自分の部屋に戻った。

 

「ユキナリ。ゴブリンは弱かったけど、本当に殺すことに抵抗感があったの?」

「ああ。抵抗感があった」

「へぇ。なのに、よく耐えたね。他の子達は戦えそうにないのに」

「死にたくないから、ある程度は覚悟を決めただけだよ」

 

 戻って早々にヴァルティは幸成に気遣わしげに質問する。質問に対して幸成は答えながらも、ヴァルティと違って精神が強靭ではないと答える。

 自分達が召喚された理由はダンジョンを破壊するため。そのダンジョンを破壊するには魔物を殺すのも必要。

 殺さないと、いずれはダンジョンから溢れ出てくる魔物に人類は食い尽くされてしまう。だから殺さなければならない。

 殺さないと幸成もだがクラスメイト達も、ゴルドー達も、この世界の人々も全員死ぬ。

 

「死にたくないから、か。その理由が一番無難だよね」

「ヴァルティならどうしてた? 人型の魔物を殺すことになんの抵抗感もないようだし」

「人間と魔物の違いはわかるけど、必要なら殺せばいいと思ってる。けど、今のユキナリ達には難しいよね。私とは違って人を殺す機会がなかったんだから」

「まあね。だから余計に心を蝕まれてたりしてるんだ。明日からも訓練があるから、そのことに不安を覚えててさ」

「でも、慣れたら案外大丈夫かもよ? 今のユキナリは精神は強靭じゃなくても、それなりに強いんだから」

「そうかな?」

 

 明日からの特訓に向けて不安を覚えている幸成を、ヴァルティは慰める。ヴァルティからすれば今の幸成は強い。

 現実を直視しようとする幸成のメンタルが強いと褒めてくるので、幸成は『褒め上手なのが謎だけど嬉しいかも』と少し喜んだ。

 

「疲れちゃってるみたいだから、今日は早く寝る」

「うん。明日は特訓だから、しっかり睡眠しておいてね」

「うん。ヴァルティもお休み」

 

 その後、幸成は疲れていることを理由に早めに眠る。ヴァルティも眠たそうにする幸成に、しっかりと眠るように伝えれば早めに就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。ゴルドー達は幸成達を再び弱い魔物が主に現れるダンジョンの入口前に、幸成達を集めた。

 

「今日からお前達にはゴブリン退治をしてもらう」

「昨日の今日で、ですか?」

「そうだ。殺してもらう。魔物と戦わないと生きられないし、ダンジョン破壊のためにも殺さないとならないからな」

「それは、そうですけど……」

 

 ゴルドーから今日の訓練はゴブリン退治と聞いて、笹原達は抵抗感を覚えてしまう。それでも戦わないとならないなら、今日からでも頑張らなければならない。

 幸成もヴァルティと共に、このダンジョンの奥で待っているゴブリン達のことを思い浮かべると、憂鬱になりそうになるが耐えている。

 

「今日はユキナリも前衛でいいよね? 私ならゴブリンを素手で倒せるから、いざという時は私がやるよ?」

「本当にそうなったら頼む」

「うん。任せて」

 

 憂鬱になりそうになる中でヴァルティから、前衛で戦ってもいいと言われる。ヴァルティならゴブリンを簡単に倒せるようだが、今は幸成の成長のために控えてくれるらしい。

 

「では、行くぞ。覚悟はいいな?」

 

 覚悟がなくても生かすために行かせる。ゴルドーは覚悟はいいなと聞いてくるが、この口調からして覚悟が決まってなくても行くようだ。

 幸成は覚悟を決めてから「はい」と声を出すと、ゴルドー達とクラスメイト達と共にダンジョン内へ入り、ゴブリン退治のために進む。

 

「幸成。今日はイケる?」

「わからない。けど、なんとか頑張ってみるよ」

「うん。頑張って」

「ああ。やれるだけやってみる」

 

 進む中で奈々は幸成に声をかける。幸成は正直わからないがやれるだけやってみるという態度は変わらない。

 だから奈々は少し心配ではあるものの、今の幸成なら大丈夫そうと少し安心する。

 

「この辺りなら、まだ安全に戦える。可能な範囲で俺達がゴブリンを引きつけたりするから、殺してみろ。……よし、探しに行ってくれ」

 

 ある程度は広い場所へ来た後、ゴルドーの合図で兵士達はゴブリンを探しに動く。

 暫くすると、兵士1人がゴブリン2体からわざと逃げて連れてくる形でゴルドー達の前に現れた。

 

「ギヒィ!」

「グヒヒッ!」

 

 ゴブリン達はゴルドー達を見つけた途端に、手に持つナイフを握りしめながら襲いかかってくる。

 だが、ゴブリン2体を拘束するように兵士4人が取り押さえると、ゴルドーはクラスメイト達を呼び寄せてからの。

 

「こいつらを殺せるか?」

「えっ……?」

 

 ゴルドーの言葉に笹原とクラスメイト達は言葉を失った。目の前のゴブリン達は武器を取り上げられ、地面に這いつくばるように抑え込まれている。

 それを殺す。無抵抗状態にされたゴブリン達を殺す。それが人間として正しいのか、魔物だから正しいのかと悩まされる。

 

「誰か1人がコイツらを殺してみろ。抵抗感があるのはわかっているが、殺さなければ生きられんからな」

 

 誰もが手を上げないし、名乗り出ない。このままではゴルドーが先に動いてゴブリン達を殺すだろう。

 そんな中、幸成は名乗り出た。

 

「……俺がやります」

 

 幸成はゴルドーの前に行く。その目はゴブリン2体を直視していた。

 

「いいのか? 本当に覚悟は決まってるのか?」

「大丈夫です。殺します。今はダンジョンを破壊しないとならないなら、いずれはこうしないといけないんで」

「そうか。なら、やってみろ。方法は魔法でいいからな」

 

 ゴルドーは幸成に『魔法で殺せ』と言う。兵士達が離すと同時に幸成は敢えて土魔法を使い、ゴブリン2体が這い蹲る地面に穴を開けて落とす。

 落とされたゴブリン2体は即座に這い上がろうとするが、それは叶わなかった。穴の中に大量の土砂を落とされて生き埋めにされた。

 

「……っ!」

 

 その光景を見て幸成は目を背けたくなる。ゴブリン2体は悲鳴も上げられずに生き埋めとなって死んだ。

 それを見て、幸成は気持ち悪くなる。頭を強く殴られたような感覚に襲われ、一歩引くような後退をした。

 他のクラスメイト達も、幸成が殺したことに驚きや戸惑いを隠せずにいた。

 

「よくやれたな。大丈夫か?」

「平気、じゃありません。正直、凄い感覚に襲われています」

 

 幸成は率直に答える。自分の手でゴブリン2体を殺したことで、かなりキツい感覚に襲われている。

 この感覚を乗り越えないと、ゴルドー達から離れたら上手く生きていけない。幸成はそう強く思うことで、なんとか耐えた。

 

「ゴルドーさん、ゴブリンを連れてきました」

 

 兵士から次のゴブリンを連れてきたと報告が入る。このダンジョン内にいるゴブリンはまだいるので、次に殺すのは誰かとクラスメイト達は思わされる。

 その間に1体のゴブリンが兵士2人により、捕まえられてから地面に叩きつけられ、動けないように腕と足を掴まれた。

 次は誰かが殺す番だ。だが、笹原を含むクラスメイト達は動けない。動いたら本当にゴブリンを殺すことになる。

 

「私がやろうか」

 

 クラスメイト達が動けない中、ヴァルティは自ら動けなくなっているゴブリンの横へ立つと。

 

「この程度なら、これでいけるよね」

 

 そう呟くと共に右拳を振り下ろす。振り下ろした右拳は鈍い音を立て、ゴブリンの頭蓋骨を砕き即死させた。

 傍から見るとゴブリンの頭が深く陥没して死んでいる。

 

「いや、ヴァルティ殿がやったら、まるで意味がないじゃないか……」

 

 ヴァルティの行動を見ていたゴルドーは唖然。ゴブリンの屍を見てから呆れたように、溜息混じりの言葉を吐き出したが。

 

「そうだね。意味がないね。けど、油断とか躊躇とかしてたら、絶対にこうなる。このゴブリンの末路がもしかしたらのユキナリを除くあなた達だとしたら、どうするの?」

「そう言われると確かにそうだ」

 

 そこからのヴァルティの言葉は重すぎる。

 ヴァルティはこうならないように、こうしてやられる前に殺せと言ってくる。

 ゴルドーはそれを聞いて反論できなかった。死にたくないならやるしかない。その通りだと冷汗を流す。

 ゴルドーですら重い言葉だと感じるので、クラスメイト達の反応もゴルドーと似たようなものとなっている。

 

「誰か1人が動かなきゃ、まるで魔物もダンジョンも減らない。みんなが死ぬだけだよ。ユキナリを除いて、ね?」

 

 ゴブリンを末路の見本にしてまで教えてくれたヴァルティは、クラスメイト達が動かないと何もかもが終わらないと告げる。

 誰か1人が動かないといけない。動かないとダンジョンや魔物は減らない。誰もが死ぬ未来しかないと脅す。

 

「もう一度聞くけど、今すぐに動かないと死ぬかもしれないのに動かないの?」

 

 次にヴァルティは誰もが動かないなら、本当にこの先では殺されるかもしれないと言いたげに問いを重ねてくる。

 その間に他の兵士達が数体のゴブリンを連れてきた。ゴブリン達はまたも拘束されて逃げられない状態となる。

 笹原を含むクラスメイト達は今すぐに殺さないと殺されるかもしれないと、ゴブリン達の姿を見て思わされる。

 

「よし。やろうか」

 

 しかし、まだクラスメイト達には躊躇がある中で奈々が名乗り出た。笹原達が動きそうにないなら自分がやる。そんな強い意思が込められた声と目で、ゴブリン達へと歩み寄っていく。

 

「田村!?」

 

 笹原は驚きと戸惑いと焦りに満ちた声を出してしまう。奈々までこんなことをやらなければならないのかと、思ってしまう。

 

「大丈夫。すぐに終わらせる」

 

 だが、奈々は笹原に一聞すると軽い返答をして、ハンマーを頭上まで持ち上げる。

 奈々の天職は戦士。重い武器も扱えるのでハンマーを扱う。そのハンマーを振り下ろして、拘束されているゴブリン1体の頭をかち割った。

 その光景を見て笹原とクラスメイト達は、言葉を失ってしまう。

 

「これは、予想より気分が重いけど……慣れないと、殺されるか」

 

 奈々は一撃でゴブリンを倒したものの、手応えが気持ち悪いと言いたげに自分の両手を見下ろす。幸成もだが奈々もまた、この世界の殺し合いを実感する。

 この重すぎる感覚に打ちのめされそうになるのを耐えて、生きるためには慣れないといけないと強引に自分に言い聞かせている。

 

「次にやれる奴はいるか?」

 

 奈々もやってみせたのを、ゴルドーは見届けると次に殺せる者はいないのかと聞いてくる。笹原を含むクラスメイト達は誰も答えられない。

 このままでは、笹原を含むクラスメイト達のうちの誰かが死ぬかもしれない。かといってゴルドー達に任せてばかりもいられない。

 ゴルドー達が守っていられないタイミングがあるのかもしれないからだ。その時は笹原達は自分で動けるようにならなければならない。

 だが、それが難しい。どうしたら覚悟できるかが、まだわからない。

 

「……どうやら、今すぐに全員を覚悟を決めさせることはできないようだ。俺達が見守っている内は生き延びられるかもしれんが、その都度に護衛するのは難しいかもしれん」

 

 これは予想よりまだ重症だ。

 ゴルドーはそう思わずにはいられない。

 魔物を殺すことに抵抗感が強いのはまだいいが、覚悟を決めさせるのが難しいとなると、明日以降もゴブリン退治の特訓をする必要がある。

 

「情けないね。ユキナリはちゃんとやってみせたのにさ」

 

 ゴルドーは嘆かわしいと言いたげにする一方、ヴァルティは情けないという言葉を口にする。

 幸成は殺せたのに他の者は殺せない。

 見ていて失望しているようにも聞こえる言葉を聞いた幸成は、笹原達がヴァルティの言葉で傷つくかもしれないと危惧する。

 

「……そうだな。俺達はまだ躊躇ってばかりだ。今の幸成や田村に比べたら、まだまだなのは確かだ」

「笹原? 本当にやるのか?」

「やらなきゃ、本当に死ぬかもしれない。それに山本や田村に続いて俺達も生きるためになら、やらなきゃならない」

 

 危惧する幸成の耳に笹原の声が聞こえてくる。幸成が声のした方を見ると、笹原が他のクラスメイト達に向けて宣言するように喋っている。

 ヴァルティの言葉に笹原は痛手を受けたものの、生きるためならゴブリンを殺さなければならないと決意している。

 

「みんな。今日は情けない姿ばかりを見せた俺が言うのもなんだけど、今のゴルドーさん達は俺達を守ってくれるから、みんなして覚悟を決められるだけの訓練が可能だ。それなら今すぐにやらなきゃいけない」

 

 そして笹原はクラスメイト達に宣言する。今はまだゴルドー達に守られている。守られているからこそ覚悟を決められる特訓ができる。

 それを聞かされたクラスメイト達は「そうだよな」「確かに情けない姿を見せてばっかは駄目だ」と、躊躇がある自分達から脱却しなければならないと理解し始める。

 

「む、無理よ。私には、できないよ……!」

「もう嫌だ。本当に家に帰りたい」

 

 一方で碇谷と鈴原などと、10人は本当にゴブリンを殺せないと言い出す者達もいる。

 彼らは戦いなんてものは無縁の生活を送っていたのだ。

 魔物とはいえ人型の生き物を殺すなんてことは、そう簡単なことではない。

 

「これは駄目だな。仕方ないから、無理だと言い出した10人は城へ戻すとしよう。戻しても何もさせないつもりはないがな」

 

 ゴルドーは彼ら10人のことを放ってはおけないと判断する。今日のところは無理と言うのであれば、城に戻して明日以降もゴブリンを殺す訓練をさせないとならない。

 なのでゴルドーは戻る10人と共に戻ることにした。残された笹原を含むクラスメイト達は、笹原に続く形でゴブリンを殺す訓練を続けることになる。

 

「俺はここにいるけど、残りのみんなは覚悟を決めてほしい。この世界の前にゴブリンを殺せるくらいには慣れてもらわないと、今度はお前達がやられてしまうかもしれないから」

 

 笹原は戻る者達に強い目と声で言い放つ。笹原はこの世界へ召喚されてからずっとリーダーとしての役目を果たしている。

 クラスメイト達もそれをわかっている。なので戻る者達の心に響いた。そして、残った者達の心にも響き渡った。

 

「そうだな。確かにこのままだとやられかねない」

 

 笹原の声を聞いた者達は、生きるために覚悟を決めることの大切さを噛み締めた。亀田は弓士だが、震える両手では迂闊に弓矢を放つこともできない。

 だから弓矢を放たずにゴブリンが持っていたナイフを拾って、拘束されているゴブリンの喉元に突き刺して殺してみせた。

 次には笹原も剣でゴブリンの胴体を横一閃に斬り裂いてみせた。笹原もだが亀田もゴブリンを殺した感触がキツいのか、険しい表情を浮かべて堪えている。

 

「……後で吐くかもしれない、な。でも、やれた」

 

 それでも笹原はゴブリンを殺せた自分に驚いていた。自分でもこんなことができたことに驚いている。

 亀田もだが他のクラスメイト達も、笹原に続いて殺してみせた。なんとか慣れないといけないと覚悟を決めてみせたのを見て、ゴルドーは『これなら少しは期待できるかもしれない』と思えた。

 

「無理矢理だとしても、ゴブリンを殺すことに少しは慣れたかもしれないな」

 

 まだ全員ではないが、少しだけ前に進むことができた。ゴブリンを殺すことに慣れたと言えば過言だが、戦えないよりはマシだと思えた。

 その後も何回かゴブリン退治を続けた。残った全員がゴブリンを殺せたので、今日の訓練は無事に済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリン退治が無事に終わるとテンペウ城へ戻る。戻るなり笹原は気分の悪さを抑えながら、できずに終わった残り碇谷と鈴原を含む10人のクラスメイト達の元へと向かい説得の言葉をする。

 そんな中、憩いの場にもし始めている食堂内のクラスメイト達は。

 

「うえっぷ。やっぱりすぐには無理だったわ。慣れるのは難しすぎる……」

「だな。俺も気持ち悪い」

「けど、生きるためにはやれないと本当に危ないよな」

 

 今日の特訓を経てもゴブリンを殺すことは精神的に負担が大きい。それは誰もが思っている。だが、やらないと本当に危険な目に遭う。

 殺すことを慣れないといけないとわかっているが、まだ受け入れられない気分だった。

 

 

 

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