病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
「この音と臭いからして、大きな魔物が小さな魔物を食べてるな?」
「魔物って仲間同士で共食いするんですか?」
「ああ。強い魔物が弱い魔物を餌として食べることもある」
「そんな例があるんですか」
音と臭いの内容からして強い魔物が弱い魔物を餌として食べている。弱肉強食を地でいく光景が待ち構えているのを察する。
幸成がその辺りについて質問すれば、ゴルドーは『強い魔物が弱い魔物を餌とすることがある』と答えられると、幸成もだがクラスメイト達は言葉を失う。
「どうかしたのか?」
言葉を失った理由は弱肉強食が当たり前ではない世界の出身だからと、奥にある光景を予想してしまったから。
クラスメイト達はなんとか言葉を出そうとする中、幸成が先に口を動かす。
「この臭いの元は、ひょっとしてこの階層の主とか?」
「それはわからん。だが、身体が大きい上に音の内容からして、かなり喰ってるから覚悟しろ」
「うっ。もう嫌な予感しかしない……」
ゴルドーの返答に幸成は嫌な予感しかしないと呟く。クラスメイト達も嫌な予感しかしないと内心で呟く。
「ところで、ここのダンジョンの規模はどれくらいなの?」
「ここはまだ小規模だ。全部で10階層しかない」
「じゃあ、まだ2階層から3階層といったところですか?」
「まあな。ただ、この辺に大きな魔物がいるとは聞いてなかったから、油断はするな」
「はい」
ダンジョンの規模はまだ小さい方。全部で10階層しかない。ダンジョンの階層に関しては事前に聞いていたが、この先にいる大きな魔物は聞いてなかった。
その情報しか頭の中になかったゴルドーは警戒を促して進んでいく。兵士達も警戒する中、幸成達は覚悟を決めてゴルドー達に続く。
「グルルルゥッ……」
辿り着いた先では、大きな音と臭いの発生源の正体がゴブリン達を次々に喰らう大きな身体の魔物がいた。
竜の魔物ことドラゴンは獲物にした魔物達を喰い漁りながらも、ゴルドー達に気付く。
すると涎を垂らして、餌を求めるように低く唸り声を漏らす。
「ドラゴンかよ! 流石にこれは無理だろ!?」
餌になるつもりはないが、今から幸成達と共にドラゴンと戦うなんて無理だ。ゴルドーはそう思わざるを得ない。
「グルルアアアッ!」
可能なら即座に逃走をしたい。しかし、いつの間にか幸成達の後ろにはもう1体のドラゴンが現れる。
「挟まれたか!!」
「どうにかして逃げないと……!?」
逃げ場を失い、ゴルドーは焦り、兵士達も焦る。
幸成達も同じく焦る。
どうにかして逃げないといけないが、まず逃げられない。
絶体絶命。
普通ならそうだ。
ヴァルティがいなければ、だが。
「ドラゴンの肉って、美味しいのかな?」
「えっ?」
ヴァルティはそんな状況にも関わらず、ドラゴンの肉の味が気になるらしい。
両手を握り合わせて関節を鳴らしながら、餌にしようとしているドラゴン達を睨み付けていた。
その両目は笑っていない。
殺すと言いたげな雰囲気を醸し出している。
その上での発言だ。
「あ、あの……ヴァルティ? ちょっと冷静になろう?」
「ユキナリに食べさせる前に、私が試食するね。ドラゴンには毒があるかもしれないし」
幸成としてはドラゴンの肉云々の前に冷静になってほしい。
なのにヴァルティは『試食』と発言する。
「毒がないかを試食して確認するから、そこで見ていられるよね?」
「う、うん」
そして、ヴァルティはゴルドー達へ食欲を向けるドラゴン2体を見てみる。
その後、幸成達から見ると姿が消えたかと思えば、後ろにいたドラゴンの頭を殴り地面に叩きつける。
その音はあまりにも鈍く重かったし、地面に叩きつけられた音は激しかった。
「あれ? 手加減しすぎたかな? まだ生きてる」
頭を殴り落とされたドラゴンは呻き声をあげて起き上がる前に、ヴァルティは左拳を振り上げて、また頭を叩きつける。
「グガアァッ!?」
その際にヴァルティは『手加減しすぎたかな?』と言った。
またも叩きつけられたドラゴンは地面に大きな窪みが発生するほど強く殴られた。
殴られた箇所を中心に、大きな窪みができた状態で絶命していった。
「ヴァルティ……?」
「ユキナリに手を出したらこうなる。今度はお前がこうなる番だから、覚悟して」
幸成達は呆然としてしまう。
ヴァルティは強いのは理解していたつもりだが、ここまで強いとは思わなかった。
一方のヴァルティは未だに餌を欲するドラゴンに宣告をした後、前にいたドラゴンへ向かって駆け出した。
「グルアアァッ!?」
「遅い」
ドラゴンは炎のブレスを吐いてヴァルティを迎撃しようとする。
しかし、ヴァルティはあっさり避けながら接近して、ドラゴンの胴体に右腕を突き刺し入れる。
「ガアァッ!?」
突然の一撃にドラゴンは痛みで叫び、ヴァルティを振るい落とそうとする前に。
「
ヴァルティは小さく呟く。すると、ドラゴンの頭から無数の針に似た形状の鋭利な赤色の何かが生えてくる。
「ギャアァアアァッ!?」
その針に似た赤色の物体がドラゴンの血だと気付いたのは、ドラゴンが断末魔を上げながら絶命した後だった。
圧倒的に強いヴァルティにドラゴン達は殺される。その光景を幸成達は言葉を失いながら、見ていた。
「う、嘘だろ……?」
「ドラゴンをあっさりと殺しやがった……」
ゴルドーと兵士達は言葉を失った後、茫然となっていた。
ヴァルティがあっさりとドラゴンを殺したことに驚いていた。
ヴァルティの強さは本物だった。
その本物が幸成達の傍にいると安堵するが、同時に恐ろしくもなる。
「な、なあ、山本。あのヴァルティさんって、ヤバすぎない?」
クラスメイト達もあまりの光景に手元の武器を落としかけた後に、なんとか水村が声を出す。
その水村の言葉に他のクラスメイト達が同意するように頷く。
クラスメイト達から見てもヴァルティはヤバい強さを持っている。この強さは異常だった。
「よし。まずはダンジョンに食われる前に試食しよう。毒はないと思うけど、あったらマズいもんね?」
そのヴァルティはドラゴンを殺した後、何事もなかったかのようにドラゴンの死骸の血を操っての血抜き作業をする。
操る血を少しだけ飲むなり、ヴァルティは死骸を風の刃の魔法で解体し始める。
「ドラゴンに毒はなかった。後はお肉が美味しいか確認しないとだね」
「えーと……ゴルドーさん、ドラゴンを含めた魔物の肉は食べられるんですか?」
毒はないと判明したヴァルティは、次はドラゴンの肉の味を調べるために解体する。
それを見ながら幸成はゴルドーに、ドラゴンを食べても問題ないのかを確認する。
その際の幸成の声は震えている。
ゴルドーもだが奈々を含むクラスメイト達の誰もが、ドラゴンを食べるだの毒確認のために血を飲むという光景にドン引きしていた。
「一部の魔物の肉は食べられる。だが、主に食べるためにドラゴンを殺すという発想はなかった……」
ゴルドーは困惑しながらも答える。
ヴァルティの行動が突拍子もないせいで、どうしたらいいかがわからなかった。
「へえ? 食べられるんだ。なら、試しに焼いてみよう」
血抜きと解体作業が終わると、ヴァルティは魔法を使ってドラゴンの肉を調理しようとする。
手を動かすだけで地面から植物の蔦が生えては、肉を持ち上げて吊るす。
その肉を火魔法で焼いてみると、美味しそうな香りが漂ってくる。
焼かれながら肉汁が落ちてくるドラゴンの肉をヴァルティは眺める。
「念の為に中まで火を通さないとね。でなきゃ危ないかもだし」
火魔法で中まで火を通すことを忘れない。
そこから更に魔法を行使して肉を切り分けると、手掴みで食べてみせた後。
「美味しい! ユキナリ。これ食べてみて! 凄く美味しいから!」
ヴァルティは大喜びする。
ドラゴンの肉は意外にも美味しかったらしく、幸成に食べるよう勧めてくる。
「えっ? 俺が?」
ここで食べないと駄目なのか。
幸成はそう思う中、ゴルドーと兵士達の顔を見る。
「ゴルドーさん。ドラゴンの肉、俺が食べてみてもいいんですか?」
ゴルドー達からすれば、ドラゴンの肉は初めてのことだから、どう反応したらいいのかがわからなかった。
なので、幸成に任せる形になっていた。
「構わない。試しに食べてみてくれないか? 毒がないなら例え不味かったと知っても、非常食になるかと思う」
「わ、わかりました」
ゴルドーも兵士達も初めてのことなので、ドラゴンの肉を食べる場合は幸成が適任と思っている。
というかヴァルティが幸成に勧めているので、ゴルドー達も含めて迂闊に食べられないでいた。
なので幸成は意を決して、ヴァルティから渡された肉を恐る恐ると食べてみる。
一口齧ると、肉は柔らかくジューシーだった。
「あっ。案外と美味しい?」
「でしょ? ユキナリも気に入ったみたいだし、ついでだからみんなも食べてみる?」
ヴァルティの言葉にゴルドーも兵士達も、そしてクラスメイト達も驚く。
この流れだと必然的にドラゴンの肉を食べる羽目になる。
だが、幸成曰くドラゴンの肉は意外と美味しかったようだ。
「えっ? これを食うのか?」
「さっきまでゴブリンや他の魔物を食ってたドラゴンの肉だぞ?」
幸成以外のクラスメイト達は戸惑い気味な反応をする。
つい先程まで捕食者だったドラゴンの肉を食べるのは、正直に言うと遠慮したい。
「ラノベ系のノリでいくなら、ここは食べにいくものだろうけど……俺、食べたいとは思えないなぁ」
亀田も食べたいとは思えなかった。
流石にドラゴンの肉を食べることまでは想像していなかった。
しかもやられるまでは捕食中だったドラゴンの肉なのだ。
「まあ、ここは食べてみないとわからない。幸成はもう食べたから、私も食べてみようか」
そんな中、奈々が意を決して肉を掴み、一口食べる。
その後に味を確かめるように口を動かしていくと。
「……柔らかくて肉汁が溢れるばかりだ。塩とか胡椒があれば尚、美味しく感じるかも」
奈々はドラゴンの肉の味に驚いた。
調味料があれば、もっと美味しくなるだろうとも思った。
「そんなに美味いのか? なら、俺も食ってみるか」
ドラゴンの肉を食べること自体が初めてとなるゴルドーも、震える右手で焼いた肉を摘んでは意を決して口に入れて食べてみる。
「美味い! まるで高級肉だな! これなら非常食の前に高級食材にできるかもしれん!」
ゴルドーもドラゴンの肉を気に入ったようだ。
味付けができれば、もっと美味しくなるだろう。
そして、ドラゴンの肉は高級食材として売り出せそうだと考える。
「お、俺達も食べてみるか? 山本やゴルドーさん、田村が食べてみた感じならいけるかもしれないし?」
「わ、わかった。食ってみる」
ゴルドーも美味いと言うなら大丈夫かもしれない。
クラスメイト達もだが兵士達もゴルドーに続いてドラゴンの肉を食べていく。
「美味い!?」
「ドラゴンの肉はこんなに美味いのか!?」
「意外な盲点があったものだ!」
ゴブリンや他の魔物を食べていたドラゴンの肉は、意外にも美味しかった。
それに全員は驚きの声を上げる。
「お肉が美味しいなら、残りは持ち帰り。持ち帰らないと勿体ない」
一方でヴァルティはドラゴンの肉を食べ終えると、残りを持ち帰ろうとする。
ドラゴンの肉は高級食材になるかもしれないと聞かされた以上は、持ち帰った方がいいと判断していた。
しかし、ドラゴン2体分の肉を全員で持ち帰るのは不可能だ。
そんな方法はゴルドー達にも幸成達にもない。
「そうは言っても、持ち帰れないだろ」
「問題ない。私が全部持っていくから」
だが、ヴァルティは幸成に問題ないと言い張りながら。
「はっ?」
「へっ?」
「ほあっ?」
自身の影に魔力を込めて大きく広げるようにする。
その影の下に置かれたドラゴンの肉が次々に影の中へと沈んでいく。
ゴルドーと兵士達からすれば、まさかの出来事だったので唖然とする中、全てがヴァルティの影の中へと消えた。
「これでよし。これで他の魔物達に食われたり、ダンジョンに食べられることはないね」
それを成し遂げたヴァルティは満足そうな笑みを浮かべる。
まさか自身の影を利用して解決するとはゴルドーと兵士達もだが、幸成達もまたドラゴンをあっさりと殺したこともだが、今の能力にも驚愕する。
「この魔法は私がいた世界では珍しいものじゃないよ。なんならユキナリにもだけど、ついでにあなた達にも教えてみようかな?」
全員の驚愕をよそにヴァルティは影魔法は自身がいた世界では珍しくないらしい。
だから、ゴルドー達もだが幸成達に影魔法を教えるつもりらしい。
「……教える、だと?」
「うん。この影魔法はかなり便利だから」
ゴルドーはヴァルティの影魔法についてを知って、便利だと素直に思う。
しかし、幸成だけには甘いはずのヴァルティが全員に教えようと思う理由が理解できないでいた。
「なんで俺達にも教える気になったんだ?」
「簡単に言えば、私はあなた達を率先して守る気はない。けど、ユキナリはあなた達のことを気にしてる。それなら、私に頼るより自分達のことは自分達で守れるようになってもらった方がいい」
そう思う理由は質問したゴルドーや兵士達、クラスメイト達のことを幸成が気に掛けているからだ。
ヴァルティは率先して守るつもりはなくても、幸成を守るためなら多少は手を貸すつもりのようだ。
だが、それはあくまでも多少だ。積極的に守るつもりはないという態度を示している。
「なるほど。なら、その影魔法とやらを城へ帰る後に教えてもらうとしよう」
「影の収納くらいなら誰でも覚えられるから。そのついでに魔力操作の練習も教えてみる。もしかしたら、あなた達の役に立つかもしれないから」
「わかった。よろしく頼む」
「うん。じゃあ、後で教えるから一旦帰ろう」
テンペウ城へ帰る後にだが幸成とゴルドー達とクラスメイト達に、ヴァルティが影魔法を教えることになった。
幸成達もだがゴルドーもありがたいと思い、今は笹原達と合流してからテンペウ城へ帰ることになる。
ゴルドーと兵士達はダンジョンから出た後に、急いでテンペウ王にドラゴン出現の報告をしにいく。
ヴァルティの影魔法でドラゴンの肉は持ち帰ったので、後は王に報告するだけとなる。
ヴァルティの影魔法は、ドラゴンの肉を丸々全て収納することを可能とする。
ヴァルティがいた世界からすれば当たり前のものでも、ゴルドー達からすれば未知の魔法。
「それにしても、まさか弱い魔物しか出てこないと思われていたダンジョン内に、ドラゴンが2体もいたとはな」
王の間でゴルドーから報告を受けたテンペウ王は驚愕の表情を浮かべる。
ゴルドー達の報告が正しければ、ヴァルティがいなければ全滅していた。
もしいなかったらと思うと恐ろしくなる。
ゴルドー達という信頼できる者達が死ぬことを想像すれば、王という立場でも不安が込み上げてくる。
「これもダンジョンが増えている影響でしょうかね?」
王の間にはゴルドーだけでなく、王宮筆頭魔導師のペリエもいた。
ペリエもまた王と同様に驚いていたが、ダンジョンが増えすぎた影響かと思っている。
「それもあるかもしれません。出現したドラゴンについては、結果的になんとかすることができました。この事から考えられるのは……」
ゴルドーは後もう少しは幸成達の訓練の場として近場のダンジョンを利用したかったが、もうそうは言っていられない。
テンペウ王達に説明を続ける。
「……可能な限り早めに、ドラゴンが出たダンジョンを破壊した方がいいかと思われます」
ゴルドーが報告し終えると、テンペウ王は幸成達の訓練の期間を短くすることに決める。
そして、早めにダンジョンを破壊する案を出した。
破壊の理由は万が一を考えると、放置していては危険なため。
だが、幸成達はまだ準備ができてない。
しかし、待てる余裕はない。
これ以上待つと犠牲者が出てしまうだけだろう。
「……召喚した者達には申し訳ないが、準備期間は短くせざるを得なくなった。今すぐにではないが、すぐにでも他の者達にダンジョン破壊を開始するように命じる」
「王の仰せのままに」
テンペウ王は王としてゴルドー達に指示を出す。
ゴルドーとペリエは頭を下げ、指示に従う姿勢を見せた。
「それでゴルドー。先程に見せたドラゴンの肉や素材は、ヴァルティ殿からか?」
「はい。ドラゴンがいた証拠として提供してくれました」
「あのヴァルティ殿という女性が強すぎる。彼女だけで、多数のダンジョンを破壊してほしいと思うのは贅沢か?」
「王のお気持ちはわかりますが、我々からすれば未知数なので無理をお願いできないのです。なにせ彼女は、ユキナリの傍にいたいという目的しかありませんので……」
可能ならヴァルティ1人で多数のダンジョンを破壊してほしい。
そう思いたいが、ゴルドー達からすればヴァルティは未知数すぎる。
ヴァルティの目的はあくまでも幸成の傍にいたいという一点のみ。
テンペウ王達の目的とは一致していない。
「……こうなれば、ユキナリ殿をダンジョンの早期破壊に上手く巻き込むよう動いてみるしかないか?」
「それは難しいかと思います」
「ペリエ。その理由を聞かせてくれないか?」
「彼女はユキナリ殿が危険な目に遭うことを可能な限りで避ける傾向が強いと思われます。それに彼女は彼の傍にいることを強く望んでいる以上、下手に巻き込んだら何もしない可能性が非常に高い」
ゴルドー達も可能ならその手段を取りたい。
しかし、ペリエがテンペウ王が言葉にした手段は難しいと反対する。
理由はヴァルティは幸成を可能なら、危険な目に遭わせたくない。
なので下手に巻き込めば幸成を守るだけで、何もしない可能性が高い。
ペリエのこの推測は間違っていなかった。
「では、どうすればいいのだ?」
テンペウ王は他に手段がないかと聞く。
しかし、ペリエはいい方法が思い浮かばずに黙り込む。
ゴルドーも沈黙を保ったまま。
「とりあえず、召喚した者達の訓練を急がせるしかないか。その間に、ダンジョン攻略者……いや、今は破壊者としての実績を残せそうな者達を招集せねばなるまい」
テンペウ王は召喚した者達の訓練期間を縮めた上で、ダンジョンの破壊を行える者達の招集に動くことになった。
テンペウ王に招集を命じられた者達がダンジョンに到着して破壊するまでは、訓練期間はなるべく短くも伸ばさざるを得なくなった。
なので、しばらくはテンペウ城では慌ただしい日々が続くことになる。
その頃、幸成達は食堂で笹原から碇谷達の状況内容を説明されていた。
「幸いなことに今日に碇谷達もゴブリン達を殺すことができた。なんとか殺してみせたから、このままいけば無理じゃない。そうは思うんだが、まだまだ誰かのフォローが必要だな」
笹原が説得しながら碇谷達10人のクラスメイトに付き添った結果、碇谷達はなんとかゴブリン達を殺すことができたらしい。
だが、その様子からしてフォローが必要そうだと幸成は思いながら聞いていた。
「フォローがいる、か」
幸成はその言葉からして、これからのことについてを考えては頭を抱えたくなる。
ドラゴンの件も含めてヴァルティがいなければ、今頃は幸成達全員が死んでいたのかもしれない。
いや、間違いなく死んでいた。
ヴァルティの規格外な力があるから、なんとかなっただけだ。
「それでだな、山本。お前に無理を承知で頼みがあるんだが」
そのことを考えていれば、笹原から無理を承知で頼みがあると告げられた。
どんな内容かわからないが、今のところは聞くだけは聞いてみる。
「何かな?」
なんだろうと思う幸成に笹原は内容を伝える。
「碇谷達10人は精神が参っている。だからこそ美味い……と、いうよりは今は懐かしく思い始める白米と味噌汁とかが必須だと俺は思う。だから、頼みがある」
白米と味噌汁がここで出てくる。幸成も食べたいと思う。
「何をすればいいの?」
嫌な予感がしながらも、その頼み事を聞いてみるが。
「俺達も危険になるのは理解した上で、ヴァルティさんが言ってた植物を自由に使えるナニカを呼んでほしいんだ」
幸成にとっては、危険な可能性がある頼み事だった。
「えっ? ……えーっと」
「恐れたくなる気持ちは理解してる。だけど、俺達にとって必須になる可能性も高い」
だが、これは笹原達にとっては必須になる可能性が高い。
だからこそ無理を承知で頼んでいる。
「それはわかってるけど……」
それでも無理だと思える幸成は渋る。理由はヴァルティだ。ヴァルティは幸成を独占したいという傾向が強い。
そんなヴァルティが、ヴァルティ以外の存在が召喚されたらどうするかがわからない。
以前に言っていた殺し合いに発展するかもしれない。それだけは避けたい。
「山本。俺からも頼む」
「水村まで?」
そんな中、水村まで頭を下げて頼んでくる。その両目は真剣だった。
「ここ最近の山本を見てたからわかるけど、ヴァルティさんを怒らせるかもしれないナニカを呼ぶのは危険だと思う。それでもここは必要な危険かもしれない」
水村はここ最近の幸成を見ていた。その中でヴァルティの態度からして、幸成に執着しているのは理解している。
だからこそ危険だとわかりながらも、今は幸成に頼み事をするのは必要だと思っていた。
「山本だって、白米とかを食べたいだろ? だから、頼む」
水村もだが笹原もだが、クラスメイト達もまた同じだった。
白米が食べたい。味噌汁が飲みたい。
この異世界に召喚された当初は気にしていなかったが、やはり食べ慣れたものが食べたくなっていく。
特に今日はドラゴンの件も含めて肉体的にも精神的にも疲労したからか、可能なら今すぐでも白米と味噌汁を含めて食べたくなる。
「私としては賛成したいけど、反対かな」
だが、ここで空気を敢えて読まずに奈々は反対する。
「なんでだ?」
「理由は単純だよ。ヴァルティさんは確かに強い。けど、ヴァルティさんは幸成を独占したいと思ってる。それがわかるからこそ、無闇にナニカを呼んだらマズいと思えてしまう」
奈々はヴァルティが幸成を独占したがっていると感じている。感じた上で、敢えて反対する理由を述べた。
「確かにそうよ。ヴァルティさんは山本くんに執着してると思えるから、下手なことはやめた方がいいと思う」
「俺も反対だ。ヴァルティさんの執着心はかなり危ないと思う」
奈々に続いて、猪井と亀田が反対意見を述べる。奈々達の意見を聞けば、確かにそうだと思う笹原は。
「けど、白米や味噌汁とかが食べたいのは同感だろ。食べられないと思えば思うほど、食べたくなっていくぞ」
白米や味噌汁が食べたくなるのは同感だ。食べたいと思うからこそ、その手段が欲しい。
だが、ヴァルティが許してくれるだろうか。
「……一応、ヴァルティと話し合いをしてみる」
「幸成、それは大丈夫なの?」
しかし、クラスメイト達の気持ちと現状を考慮して、幸成はヴァルティと話し合いをしてみると言った。
それを聞いて奈々は上目遣いをしては心配してしまう。
「わからない。これは話し合ってみないとわからない」
許してくれるのか、許してくれないのかは話し合ってみないとわからない。
幸成はそう思う中で、クラスメイト達は話し合いをしてみると言ってくれた幸成に感謝する。
「山本。その結果がどうなるにしろ、ありがとう。俺達のために動いてくれて」
幸成の行動はクラスメイト達のために動いている。
それに感謝しながら、話し合いの結果は明日にでも聞くことにした。