病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
訓練のためにダンジョンへと向かう前に街から離れた外。
広めの草原にて幸成はペリエとヴァルティを連れて、新たなナニカを召喚しようとしていた。
「心の準備はいいかな? ユキナリ」
「うん。大丈夫」
ヴァルティの言葉に頷いて答えた幸成は、召喚しようとする。
その方法は本当に単純。
今からヴァルティに呼びたい誰かの名前を教えてもらい、その名前を幸成が言葉にするだけ。
それだけなのだが、呼んだ後からが大問題となる可能性がある。
本当にヴァルティと今から呼び出す誰かが、召喚後に殺し合いを始めないかが不安で仕方ない。
それでもクラスメイト達のためにも、やるしかなかった。
「今から呼ぶ名前はブリュテ。植物の大精霊ブリュテ」
「わかった」
ヴァルティから教えられた名前はブリュテ。
幸成は植物の大精霊の名前を心の中で唱えた後、口にする。
「ブリュテさん、来てください!」
幸成が言葉にした途端に、空から光の柱が落ちてきた。
「うわっ!? 眩しい!!」
光の柱は地面へ突き刺さるように降り立つと、中から色の深緑色の長い髪に白色のワンピースを着た美しい女性が現れた。
「やっと……」
一見すると人間にしか見えないその女性は、長い深緑の髪を揺らしながら、ゆっくりと地面に降り立つ。
「やっと、呼んでくれた……!」
降り立つなり女性は泣きそうになりながら、幸成に抱きついた。
「えっ!?」
「……っ」
いきなりの抱擁に驚く幸成。
そんな幸成と抱きつく女性を見て、ヴァルティは最初こそ何かを言おうとしたいが、もしヴァルティが同じ立場だったらと仮定すると、その気持ちが痛いほどわかる。
だから今は様子見も兼ねて我慢をしていた。
「ユキナリ。私、ブリュテは、とても長く待ち続けました。やっと呼んでくれたユキナリがいつか元の世界へ帰れるためにも、私は精一杯手伝います」
今に抱く感動を込めた抱擁をされた幸成は、目の前にいる女性ことブリュテはどのような過去を待っているかを気にしてしまう。
「俺は、ヴァルティから貴女の名前を教えてもらいました。だから一応、初対面のはずじゃ?」
ブリュテは幸成のことを知っている。
知っているが、それは別の世界の話のはず。
なのでヴァルティの時と似たようなことを聞こうとしてみる。
「ええ。初対面、です。ですが、ユキナリとは別の世界で会っています。会っていたからこそ、あのような別れをしてしまったからこそ、私はとても喜んでいるのです」
対するブリュテもヴァルティと同様の回答をして、ついでに抱擁も強めてくる。
彼女もスタイルがよく、豊満な胸が幸成の胸部により押し付けられる。
幸成の頭から湯気が出そうになる。
顔が真っ赤になりそうだ。
更にブリュテから漂う良い香りが鼻腔をくすぐってくる。
「ねぇ。貴女の気持ちはわかりたくなるけど、そろそろユキナリから離れて。そう長くは私の我慢が続かないから」
「わかりました。では、離れましょうか」
そんな幸成を見てはヴァルティがブリュテに離れるように言ってきた。
そうしないと、震える両手を握りしめているヴァルティが暴れかねない。
それと幸運なことに、離れる際に離れ難いと思うブリュテは争い事をあまり好まない性格。
なのでなんとか争い事に発展しないで済んだ。
幸成、ゴルドー、ペリエからすれば『今のところ』はが付いてしまうのだが。
「それでユキナリは、もしかして白米辺りが恋しくなってるのですか?」
「なんでわかったんですか?」
「私が知るユキナリも、白米が食べたいと私に頼み込んできたので、今もなのかなと思いました」
「そ、そうです。今からでも白米を含めた日本の食べ物を、俺とクラスメイト達が食べられるようになりますか?」
名残惜しげに離れた後のブリュテの言葉を聞いて、幸成はなんとか平静を装っては白米が恋しくなってることを認めた。
「もちろんです。実は私がいた世界にて、ユキナリが住んでた日本という場所にある作物を育てていました。その中には米もありましたよ」
その頼み事はブリュテからすれば難しいことではない。
ブリュテが知る幸成から色々な作物についてを教えてもらい、幸成が元の世界へ帰れるようブリュテなりに努力していた。
まあ、今はまだ内容は説明されていないが、訳あって帰れることなく終わってしまったが。
「ユキナリがいた世界の食べ物については大丈夫です。ですが、必要な土地と畑が必要ですね。可能なら、それらを用意してください」
「場所については後でゴルドーさん、ペリエさん。もしくは他の誰かに相談してみます」
だからこそ、この世界に召喚された幸成の頼み事は引き受ける。
そのためには土地と畑が必要なのも事実。
それは幸成からではなく、ゴルドーかペリエから誰かに相談してもらうことにして、後は任せるしかない。
「わかりました。では、私はそれを待っています。……ところで、貴女がヴァルティさんですね?」
「ヴァルティでいいよ。私も貴女のことはブリュテって呼ぶから。ユキナリの知り合いなら、遠慮は要らないでしょ?」
ブリュテがヴァルティの方を向き名前を口にしたので、ヴァルティは呼び捨てでいいと返す。
「そう、ですか? わかりました。私も遠慮は要らないですね」
「うん。ユキナリの知り合いなら、ね」
「では、ヴァルティ。私から言わせてもらいたいことがあります」
対するブリュテも了承した後、ブリュテなりに言わせてもらいたいことがあると告げる。
それはなんなのかと思う幸成と、警戒を強めていくヴァルティ。
「何を言いたいの?」
「ユキナリを独り占めしないでください。私にもユキナリと一緒にいる時間をください」
ブリュテが望むのは、ヴァルティが幸成を独占しないでほしいと願うことだった。
その願いを聞いてはヴァルティは眉間へ皺が寄ってしまう。
「そんなことを言うんだ?」
「はい。その代わり、私は貴女の時間を可能な限りは奪いません。貴女は貴女で、ユキナリと一緒にいればいいと思います」
皺を深くしたヴァルティに、ブリュテはヴァルティが望む時間は奪わないと言った。
だから、幸成の時間を独占するなと訴える。
ブリュテからすれば、ヴァルティだけが幸成を独占するのは間違っていると訴えた。
「あっ。胃が痛くなってきた気がする……」
この2人の会話は幸成の胃にかなり厳しいストレスを与える。
胃が痛くなりそうな内容の会話を始めるから、幸成は心の底から胃薬が欲しいと願いたくなる。
「ペリエ、これはマズくないか? 今は離れた位置にいるから、何かが起きても逃げるだけならできそうだが……」
「まだそれは可能ですが、この2人の会話が長引いたら何が起こるかが不明ですね」
胃薬が欲しいと思い始めた幸成と、ヴァルティとブリュテの様子見をするゴルドーとペリエは、このまま何も起こらないことを祈るしかない。
「それは貴女にも言えるよね? 私の大事なユキナリを独占しないでほしい」
「そこは理解しています。叶うなら独占したいというヴァルティの気持ちはわかります。ですが、それは無理である可能性が高いです」
対するヴァルティはブリュテにも言えることだと言い返す。
そんなヴァルティにブリュテは理解を示す。
叶うなら独占したいが、それは無理である可能性が大きいのを知っている。
何故にかと聞かれれば、ヴァルティはブリュテの口から語られる内容がなんとなくわかる。
「私とヴァルティの他にも、ユキナリに呼ばれたがっているナニカ達がいますから」
「知ってる。あと3人はいるよね? その3人もユキナリに呼ばれたがっている」
その通り、ブリュテの他にもヴァルティに匹敵するナニカが3人いる。
ブリュテとヴァルティはそれを知っているから、お陰で互いの願いが無理である可能性が高いとわかっている。
「今は私とヴァルティだけですが、そのうち他の3人もユキナリに呼ばれることになるでしょう。その3人もまた、ユキナリのことが好きです」
「……それは、そう、だけど」
「それに、『時間制限』もありますから」
ヴァルティもそれを知っている。幸成に呼ばれたがっているナニカの他に、『時間制限』とやらがある。
その内容を幸成が知ったら、ショックを受けるかもしれないが。
「時間制限? って、何の意味があるの?」
初めて聞いた言葉の意味が幸成はわからず尋ねると、ヴァルティは仕方なく説明を始める。
「長いこと召喚しないでいるのは無理ってこと。ブリュテのようにユキナリに会いたいという想いを持ったナニカ達は、時間制限が来たら自動的に召喚されちゃう。それに抗うのは無理なんだよ。それが胡散臭いナニカとの約束だから」
「つまり、召喚するのが早いか遅いかの違いが出ると?」
ヴァルティの説明からすると、ブリュテもだが他3人も幸成を知っているナニカは召喚の時間制限が来る。
それが来たら自動的に召喚されてしまう。
それが約束の内容である以上、ヴァルティもブリュテも抗うことは叶わない。
ヴァルティがブリュテを召喚したがる幸成を妨害したのは、少しでも先延ばしにするため。
「時間制限が来るまでの間にユキナリを私だけのものにできればよかったんだけど、それは今からだと無理そうだよ」
先延ばしにしておけば、その間に幸成を独占できるかもしれない。
だが、今からではそれは叶わないかもと諦めかけてしまう。
幸成としては胃に相当なストレスが溜まっていく気がするが、ヴァルティはブリュテが召喚された以上は先延ばしにしても無意味に近いと気づき始めてしまった。
「おい。今の聞いたか? 時間制限が来たら自動的とか言ってたぞ」
「そうですね。その時間制限が来たら、今よりとんでもないことになるかもしれませんよ」
「それはわかるとかの前に、まず胃に穴が空きそうだ……」
ゴルドーは今聞いたことから、時間制限が来たら更にとんでもないことになると察した。
この中では誰よりも冷静なペリエでさえ、今のヴァルティとブリュテの会話を聞いていて胃が痛くなりそうだった。
「……まあ、それはともかく、今は畑にする土地を用意するのが先だと思います。私ができることならユキナリ殿の頼み事は引き受けますので、お好きな土地を用意しますよ」
その胃痛の前に、畑にする土地を用意することが先だとペリエが言った。
その言葉を聞いて、この場では幸成が答えるしかない。
「お願いします。では、城に戻りながら、この後について相談しましょう」
「そうだな。ペリエ、どこの土地が適切なんだろうか」
「そうですね。今からいくつか候補を上げてみましょうか」
幸成にペリエとゴルドーも同意をすると、今から畑に最適な土地を考えるために頭を働かせる。やはり畑については農民達に聞いた方が早い。
ペリエ達もそれに関しては理解している。なので城に戻ったら、農民達に聞き込みを始めることになった。
クラスメイト達を連れて行ったダンジョンはまた別の日に向かうことになり、今日は農民達への聞き込みを優先することになった。
その後に農民達からの意見を聞いた上で安全かつ、まだ耕し始めていない土地を見つけるとブリュテに頼み込もうとする。
「ここの土地なら問題なく育てられます。ただ、このまま即座に米や野菜、果物などを成長させたら土が痩せてしまいますので、私の魔力を栄養とした上で育てていくしかないです」
「ブリュテさんはそんなこともできるんですね」
ブリュテが召喚されてから数時間が過ぎた頃、幸成達は農民達から意見を聞いた上で、まだ耕し始めていない土地を教えてもらい向かった。
そうすると、ブリュテが確認するなり普通にやると土が痩せてしまうと言った。
流石に痩せさせでもすれば農民達からの非難を浴びかねないのもあるが、人々の飢餓にも繋がりかねない。
「でも、そんなことしたらブリュテさんが疲れたりしませんか?」
「いいえ。私からすれば大した消費にはなりません」
「じゃあ、お任せしても?」
「お任せください。後、私のことはブリュテと呼び捨てしてください。さん付けのままですと、距離感を感じてしまいますので」
なのでブリュテが自らの魔力を栄養に変換した上で育てるようにする。
それを聞いた幸成は心配をしながらもブリュテにお願いすると、ブリュテは幸成に呼び捨てにしてほしいと頼み込む。
その際、ヴァルティはブリュテを少しだけ睨んでいる。
ブリュテは今のところ気にした素振りを見せないが、ヴァルティは気になってしまうらしい。
「魔力を作物の栄養にする? そんなこと、できるのか?」
「魔法というものが存在するなら、魔力自体は誰もが持っています。それらを変換すれば、不可能なことではありません。……あくまでも理論上はですが」
今に聞いたことに関して、ゴルドーが驚いている。ペリエも、他の兵士達もゴルドーと同じく驚きを隠せないでいる。
作物の育成には基本的に肥料で栄養を与え、水を与え、太陽の光を当てるのが一般的。
だが、ブリュテが行うのは自らの魔力を作物の栄養にするというもの。
そんな方法はペリエも見聞きしたことがない。なので驚きを隠せないでいた。
「ユキナリが恋しくなっている米についてですが、お好きな品種はありますか?」
「えっ? ……可能なら、ここは新潟産のコシヒカリをお願いしたいです」
「ひんしゅ? コシヒカリ? 何それ?」
ゴルドーとペリエ達が驚くのをよそに、ブリュテは幸成から米の品種を尋ねてくる。
その質問に幸成が『新潟産のコシヒカリ』と答えると、ヴァルティが首を傾げて聞きたくなる。
「米の中では1番美味しいとされている米の名前」
「私は米を食べたことがないから、そのコシヒカリもわからないよ」
「日本人にとっては主食だから、そこは拘りたい」
聞きたくなるヴァルティに米の種類の1つだと幸成が説明すれば、ヴァルティは米そのものを知らないからコシヒカリも知らない。
そのため、そこまで拘ることなのかと不思議に思う。
幸成としては日本人が米を食べたいとなれば、新潟産のコシヒカリ。
日本人からしたら最高とされる米の1つ。
「米がないと日本人としては気力が湧かないんだよ」
「そうなの? なら、ブリュテが育てたら食べてみたい。味が知りたい」
この場にいる幸成もだが、今はテンペウ城内にいるクラスメイトも米を待っているだろう。
ヴァルティも幸成がそこまで拘るなら、味が気になったらしい。
「では、これからコシヒカリを中心に育てていきます。他に食べたい野菜や果物などがあれば、召し上がりたい品種があれば、また教えてください」
「わかりました。……では、お願いします!」
「はい。任せてください」
作物を育てる準備を進めるブリュテに幸成が期待を込めながら頼み込むと、ブリュテは笑顔で引き受ける。
笑顔で引き受けたブリュテの両手から淡い緑色の輝きが発せられ、ブリュテの両手から離れていくと土地の土全体に吸い込まれていく。
「ここからは一気に!」
吸い込まれた後、ブリュテが土へと下げていた両手を上へと持ち上げる。
持ち上げるのと同時に。
「おおっ!? 様々な作物が飛び出すように育ったぞ!!」
土からは様々な作物が飛び出すように育っていくことに、ゴルドーが大声を上げる。
育ちきるまでに僅か10秒。
10秒というあまりの短時間で育ちきった米や野菜、果物などが畑の隅から隅までを埋め尽くすように育てられる。
ゴルドーとペリエも、兵士達も農民達も、頼み込んだ幸成も呆然となってしまった。
なんとも言えない絶句、という言葉が似合うほどの光景だった。
「今のところは木から実るものは作りません。理由はこの土地だけではそこまでは育てられないと判断したためです。他にも土地が必要だと思います」
その中で唯一、ブリュテだけが冷静だった。今のところは木から実るものは作らない。
理由はここだけの土地では足りない。
他の土地を利用しないと果樹園を作れないと判断したから。
ブリュテの判断に幸成達は納得はしている。
納得はしているが、まだ呆然としていた。
「あれ? みなさん、どうしたのですか? 何を呆然としてるのですか?」
「……いや、ね。普通とは程遠い形で作物が育つなんて、ワシらは初めて見たからなんだが」
「そうですか? これでも抑えた方なのですけど」
そんな中で中年男性の農民がブリュテの言葉にそう返す。
対するブリュテは抑えた方だと返してしまった。
「抑えた方? そりゃあ一体、どういう意味だい?」
「この土地で育てられる範囲内で魔力を作物に与えただけです。なので、かなり抑えている方です」
その言葉の意味を農民が更に尋ねると、ブリュテは土地の範囲内で魔力を与えただけと答える。
つまり、広い土地をブリュテの魔力だけで育てるようなことも可能。
それを聞いた農民達もゴルドー達も、またしても驚いてしまった。
「それよりもユキナリ。これでお米を初めとした食べ物が、この世界でも食べられるようになりましたよ」
その中でブリュテは気にせず幸成に声をかけてくる。
穏やかに微笑んでくるブリュテからすれば、育てた後のことの方が気になっている。
「えっ? ……あっ。はい! ありがとうございます!」
本当なら幸成も言葉が出ないままだったが、ブリュテに声をかけられたおかげで我に返る。
返るなり、ブリュテへ感謝の言葉を言った幸成は急いで米などの野菜と果物を収穫することになった。
収穫は主に農民達にやってもらい、兵士達や幸成は荷馬車を使っての運搬担当となった。
ゴルドーとペリエは収穫した作物を収める場所の割り当てと、収めた後にどう分配していくかについてを相談。
危ない綱渡りをした気分になったが、収穫物を収めるだけ収めることができた後の幸成達はひとまずクラスメイト達がいる場所へと向かうのだった。
テンペウ王城の食堂内まで戻ると、幸成は笹原と奈々に今回に起きた事の内容を説明をすると。
「……すまなかった、山本。そして、ありがとう。俺も含めたクラスメイト達の我儘を聞いてもらえたのは本当に助かる」
笹原が真っ先に頭を深く下げてきた。
それは幸成に我儘を聞いてもらえたことに対する謝罪と感謝だった。
もしかしたら召喚後にヴァルティとブリュテが険悪極まりないことになり、最悪の形で殺し合いになっていたかもしれなかった。
そうならずに済んで良かった。そう思いながら幸成は笹原に大丈夫だと告げる。
「いいよ、笹原。俺としても米を食べられないのは辛いから」
本心半分の言葉を幸成は言う。
残り半分は危惧していた殺し合いに発展しないで済んだことによる安堵だ。
「山本。俺達のために本当にすまない。それと、ありがとう」
「本当にありがとう……ところで、ヴァルティさんと、ブリュテさん、だったか? 2人の仲は大丈夫なのか?」
亀田と水村が続けて謝罪と感謝を述べて、その後にヴァルティとブリュテが険悪ではないかと心配して尋ねてきた。
ヴァルティはドラゴンを秒殺するほどに強いなら、ブリュテも同じくだろう。
その2人が派手に暴れることはないのかと、心配になるのは当たり前のことだ。
「そこは私も気になる。幸成、実際のところはどうなの?」
奈々も内心穏やかではない。なので心配して尋ねると。
「今のところは大丈夫、かな。お互いに相手を牽制してるような感じはあるけど、今は大丈夫だと思う」
ヴァルティとブリュテは、互いの存在を認識してからの強い睨み合いはない。
寧ろ今は何か話題にして、会話を食堂の隅でしている。
一体何を話し合っているかはわからない。
あまりにも小さな声で聞こえないからだ。
「だから、今だけはよかったと言えるよ。けど、まだブリュテの他にあと3人は呼ばれたい存在がいるらしいんだよね」
そんなヴァルティとブリュテを見ながら、幸成は今のところは問題はないが、ブリュテ以外にも3人。
後3人ほど、幸成に召喚されるのを望んでいる存在がいると教えてくる。
「えっ? それ、大丈夫なの?」
「今のところは問題ないけど、その3人も俺を知ってるみたい。だから、その3人の性格がどんなものかによっては危険になるかも」
奈々からすればその3人もまた、ヴァルティとブリュテの同類だということだ。
だからこそ危険になる可能性も考慮しないとならない。
だが、今はブリュテが育ててくれた作物の主に米。
それらをどうするかを考えるのが先だ。
「3人がいつかに呼ばれる、または現れてくるのは後で考える。それより今はブリュテの野菜と果物、それと米についてをどうするかだね」
「そうだな。今すぐにでも米を炊きたいところなんだが、俺達は今まで電気の炊飯器しか使ったことがない。手作業による炊き方を知ってるわけじゃない。そこは考えないとならないぞ」
今はいつか現れる3人どころではない。
幸成と笹原は米を手作業のみで炊いた経験がないので、どうするべきかを考えないといけない。
米の研ぎ方なら知っているが、そこからの炊飯作業はどうしたものかと、またも頭を悩ませるしかない。
「私は知ってる。我が家の炊飯器はガス火だから、火加減さえ掴めば炊けないことはない」
「佐伯さんか。ここで頼りになるね」
「幸いなことにね」
そこにクラスメイトの佐伯が火加減さえ掴めば、米の炊き方は知っていると言った。
幸成達からすれば意外な救世主登場とばかりに驚く。
「まずはここ食堂の厨房は薪なのか、それとも魔道具か何かによるものなのかを調べる。その次に炊くための大きな鍋があるのかどうか。これらを調べないと話が進まない」
そう言うなり佐伯は炊飯するための火元は薪なのか、はたまた魔道具なのかを調べると、次に米を炊くのに適した鍋があるのかを調べに食堂の厨房へ行く。
しばらくの間は鍋を探したりする物音がした後、佐伯が戻ってきてからの。
「幸いなことに魔道具だった。これなら米が炊ける。鍋も特大サイズのものがあったから、それで白米を炊いてみよう」
という、希望しかないとしか思えない報告があった。
「ただ、少し問題がある。ここの鍋は米を炊くことを想定してないから、最初は何回か火加減を間違えて焦がすかもしれない」
だが、炊飯を想定されてない鍋だから火加減を間違えるかもしれないという問題があった。
佐伯は専用の物で炊いた経験しかないため、まずは少量の米から試してみてからの量を増やす方針にすると告げてくる。
「最初は小さな鍋で試すよ。大きな鍋で米を炊くのは、今は怖い」
「そうだよね。せっかくの米を台無しにしたくない」
確かに小さな鍋で試す方がいいかもしれない。大きな鍋でいきなりやったら、米を台無しにするかもしれないと幸成は頷く。
「山本くんが肝を冷やしてまで、なんとかしてくれた。なら、次は私の番。米が炊けるように頑張るよ」
「ありがとう、佐伯さん」
佐伯は幸成達が米を食べられるように尽力することを決意すると、米の袋を抱えて厨房へ向かう。
「米の件は佐伯のお陰でなんとかなりそう。それはいいことなんだけど、ヴァルティさんとブリュテさんは何を話し合っているんだろう?」
向かうのを見送る後、奈々は未だ小声の会話をやめないヴァルティとブリュテに視線を向ける。
「あの2人が会話してるなら、今は俺のことが話題になってるのかな?」
「普通なら自意識過剰、と言いたいところだけど、幸成が2人の相手だしね……」
その会話の内容は幸成についてかもしれない。
そう思った幸成だが奈々は自意識過剰としか言いたくなる。
だが、可能性は高いと見ていた。