病喚士物語 ~訳あり女性達の愛が重い~ 作:タスケ
実際のところ、小声で会話をするヴァルティとブリュテは。
「……そっか。貴女も貴女で、苦労したのね」
「……はい。私の目の前でユキナリは、私と土地を狙いに来た異民達に……」
「それ以上は言わなくていいから。私もユキナリを人間達に奪われてるから」
互いに過去を教え合っていた。
ヴァルティが知る幸成と、ブリュテが知る幸成が異世界にて、どんな生を送り、どうしたのかについてを語り合っていた。
「ユキナリがいなくなった後は、世界から色彩が無くなったようでした。私が存在する意味さえ失ってしまいそうだった時、あの何者かの声に導かれました」
「私も。私もユキナリを奪われてから、ずっとずっと、泣いてた。何もする気も起きなかった」
2人の共通点は幸成を亡くしてからというもの、世界から色彩が無くなったようとなり、自分自身の存在意義と心すら失いかけた。
その果てに『胡散臭い何者か』に導かれた結果、『病喚士』という天職が幸成に授けられることとなり今に繋がっている。
「何を考えてユキナリを病喚士とやらにしたのかはわかりません。ですが、今のユキナリと出会えるようになったのは、あの何者のお陰であることは確かです」
「同感。だからこそ、今のユキナリを失うわけにはいかない」
「ええ。今度こそ必ず守ります」
今の幸成と再会できたのも『胡散臭い何者か』のお陰であることは間違いなかった。
なので今の幸成を、今度こそ守ると2人は誓う。
ただ、この2人が導かれた結果、残りの3人も召喚されることを望んでいる。
「ところでさ、ブリュテ。ブリュテがここにいるってことは、今までいた場所を捨てるようなもの。それの後悔とかある? ちなみに私はない。ユキナリがいない世界は意味がないから」
「……正直に言いますと、土地と人々を見捨てたようなものです。それの反省はしていますが、後悔はありません」
「そう。そこは同じだね。後悔はない。ただ、ユキナリには申し訳ないと思ってる」
「それは私もです。結果を見ればユキナリの心労を増やしてしまったのは事実です」
今までいた場所、世界を捨てて現れたのは事実。
2人に後悔はないが、反省するべき点はあるのも事実。
幸成の心労を増やしてしまったと自覚をしている。
「ですが、同時に今の私は心が舞い上がってばかりです。ユキナリにまた会えたことで、歓喜しています」
「あんまりはしゃがないでほしいんだけど? まあ、気持ちはわかるよ。私もまたユキナリに会えたから、私も今でも嬉しくなってる」
「私がいた世界の人々には申し訳ないとは思いますが、今は幸せです」
幸成に再会できて嬉しいのは否定できない。
甘えたくて仕方ない気持ちでいっぱいになるブリュテにヴァルティは釘を刺す。
だが、ヴァルティも今のブリュテと大差はない。
だから、可能な限りは幸成のペースに合わせる形でいることを選ぶ。
「残酷だね。ブリュテがいなくなった後の世界がどうなるかはわからないのにさ」
「……後悔は、ありません。ただ、反省するべきだとは思います。その上で、私はユキナリに甘えたいです」
「そこは私も同じ。ユキナリが拒絶しなければ、いっぱい甘えたい。添い寝以上のこともしたい」
ヴァルティはまだしも、ブリュテは残酷なことをした。
世界を、土地を、人々を見捨てた。
その上で幸成に甘えたいと思っている。だからこそ、後悔はなくとも反省する。
「今のところはですが、私はヴァルティと仲良くできると思います。どうでしょうか?」
「私からは、まだ何も言えないかな。一応は貴女の力と性格は知ってるけど、今はまだ何も言えないよ」
ブリュテからすればヴァルティとは仲良くしたい。だから、仲良くなるために努力するつもりだった。
対するヴァルティは保留である。
互いに幸成を慕っている以上は、無闇な敵対は避けたい。
互いに敵対は避けておきたいと思いつつも、今は幸成から離れたくない。
「ところでヴァルティ。先程、貴女はユキナリと添い寝をしてそうな言葉がありました。それはどういうことでしょうか?」
そんな中でヴァルティの先程の言葉が気になるブリュテは尋ねる。
対するヴァルティは即座に答える。
「そのままの意味だよ。私はユキナリと添い寝してる。昨日辺りからだけどね」
「それはズルいです。私にもユキナリと添い寝する権利があります」
もし、幸成がこれを聞いたら「勘弁して!?」と言いそうなやり取りである。
ここでブリュテも加わったら、幸成の理性が高確率で崩壊しかねない。
「……それにしても、私としては意外かな?」
「何がですか?」
「思ってたより私は、ブリュテに敵意や警戒心を向けてない」
ブリュテの質問に答えた後、ヴァルティは今の自分が思ってたよりブリュテに敵意や警戒心を向けていないことに、ヴァルティ自身が少し驚いていた。
それはブリュテも同様で、予想よりヴァルティに敵意と警戒心を向けていないからこそ驚いていた。
「私もです。私の予想だと、もしかしたら戦闘になるかもと警戒していたのですが、実際のところはその気配がほとんどありません」
「やっぱり貴女もそうなんだ? 予想と違ってたら、拍子抜けだよね」
「そうですね」
互いに思ってたより自分達は仲良くできるかもと思えるほど、敵意も警戒心も薄かった。
それが2人には拍子抜けであり、嬉しい誤算だった。
だから2人は『もしかしたら今後も戦闘になることはないのかも』とすら考えてしまう。
「? なんか、少し焦げ臭くない?」
「これは、お米を焦がした臭いかもですね」
「……失敗かな?」
その時、ヴァルティが焦げた臭いがすると言い出し、ブリュテも同様の臭いを感じた。その臭いは米を焦がした臭い。
どうやら佐伯自身が予想していたように、最初は失敗したらしい。
「お米を炊くのは慣れないと難しいと、ユキナリが言っていました。今はそっとしておきましょうか」
ブリュテはそっとしておこうと言うと、ヴァルティは頷いた。
これは幸成達が乗り越えるべきだとした。
その後、幸成と奈々が気になって厨房に向かってみると、佐伯が涙目になりながら失敗した米を食べようとしていた。
「失敗してしまったみたいだけど、大丈夫?」
幸成は涙目になった佐伯に声をかけると、佐伯は気まずそうに答える。
「いくら少量のみとはいえ、大事な米を無駄にした。幸い、大鍋でやらなかっただけマシとは思うんだけどね」
失敗してしまった米は台無しになり、佐伯の食欲も萎えてしまう。
そんな米を幸成が1口、スプーンを持つなり掬い食べてみる。
「あっ、山本くん!? そんなのを食べたら駄目だよ!!」
佐伯が止めようとするが、幸成はそのまま咀嚼して飲み込む後に。
「焦げ臭さが白米の味を殺してる。けど、同時に懐かしさも覚える。今ならだけど、俺は美味いと思う」
失敗した焦げた白米を美味いと言った。
それを聞いた佐伯は沈黙した後、幸成にお礼を言う。
「…………ありがとう、山本くん。今はその言葉が嬉しいよ」
このまま何度も米を焦がす失敗をしていたら、佐伯は自分を責め続けていた。
責め続けて自棄になっていたかもしれない。
「幸成。いくら焦げたのとはいえ、真っ先一番に白米を食べるのはズルいと思う。私も食べたい」
「いや、ごめん。久しぶりの白米があると思ったら、つい食べちゃってさ」
「えっ? 田村さんも食べる気なの?」
更に奈々も食べると主張する。
そんな奈々の言葉に佐伯は驚いてしまう。
「私も白米が恋しかったし、佐伯が真面目に頑張ってくれてるのは知ってるから。だから私も食べる」
「田村さんも、ありがとう」
奈々が焦げていても白米を食べたそうにしていることに、佐伯は再び感謝を言う。
その後に奈々も焦げた白米を食べると。
「……正直、美味しいとは言えないけど、不味いとも言い難い。けど、本当に懐かしいね」
不味いとも美味いとも言えない微妙な味だと評価したが、同時に懐かしいとも感じた。
その理由は白米の味を知っているからだ。
「そうなのか? 俺も食べてみてもいいか?」
「いいよ。美味しいとは言えないけど」
「不味いとも言い難い、か……」
そこに笹原も焦げ臭さに気づいて厨房に来たようで、不味いとも美味いとも言えないという焦げた白米を味わおうとする。
「あー。確かに微妙な味だな。だが、懐かしい気がする」
「今は美味しいとは言えないけど、懐かしいよね」
笹原も同様の感想を言う。
美味しいとは言えないが、不味いとも言い難い微妙な味。
しかし、そこには懐かしさもある。
その感想に奈々は同意した後に、今後の炊飯方法を考えようとする。
「佐伯さん。失敗した理由はわかる?」
「思ってたより、ガスコンロのような魔道具の火力が強いみたい。後、火力の微調整が難しくて強めの火力だった」
「わかった。それじゃあ、今度は真ん中辺りの火力でやってみたらどうかな?」
「わかった。そうしてみる」
幸成はまず失敗の原因がわかるかと尋ねてみれば、魔道具の火力調整が思ってたより難しく、火力が強かった。
なので今回は程々の火力で試してみることにすると決まった。
その火力で米の炊き方を佐伯が知る方法で15分をかけてやってみれば、今度は大成功。
「おおっ! 久しぶりの白米の味だ……!」
「本当に懐かしい。噛み締めたくなる!」
「白米の味は、やっぱりいいね……」
炊き上がれば味見として幸成達が食べれば、感動に近い何かを感じた。
特に奈々は思わず、瞳に涙を浮かべていた。
「……よし! 頑張るよ! 山本くん達のためにも、もっと美味しく炊けるようになるから!」
そんな幸成達の様子を見ては佐伯も俄然やる気が出てきた。
だからこそ、次の米を炊くために奮い立つ。
その姿を幸成達は応援したくなる。
「おっ? この匂いは……これからは白米が食べられるようになるのか。本当に、山本のお陰だな!」
ここで白米の匂いに釣られて水村も厨房へ来て、佐伯が奮い立つ姿を見ては幸成に感謝する。
「最初はどうなるかと思ったけどね」
「ああ。山本は病喚士……何かがヤバい誰かを呼び出しそうな天職だからな」
「それは言わないでほしいかな。俺だって後からがヤバいと感じてるんだ」
呼び出した本人である幸成自身もヤバいと思う。
今のところヴァルティとブリュテは仲良くかはわからないが、不穏な様子はないまま会話している。
それでもヤバいと思う理由は、ここから先からは何が起きてしまうかがわからないからだった。
「そうは言っても、だ。そのヴァルティさんとブリュテさんは山本を大事にしようとしてるみたいだから、少なくとも命がなくなることはないと思うが?」
「それのヤバいって意味じゃなくてさ……」
水村にもだが、クラスメイト達には説明していないことがある。
それは、ヴァルティとブリュテは別の世界にいた幸成を知っている。
だからこそ2人は幸成に対し、並々ならぬ感情を持っている。
残りの3人もまた、幸成に対し並々ならぬ感情を持っているのではと考えられる。
その考えが当たりなら、いつか来る3人を迎えることになったら、果たしてどれだけ苦労する羽目に陥るのかと不安で仕方ない。
それがヤバいと、幸成が思う理由だった。
それから時間が経つ後、今日の夕食に白米が出てきたことに碇谷達は歓喜した。
その日の白米は幸成達だけでなく、ゴルドー達やテンペウ国の騎士や兵士達も試食することになった。
一口、二口と食べてみれば、これまで食べたことのない味に驚いてしまうなり。
「こりゃ美味い! 下手したら白パンよりも美味いかもだ!」
ゴルドーは気に入ったのか、お代わりを要求して白米を食べ続ける。
その日、多くの者が白米の美味さを知ることとなると、兵士達と騎士達も白米をお代わりした。
「嬉しいな。でも、なんでここに白米があるの?」
その中、碇谷が尋ねてきた。
それを聞いたゴルドーとペリエは互いの目を見合う後、ゴルドーが軽く頷きペリエに説明を任せた。
「これはユキナリ殿が今日に召喚したブリュテ殿の力により、急速に育てられた作物です。なので、ここに米があるのはそのユキナリ殿とブリュテ殿のお陰なのです」
「じゃあ、明日からも白米が食べられるの?」
「その通りになります」
「やったぁ!」
ペリエの説明を聞いた碇谷は明日からも白米を食べられるかと聞けば、ペリエは頷いた。
それを聞いた碇谷は歓喜する。
やはり白米が恋しかったのだろう。
「今だけはノリよく言わせて! 山本くん、愛してる!」
だからといって、その言葉はあまりにもよくなかった。
愛してるとの言葉を聞いた途端、碇谷が女子なのもありヴァルティとブリュテの両目が鋭くなる。
「……へぇ? ユキナリにその言葉を向けるんだ?」
「…………ノリよく、ですか。いくら嬉しかったからといって、その言葉は軽々しく使うものではないですよ?」
「あっ!? す、すみません! つい、勢いで言っちゃって!!」
しかもヴァルティとブリュテは碇谷の近くに移動しており、かなりの圧力を発した。
その圧力を受けた碇谷は慌てて謝罪する。
「おいおい。地雷を思い切り踏むような言葉だったかもだぞ?」
「碇谷は大丈夫かな……?」
亀田と笹原はヴァルティとブリュテの圧力を恐れる。
ブリュテはまだわからないが、ヴァルティの実力はドラゴンを秒殺できるほどの強さを備えている。
それがこの場で振るわれないことをクラスメイト全員が願いたくなる中。
「ヴァルティ! ブリュテ! 碇谷にそこまで脅すようなことしないで!! 久しぶりの白米だったからテンション上がっちゃったんだよ!!」
「ユキナリがそう言うなら、今回は見逃そうかな」
「ユキナリがそう言うのなら、今回は見逃します」
幸成が慌ててヴァルティとブリュテの2人を止める。
その言葉を聞いた2人は脅すのをやめた後に。
「次にまた言ったら、本当に何かするから」
「覚えておいてください」
「はい……」
これは碇谷が悪かったと他のクラスメイト達は思う。
確かに白米が出てきたことの喜びはわかるが、愛してるなどと不用意に言わなければよかったとも思う。
「……私の時よりも、遥かに怖い思いをしただろうね」
それを見るままの奈々は引き攣った笑いしかできなかった。
碇谷はヴァルティとブリュテから、ドラゴンを秒殺できるほどに恐ろしい殺意とプレッシャーを間近で感じたのだから。
「今は夕食なのに、2人して過剰に反応するのはやめて。碇谷を初めとしたクラスメイト達と、ゴルドーさん達を怖がらせたら駄目」
夕食を楽しむべき中、2人が過剰に反応するなと幸成は叱る。その言葉に2人は「ごめんなさい」と謝る。
「テンション上がった学生のノリなんだから、本気で言ったわけじゃないんだ」
「それでも、ユキナリにその言葉を向けていいのは、私とブリュテだけ……あっ。でも、残りの3人が呼ばれた時にはその3人も言うかも」
謝らせた後、学生のノリだからと説明する幸成にヴァルティは自分の他にブリュテもまた、幸成にその言葉を向けてもいいと主張する。
残りの3人が呼ばれたら、その3人もまた主張するかもしれないと付け足してから。
「俺からすれば、まだ見知らない3人はおいとくとして。夕食の時間を壊そうとしないでほしい。俺はそう思ってるから」
「……わかりました。次は気をつけます」
その3人も主張するかもしれない。そう聞いた幸成は『まだ見知らない3人は置いとく』としてから、夕食の時間を壊さないでほしいと主張する。
それを聞いたブリュテは反省した様子で頷いた。
「碇谷、大丈夫?」
「うん。なんとか、ね」
その後に幸成は身体が震えている碇谷に声をかける。
ヴァルティとブリュテから凄まじい圧を与えられてしまったので、すぐには震えは止まらない中。
「次からは気をつける。後、山本くんの今はかなり大変なのが少しだけわかった気がする」
少しだけは幸成が現在置かれている立場をわかってくれた。
その上で次からは気をつけるとも誓うと聞いた幸成は、申し訳ない気持ちになった。
「山本が羨ましいが、同時にかなり苦労してるよな……」
水村が同情にも似た気持ちを抱きながら呟くと。
「俺は羨ましいと思えない。山本の近くにいたがるヴァルティさん。次に穏やかな性格だと思ってたブリュテさんまで、あんなに敵意を剥き出しにするとは」
亀田はヴァルティだけでなく、ブリュテまで嫉妬心を剥き出しにしたことに幸成を羨ましく思わなくなった。
それだけヤバいと思えた。
「一体何があったら、2人はユキナリにそこまで執着か何かをするんだ……?」
「それは我々にもわかりかねます。ですが、2人してユキナリ殿に並々ならぬ感情を抱いていることは確かです」
ゴルドーとペリエもこの先のことを考えて、胃に痛みを感じてしまう。
今の時点でも胃に相当なストレスが与えられているのだから、後のことは考えたくもなかった。
夕食の後の幸成が、ヴァルティとブリュテと共に部屋へ向かおうとする途中で。
「ユキナリ。今日の夕食の時間に関してはごめんなさい。私とブリュテは少し我を失ってた」
「今後は気をつけますので、私とヴァルティを嫌いにならないでください」
「嫌いになるのはないよ。ただ、本当に2人して怖かった。だから、今後は気をつけてほしいかな」
ヴァルティとブリュテが謝ってきたので、嫌いになることはないと断言するが怖かったとも言った。
「というか、ヴァルティは前のことでわかってたけど、ブリュテをあんなに怖く感じるとは思わなかった」
その上でブリュテの行動に少しだけ戸惑いもある。前のことでヴァルティは理解していたが、ブリュテは穏やかな性格だと思っていた。
それが夕食の時の出来事で、理解はしたくなかった部分が見えてしまった。
「……本当に、ごめんなさい」
幸成が戸惑いを持っているのを感じたブリュテは、本当に申し訳ないと思いながら謝る。
「……ヴァルティの時のように、ブリュテも喪ったことがあるの?」
そんなブリュテに幸成は問いかけてみる。
ブリュテの気持ちが知りたくて、ヴァルティの時のようにブリュテにも似たようなことがあるのかと。
もし、あったならブリュテもヴァルティと同じような想いを持っているかもと思う中。
「……はい。私も、ユキナリを喪いました。私が守るべき土地と人々の前で、私の目の前で……」
ブリュテは幸成の問いかけに頷いた。ブリュテもまた、幸成を喪ったことがある。ヴァルティが言った人間達に奪われたのとは違う喪い方をしてしまった。
「……ヴァルティと同じく、ブリュテも好きなのかな?」
悲劇があったのかと何かを思う幸成は、ヴァルティと同様に好きなのかと再び尋ねる。
「はい。私もユキナリが好きです」
ブリュテはヴァルティの時と同じく、即答した。ブリュテもまた、幸成のことが好き。
だからこそ、異世界召喚された幸成が病喚士という天職を得た。
そのお陰で召喚されることとなり、今は幸成と再会することができた。
「……ブリュテの過去、聞いても大丈夫かな?」
「…………最初に出会った時は、ユキナリは私がいた世界のことなど、まるで知らないままに私がいた森の中にある街へお腹を空かせて入ってきては、食べ物を欲しがっていました」
再会するまでの間に、ブリュテに何があったのか。
それを聞いてみるとブリュテは暫しの無言から頷いた後に語り始める。
『は、腹、減った……というか、ここ、どこ?』
その幸成は何故に知らない森の中を歩き回る後、知らない街中を歩き回る羽目になったかがわからなかった。
強いて言うなら、朝に起きてみたら知らない場所にいたことだけだ。
『えっと、日本語通じるのかな? もしかしたら、英語?』
自分がどこにいるかもわからない上に、言葉が通じるかもわからない。
もう詰んだと思えてきた時に。
『そこの見知らぬ人。大丈夫ですか?』
ブリュテと街中で初めて出会った。
その頃のブリュテは街を守る役目もある大精霊なので、自由に街中を歩いていたら知らない誰かこと幸成を見つけた。
幸成に何かがある。そう思ったブリュテは声をかけた。
『だ、大丈夫……と言いたいところなんですが、食べ物と、寝る場所がなくてですね。えっと、日本語が通じてるんですか?』
『にほん、ご? なんですか、それは?』
『あっ。駄目だ、これ。これはどうしたらいいのやら』
日本語が通じているかと尋ねる幸成にブリュテは日本語がわからないと言った。
日本語が通じないと思い込むと、幸成は地面に膝を付いた後。
『……いや、なぜかこの人と話せてる。なんで?』
会話ができていると気づいた。
なんで会話ができているのかと悩むと。
『もしかしたら、ここは異世界だったりする?』
自分の身に起きたことに対して、1つの推測を出した。
『いせかい? 何を言っているかはわかりませんが、どうやら貴方はお腹を空かせてますね。少し待っててください』
そんな幸成が異世界と口にした。
だが、ブリュテは異世界がわからないので首を傾げながらも、幸成がお腹を空かせているのは間違いないので何かを持ってくることを告げる。
『えっ? いいんですか?』
『その前に名前を聞かせてください。私はブリュテです』
『俺は山本幸成。山本でも幸成でも好きに呼んでください』
幸成はブリュテの気遣いに感謝しながらも、名乗ってからブリュテが食べ物を持ってくるのを待つ。
『……ここが異世界なら、俺、帰れるのかな?』
待っている最中、異世界に来てしまったのなら元の世界へは帰れるのかと、不安を抱いてしまう。
そう悩む後、戻ってきたブリュテから焼いた野菜と肉が盛りつけられた料理がある皿を貰うと。
『ありがとうございます』
幸成は食べ始める。
食べるのを見ながらブリュテは幸成の話を聞くことにしてみると。
『にほん? こめ? 本当に聞き覚えがないですね』
『知らない単語ばっかり、か。本当にここは異世界かも……』
『いせかい…とは、なんなのでしょうか?』
『俺の国で有名な創作の物語がいくつか存在します。それの説明をしますね』
そこからの流れで異世界とは何か、幸成がいた世界はどんなものかの説明をする。
一通り説明をすると、ブリュテは少しだけ理解できてきた。
『色々と理解できました。もしかしたらユキナリは迷い込んでしまったのかもしれません。そうだとするならユキナリにとってここは幸いにも、まだ安全だと私は思います』
ブリュテは幸成が異世界と呼ぶ場所へ迷い込んでしまったのかもしれないと思うと、この国と街は幸成にとってまだ安全であると教えておく。
『その上で質問があります。ここでユキナリは生活をしてみませんか? もちろん、働いてもらう必要はありますが』
『生活、ですか?』
『はい。もし、ここでの生活を試しにしてみたいと思うなら、私が案内します』
幸成が迷い込んでしまったのなら、しばらくの間はここで暮らしてみることを勧めようとする。
それは幸成もいいかもと納得する部分があり。
『わかりました。ここでしばらくの間を暮らしてみます』
ここでしばらくは暮らしてみようと決めた。
その後、ブリュテは幸成に働いてもらう場所を案内することとなる。
『ブリュテ様から話は聞いた。お前はここのことを全く知らないってな』
『はい。知らないことだらけです』
ブリュテが案内したのは、様々な作物と家畜が育てられている畑と牧場。
そこで働くリーダー格の男性と幸成は会話をし始める。
『なら、勉強しながら働いてもらうさ。少しずつ学んでいけばいい。焦らずにやれ』
『ありがとうございます』
働くことになれば、ブリュテは畑と牧場を見守りながらも幸成の様子を暇さえあれば見に行くことを繰り返す。
そんな中、あることにブリュテは気づいた。
『……ユキナリは、私が大精霊であることすらも知らない?』
ブリュテはこの世界では有名すぎる大精霊。
その大精霊であることを、幸成は知らないことに気づいた。
『彼は本当に、異世界人とやら、なのですね』
ここで幸成が異世界人だと実感できた。