赤冬で青春をもう一度   作:タンカー

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第10話 対戦車戦闘再開

「総員、再度戦闘態勢!対戦車戦闘用意!」

 その号令と共に、全員がそれぞれ自分の持ち場に異常がないか確認し始めた。

 ライカはT-34のアクセルを吹かしてエンジンに異常が無いかを計器類から確認し、「大丈夫そう……」と返事をする。

 リナも「特に異常なし!」と元気に返事をしてくれた。

 ユウリは足下の弾薬庫から砲塔の即応弾薬庫へと減った分を移し、私に報告を上げてくれる。

「徹甲弾10発と榴弾10発を棚に置いたよ〜!下の弾薬庫にもまだいっぱいある~!」

「OK、十分足りるね!ありがと!」

 そう返した後、「あっ、私も準備完了だよ~!」と言ってくれたのを聞いて、早速行動を開始することにした。

「これから機動戦になるよ!皆、私を信じて指示に従ってね!」

 その言葉に、全員強く頷いてくれる。

「よし!アイツらの思惑を真っ向から打ち砕くよ!ユウリ、榴弾!」

「は〜い!」

「あ?徹甲弾じゃないのかよ?」

 リナは当然な疑問を投げかけてきた。

「まずは待ち構えてる陣形を崩す!私が合図したら、交差点の左側、アイツらが待ち構えてる側の地面に榴弾を撃ち込んで!」

「……分かったよ。信じればいいんだな!?」

 私の意図するものは分からなかったようだが、リナはそう言って照準器を覗き直してくれた。

 その後すぐにユウリからの「装填完了~!」の言葉が聞こえて、ライカへと指示を出す。

「全速力で交差点を突っ切って!」

「わ、分かった……」

 ライカは少し怯えるような声を出しながらも、アクセルを踏み込んだ。滑らかにギアを上げながら、T-34はどんどん加速して、交差点へと近付いていく。

「リナ!撃って!」

「おう!」

 リナは指示通りに照準を合わせて、手元の引き金を引いた。

 榴弾が放たれる。

 

 

 

「……来るぞ!」

 段々と近付くエンジン音でT-34の接近を察知し、2両のIV号戦車は照準を合わせて待ち構えていた。

 次の瞬間、交差点で爆発が起きる。

「うわっ!?」

「なんだ!?」

 爆発と共に黒い爆煙が起き、交差点の視界が悪くなるとほぼ同時にその向こうで速度の乗った緑色の車体が横切った。

「はっ!?撃て!」

 車長2人は、爆発に驚いたのと視界不良によって射撃の指示が遅れ、少し遅れて2発の砲声が鳴り響く。

 放たれた砲弾は本来の標的を捉えられず、2発ともその先の道路上に着弾した。

 

 

 

「……よし、通り抜けたね」

「へぇー、煙幕にしたのかよ。アタマ良いな」

 感心するように言うリナに「気を抜いてる暇無いよ!」と返して、ユウリとライカに次の指示を出す。

「ライカ!その先を左折!その後すぐに180度旋回してゆっくり後退!ユウリ、徹甲弾を込めて!」

「は〜い!……んしょ、装填完了〜!」

 ライカも指示通りに交差点を左折してすぐにブレーキをかけ減速すると、右旋回のレバーを勢いよく引いて車体をぐるりと旋回させた。完璧なタイミングでクラッチを切り、先程やってきた方向を向き直りながら後退のギアに入れてゆっくりと後退を続ける。

「射撃用意!来るよ!」

「ホントに来るのか!?」

「信じて!絶対挟み撃ちしに1両は追いかけて来る!」

 リナはそれを聞いて照準器を覗いて身構えた。

 

 

 

「くそっ、逃(のが)した!姑息な手を使いやがって!」

「追え!挟み撃ちするぞ!」

「分かった!アタシはあっちから回る!」

 2両のIV号戦車は二手に分かれてT-34の向かった方向へと回り込むことにした。

 短砲身の方がそのまま前進し、T-34の通過した交差点を左に曲がって追いかける。

「キャタピラの跡は……ここを左に曲がったんだな?逃がさないぞ……」

 短砲身IV号戦車の車長は地図を確認するとその先はL字型の路地しか無い。挟むなら、その先の出口だと考える。曲がり角をハッチから身を乗り出して確認し、操縦士には加速と直進の指示を出した。指示通りに短砲身IV号戦車は交差点を突っ切ろうとする。

「……あ」

 彼女の予想外なことに、交差点左の奥にT-34が車体正面を向けて待ち構えているのが視界に入り、車長は小さく声を漏らして手元の地図を取り落とした。

 

 

 

 向き直って後退をしていたのには理由がある。車長の視界は戦車の視界。曲がり角の近くで待ち構えるより、その奥で待ち構える方が死角に入りやすいのだ。

「来た!」

「撃て!」

 閉鎖機が後退して薬莢を吐き出す。砲身は火を噴き、85mmの砲弾を撃ち出した。万全の状態で構えていたリナが外す訳もなく、IV号戦車の砲塔付け根へと砲弾は飛んで行き、いとも容易く装甲を貫く。

 そこにある弾薬庫を貫かれたIV号戦車は、砲塔を吹き飛ばす程の大爆発を起こして沈黙した。

「撃破!」

「っしゃあ!」

「ライカ!全速前進!あの戦車のところを左折して!」

「了解……!」

 T-34はIV号戦車の残骸と共に横たわって気絶している温泉開発部員の横を通って左へと曲がる。

「ユウリ、徹甲弾込めて!」

「は〜い!」

 段々と慣れてきたのか、ユウリが徹甲弾を滑らかに込めて閉鎖機を閉じた。

「リナ、砲塔を10時方向に向けて!」

「あ?分かった。けどなんで?」

「残り1台は正面から叩き潰すよ。敵戦車が見えたら、車体正面ド真ん中を狙って」

「おう……って、それ理由になってねーだろ」

「良いから。ライカ!その先の交差点、左に斜め45度になるように内側の角につけて停車!」

「わ、分かった……」

 ライカは指示通りに減速しながら左へ旋回し、歩道に乗り上げて建物の角につけるように停車させた。

 

 

 

「ちくしょう、あの戦車どこに行ったんだ……」

 もう1両のIV号戦車の車長は、焦っていた。追っているレッドウィンターの戦車は見つからない上、遠くで起きた爆発音の後、味方のIV号戦車と連絡が付かなくなっていたからだ。それはほぼ確実に味方がやられたことを示すという事実に、殊更(ことさら)に焦りは募るばかりだった。

「ここを右折だ」

 そう指示を出して、目の前の交差点を右折した時、操縦士から、「敵戦車!正面に敵戦車だ!」と報告が上がる。

「なっ!?……照準急げ!」

「目標補足!」

「撃て!」

 

 

 

「来たよ!照準!」

「目標補足!」

「撃って!」

 ほぼ同時の発砲。T-34の方がほんの少し早く発砲したが、ほぼ同時にIV号戦車の砲身からも砲弾が放たれ、お互いにお互いの砲弾が命中する。

 IV号戦車の放った砲弾は、事前に斜めに構えていたT-34の車体正面装甲に命中し、傾斜装甲も相まって弾かれる。一方、T-34の放った砲弾はしっかりとIV号戦車の正面装甲を捉え、貫いていた。

 直後、爆発音と共にIV号戦車のハッチから黒煙が上がる。その後しばらく警戒していると、IV号戦車の乗組員たちがハッチから這い出して、その後力尽きて伸びてしまった。それを見て安堵のため息をついて、全員に伝えるように口を開いた。

「撃破!」

「っし、やったな!」

「やった~!」

「ひ、ひぇ……」

 正面装甲で砲弾を弾いたため、ライカが跳弾音に怯えていたが、無事に敵戦車を全て撃破できたはずだ。

「皆、お疲れ様!広場に戻ろう!ライカ、もう少し運転お願い!」

「う、うん……」

 ライカは気を取り直すようにシフトレバーに触れると、ゆっくり発進する。そのまま旋回して、先程奪還手前だった広場の方へと車体を向け加速した。

 

 

 

 広場に着くと、保安委員たちもどうにか制圧を進めているようで、どうにか陣地を構築して、一息ついているようだった。

 私たちの戦車が広場に入ってきたのを見て、最初に話した保安委員長が手を振ってこちらにやって来た。私はハッチを開けて顔を出す。お互いに敬礼をして話し始めた。

「やぁ!戦車の対処、本当に助かった!ありがとう!」

「いえ!無事撃退出来そうなら何よりです!報告を受けてた敵戦車5両、全て撃破しました!」

「なんと、凄いな!期待以上の働きだ!自動車部部長には改めて礼を言っておこう!」

「ありがとうございます!では、あとの処理はお願いして、私たちはこれで……ん?」

「うん?なんだ……?」

 そんな話をしていた時、陣地の辺りが随分騒然とし始め、私だけでなく保安委員長も陣地の方を見る。機関銃だけでなく、設置された対戦車砲に砲弾を運ぶ保安委員もいて、何か嫌な予感が……。

 次の瞬間、保安委員が陣地構築のために置いていた土嚢を踏み潰して、1両の戦車が広場に飛び込んできた。

「なっ……!?」

「……6両目!!」

 車体そのものはIV号戦車のそれだが、その車体には沢山の鉄板が貼り付けられ、歪になっている。

 その戦車は陣地のバリケードを超え、保安委員の資材を踏み潰し、広場の真ん中に鎮座した。

 私は直ぐに車内の3人へ「戦闘態勢!」と声をかけ、ユウリに徹甲弾を込めるよう指示を出す。

「保安委員長、乗ってください!一旦下がります!」

 私にそう言われた保安委員長はすぐにT-34へと駆け寄って車体によじ登った。

 その時、その戦車が車体をこちらへと旋回させ、砲をこちらへ向け始める。

「ライカ!後退!」

 そう指示を飛ばせば、すぐにT-34は後退を始めた。

 それとほぼ同時に敵戦車から砲撃を受ける。後退しながら斜めの方向から砲撃を受けたため、砲弾は運良く正面装甲で弾かれた。

「撃ち返して!」

「この……っ!」

 リナがT-34の主砲をIV号戦車の方へと向け、砲弾が放たれる。しかし、その砲弾は見事に正面に貼り付けられた鉄板に受け止められてしまった。信管が作動して徹甲弾が炸裂するが、効果は薄そうだ。

「うっ、硬(かて)ぇっ!」

 リナが照準器越しに受け止められたのを見てそう零す。

「次が来るよ!」

 しかし、私のその言葉とは裏腹に、次の砲撃は来なかった。

「戦車と委員長を守れー!!!」

 周囲に散り散りになった保安委員たちが、隙を見て対戦車砲を撃ち込んだり、IV号戦車の側面へ手榴弾を投げ付けて気を引いてくれたおかげで、IV号戦車の砲塔はそちらを向き、その間に敵戦車からは見えない位置へと後退することが出来た。残念なことに斜め前方からの対戦車砲攻撃は弾かれてしまったようだ。

 T-34の85mm砲弾の貫徹力は至近距離約140mm、500mでも120mm程はある。それを受け止めてしまうのだから、生半可な砲火ではビクともしないだろう。

「あれは対処に苦労しそうだね……。そのまま後退して体勢を立て直すよ!」

 車内に向かってそう言えば、T-34はそのままゆっくりと後退を続けていく。私はハッチから顔を出して、砲塔の後ろで姿勢を低くし、様子を伺っている保安委員長に話しかけた。

「委員長!あの戦車は少し厄介です」

「そうだな……。私も見ていた。まさか砲弾を受け止めるとは……」

 委員長は腕を組んで悩ましそうな顔でそう言った。

「しかし、奴を倒さないとこの場所の奪還は叶わないだろう?」

「そうですね。……少し、時間稼ぎをお願い出来ませんか?」

 そう言って私は車外へと出てエンジンルームの上へと着地する。

「何かするのか?」

「正面から倒せないなら、弱点を突くまでです。弱点を探ります」

「……なるほど。それなら、これを持っておけ」

 保安委員長はそう言うと、自身のポケットから携帯型の無線機を取り出して渡してきた。

「あ、えっと……」

 私が戸惑いながら無線機を受け取ると、保安委員長が私の肩を叩く。

「あの戦車の撃破はお前たちにかかってる。出来る限りの協力は惜しまない。周辺の歩兵の対処も任せて欲しい」

「あ……ありがとうございます!」

 期待されている、そのプレッシャーと同時に嬉しさが込み上げて、元気に返事をした。

 保安委員長は「頼んだぞ」と一言残して戦車から飛び降りると、保安委員たちの指揮を執るべく走って行く。

 それを見送って、私は車内をのぞき込むと全員に声を掛けた。

「私、あれの弱点を探りに行ってくるから、もう少し後退した位置で待機して!」

「え〜!?」

「は!?無茶すんなよ!?」

 2人の反応に加え、ライカもこちらを見て仰天した顔をしている。

「大丈夫、すぐ戻るよ。無理はしないから安心して。ライカ、後退!」

「あ、う……うん」

 そうしてライカがT-34を後退させ始めたところで車体から飛び降り、私はAKS74Uアサルトカービンを手に走り出した。




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