私は路地を走り、広場の外周を回り込んで移動する。
銃撃戦は避けながら、あの改造戦車の様子を伺える場所を探した。
「……よし、この辺なら……」
物陰から顔を出そうとしたその時、近くに砲弾が着弾する。
「う……っ!?」
私は咄嗟に頭を下げて、自分の身体に異常がないのを確認すると立ち上がる。
(もしかして見つかった?)
そんな焦りを感じつつ、そっと物陰の向こうを見れば、例の改造戦車はこちらを向いていない。どうやら対戦車砲の砲弾が弾かれてこちらに飛んで来たらしい。
ほんの少し安堵しながら、早速戦車の弱点を探るために観察を始めた。
「……やっぱり」
あれだけの分厚い装甲を貼り付けて自走するには、IV号戦車のエンジンやサスペンションでは限界がある。貼り付けられた装甲は、前面と側面は包んでいるものの、後面は本来のIV号戦車の姿が見えていた。
しかし、例の改造戦車はこちらの対戦車砲に対してしっかり前面装甲や側面装甲で受けるように動いている辺り、普通に出て行けば正面戦闘は避けられないし、無理に背後を取ろうとすれば温泉開発部と保安委員会が押し合っている戦線を越える必要が出てくる。それは下手にやると命取りだ。
しかも、今のところ保安委員会は隙を見て対戦車砲を撃っては物陰に下がってを繰り返しているが、戦車側からすれば1発撃ち込めば対戦車砲は破壊可能。戦線が押されるのも時間の問題だ。
「何か打開策になりそうな物……せめて広場の外の戦線を刺激せずに背後が取れればいいんだけど……。……ん?」
ふと、改造戦車の近くに何かのドラム缶がいくつか転がっていることに気付いた。そのドラム缶には可燃物のマークが描かれている。
「……委員長、一つ質問良いでしょうか」
先程委員長から受け取った無線機にそう問いかければ、すぐに返事が返ってくる。
『構わない。どうかしたか?』
「広場の中央にあるドラム缶に入った物は何ですか?」
『広場の中央……あぁ、それはトラック用のディーゼル燃料のはずだ。それがどうかしたのか?』
「……!いえ、もしかしたら状況打開に使えるかもしれないと思ったんです」
『何!?……それなら自由にして構わない。こちらもどうにか対戦車砲で抑え込んでいるが、早めに対処を頼む。対戦車砲弾も少しずつ減っているからな』
「分かりました。これから戦車に戻って行動を始め───」
次の瞬間、銃声が鳴り響く。1発の弾丸が私の鼻先を掠め、すぐ近くの壁に穴を空けた。
「──うわっ!?」
尻餅をつきながら、私は無線機を取り落とす。
『おい、どうした!?』
私は無線機よりも先に弾丸の飛んできた方を見れば、温泉開発部員が2人、こちらに銃を向けていた。
「1人でこんな所にいるなんて不用心だなぁ?」
「……」
まずい、少し前に出過ぎたみたいだ。額に冷や汗が滲む。次の瞬間、銃声と共に腹部に衝撃が走り、私は地面に仰向けに倒れた。
「ぐ……っ」
高い威力の弾丸だったようで、じかじかとお腹が痛むが、私は起き上がらずにそのままじっとそこで耐える。
「……しかしなんでこいつ一人でこんな所にいたんだ?」
「さぁ?」
温泉開発部の部員たちは、私が気絶したと思ったのか、話し始めた。その間に、バレないよう慎重にAKS74Uアサルトカービンに手を伸ばす。
「……まぁいいや。こいつ捕まえて、レッドウィンターに捕まった奴らの解放の交換材料にしよ───」
2人の温泉開発部員のうち1人がもう1人の方を見ながら私に触れようと近付いた瞬間に、私は一気に起き上がり、銃を構え、引き金を引いた。
ストックを折り畳んだまま、照準器を覗きもせずにフルオート連射で射撃する。普通なら当たるはずのない撃ち方だが、ゼロ距離ならばいくら狙いがバラけようと外すわけがない。
「ぐあっ!?!?」
「あっ!?てめ───いててててっ!?」
1人がゼロ距離で私の銃撃を食らってその場で後ろに倒れたら、すぐに狙いをもう1人に切り替えてそのまま引き金を引き続ける。フルオート射撃だったので3秒弱で弾丸を撃ち尽くしてしまったが、温泉開発部員2人を怯ませることはできた。
私はその隙を見て立ち上がり、路地へと向けて走り出す。
「このやろ……っ!」
片方が私に向かってサブマシンガンを撃ってきたが、間一髪、私が路地に駆け込んで被弾は免れた。
「待てぇ!逃がさないぞ!」
「はぁ……っ、はぁ……っ」
後ろから追いかけて来る声からとにかく路地をジグザグに曲がって逃げ回る。途中で走りながら、銃の弾倉を新しい物に交換して弾薬を装填した。
(……!まずい、この先は長い直線!)
次に曲がった先は大きい建物の裏手になるため他に曲がる場所が無い。しかし、ここで曲がらなければ撃たれることに変わりないので、仕方なく路地を曲がる。
すぐに振り返って、銃で牽制射撃をしながら下がっていくが、そう長く撃たないうちに弾が切れ、私は一目散に走り出した。
「逃がすかァっ!」
「ぐっ……!?」
背後から銃声。温泉開発部員の弾丸の1発が肩に命中してバランスを崩し、私はその場に転ぶ。
(……ここまでかな……)
近付いてくる2つの足音を聞きながら諦めかけたその時、地面に微かな揺れを感じた。その揺れはどんどんと大きくなって、何の揺れなのか、私の前世の記憶が教えてくれる。
路地の先に見える道路上を、
「あっ、いた!ライカちゃん戻って!リナちゃん!右だよ右!」
そんな声と共にT-34はゆっくりと後退して砲塔がこちらを向く。
「ま、まずい!逃げろ……!」
次の瞬間、T-34の同軸機銃が路地へと掃射され、弾丸は私の頭上で空を切った。その先に居た温泉開発部員2人に何発も命中して、温泉開発部員たちは気を失ったのか動かなくなり、呻き声を上げている。
「た、助かった……」
安堵の声を漏らしながら、私はゆっくりと立ち上がって、戦車の方へと走り出す。少しお腹と肩が痛むけど、そんなこと言ってる場合じゃない。私は戦車にたどり着くとすぐによじ登り、装填手ハッチをほんの少し持ち上げるようにして外を見ていたユウリに話しかけた。
「どうしてここに?」
「保安委員長さんが教えてくれたよ〜。ニコちゃんが無線に返事しなくなったから大変かもって〜」
「うん、ちょっと危なかったかも」
苦笑しながらそう言うと、私は車長ハッチを開けてT-34に乗り込んだ。
「……わっ!?」
車長席に座ると同時に、ユウリに抱きつかれる。
「ニコちゃんが無事でよかったよ〜!」
ユウリが顔を押し付けている所が丁度さっきお腹を撃たれたところで少し痛いけれど、これくらいは我慢しよう。
「おい!『無理はしないから大丈夫』なんて言ってたのにギリギリじゃねぇか!」
リナからもお叱りを受けて、苦笑する。どうやら相当な心配をかけてしまったらしい。
「みんな心配かけてごめんね……。助けてくれてありがとう!」
「おう、次は気を付けろよな」
「うん。……ライカも、ありがとうね」
ライカに声をかければ、ライカは照れ臭そうに俯いてしまった。
「う、ううん。大丈夫」
「ライカのやつ、お前が危ないって聞いて、助けに行こうって話をする前に戦車動かし始めたんだぜ」
「わ、リナちゃん、それは……」
リナがニヤニヤしながらそう言うと、ライカが、顔を赤くしながらわたわたと慌てる。様子を見る限り、本当らしい。
「そうなの?」
「う……うん。私、運転しか出来ないから、ニコちゃんの指示がないと何も出来ないし……」
「そうそう。アタシも作戦なんてからっきしだしさ。作戦担当が居なくちゃ始まらねぇよ」
「ニコちゃんが居なくなったら私も何も出来ないもん〜」
口々に全員がそう言うのを聞いて私は
「……で?何かあの戦車を倒す方法は見つかったのかよ?」
「うん、バッチリ」
「よし来た。ほら、作戦担当指示をくれよ?」
リナのその言葉に頷くと、ユウリもやっと離してくれた。
「よし、それじゃあまずは安全な所まで下がるよ!ライカ!Uターンして元来た道を戻って!」
「う、うん!」
ライカは指示通りに車体を180度旋回させて、元来た道を戻り始め、リナも砲塔を正面に向け直してくれる。
私が逃げている間に保安委員と温泉開発部が小競り合いしてる前線は抜けていたようで、その後は特に接敵も無く元の場所まで戻ってくることが出来た。早速作戦会議に移る。
「……なるほど。後ろが叩けりゃ他の戦車と変わらねぇってことか」
「うん。あれみたいに無理に鉄板を貼り付ける方法はどこかで軽量化しないとそもそも動けなくなるからね。正面をあんなに硬くするなら尚更」
「でも後ろに回り込むのって大変だよ〜?」
「それに関しても考えがあるよ。そこでまず、ライカに頼みたいことがあるんだよね」
「わ、私に……?」
「うん。ライカにはこれと私の指示を頼りに運転して欲しくて」
そう言って私は、ユイナ先輩から地図を借りる時に一緒に借りてきていた、方角を確認する為の方位磁石をライカに渡した。
「勿論、最初は普通に運転してもいいんだけど、視界が悪くなるかもしれないから」
「わ……分かった。頑張ってみるね」
そう答えてくれるライカに「ありがとう」と伝えて、私はどういう作戦なのかを全員に話し始めた。
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