それからの処理は保安委員に任せることにして、私たちは戦車を降りて保安委員長と話していた。
「やぁ君たち、今回は本当にありがとう。戦車1両で敵戦車6両撃破とは、素晴らしい働きだった」
「お役に立てて良かったです。今後も自動車部をよろしくお願いします!」
「君たちの名前を伺っても良いか?」
「前宮ニコです」
「丸田ユウリです〜」
「滝見リナ」
「く、桑葉ライカです……」
私たちの名前を聞いて保安委員長は静かに頷き、微笑む。
「君たちに助けられたと言っていた委員から聞いたが、1年だそうだな。将来が楽しみだ」
「ありがとうございます。……ところで、他の温泉開発部は?」
「どうやらあの改造戦車が頼みの綱だったようでな。君たちがあの戦車を倒したのを見て一目散に逃げたようだ。現場に取り残されて捕まった奴らは連邦生徒会の矯正局に送ることになるだろう。……今回は本当に助かった。被害はあるが、守れたものはそれよりも遥かに大きい。後の処理は我々に任せて、部室に戻ってくれて構わない」
そう保安委員長が言ってくれたのに甘えて、私たちは戦車に乗り込み、出発した。
「……部長ぉー!!帰ってきた!T-34が帰って来たよー!」
「ほんと!?」
「おぉー!無事に帰って来たかぁー!」
自動車部の部員たちは、部室の外に駆け出して、T-34を出迎える。
「ライカ、入口の前で停車!」
「うん」
ライカはゆっくりとT-34を減速させ、部員たちが集まっている場所の前で停止させる。
私たちがハッチを開けて顔をのぞかせると、「おかえり!」「お疲れ!」「よくやった!」と口々に声を掛けられた。
それから少しして。
「ほら、引っ込むな」
「ひぇぁあ……」
ライカは沢山の人に注目されるのに慣れないのか、照れくさくなって運転席に戻ってしまったのを、リナが引っ張り出していた。
「あはは……わっ」
「わぁ〜?」
リナとライカのやり取りを笑いながら見ていたら、突然私とユウリが抱き締められる。
抱き締めてきた張本人を見ると、そこにはユイナ先輩が居た。
「……お疲れ様。本当に、よく帰ってきてくれたね。苦労かけてごめんね。それと、ありがとう」
「……」
私はしおらしくそう言うユイナ先輩を見て微笑みながら、ユイナ先輩を抱き締め返した。
「ユイナ先輩。私を……私たちを信じてくれてありがとうございました。少しは自動車部に貢献出来ました?」
「少しなんてもんじゃないよ!事務局からの無理難題を受けてくれたどころか、無事に達成しちゃったんだもの!本当にお疲れ様。……おかえり」
そう言ってユイナ先輩は満面の笑みを私たちに向ける。
おかえり、という言葉に、戦車から引きずり出されたライカやリナも一緒に、4人で返事をした。
「「「「ただいまです!」」」」
その後、リナとライカも抱きしめられて顔を赤くして照れていたのは別の話。
「それじゃあ、ニコ、リナ、ユウリ、ライカ4人の無事の帰還を祝って、かんぱーい!!」
「「「「「かんぱーーい!!!!」」」」」
その後、私たちは無事の帰還を祝っての祝勝会の主役として持て囃されている。悪い気はしないが少し気恥しい。けど、また先輩にジュースを奢って貰えた。おいしい。
「まさか、運悪くも『大整備』の日に襲撃とは、ついてねぇよなぁ」
リナのボヤきに全員うんうんと相槌を打った。
「無事に撃退できて良かったよ。まだ同じ班になってそんなに経ってもないのに、危険な目に遭わせてごめんね」
私がそう言うと、3人は口々に「そんなことない」と返してくれる。
「大丈夫だよ〜。私すっごいワクワクしたもん〜!」
「そう?ならいいんだけど……」
「そうそう。まさかアタシの砲撃の経験があんなふうに活かせるとは思ってなかったよ。特に最後の戦車!一発かましてやった時、さいっっっこーに気持ちよかった!!」
ライカはジュースを飲みながら、微笑みを浮かべて私たち3人のやり取りを見ていた。ジュースの缶を両手で抱えるように持ってストローでチュウチュウ吸っているのが小動物感を醸し出している。
「ライカは怖くなかった?」
急に話題を振られて驚いたのか、わたわたと慌てるも、恐る恐る話し始めた。
「えっ……と。たしかにちょっと怖かった……けど。私の運転が役に立って、あんなに褒められたのは初めてで……。……その、ちょっとだけ、みんなと仲間になれたような気がして、楽し……かった、かも」
それを聞いて、リナが吹き出した。
「気がするって、アタシらはもう仲間だろ!?」
「そうだよ〜。ライカちゃん自信持って〜!」
「そ、そう、かな……」
「うん。ライカもかけがえのない仲間だよ。あんなに運転が上手いのはライカくらいだし、もう私たちには必要不可欠だよ」
「え、えへへ……」
ライカはにへら、と笑って、またジュースを吸い上げた。
「……そういや、なんでニコはあの戦車の動かし方まで知ってんだ?」
「えっ?」
リナから唐突に核心を突くような質問をされて、変な声を出してしまった。
「……あ、あぁ、母さんから教えてもらったことがあるんだ。母さんも学生時代に戦車乗りだったらしくて。昔、母さんがどんな風に乗ってたのかって話を沢山聞いてたから動かし方も分かるんだよ。あとは、そういうことに興味があって、戦術の本とか読んでたのが役に立ったかな?」
「……へぇ。そうなのか」
興味深そうにリナはそう言って、それ以降は特に何か言われることもなかったため、私は内心安堵する。
「それにしてもニコちゃん凄いよねぇ〜。まるで手に取るみたいに相手の動きを予想して、当てちゃうんだもん」
「あはは……。ユウリだって凄いよ。物覚えも早いし、力持ちだし」
その後それとなく話題を逸らして戦車内でのそれぞれの働きを賞賛しあっていたところ、ユイナ先輩が私たちの元へやって来た。
「お疲れ様。みんな楽しんでる?」
「バッチリですよ!」
とリナが元気に答えると、ユイナ先輩は「そっか」と朗らかに笑う。
「実はね、温泉開発部の襲撃で予定が大狂いしちゃったんだけどさ、今日は他の大事な行事があったの」
「大事な行事……ですか?」
私がそう聞くとユイナ先輩は1度頷いてから話し始めた。
「大整備がある程度済んだら、新しい1年生たちに、戦車を割り振る行事があったんだよね。誰々の班は何号車ね〜、なんて」
「……」
「普通なら新しい戦車を割り振ることになるんだけど、君たちはT-34と新しいの、どっちがいいかなって」
「えっ」
まさかの質問だった。元々処分する予定だった戦車なのだから、きっともう乗ることは出来ないと、そう思っていたのだから。
「処分する、とは言ったけどね。元々『必要な時のために』って残しておいたものだから、君たちが望むなら、それが『必要な時』なんじゃないかって思ったの」
私たち4人は顔を見合わせる。
「もちろん、やっぱり新しいのがいいと思うなら、素直にそう言ってくれて構わないから」
「……私は」
「……アタシは」
「……わ、私は……」
「私は〜……」
「「「「T-34がいいです」」」」
1人は、自信を持ってはっきりと。1人は、周りを伺うように恐る恐る。1人は、マイペースに間延びした口調で。1人は、思い出の品を手離したくないと言うかのように。口調や思いは各々違えども、各々が同じ答えにたどり着いて、同時にそう答えていた。
「……!」
私は、驚いた顔で3人の方を見る。
「せっかくウチの大砲とほとんど同じ感覚で撃てる戦車があるんだから、それにするに決まってますよ」
「わ、私も、あの戦車の運転席が好き……です」
「私も初めて乗った、ワクワクを感じた戦車に乗り続けたいなって思いました〜」
口々に
「……私も、知ってる戦車に乗って、私の持つ知識を活かして仲間たちを導いていきたいです」
ユイナ先輩は私の言葉を聞いて、微笑んで頷いた。
「分かった。それじゃあ、君たちの班はT-34で決まりだね。ちゃんと面倒見てあげるんだよ?」
私たちは全員で笑顔で顔を見合せて、一斉に応えた。
「「「「はい!!」」」」
温泉開発部による襲撃から、2週間と少しが経った。
「はぁ〜……疲れた。アタシああいうカッチリしたとこ苦手だよ」
リナはゲンナリした表情で、そう零す。
「ライカに至っては隅っこの席で震えてたけど大丈夫?」
「う、うん……どうしても人がいっぱい居るのは苦手で……」
自販機で購入したココアを飲んで一息つきながら、私の声かけに対してライカは落ち着きを取り戻してそう返す。
「今日から私たちも1年生だよ〜!みんな、改めてよろしくね〜!」
ユウリは相変わらず朗らかに、ルンルンと楽しそうな声音で私たち3人にそう言った。
そう、今日はレッドウィンター連邦学園の入学式。今日から晴れて、私たちは正式に1年生としてこの学園に身を置くことになる。
「とりあえず寮に帰ろうぜ。アタシさっさと楽な服に着替えてぇよ……」
リナは制服の襟のボタンを外して、だらしない格好になりながらそう言った。
「今日は入学式だけだからこの後は自由だって〜。みんなは何するの〜?」
「私はとりあえず必要な物を買いに行こうと思ってるよ」
私がそう答えると、ユウリは待ってましたと言わんばかりにそれに乗っかってくる。
「あ!私も行く〜!ライカちゃんとリナちゃんは〜?」
「あ、……じゃあ……私も」
「お、行く行く。ついでに何か食べに行こうぜ!アタシ腹減ってんだ」
「いいね」
そうして、4人で出かけることになった。
「その後は何する〜?」
「何って、おいユウリ。そんなの決まってんだろ?」
「「部活」」
「かな」
「だろ……って」
私とリナの言葉が被って、顔を見合せて笑う。
「じゃあみんなでお買い物の後、部室に行っちゃおう〜!」
「ライカもそれでいい?」
「うん……!」
ライカは私に笑顔でそう答えた。
「それじゃあ、着替えてバス停に集合ね。また後で」
「おう!」
「また……」
「また後でね〜!」
そうして私たちは一度別れた。
私は服を着替えて、支度を済ませて出発しようとしたところ、図書館で借りた文学作品のタイトルが目に入る。
"赤い冬から青い春へ"
「……なんだか私たちに似てるかも」
そう呟いて、1人笑みを零せば、部屋を出た。
───届いているかは分からないけれど、それでも伝えたい。
これから私はこの学園で1年生。きっと、貴方の悲願でもあった「学園生活」に、来世の私が足を踏み入れます。
貴方の思い描いていた学園とは、色々違うかもしれないけれど……貴方の託した記憶を頼りに、色々頑張ろうと思う。貴方の想いをちゃんと理解出来てるかは分からないけれど、自分なりに果たせるように。
"
遥か遠い日の、記憶の私へ───
これにて第1章は完結です。
読んでいただきありがとうございました!
評価、感想等いただけますと大変励みになります。よろしくお願いします。
これからも、前宮ニコの青春物語は続いていきますので、これからもよろしくお願いします。