「……ふわぁ……」
翌朝、私は目を覚まして身体を起こせば、大きく欠伸をした。少し寒いが、気持ち良い朝だ。さて、何時だろうと時計を見て……
「わっ!?もう9時!?」
時計の針は8時をゆうに過ぎ、9時に差し迫っていた。アラームをセットしていなかったとはいえ、大寝坊もいいところである。
「参ったなぁ……」
ため息をついて、服を着替え、朝食は何を食べようかと思っているとドアをノックされる。
「はい……あ、ユウリ」
ドアを開けると、目の前にはユウリが居た。
「ニコちゃんおはよ〜」
「おはよ。どうしたの?」
「先輩が校区内案内してくれるんだって〜!一緒に部活とか見て回らない?」
「あ、うん、いいよ。準備するから少し待ってて」
そう言ったのにユウリが快諾してくれたのを見て、1度ドアを閉じ、外出の支度をする。朝食は食べれていないが、寝坊した私の落ち度なので我慢しよう。支度を終え、外に出れば、ユウリと一緒にいたもう1人に気が付いた。
「おう新入生。初日から寝坊とはいい度胸しているじゃないか」
彼女はからかうような笑みでそう言い、それに苦笑を返す。そういえば先輩が案内してくれると言っていたっけ。多分彼女が先輩だろう。
「あぁ……はは……すみません」
「休日の寝坊は労働者の当然の権利だからな。気にする事はない」
「労働者……?」
今、労働者って言った?
「あぁ、新入生だから知らないのも当然か。ここレッドウィンター連邦学園では、全てという訳ではないが学区内の施設の管理や維持、物品の製造に至るまで、学園の生徒が委員会や部活を通して行っているんだ。我々は学生であり労働者。労働者として当然の権利は忘れてはダメだぞ」
「なるほど……」
中々独特だなぁ。と考えていたところで先輩から自己紹介を受けた。
「私は工務部に所属している安守ミノリ、2年生だ。名前はなんて言うんだ、新入生?」
「あっ、前宮ニコです。よろしくお願いします」
「丸田ユウリです〜!」
「ニコにユウリだな。これからよろしく頼む。私も同じ4階だから、仲良くしようじゃないか」
それじゃあ早速、とミノリが続ける。
「校内の探検と行こう!」
ミノリに引き連れられ、私たちは校区内を探検することになった。
先ずは近場から行こう、ということになり寮を出て少し歩いた所にある図書館を訪れていた。
「この図書館は図書委員会、もとい知識解放戦線という部によって管理されている……が」
なんだか含みのある言い方をするミノリ。知識解放戦線という部名も気になるが、それ以上になんだか言いづらそうな雰囲気が出ているのが気になる……。そう考えていると、ミノリが扉を開けた。
「わぁ……」
中を見たユウリが声を漏らす。そこは図書館と言うには少しガラリとし過ぎた空間だった。
入口から見ても本棚には隙間が多く、人の気配も感じられない。
「ここは今3年生が1人で管理しているんだ。その……あまり生徒がここで本を借りるというのも無いのもあるのか、規模は……まぁ見た通りだ」
「……」
「……まったく、悲しいことだよねぇ」
図書館の奥から、上級生らしい生徒がそう言いながら顔を覗かせた。
「ほら、直射日光は本に悪いから扉を閉めてくれよ」
「あ、あぁ。すみません」
そう言って扉を閉めれば、上級生が自己紹介をしてくれた。それに私とユウリも自己紹介を返して、部についての説明を聞く。
「我々……と言っても今は私1人なんだけどね、知識解放戦線は知識そのものの解放、本を通して平等に知識を得る権利を守ることを信条にしているんだ。普段の業務はいわゆる図書委員会みたいな感じで図書館の管理や本の発注が主だけどね」
「……どうして1人なんですか?」
「上級生は居たんだけど、昨今の若者って読書離れ凄いのかな?昨年は知識解放戦線に新顔が入って来なかったんだ。そのまま上級生は卒業していっちゃったし、同級生は進学の準備だったり、私たちしか居なくなったことに絶望したりで抜けていって……最終的に私だけが残ったんだ。それにしても、ここまで利用者が少ないと悲しくなるよね。読書で知見を広めたり、感性を育むのってすごく大事なんだけどなぁ……」
そこまで話して感傷に浸っていた先輩は、ふと私たちに質問をする。
「ニコさん達読書は好き?」
「私はあんまり普段は読まないかもです〜……」
「はい、好きです。あまり頻繁ではないですけれど、有名所とかなら……あと古いロシア文学を手にする機会があったので少し」
「いいね!図書館として本の貸し出しもしてるから、良かったら見ていって。ち、な、み、に……」
先輩は私に肩を寄せて耳打ちするように話しかける。
「知識解放戦線に入ると本の発注に融通利くよ」
「……!」
それはちょっと魅力的だと思った。頻繁では無いが本を読むのは好きなので、とても悩ましい……が。
「……ん〜、他の部活も見て考えます!」
これからの学校生活を彩る部活動なのだ。ここしか見ずに決めるのはまだ早計だと思った。
「そっかぁ。まぁ、うちに入る気になってもならなくても、気軽に本を借りにおいで」
「ありがとうございます。……あ、それじゃあ早速1冊本を借りてもいいですか?」
「あ!私も〜!」
「もちろん!自由に見ておいで」
「お前たち、他の部活も見て回るんだから早めにな」
そう言うミノリに私とユウリは返事をし、図書館内を見て回る。丁度読んでみたかった文学作品があったので、それを借りることにした。ユウリの方は……「The収納術~スペースの最大活用で生活を豊かに~」……。
「……洋服?」
「……うん。クローゼットいっぱいだから……」
「ははは……」
あの長丁場の戦いを思い出し、2人で苦笑し合った。
その後、図書館で本を借り、ミノリと私とユウリの3人は図書館を後にした。
その後、出版部や環境美化部、電算局、給食部、唐揚げにレモンを反対する革命家たちの集まりなど色々な部活を……いや最後のは部活かな……?とにかく、色々な部活を見に行ったのだけど……。
「……いや、部長が同一人物の部活が多すぎませんか?」
「なんだか半分くらい同じ人だったね〜」
連河チェリノ。2年生にして複数の部活の部長を兼任しているらしいが、一体何者なのだろう……。
「チェリノはレッドウィンター事務局の次期局長候補だ」
「へぇ、そうなんですね」
レッドウィンター事務局というのはこの学園の生徒会組織で、それの次期局長候補ともなれば相当な権力の持ち主の筈だ。
「不興を買って粛清されないようにするんだぞ」
「あ、はい……気を付けま……粛清!?!?」
さらっと聞かされるとんでもない2文字に驚きを隠せず聞き返してしまった。
(えっ粛清って、あの
ふと頭を
「が、学園生活で処刑される可能性があるんですか……!?」
「そんなことはないぞ!?」
「え、でも粛清って……」
「今までに私が見た物だとせいぜい2週間おやつ配給抜きだとかそういうやつだよ」
「……」
それって粛清って言うの?というツッコミよりも先に、安堵が押し寄せてきて溜め息をついた。前世の記憶から想像されるような粛清じゃなくて本当に、本当に良かった。嫌だよ、森に生えた木の本数を数えたり、無限に穴を掘ったりするの。
「ま、まぁ気を付けます……」
気を取り直して次の部活を見に行くとしよう。そう考えたところで、ユウリも同じ考えだったのか、ミノリにそう声をかけた。
「ミノリ先輩〜、工務部は今どこで活動されてるんですか?」
「今は西にある工業棟の補修工事をしているぞ」
「補修工事?」
「まぁ……君たちもキヴォトス人ならわかるだろ?」
「あぁ……」
要するに「派手な
「今日、私は非番だけど作業はしている筈だから、見に行こうか?」
「是非〜!」
「……あれ?でも工業棟ってここから結構遠いんじゃないですか?」
昨日の説明会で一応校区内の施設に関しては説明を受けている。ここからだと、ちょっと徒歩だと大変なくらいの距離だ。さっき校区内を通るバスが行ってしまったところなので、バスに乗るにしてもしばらく後になる。
「そうだな……おっ、いいところに!」
ミノリはどうしたものかと周囲を見渡すと、何かを見つけたようで走り出す。
私とユウリもついて行くと、そこには1台のトラックが止まっていた。
「やぁ!工業棟に行くなら連れて行ってくれ!」
トラックの運転席の窓をノックして、そう声をかけると、「いいよ!乗りな!」と返事がある。
ミノリは運転手に礼を言うと、荷台に乗り込んだ。
「2人とも乗り込め!」
「お、お邪魔します」
「お邪魔しま〜す」
私とユウリも荷台に乗り込めば、トラックはゆっくりと走り出す。
「ミノリ先輩、このトラックは?」
「工業棟の近くに部室を構えてる自動車部だ。校区内を走る車の整備や、車を使って資材の運搬、校区内の自動車パトロールなんかを請け負ってるぞ」
へぇー、と私とユウリは相槌を打った。
「ねぇねぇニコちゃん、工務部の後に自動車部も見に行こうよ〜」
「うん、行こっか」
3人を乗せたトラックは、軽快に工業棟への道のりを進んで行くのだった。
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