赤冬で青春をもう一度   作:タンカー

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第3話 工業棟にて

 私たちは自動車部のトラックの荷台に乗って工業棟へと向かう。その道中で、トラックを運転する先輩から自動車部に関する話も色々と聞いた。

 トラックだけじゃなく、校内の治安維持やイベントで使う戦車の整備なんかも請け負っているだとか、色んな部活の資材運搬なんかもやっているだとか、学校の色んなことに関わる部活だというのが分かる。ミノリ先輩の話や、自動車部の先輩の話を聞く限り、部活でどうしても授業が受けられない場合、学校側から認可が降りれば授業の免除が利くみたいだ。

 他にも他愛ない話で盛り上がっている内、段々と工業棟が見えてきた。段々とトラックは減速し、路肩に寄せて停車する。

「着いたよ!自動車部はあっちの倉庫みたいな建物で活動してるから、後で寄ってね」

「ありがとうございます。また後で必ず行きます!」

 礼を言って降りれば、トラックは先程の会話で指し示された方角へと走り去っていった。

 それを私とユウリが見送れば、後ろにいたミノリ先輩が咳払いをしたので、そっちを振り返る。

「さぁ、ようこそ、工務部の現場へ!」

 そう言われて工業棟の方へと注視すれば、工業棟の2階部分まで足場が組まれ、その上で紺にオレンジの線が入った作業着を着た生徒たちが壁の補修作業を行っていた。

「おーい、ミノリー!お前今日は非番じゃなかったかぁー!?」

 壁の補修をしていた生徒の1人がミノリ先輩に気付いてそう声を掛けてくる。

「新入生を見学に連れてきたんだ!見学させてやってくれ!」

「おぉー、もちろん!是非見て行ってくれ!」

 作業をしていた工務部員たちは私たちを快く受け入れてくれた。

 作業を眺めたり、時々汚れない仕事を実際にやらせてもらったりと、なかなか新鮮な体験が出来た。ユウリはセメントの袋を両脇に2つずつ抱えて工務部の先輩たちから歓声が上がっていた。……あれ、あの袋って1つ25kgとかじゃなかったっけ……。

「いやー、2人とも仕事の飲み込みが早くていいなぁ。是非うちに入って欲しいくらいだよ。どうだ?」

 と、ミノリ先輩が私たちに言う。

「えーと……ごめんなさい。まだ自動車部を見に行くって約束してるので、即決は出来ないです……」

「私も〜……」

「そうかぁー、まぁそうだよな。けど是非とも検討して欲しい。待ってるぞ」

 と残念そうにミノリ先輩は言った。

「今日はもう時間も時間だし、自動車部を見学をしたら寮に帰るだろ?」

「あ、はい」

「それなら、送迎を自動車部の奴に頼んで貰っていいか?知り合いの自動車部員にこっちから連絡入れとくから」

 どうやらミノリ先輩は工務部の人たちと一緒に出かけるようだった。

「分かりました」

「はーい」

「それじゃあまた」

「「今日はありがとうございました!」」

 そうして、ミノリ先輩や工務部の先輩たちと別れて、私とユウリは自動車部の部室へと向かった。

 

 

 

 自動車部の部室に近付いて分かったのが、これは倉庫と言うよりは格納庫や整備工場と言うのが正しい建物だ。面積だけで言うなら、それなりの大きさのはずの工業棟丸々一つと大して変わらないし、戦車やトラックを扱うためか、正面のゲートはとても大きく、建物の高さも工業棟の3階に差し迫るほどだった。

「おっきいね〜……」

 ユウリも圧倒されているのか、建物を見上げながらそう呟いた。

「さ、入ろ」

「あ、うん」

 私はユウリを先導して、ゲートの横にある人間用の通用口へと歩いていく。年季を感じる「自動車部」の掛札を見てから、ドアノブを捻り中へと入った。

 

 

 

 中は暖房が効いていて暖かく、機械油の匂いに、様々な機械音や部員たちの会話が入り交じって飽和していた。

 和気藹々(わきあいあい)と会話をしながらもそれぞれ担当の車両の整備を滞りなく進める部員たちの雰囲気にとても懐かしい気持ちを覚え……あぁ、そうか。

 私の前世の記憶がよみがえってくる。他の戦車兵たちと各々の戦車の整備をしながら、他愛ない話をするのが好きだった。戦争は嫌いだったけれど、あの時間だけは嫌いじゃなかった。この部室を包む空気は、それにとても似ている気がした。

「……おや、おーい!来てくれたんだね!」

 そう声のする方を見れば、先程工業棟までトラックに乗せてくれた先輩だった。

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です〜」

 先輩は他の部員にも声をかけ、私たちを囲むように部員が集まってくる。

「そっちも色々周ってお疲れ様。ゆっくり見ていきなよ。送迎の話もミノリから聞いてるから安心して。……さて、それじゃあまずは、改めて自己紹介だね。私は高幡ユイナ。4月から3年生で、現部長だよ。あなたたちは?」

「前宮ニコって言います」

「丸田ユウリです〜」

 自動車部の部員たちと自己紹介し合い、その後、自動車部での活動を見学させてもらえることになった。

 

 

 

 最初にトラックの点検、整備をしている所を見せてもらう。その途中で他のトラックに乗って出ていく部員がいたが、依頼を受けて他の部活での資材運搬などを請け負っているらしい。

「他の部活の手伝いもするんですね」

「そう。私たちが学校のみんなを支えてるんだ。やりがいタップリだよ」

 そう言いながらユイナ先輩はトラックの点検を進めていく。点検もつつがなく終わり、ユイナ先輩が立ち上がって私たちに向き直った。

「次は戦車の点検に行くよ」

「は〜い!」

「はい!」

 部室の奥の方に戦車があるのは見えていたが、近くに行くとその迫力は凄まじく、大きな車体に大きな砲、いとも簡単に私とユウリは圧倒されて戦車を見上げる。

「大っきいねぇ〜……」

「そうだね……(……知らない戦車だ)」

 私の前世の記憶と照らし合わせても、知らない戦車だった。前世の記憶では西暦1940年代半ばだったから、それよりももっと新しい年代の戦車なのかもしれない。と考えていたら、ユイナ先輩が戦車についての説明を簡単にしてくれた。

「T-54中戦車。直径100mmの戦車砲と正面100mm以上の装甲厚の戦車だよ」

「装甲厚100mm!?すごく分厚いですね!」

 分厚い!前世の記憶で思い当たる限りの中戦車はいくら分厚くても100mmなんて厚さは無い。100mm超なんて中戦車じゃなくてИС(IS)重戦車くらいでしか聞いた事のない数値だ。しかもそれが斜面装甲になっている。正面からの生半可な砲火では歯が立たないだろう。100mm砲というのも凄い。大きな弾は大きな破壊力に繋がる。中戦車としては過剰なくらいかもしれない。

「……???」

 ユウリの方はイマイチ理解出来ていないようで、つい目をキラキラさせている私の方を見ながら首を傾げている。

「100mmが分厚いって分かるってことは、ニコは戦車に詳しいの?」

 ……あっ、しまった。

「あ、いや……えぇと。本で大昔の戦車に関するものを読んだことがあって……その本には装甲厚は50mmくらい、って書いてあったのでその倍だなんてすごく分厚いな……と」

「あぁ、なるほどね」

 良かった。何とか誤魔化せたみたいだ。前世の記憶がある、なんて無闇に言っては変な子だと思われてしまう。

「まぁ部品は大きくて整備も一苦労だけど、それはそれとしてちゃんと整備すればちゃんと動く可愛いヤツだよ」

「……」

 先輩のその言葉を聞いて、ふと、前世の「相棒(T-34)」の姿が思い浮かんだ。一緒にいくつもの戦線をくぐり抜け、ボロボロになって時々不調を訴えながらも整備すれば元気を取り戻して、前世の私を乗せて最期までしっかり戦場を走り抜けた1両の中戦車。きっと命名規則から鑑みるに、T-54はT-34の後継の戦車なのだろう。なんだか、T-34の精神を受け継いだもっと強力な戦車が生まれていることに少し感慨深くなって、T-54の車体にそっと触れる。……きっと前世の記憶が無ければ、そう思うことも無かったかもしれない。

「……さて、そろそろ点検を始めようか」

「あっ、はい!」

「は〜い!」

 ユイナ先輩の声掛けで気を取り直して、戦車の点検を手伝った。

 

 

 

「……ふぅ、これで終わり。2人ともお疲れ様。そろそろ寮に送るよ」

「ありがとうございます」

 ユイナ先輩にそう声をかけられて、私とユウリも片付けをする。ふと、先輩が私の顔を見てクスリと笑った。

「どうしました?」

「顔にオイル汚れがついてるよ。ほら、取ってあげるからこっちにおいで」

 先輩に手招きされて近寄ると、綺麗な布で顔をゴシゴシと拭いてくれた。

「……よし、取れたよ」

「……どうも」

 なんだか、拭き終わってから子供っぽい姿を見せてしまったような気がして、私は少し素っ気ない返しをしてしまう。まぁ、それも先輩に笑われてしまったのだが。

 片付けを終えて、明日の作業内容の連絡などをする終礼に参加し、ユイナ先輩がまたトラックで寮に送ってくれることになった。

 

 

 

 私とユウリは工業棟に来た時と同じようにトラックの荷台に乗り、運転席と荷台で会話する。

「自動車部の見学と少し仕事を体験してみて、どうだった?」

 ユイナ先輩の問いかけに、私は少し考えて返す。

「……大変そうでした。今日触れたのは自動車部の業務の中でもほんの一部で、他にも沢山の仕事があって、どれか一つを満足にこなすのも簡単じゃないんだろうなって思います」

「……まぁ、そうだね。確かに楽な部活じゃな……」

「でも」

「?」

「たくさんの部活に、学校内のたくさんの人に関わってインフラを保ったり、治安を守ったり、『楽』ではないけれど『楽しい』部活なんじゃないか、とは思いました。先輩の言葉を借りるなら『やりがいタップリ』……です」

「私も楽しそうだと思いました〜」

 便乗するようにユウリがそう言えば、先輩が堪えきれなかったように笑いをこぼした。

「……そっかそっか。ちゃんと自動車部について伝わったみたいで良かったよ。入部する?」

「それは……ごめんなさい。工務部だったり、知識解放戦線だったり、他の部活にも誘われてて……すぐには決められないです。もう少し、考えさせて貰っても良いですか?」

「……分かった。待ってるよ。これからの学園生活を彩る大事なことなんだから、良く考えなきゃね」

 そんな話をしてるうちに、寮の最寄りのバス停に到着した。トラックはゆっくりと減速し、バス停に停車する。

「ここまで送れば大丈夫だよね?」

「はい!今日はありがとうございました」

「ありがとうございました〜!」

 私とユウリの2人は先輩にお礼を言ってトラックを降り、走り去るトラックを見送って寮へと向けて歩き出した。

「ねぇ、ユウリ」

「んぇ?何〜、ニコちゃん?」

「ユウリは部活何にするの?」

 その問い掛けにユウリは上を見上げながら考え込む。

「ん〜……まだ分かんないや。ニコちゃんは?」

「そっか。私もまだ分かんない」

「何それ〜」

 そう言い合って2人で笑った。その後、ユウリと一緒に食堂で食事を摂り、寮4階の廊下で別れて自室へと戻った。




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