赤冬で青春をもう一度   作:タンカー

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第7話 出撃!

 先輩たちの助けもあって、T-34は30分もかからないうちに点検とメンテナンス完了に差し掛かっていた。

「ねぇニコちゃん〜」

 ユウリが私に話しかけて来た。

「ん?」

「私は何したらいいの〜?」

 あ、そうだ。点検で忙しくてユウリに説明するのを忘れてた。

「ユウリには装填手をやってもらいたいんだ」

「装填手?」

「うん。大砲に弾を込める役割だよ。お願い出来る?」

「うん!いいよ〜!」

 ユウリはにこやかな笑顔で二つ返事で承諾してくれた。

「じゃあ、これから見せる弾は見た目と名前で覚えてね」

 そう言って、弾薬箱から砲弾を取り出してユウリに見せる。今回使うのはBR-365K徹甲榴弾(APHE)とO-365榴弾(HE)の2種類にしておこう。

 ユウリには砲弾を教えた後は弾薬の積み込みをお願いした。……2人で持つ弾薬箱を1人で持ってる……。

 ……弾薬の積み込みも終わり、点検も完全に完了した。これで出発の準備は整った。

 最後に、ユイナ先輩との打ち合わせだ。

「……さっき確認の電話したら、今はなんとか保安委員が持ちこたえてるみたいだけど、急いで欲しいみたい。現場はここから南西に5km行ったところにある商業地区。保安委員いわくゲヘナ学園の温泉開発部の連中らしいんだよね」

「温泉開発部……?」

 名前を聞く限りただの温泉好きの集まりみたいなものだが、それが何なのだろう……?

「名前はアレだけど、温泉がありそうな所は他人の家吹き飛ばしてでも開発しようとするテロリスト集団だよ。結構有名」

「ひ、ひぇ……」

「バケモンかよ……」

「で、それが今日突然うちの校区内に出たらしいの。しかも戦車を数台従えてて、保安委員は後手に回らされてるみたいだね。相手の動きを見るに、標的は中央の物流センターだと思うから、そこを取り囲むようにバリケードを置いてどうにか持ちこたえてるみたい」

 随分と大変な状況らしい。出来るだけ急がなきゃ。

 私は地図をじっと見つめて作戦を練る。

「敵には戦車が複数台居るし、ロケット弾とかも飛んでくる可能性あるから、気を付けてね」

「分かりました。すみません、地図借りて行きます」

 ユイナ先輩が快諾してくれたのを見て、地図を手に取り、私は他3人に目配せをする。

「それじゃあ行ってきます」

 私たちは先輩たちにそう言って、T-34に乗り込んだ。

「……さて、リナ、ユウリ、大砲の操作は移動しながら教えるね。みんな、準備はいい?」

 私は車長席に座って全員に声をかけた。

「OKだよ〜」

「う、うん……!」

「おう!」

「よし。……ライカ、エンジン始動!」

 そう言われてライカは、慣れた手つきでアクセルを少し開け、電気系統のスイッチを入れると、車内を照らす電球が灯る。ライカが操縦席のボタンを押し込めば、エンジンスターターがT-34のエンジンに息を吹き込んだ。

「わぁ〜、動いた〜!」

 車内に伝わる振動に、ユウリがはしゃいでいる。一方私は前世の記憶と重ね合わせて懐かしんでいた。身長やメンバーは違うけれど、あの頃に戻ったような感覚を覚える。

「エンジンの調子はどう?」

 私がライカにそう言えば、ライカはアクセルを少し吹かしながら計器類を確認して、「だ、大丈夫そう!」と返事をしてくれた。

「よぉーし、それじゃあ行こう!出撃だよ!」

 その掛け声でライカはギアを入れてゆっくりと戦車を発進させる。資材倉庫を出て、格納庫を通り、正面のゲートをくぐり抜けた。

「うぉーっすげぇ!ホントに走ってる!」

 リナは照準器から外を眺めて、興奮気味に声を上げた。

「出だしは順調だね。作戦区域に向かうよ。ライカ、2時方向に旋回!その先の街道に乗って目的地へ向かって!特に障害物がなければ全速!」

「う、うん」

 慣れないうちは旋回操作も結構大変な筈だけど、ライカは滑らかに旋回を終えて加速させていく。本当に乗り慣れているのだろう。

「結構速いね〜……」

 ユウリは装填手側にあるハッチを少し持ち上げて外を眺め、そう言うとハッチを閉じる。

「うん、時速50kmくらいは出るよ。数分で目的地付近には到着するから、気を引き締めてね。ユウリ、立ってるの辛かったらすぐ後ろに座席あるよ。戦闘中は立った方がいいけど、移動中は座っててもいいから」

「あ、そうなの?ありがと〜」

 ユウリは背後の折り畳まれた座席を出すとその上に座った。

「……それじゃあリナ、操作の説明をするね」

「おう」

 私は1つずつ順を追ってリナに砲塔の操作方法を教えていく。元々同じ系統の大砲を使ったこともあるからか、飲み込みは早いし、直接照準点や弾道云々については元々知っているのが有難い。砲塔の電動旋回がレバーを戻しても惰性で動くのには少し不満そうだったけれど、手動操作を教えたら「まぁ何とかなるだろ」と返答があった。ひとまずは安心そうだ。

「よし。じゃあユウリ、装填手の仕事について教えてくね」

「うん!」

 次はユウリ。まず初めに同軸機銃の弾薬装填について教えて、砲弾の装填手順を教えていく。彼女は話し方が緩くて能天気なようにも見えるから、少し心配だったけれど、実際は飲み込みは早いし動きも丁寧だ。今ユウリは砲弾を持たずにイメージトレーニングをしているが、こちらも心配なさそうな動きをしている。

「それじゃあここからが本題。私が状況に合わせて何を込めたらいいのか伝えるから、その指示通りに砲弾を込めてね。今回は徹甲弾と榴弾だけだから、覚えてるよね?」

「うん!ばっちり!」

 ユウリが元気に返事したのに頷きで返し、私は気を取り直して全員に伝えた。

「……さぁ、目的地が近付いて来たよ!総員戦闘態勢!」

 

 

 

「委員長!やっぱり戦車相手には無理です!これ以上は持ちこたえられません!!」

 一方その頃、商業地区を防衛する保安委員たちは苦戦を強いられていた。

「怯むな!最後まで戦え!」

「しかし、対戦車兵器や戦車も無しではそろそろ限界です!着実にバリケードが1枚ずつ破られてます!負傷者も増えていてジリ貧です!」

「対戦車砲は!?」

「配置が間に合わず戦車にやられました……!」

「くそっ!まだ諦めるな!さっき本部から自動車部への出動要請受け入れの返事があったと連絡があった!戦車が来るまで持ち堪えろ!」

 委員長がそう言った所に保安委員が走ってくる。

「敵戦車が接近中ー!」

「くっ……!総員構えろ!戦車には歯が立たなくとも、周りの奴らだけでも倒すんだ!」

「みんなー!温泉まであと少しだよー!」

「「「おぉーっ!!」」」

 戦車を交えた温泉開発部の部隊が着々と前進してきていた。

(早く……!早く来てくれ……!)

 

 

 

「目的の地区に到着!ライカ、減速してゆっくり前進して!あと正面ハッチは閉めてね!」

「わ、分かった……!」

 ライカは車体の速度を落とし、正面ハッチを閉める。

 私は地図とコンパスを手に、敵の位置を推測し始めた。

「ゲヘナ学園はここから南西方面、主要な街道はここ……それなら普通に行くならこのルートを通るはず」

 私は敵の位置に見当をつけると、みんなに指示を出した。

「ライカ、少し加速して次の交差点を左折、その二つ先を右折して!その後すぐに停車!ユウリ、徹甲弾装填!」

「はーい!」

 ユウリが教えた通りに砲弾を薬室に押し込むと自動で主砲の閉鎖機が閉じる。ユウリが側面の安全レバーを引くと、すぐに閉鎖機から離れて安全な姿勢を取った。

「装填完了〜!」

 ライカは指示通りにT-34を走らせ、滑らかに減速して停車する。車長席のペリスコープから前方を見ると、この学校では見たことがなく、前世の私にとっては見飽きるほどに見た戦車が側面を晒しながらゆっくりと前進している。

「ビンゴ、正面にIII号戦車!距離は450mくらい!車体側面ド真ん中を狙って!ゆっくり動いてるから転輪一個分右に補正!あと榴弾より少し落ちるから気を付けて!」

「了解!あの赤色のヤツだな!?」

 そう言いながらリナは忙しなくハンドルを回し、照準を定めていく。

「照準出来たぞ!!」

「撃って!!」

 リナは私の指示を受けてハンドルの引き金を握り込んだ。

 ガコン、と閉鎖機が後退する。使用済みの薬莢が勢い良く後ろへ排出され、軽快な金属音を立てた。

 

 

 

「くぅっ、しぶといやつらめ!おーい!戦車で蹴散らしてやれ!」

 仲間にそう指示を受けた温泉開発部のIII号戦車はゆっくりと前方のバリケードへと向かっていく。砲塔がゆっくり旋回し、保安委員たちの隠れるバリケードへと向けられた。

「くそっ、ここまでか……!」

 保安委員たちがバリケードの裏で諦めかけた次の瞬間、III号戦車の側面に目にも止まらぬ早さで何かが突っ込み、III号戦車の砲塔が吹き飛ぶ。

「ぐぇーっ!?!?!?」

 III号戦車の乗組員たちは突然自分たちの戦車が爆散したのを理解出来ず、悲鳴をあげながら外へと放り出された。

「なんだ!?」

「……げっ、レッドウィンターの戦車だ!?」

「なんでいるんだよ!?」

 温泉開発部員たちは飛んできた物が砲弾であることを理解すると、砲弾の飛んで来た方向を見て狼狽えた。

「やった!戦車の支援だ!」

「けど1両しか居ないぞ!?」

「来るだけいい!今のうちだ、戦線を立て直せ!レッドウィンター保安委員の底力を見せろ!」

「「「おぉー!!!」」」

 保安委員長の号令によって保安委員たちは活力を取り戻し、大急ぎでバリケードの再構築や機関銃陣地の構築を始める。

「……っ、まずい!」

 ニコたちの乗るT-34に気を取られて後退の遅れた温泉開発部員は、保安委員たちが構築した即席の機関銃陣地の弾幕をもろに食らい、痛手を負う形になった。

 

 

 

「よし、当たった!」

「撃破!弾薬庫に命中、いい腕だね!」

 私とリナはガッツポーズをする。しかしまだ油断は出来ない。

「ユウリ!次は榴弾!」

「はーい!……よいしょ」

 ユウリは指示を受けてすぐに榴弾を装填し始めた。砲弾はユウリにとっては軽いのか、軽快に薬室に榴弾を押し込んで、安全レバーを引く。それなりに大きくて重い85mmの砲弾を、あまり慣れている訳でもないのに6秒程で込めてしまうのだから凄まじい。

「装填完了〜!」

「ライカ、11時方向に旋回して軽く前進!建物の壁の近くで停車!リナ、奥の方の戦線を支援するよ!砲塔を1時方向に旋回!目標、距離700m弱の温泉開発部員の集まり!榴弾だからいつもの感覚でいいよ!」

「わ、分かった、前進するね……!」

 ライカは指示通りに車体を左前方へと旋回してゆっくり前進させ、建物の近くで停車した。リナは砲塔を素早く電動で旋回させ、声を上げる。

「見えた!目標捕捉!」

 リナはそう言いながら、照準を調整した。

「撃て!」

 閉鎖機がガクンと後退し、車内に振動が響く。また、新しい空薬莢が閉鎖機から吐き出された。

 

 

 

「こっちだ!こっちの方が手薄だぞ!」

 温泉開発部員たちは他のバリケードを突破するために、複数の部隊に別れて前進している。

「耐えろー!戦車の支援が届くまでの辛抱だ!」

 保安委員の1人が戦いながら仲間をそう鼓舞した次の瞬間、温泉開発部員の集団先頭の足元に榴弾が命中し、炸裂した。至近弾なら航空機も落ちる85mm榴弾の爆発を至近距離で受け、温泉開発部員たちは衝撃波でドミノ倒し……どころか吹っ飛ばされる。

「ぐはっ……」

「いったぁ〜……」

 保安委員たちが爆発で顔を逸らし、次に見た時には戦線を押していた目の前の温泉開発部員の大半がダウンしていた。

「……っ、やった!戦車の支援だ!助かったぞ!急げ!今のうちに押し返せ!」

「行け行けーっ!」

 

 

 

「……命中!効果あり!」

「っしゃあ!」

 ユウリが砲弾ラックに手をかけながらこちらを見る。

「次は〜?」

「一旦待機して!決まり次第言うから準備だけしておいて!」

「はーい!」

 私が指示すると、ユウリは足元の弾薬箱を開けて、自分の背後にある即応弾の砲弾ラックに砲弾を補充し始めた。

「ライカ!全速前進して400m先の交差点で左向けたら停車!」

「うん……!」

 ライカは指示通り前進して指示された交差点で左に旋回、背後に保安委員たちのバリケードが来る位置で停車させた。私はすぐに車長席のハッチを開けて、顔を出し、保安委員に声をかける。

「自動車部です!要請を受けて至急支援に来ました!」

 それに、保安委員の中でも全員に指示を出していた1人が反応した。おそらく、彼女が保安委員長なのだろう。

「支援に感謝する!戦車をどうにかしてくれれば我々も動けるから戦車を優先して目標としてくれ!余裕があれば対人支援も頼む!」

「了解しました!戦車は何両目撃されていますか!?」

「我々が見た限りは全部で5両!さっきのを除けば残り4両だ!」

「情報提供ありがとうございます!これより対戦車戦闘、殲滅戦に入ります!」

「頼んだ!健闘を祈る!」

「……!」

 私は保安委員長に無言で敬礼してから、車内へ戻ってハッチを閉め、指示を出す。

「全速前進!」

 T-34はディーゼル音を響かせながら、力強く走り出した。




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