「……目標!前方の機関銃陣地!撃て!」
閉鎖機が後退し、砲声と共に榴弾が放たれる。着弾と共に温泉開発部が設置した即席の機関銃陣地が弾け飛んだ。
「……瓦礫から残党が出てきたぞ!」
リナが照準器を覗きながらそう私に報告する。間髪入れずに「同軸機銃をお見舞いして!」と返してユウリへと問い掛ける。
「ユウリ、同軸機銃の装填は!?」
「もう出来てるよ〜!」
「OK、撃ちまくって!」
その直後、閉鎖機の横に取り付けられた機関銃が高速で薬莢を排出し始めた。
キューポラ越しに、温泉開発部員たちに機銃掃射をお見舞いして追いやっているのが見える。掃射が止まれば、保安委員たちが動けなくなった温泉開発部員達を取り囲んで確保していた。
私はキューポラから周囲を確認し、ふと左を見ると、少し離れた場所で温泉開発部員が数人物陰から飛び出す。そのうちの一人の肩には
「全速後退っ!」
「……!」
その声を聞くや否や、ライカはギアを後退に叩き込んでアクセルを全開にした。慣性で少し前のめりになりながらも、素早く後退速度を稼ぎT-34は後退する。次の瞬間、飛来したロケット弾は車体前方を横切ってすぐ横の建物の壁へと命中、爆発した。
「……わっ!?なに〜!?」
「10時方向、100mに敵対戦車兵!ユウリ、榴弾!」
突然の爆発音に驚くユウリの疑問に大声で応え、指示を飛ばせば、リナが私の話を聞いて砲塔旋回させているうちに大慌てでユウリが動き、すぐに「装填完了〜!」と返ってくる。
「見えた!」
「撃って!」
「くらえ……っ!」
そう言いながら温泉開発部員が放ったロケット弾は、丁度のタイミングで標的の戦車が後退してしまったことで、命中を逃してしまった。
「くそっ!もう1発!」
と、その温泉開発部員は、近くにいた他の部員の方を振り返って言う。
「いや待て!あの戦車こっち向いて……っ!?」
予備のロケット弾を抱えた温泉開発部員は、戦車を指差して発射器本体を持つ部員に言った。言われた部員はすぐに戦車の方を見て、顔を青ざめさせる。
「ヤバいっ!逃げ……っ」
次の瞬間、その部員達の足元へと1発の榴弾が放り込まれた。
「効果あり!対戦車兵の無力化確認!」
ペリスコープ越しの状況をリナに伝えると、「よし!」とリナが照準器を覗く姿勢を維持したままガッツポーズをする。
それから、温泉開発部員達を保安委員がどんどんと押し、ついに広場のほとんどを奪還していた。
「ここが掌握出来れば、向こうも物資を結構失うことになるからあと少しだよ」
車内の全員にそう伝えると、リナがこちらを振り返って「だけどよぉ」と口にする。
「たしか、敵戦車は最低でも5両、って言ってなかったか?」
「まだ3両しか倒してないよ〜?」
リナとユウリの言う通りだ。まだどこかに戦車がいる可能性が高い。
「そうなんだよね。きっとどこかに居るはずなんだけど……」
そんな話をしながらペリスコープで周囲を確認していると、広場の先の通りに入って行った保安委員たちが大慌てで戻って来た。そして私たちの乗るT-34を見るや否や、1人の保安委員がこちらを見ながら通りを指差し、大声で叫んだ。
「敵戦車だーー!!!」
その直後、保安委員が指差した通りから砲声がして、ほぼ同時の爆発が保安委員の背後で起きる。
「うわぁぁぁああ!?」
叫んでいた保安委員は爆発で何メートルも吹っ飛ばされ、私たちのT-34の前に転がってきた。
「!」
「お出ましか……!」
私はすぐにハッチを開け、吹っ飛ばされた保安委員に声をかける。
「大丈夫!?」
「うぐ……」
完全に伸びてしまっていて動けそうにない。すぐに他の保安委員が救助に来たが、担架もなく一人だけだ。動けなくなった人を道具もなく一人で運ぶのは一苦労で、どうにか引きずって運び始める。ふと、そんな光景に前世の記憶がよみがえる。撃たれた同志をどうにか助けようと飛び出した一人の兵士が、無事に助かったのを見たことなどなかった。もうすぐ敵の戦車が来る。そうなればきっと彼女たちも……。
そう思うと、じっとしてなど居られなかった。
「……ちょっと行ってくる!」
「え、ニコちゃん!?」
「あ!?おい!!」
私はリナとユウリの静止を振り切って戦車から飛び出すと、斜面装甲を滑って保安委員たちのもとへ降り立つ。
「……!?戦車の指揮は……!?」
「いいから!戦車の後ろに乗せて!」
そう言いながら保安委員に手を貸し、T-34の車体後方に二人を乗せると大急ぎでハッチから車内に戻り、ライカへと全速後退の指示を出した。T-34はすぐにエンジンを吹かして後退し始める。
「後ろの二人を安全な所で降ろすから、ここで左に曲がって!」
その指示通りにT-34が交差点を曲がろうとしたとき、先程砲弾が飛んできた通りからIV号戦車が姿を現した。すぐさま砲撃を放ってきたが、こちらの後退の方が一足早かったようで砲弾はT-34の正面装甲を掠めてその先の建物の壁へと飛び込む。
「そのまま真っ直ぐ全速後退!」
私は後方と前方を交互にを見ながら、その後の動きを練っていると、前方に先程のIV号戦車とは違うもう1両、短砲身のIV号戦車が現れた。既に砲塔はこちらを向いていて、仰角を調整しているのが見える。
「……っ、左に行って!」
私はギョッとして指示を出すとほぼ同時、ライカも戦車が見えていたのか指示通りの方向へと旋回した。後退しながら車体が右に旋回し、交差点を左へと曲がって後退していく。間も無く、短砲身IV号戦車から砲弾が放たれた。
砲弾はT-34には命中せず、山なりな弧を描いて地面に着弾する。砲弾は地面に刺さって小さな爆発を起こした。
「ひぃっ……!」
ライカはその爆発に悲鳴を上げながらも、T-34を後退させ続ける。2両のIV号戦車が追ってくることは無かった。
「くそっ、外した!追うぞ!」
短砲身のIV号戦車が発進しようとしたところで、もう1両のIV号戦車がやって来る。
「待て!下手に深追いすると反撃食らうぞ!ここで待とう」
「待ってて出てくるもんかなぁ?」
「あの戦車はさっきアタシらの砲弾で出来た負傷者を乗せてたはずだ。負傷者を乗せたままあまり遠くには行けないし、追ってくる危険がある所で下ろして逃げるもんか」
「……なるほど!」
「ここを通ったら砲撃をお見舞いするぞ」
そうして2両のIV号戦車は先程T-34が曲がった交差点が見える場所で停車して待ち構えた。
「ライカ、停車して」
私がそう指示を出すとライカはT-34をゆっくりと減速させて停止させる。
「……追ってこないな」
「たぶん私たちが負傷者を抱えてて遠くに行けないのを分かってて待ち構えてるんだと思う」
「えっ!?ひど~い!」
「うわ、
リナとユウリはそう言うが、戦闘となればそういう手段もある。リーダーはちゃんと頭の切れる生徒が務めているらしい。
「それよりもまずは後ろの2人の安全確保が先だよ」
私は車長ハッチを開けて顔を出すと、エンジンルームの上に乗せた保安委員2人に声をかけた。
「2人とも無事ですか?」
「あ、あぁ……まだ彼女は起きないが……」
片方の保安委員がそう言った所で、もう1人の気を失っている保安委員がもぞりと動き、「うーん……」と声を漏らす。
「お、起きたか?」
「……はっ!?ここは!?」
気を失っていた保安委員が目を覚まし、飛び起きた。
「戦車の上だよ。自動車部の生徒が気絶したお前を戦車に乗せて運んでくれたんだ」
「そう、だったのか……ありがとう。恩に着るぞ」
そう言って保安委員は帽子を取って頭を下げた。それに小さく手を挙げて応える。
「無事で何よりです。動けそうですか?榴弾の爆発に巻き込まれたみたいだったので、怪我とかしてないといいんですが……」
「大丈夫だ、もう動ける。突撃だってできるぞ」
「それは、せっかく無事なので控えてもらえると……」
そう苦笑いする私に、保安委員は快活な笑みを返した。
「……ところで、もう敵は倒したのか?」
「いえ、これからまた対戦車戦闘があります。少なくともあと2両倒さないと。……それで、動けそうなら、ここから後方へは自力で移動して欲しくて」
「もちろんだ。ここまで運んでもらったこと、感謝する」
そう言って保安委員2人は私に一礼して戦車の上から道路へと降りる。
「……そうだ。車長殿、名前は?」
「前宮ニコです。来年度から1年生になります」
私の言葉を聞いた保安委員は、驚いたような顔を見せ、その後また快活に笑った。
「1年!?……ははっ、あのまるで熊の如き奮迅を見せてるのが1年だとは、自動車部も素晴らしい人材を拾ったものだ」
そう話すと、保安委員2人は私に向かって背筋を伸ばし、敬礼した。
「奴らの侵攻を撃退できるかは君たちにかかっている。この後の活躍にも期待し、応援しているぞ」
「ありがとうございます!」
そう言って、私も敬礼を返す。それを見た保安委員2人は、「行こう」と言って後方へと走っていった。
私は車内に引っ込み、全員に声をかける。
「それじゃあ皆、準備は良い?」
「おう」
「OK~!」
「だ、大丈夫……」
3人の返事を聞いて、1度頷くと、私は全員へ気合を入れるべく声を張った。
「総員、再度戦闘態勢!対戦車戦闘用意!」
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