いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話   作:シン_クワちゃん

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第十一話「恋を素敵なものにする」

文化祭まで、あと二週間。二学期が始まってからは、毎日のように文化祭の話をしている気がする。教室では黒板の端に予定表が貼られ、放課後になると資料を見ながら話しているやつとか、飾りを作ったりする奴が増えてきた。アタシはこういう準備自体は嫌いじゃない。みんなで何かをやるのは、それなりに楽しい。

 

なんだけど……

 

「クラスの出し物、メイド喫茶に決まったから」その言葉を聞いた瞬間、アタシは思わず聞き返した。

「……メイド喫茶?」

「うん。うちのクラスは女子が多いし、結構いけるんじゃないかなって」学級委員の男子が黒板を指差す。そこには大きな字で、『メイド喫茶』と書かれていた。

「で、女子は基本的にメイド服を着ることになる」

「アタシも着るの?」思わず口に出た。

「そりゃそうでしょ」奈央が笑っている。

「なんでそんな嬉しそうなのよ」

「だって楽しそうじゃん」

「アタシは別に楽しそうじゃないんだけど」

すると、横から意外な声が聞こえた。

「私はちょっと楽しみかも」こころだった。

「こころも?」

「うん。こういう服、着たことないから」

「いや、普通ないでしょ。メイド服なんて」

「せっかくだし、やってみたいなって」

そう言って、衣装のカタログ写真を覗き込んでいる。意外とノリノリだ。

「やよいは?」

「私は絶対やりたい!」

「聞くまでもなかった」

やよいはこういうイベントになると妙に元気になる。

沙織はというと、黒板を見ながら少し考えていた。

「文化祭ですから、やるからにはちゃんとやりたいですね」

「沙織まで乗り気なの?」

「種村さんも似合うと思いますよ」

「それ、慰めてる?」

「いえ、本当にそう思っています」沙織はいつもの落ち着いた顔で言った。

こういうところは、たぶん本気だ。

「……まあ、決まったものは仕方ないか」アタシはため息をついた。

 

それから、文化祭準備が始まった。

アタシは飾り付けやらメニュー表作りやら、頼まれた仕事をどんどんこなしていく。

奈央や内田っちは実行委員だから、クラスの準備だけじゃなくて全体の仕事もあるらしい。

「今日も実行委員会?」

「うん。たぶん遅くなる」

「大変だね」

「アツミンも手伝ってよ」

「クラスの仕事なら手伝ってるでしょ」

「そうだった」奈央が笑う。

 

こうやって五人でくだらない話をしながら準備する時間は悪くない。沙織は丁寧に飾りを作っているし、やよいは何かにつけて楽しそうだ。こころは思っていた以上に器用で、飾り付けにも妙に凝っている。そして奈央は、忙しいくせにいつも通りだ。

アタシはそんな四人を眺めながら、ふと思う。こういう時間も文化祭が終わればなくなるんだよな。だからまあ、嫌がってばかりいるのももったいないか。

……メイド服は別だけど。

 

放課後。アタシは教室に残って、飾り付けの続きをしていた。石田は男子の準備があるらしく、今日は別行動だ。

付き合い始めたと言っても、毎日一緒にいるわけじゃない。それでも、以前とは少し違う。

帰りに一緒になることが増えたし、学校で目が合えば自然に笑うようになった。

 

スマホを見る。石田からメッセージが来ていた。たぶん男子は工作室にいるはず。

『今日、準備長引きそう』

それだけでも、なんとなく嬉しい。

『了解。頑張って』そう返して、スマホをしまう。

アタシは一人で笑ってしまった。何やってんだアタシ。たった一通のメッセージで嬉しくなってる。でも、こういうのが悪くない。

石田と付き合うようになって、アタシはそんなことを思うようになった。

 

特別なことをしなくてもいい。一緒に帰ったり、くだらない話をしたり、メッセージをやり取りしたり。そういう時間が少しずつ増えていく。それが結構楽しい。

「……恋って、こういうもんなのかな」誰もいない教室で呟いてみる。

答えは分からない。でも、今はこれでいいと思っていた。

 

文化祭まであと三日。準備はさらに忙しくなっていた。そして、メイド服も届いた。

「うわぁ……可愛い」箱を開けたこころが声を上げる。

「そんなに嬉しい?」

「はい、もちろんです」本当に嬉しそうだった。

「これ、絶対可愛いよ!」やよいも横から覗き込む。

「やよっちはもう完全に楽しんでる」奈央が突っ込む。

「だって文化祭だよ?」

「それ、何回聞いたんだろ」

「ちゃんとサイズも合っていますね」沙織は自分の衣装を手に取っている。

「沙織はきっと何着ても似合うだろうねぇ」」

「種村さんもですよ」

「それは今聞きたくない」

「アツミン、当日楽しみだね」奈央が笑った。

「奈央まで言うか」

「だって、絶対似合うよ」

「はいはい」そう言いながらも、アタシは自分の衣装を手に取った。

……まあ。着てみるくらいなら、いっか。

 

その日の帰り。アタシは一人で歩いていた。石田とは時間が合わなかった。今日は先に帰っているらしい。別に、それでどうこう思うわけじゃない。

また明日会えばいい。そう思って歩いていたとき、公園の前で後ろから声がした。

 

「アツミン」

振り返ると奈央だった。

「まだ学校にいたの?」

「うん。実行委員会が長引いちゃって」

「そっか」

奈央は少し疲れているように見えた。

アタシは歩きながら、ちらっと奈央を見る。ずっと気になっていたことがある。

奈央は、石田のことが好きだったはず。はっきりとは言わないけど態度でバレバレ。

そして、アタシは石田と付き合うことになった。そのことについて、奈央とちゃんと話したことはなかった。奈央が何も知らないわけじゃないと思う。でも、知っていることと話すことは違う。

「奈央」

「ん?」

「ちょっと公園、寄ってかない?」

「いいよ」

アタシたちは公園のベンチに座った。夕方の公園は静かで子どもたちの声も少し遠くなっている。アタシはしばらく黙っていた。どう切り出そうか考えていた。

「実はさ……」奈央がこちらを見る。

「石田のことなんだけど」奈央は何も言わなかった。だから、そのまま話した。

「アタシ、石田と付き合ってる」

「うん」奈央は静かに頷いた。

「知ってる」

「……そっか」やっぱり知ってた。アタシは少しだけ息を吐いた。

「奈央は、どう思ってる?」

奈央はすぐには答えなかった。しばらく考えてから、ゆっくり口を開いた。

「アツミンは、私が出来なかったことが出来たんだと思う」

「出来なかったこと?」

「うん」奈央は足元を見ながら続けた。

「私は石田君のことが好きだった」

「でも、好きって思ってるだけだったんだと思う」奈央は少し笑った。

「石田君とどうなりたいのか、ちゃんと考えてなかった」

「……うん」

「アツミンは違った」奈央がこちらを見る。

「石田君と一緒にいたいって思って、ちゃんと動いてる」

アタシは少しだけ視線を逸らした。

「この前ねウッチーにイクミンとのことを聞いて、それで少し分かったんだ」

「内田っちと話したの?」

「うん。ウッチーが言うにはね、付き合うって好きな人を自分のものにすることじゃなくて、一緒にいることなんだって」

 

その言葉を聞いて、アタシは少し考えた。確かにそうかもしれない。アタシは石田を自分のものにしたいと思ったことはない。ただ、一緒にいたい。それだけだった。

「だから、アツミンと石田君が付き合ったことは理解してる」奈央はそう言った。

「それに、アツミンは私の大切な友達だから」少しだけ笑う。

「アツミンに好きな人がいて、その人と付き合ってることは嬉しいよ」

「奈央……」

「でも」奈央はまっすぐアタシを見た。

「応援は出来ない」

 

アタシは黙った。少しだけ胸が痛む。でも、それでいいと思った。

「うん」

「ごめん」

「謝らなくていいよ」アタシはそう答えた。

「応援してもらわなくてもいい」

奈央が少し驚いた顔をする。

「アタシたちは、自分たちでこの恋を素敵なものにしていくから」

言葉にすると少し照れくさい。でも、今はちゃんと言えた。

「石田と一緒にいたいし、石田にもアタシと一緒にいたいって思ってもらいたい」

「うん」

「だから、二人でちゃんと時間を作っていく」奈央は何も言わずに聞いている。

「それでいいと思ってる」

 

しばらくして、奈央が笑った。

「そっか」

「うん」

「じゃあ、私もいつか見つけるよ」

「何を?」

「素敵なお付き合いをする相手」

「おー」

「私も、いつか好きな人とちゃんと付き合ってみせる」

「頑張れ」

「その相手は……」奈央が少しだけいたずらっぽく笑った。

「もしかすると石田君かもよ~」

「……は?」

思わず間の抜けた声が出た。

「大丈夫」アタシは笑った。

「石田、アタシにぞっこんだから」

「なにそれ、ずるいな~」奈央も笑った。

 

 

さっきまで少し重かった空気が、いつの間にかなくなっていた。

「でも、奈央さ」

「ん?」

「本当に好きな人ができたら、今度はちゃんと動いてね」

「うん」

「好きって思ってるだけじゃ、たぶん何も始まらないから」

「分かってる」奈央は笑った。

「アツミンに教えてもらったから」

「アタシが?」

「うん」

「……そっか」なんだか少し恥ずかしくなった。

 

公園を出る。夕焼けの空を見ながら、二人で歩く。

「ところで、アツミン」

「何?」

「メイド服、絶対似合うと思うよ」

「まだ言うか」

「だって本当だもん」

「奈央、覚えてろよ」

「何する気?」

「文化祭の日、アタシが一番似合ってたってみんなに認めさせる」

「それ、アツミンが一番やる気になってない?」

また二人で笑った。

 

文化祭前日。教室は、もう完全にいつもの教室ではなくなっていた。

壁には飾り付け。机はメイド喫茶用に並べ替えられて白いクロスが掛けられ、黒板には大きく店の名前が書かれている。

こころは最後まで飾り付けを楽しんでいた。やよいは衣装を何度も確認している。沙織は明日の役割を確認しながら、みんなに声を掛けている。奈央は実行委員の仕事で忙しそうだった。

 

そしてアタシは。

「……本当に着るんだよな、これ」手に持ったメイド服を見下ろしていた。

「もちろん」やよいが即答する。

「敦美さん、きっと似合いますよ」こころも笑う。

「こころまで笑うな」そんなことを言いながら、アタシも少し笑っていた。

「ごめんなさい。でも、ちょっと楽しみ」

 

文化祭は明日。クラスのみんなで作ってきたものが、ようやく始まる。

石田とは一緒に回る約束をしている。きっと、いつもの毎日とは少し違う二日間になる。

 

そしてアタシたちの高校生活二回目の文化祭が始まった。

 

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