いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 作:シン_クワちゃん
いよいよ文化祭。朝から校内は、いつもの学校とはまるで違う雰囲気になっていた。
廊下には色とりどりの飾りが並び、あちこちから呼び込みの声が聞こえてくる。普段は静かな階段にも人が行き交い、どこからか焼きそばの匂いまで漂っていた。
僕は委員会の腕章をつけ、育美と一緒に校内を見回っていた。
「雄太、次はどこを見て回る?」
「じゃあ、二階のほうから行ってみよう」
「うん、そうだね」
僕が答えると、育美は先に歩き出した。
こうして二人で文化祭を見て回っていると、なんだか普通にデートをしているような気もする。いやいや、僕たちはちゃんと委員会の仕事をしてるよ。たぶん。
二階へ上がったところで、大きな声が聞こえてきた。
「メイド喫茶、営業中でーす!」
見ると、悠木さんがメイド姿で看板を持って歩いていた。
「二年一組です! ぜひ来てくださーい!」
元気いっぱいに声を出している。
「悠木、声大きいな」思わず声をかける。
「文化祭だからね!」僕たちに気づくと、悠木さんが笑った。
「内田、長谷部さんも来てね!」
「うん。あとで行くよ」
そのとき、廊下の向こうから子安先生が歩いてきた。隣には女性がいる。
「先生!」悠木さんが駆け寄った。
「私たちのメイド喫茶ぜひ来てください!」
「おう。ちゃんと行くぞ」
「奥さんもぜひ!」悠木さんが女性にも声を掛ける。
子安先生は隣の女性に向かって言った。
「この子はとても勉強熱心で、いいレポートを書いてくれたんだよ」
「そうなのね、お勉強、頑張ってね」女性が笑顔で悠木さんを見る。
「ありがとうございます」
一瞬だけ、悠木さんの表情が止まったように見えた。でも、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「先生に評価してもらえるの、嬉しいです」
そう言ってから、悠木さんは二人の背中を押した。
「ほら、ぜひ入ってください!」
「分かった分かった」子安先生と奥さんは、メイド喫茶の教室へ入っていった。
僕たちも、その後から教室へ入ると教室内はかなり混んでいた。
「いらっしゃいませ!」小森さんが元気に声を掛けている。
すると、近くにいた三年生らしい男子が小森さんに声を掛けた。
「ねえ、君。めっちゃかわいいじゃん」
「えっ……」小森さんの顔が一気に赤くなる。
「そ、そうですか……?」
「うん。今日初めて見たけど、メイド服が似合っててかわいいと思うよ」
「ありがとうございます……」小森さんは恥ずかしそうに俯いた。
その男子は、どうやら小森さんの名前も知らないらしい。
「じゃあ、またね」と言って先輩は出て行ったけど、小森さんはしばらくその場で真っ赤になっていた。
「こころちゃん、すごい照れてるね」育美が小さく笑う。
「うん」僕も笑った。
厨房コーナーを覗くと、早田さんが厨房でコーヒーを準備していた。
「二番テーブル、コーヒーお願いします」
「はい」
「料理が出来たら、先に三番テーブルへ」
「分かった」
いつもの落ち着いた口調なのに仕事ぶりはてきぱきしている。コーヒーを淹れながら調理や給仕を担当しているクラスメイトに指示を出している。
「早田さん、すごいね」
「うん。こういう仕事、向いてるのかも」
僕たちは忙しそうな早田さんの邪魔にならないよう教室を出た。廊下に出ると育美が僕を見る。
「雄太、次はどこを見て回る?」
「そうだな……」
そのとき、向こうから種村さんと石田が歩いてきた。種村さんはメイド服姿だった。うん、あえて何も言わないでおこう。
「内田、長谷部さん」石田が手を挙げた。
「石田達は二人で見て回っているの?」
「そう、俺たちは次の当番まで時間があるから、ちょっと見て回ってる」
「内田っち達は委員会の見回りなの?」
「うん、そうだよ」
「そっか、じゃあ頑張ってな」
二人が歩いていく後姿を見ていると、種村さんは明らかに周りを気にしてるみたいで、すれ違う男子に見られるたびに、顔をしかめているようで、二人は人の少ないほうへ歩いていった。
なんで、男子はアタシを見ると驚いたような顔でずっと見るわけ?そんなに変?女子はカワイイとか言ってくれるのに。
「……もうだめ」
「敦美?」
「視線に耐えられない」アタシは石田君の手をつかんで引っ張った。
「こっち」
「え?おい!」
「人の少ないところ行く」
アタシたちはそのまま写真部の展示へ入っていった。
いくつもの写真を順番に眺めていた種村は一枚の写真の前で立ち止まった。
「……これ」
写真には、試合中の種村が写っていた。
スマッシュを決めた直後なのだろう。ラケットを握ったまま、片手を上げてガッツポーズをしている。
「懐かしいなぁ初めて選手として試合をしたときの写真だ」
「このとき、俺も試合を見てたよ」
「このあと結局負けちゃったんだよね」
「そうだったな……でも、あのときの敦美がきっかけだったんだ」
「何が?」
「俺が敦美を好きになったの」
「……は?」
「試合のあと、敦美が泣いてただろ」
「……まあ」
「それ見て、あのときの敦美がすごくいじらしくて、かわいいと思ったんだ」
途端に顔が熱くなってきたけど、咳払いでなんとかごまかす。
「それって、ヒョウタンから駒ってこと?」
「うーん、たぶん違うな」
「じゃあ、怪我の功名とか?」
「それも違うと思う」
「まぁなんでもいっか。そろそろ教室にもどらないとだね」
「そうだな、行くか」
(石田、アタシのことカワイイって)
「ん?なんか言った?」
「なんでもない、なんでもない、さぁ戻ろうよ」
アタシは石田の背中を押して教室を後にした。
運営委員として準備に追われていた時間のほうがはるかに長かったんじゃないかと思うくらい二日間の文化祭は、始まってしまえばあっという間だった。
そして、いよいよ閉会。後夜祭が始まり、校庭にはたくさんの生徒が集まっていた。
僕も育美も腕章を返してから校庭に向かった。
やがて、夜空に花火が上がった。
「わあ……」育美が空を見上げる。
僕も空を見る。大きな花火が夜空いっぱいに広がった。
そのとき、少し離れたところに見慣れた四人の姿があった。早田さん、東田さん、悠木さん、小森さん。
「みんな、あそこにいるね」育美が言う。
僕たちが近づこうとすると、東田さんがこちらに気づいた。
「あ、ウッチー!」東田さんが手を振る。
「アツミンと石田君もいる!」
少し離れたところにいた二人にも気づいたらしい。
「ウッチー、アツミンこっちこっち!」東田さんが大きな声で呼ぶ。
「行こうか」
「うん」
僕と育美は四人の方へ向かう。種村さんと石田もこちらへやってきた。
「せっかくだから、みんなで見ようよ」東田さんが言った。
「そうね。花火とてもきれいよね」早田さんが笑う。
「うん!きれい!」悠木さんも空を見上げる。
小森さんも、その隣で嬉しそうに花火を見ていた。
僕はみんなを見渡した。
四月に新しいクラスになったときは、こんなふうになるなんて思っていなかった。
最初は、いつも一緒にいる五人の女子を少し離れたところから見ていただけだった。
それが今は、育美と一緒に、そのグループの中にいる。
種村さんは、石田と付き合うようになった。二人でいる時間を自分たちで作っていこうとしている。
東田さんは、この前話した時から少し感じが変わった気がする。なんか今まで以上に自分から動こうとしている。
悠木さんは今日も先生にレポートを褒めてもらって嬉しそうだったけど、前のようなはしゃいだ感じがなくなって落ち着いた気がする。
小森さんは、三年生に「かわいい」と言われて、真っ赤になっていた。あれは、もしかしたら何かの始まりなのかもしれない。
早田さんは、相変わらず落ち着いていて、みんなのことをよく見ている。文化祭でも、いつの間にかみんなをまとめていた。そんな早田さんも、今はみんなと一緒に花火を見ている。
そして僕自身も。育美と一緒にいることがとても自然になってきた。
花火がまた一つ、夜空に上がった。
「きれいだね」育美が僕に言った。
「うん」僕は答えた。
その隣では、東田さんが悠木さんと何か話している。
種村さんは石田と並んで空を見ている。
小森さんはまだ少し頬を赤くして、なんかきょろきょろしてる。
早田さんは、そんなみんなを静かに眺めている。
たぶん、これからもいろんなことが起きると思う。
誰かが誰かを好きになるなんてことがあるかもしれない。誰かが悩んで沈むかもしれない。
僕たちは、少しずつ変わっていくんだと思う。それでも、きっとこうして一緒にいる。
文化祭が終わっても。二年生が終わっても。
高校生活は、まだまだ続いていく。
ファーストシーズン 完
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は、カクヨムやpixivにも投稿しています。
こちらでは2作目の投稿ですが、実はこちらが初めて書いた作品です。
そして、彼女たちの主に3年生の時を描いた作品も用意していますので、順次投稿していくつもりです。