いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 作:シン_クワちゃん
ゴールデンウィークが終わった。
何をしたかと言われると、特に何もしていない。家でゲームをしたり、動画を見たり、近所に買い物に行ったり。
たぶん、世の中の高校二年生のゴールデンウィークとしては、かなり地味な部類に入ると思う。友達と遊びに行くこともなかったけど、別に誘われなかったわけじゃない。
石田からは一度、「どっか行くか?」と聞かれた。
「どこに?」
「知らん」
「じゃあ行かなくていいんじゃない?」
「そうだな」それで終わった。
ゴールデンウィーク中、石田はバスケ部の練習があったし、僕も特に予定はなかった。
そして学校が始まると、すぐに中間テストの話が出てきた。
高校二年生の最初のテスト。
担任の杉田先生がホームルームで、
「まあ、ゴールデンウィークで遊んだやつもいるだろうけど、テストは待ってくれんよ」と言った。
「先生も遊んだでしょ」という声が飛んだけど、
「僕は先生だからいいの」
「ずるい」
「大人だから」真顔で杉田先生はそう言った。
この先生は、割と適当だ。でも、こういうところは嫌いじゃない。
僕も、そろそろ勉強しないとまずいかなと思った。でも思っただけで、その日は家に帰ってゲームして寝た。
そんなある日の昼休みだった。
「内田君」早田が僕のところに来た。
「ん?早田さん?なにかな?」
「中間テストの勉強してますか?」
「してないよ」
「予想はしていたけど、やっぱりね」
「やっぱりって何?」
早田は僕の机の上に置いてあったノートを見た。
「これ、見てもいいかしら?」
「いいけど」
早田がノートを開いて少し眺めてから「やっぱりきれいに整理されてるわね」って言う。
「そう?」
「えぇ、前に数学のノートを見た時にも思ったのだけど、字も読みやすいし、まとめ方もきれい」
「ノートだけだよ」
「どういう意味かしら?」
「頭の中はそんなにきれいじゃない」
早田がくすっと笑った。
「じゃあ頭の中も整理するための勉強会にお誘いしてもいいかしら?」
「え、勉強会?誰とやるの?」
「このみんなで」
早田が僕の後ろを指さす。
いつの間にか僕の後ろには種村、東田、悠木、小森がいた。なぜか種村はピースしてる。
「図書室で勉強会をやろうという話になってて内田君もどうかなと思って」
「僕も?」
「そうよ」
「なんで?」
「前に見た時もノートがきれいだっただから、勉強ができそうな気がしたの」
「それ、かなり間違った判断だと思うよ」
「まぁまぁ、せっかく美人JK五人が誘ってるんだからおいでよ」とウインクする種村。
「ウッチーのノート、字がきれいだから写しやすいかな~なんてね」と東田。
「まあ、いいけど」
こうして僕は、女子五人の勉強会に参加することになった。
その後放課後まで、男子からの目線がどうにも痛かったし、石田なんて口をぽっかり空けてたけど、気にしないことにした。
放課後、図書室へ向かう廊下を六人で歩く。
前には早田と東田。その後ろに悠木と種村と小森。僕は一番後ろからついていく。
「内田君」小森が振り返った。
「何?」
「得意科目は何ですか?」
「う~ん、どれも平均よりちょっと上くらいだからなぁ、強いて言うなら英語かな」
「わたし、英語が苦手なので、ノート当てにしていますね」
「あ、ウッチー、私も当てにする~」
「アタシは、やよいのを当てにするから大丈夫だよ」と種村。
「はいはい。敦美、見てもいいけど変な質問しないでね、集中が切れるから」
「え~、沙織~、やよいが冷たいよ~」
「私の邪魔もしないでね」早田は笑顔で切ってきた。
小森がクフッと噴出した。最近、小森はよく笑う。最初の頃は四人の後ろをついて歩いている感じだったが、今では普通に会話に入っている。
そのとき、廊下の向こうから長谷部さんが歩いてきた。
「あ」
長谷部さんが僕に気づいた。僕も軽く手を上げる。
「おはよう」
「もう放課後だよ」
「じゃあ、こんにちは」
「うん」
僕はそのまま通り過ぎて二三歩歩いてふと振り返ると、長谷部さんは立ち止まって振り返っていた。
その視線は僕じゃなく五人に向いていた。早田。東田。悠木。種村。小森。それから、もう一度僕を見る。長谷部さんはちょっと表情が変わった気がしたけど、何も言わずにまた歩き始めた。僕も特に気にしなかった。
「あの子隣のクラスだよね?知ってるの?」早速、種村が聞いてきた。
「うん、コロッケパンの関係」
「なにそれ?」
なんて話しているうちに図書室に着いた。
図書室では、最初の二十分くらいは真面目だった。
早田は黙々と問題を解いている。悠木も集中している。
小森は教科書を読みながらノートを取っている。種村は問題集をやっている。
東田は「ねえ、この問題はどうやって解くの?」と、早田に聞いていた。
「これは、この公式を使うのよ」
「え?」
「だから、この前授業でやったやつ」
「あー……」
「奈央、聞いてなかったでしょ」種村が突っ込む。
「聞いてたよ!」
「じゃあ覚えてる?」
「……覚えてない」
「ほら」
そんな会話をしている。
僕も一応、問題集を開いていた。
さらに十分くらい経ったところで東田が小さくため息をついた。
「はぁ疲れた」
「まだ三十分位だよ」小森が言った。
「ココロンは、反応冷たい」
「普通だと思うけど?」
「ねえ、ちょっと休憩しない?」
「じゃあ恋バナでもする?」種村がそう言って笑った。
「なんでそうなるの?」と僕が聞く。
「勉強よりそっちのほうが盛り上がるから」
「勉強会じゃなかったっけ?」
「そうだった」種村は悪びれない。
結局恋バナ?が始まったようだ。
「じゃあ、奈央から」種村が言った。
「なんで私からなの?」
「石田君」
「は?」
「好きなんでしょ?」
「ちょっと!」東田の声が大きくなった。
「東田さんここ図書室だから」小森が小声で注意した。
「ご、ごめん。でも、なんでそうなるの?」
「だって奈央、よく見てるじゃん」
「見てないよ」
「今日も教室で七回見てた」
「数えてたの?」
「うん」
「アツミン、怖いよ!」
種村は楽しそうに笑っている。
僕もちょっと突っ込んでみる
「結局、石田のことが好きなの?」
「ウッチーまで!」
「いやあいつとは友達だし、普通に気になっただけ」
「違うから!」
「そうか?」
「……全然そんなんじゃないから」
「分かった」
「その『分かった』は絶対分かってないでしょ」
「いや、分かったって」
東田は頬を赤くして、机に突っ伏した。やっぱり好きなんじゃないかと思った。
でも、本人が違うと言うなら、それ以上聞くことでもない。
「じゃあ、サオリンは?」東田が顔を上げた。
「私?」
「うん」
「好きな人いるの?」
「いないわね」早田は即答だった。
「じゃあウッチーのことを気になったりしてないの?」
「なんで僕?」
「いや、なんとなく」
早田が僕を見る。
「ないわね」
「ほら」
「ほらって何?」
「全然そんなんじゃないってこと」
このやり取りは僕にはよく分からなかったけど、速攻否定されたのはちょっと悔しいかも。
「じゃあ、やよっちは?」今度は東田が悠木を見る。
「私?」
「好きな人」
「いません」即答だったが、すかさず種村が突っ込んでくる。
「じゃあ、子安先生は?」
「先生には恋愛感情なんて!」
悠木が慌てて言ったけど全員が黙ったままだった。
「……」
気が付くと悠木の顔が赤くなっていた。
「いや、だから!」
「誰も何も言ってないけど」種村が笑った。
「違うからね!」
「うんうん」
「敦美!」悠木がさらに赤くなった。
僕は子安先生のことを思い出した。そういえば悠木は、国語の授業が終わったあとによく先生のところへ行っている。なるほど。そういうことだったのか。
「じゃあ、敦美ちゃんは?」今度は小森が種村に聞いた。
「私?」
「うん」
「いないよ」
「意外」
「そう?」
「誰か好きな人がいそうに見える」
「私、そんなに恋愛脳に見える?」
「実は見えない」
「だよね」種村は笑った。
「でも、好きになると弱いと思うよ、アタシは」
「そうなの?」
「うん。たぶん何もできなくなる」
「意外だな」僕も突っ込んでみた。
「人間そんなものじゃない?」種村はそう言って問題集を閉じて小森に向かって言った。
「じゃあこころちゃんは?」
「私?」
「うん」
「……いない」
「興味ない?」
「そういうわけじゃないけど」
小森は少し考えた。
「今は、みんなといるほうが楽しいかな」
その言葉を聞いて、僕は少しだけ小森を見た。去年だったら、たぶんこんなことは言わなかったと思う。いつの間にか変わったんだな。
「内田君は?」今度は小森が僕を見る。
「僕?」
「うん」
「好きな人とか」
「いない」
「彼女は?」
「全然いませんって、見てればわかるでしょ」
僕がそう答えたところで東田が、「ウッチーって、彼女欲しくないの?」と聞いた。
「う~ん、いたらいいんじゃない?」
「何それ」
「だって、いて困るものでもないだろ」
「じゃあ作れば?」
「好きな人いないのに?」
「そうだけど……」東田は少し考えて、
「ウッチーって、恋愛に淡泊だよね」と言った。
僕はよく分からなかった。
恋愛に興味がないわけじゃない。かわいい女子を見ればかわいいと思う。彼女がいる男子を見れば、いいなと思うこともある。ただ、自分から誰かを好きになろうと思ったことはない。
そんな話をしているうちに、「そろそろ勉強を再開しましょう」早田が言った。
「そうですね」小森も教科書を開く。
東田も渋々って感じで問題集を開いた。僕もペンを持つ。結局、その日はそれなりに勉強した。帰る頃には、最初より少しだけ問題が解けるようになっていた。
たぶん。
中間テストが終わったし、思っていたより難しくなかった。僕の成績は、まぁいつも通り。つまり普通。
早田は当然のように上位。悠木も上位。しかも国語は学年三位らしい。種村も思ったより良かったと言っていた。
東田は、「赤点が一つもなかったから勝ち」と言っていた。小森は、順位が一年の時より少し上がったらしい。そんな感じで、中間テストは終わった。
昼休み。僕はいつものように購買へ向かった。
パンを選んでいると、「あ」と横から声がした。見ると長谷部さんだった。
「こんにちは」
僕たちは少しだけ並んでパンを選んだ。長谷部さんがコロッケパンを取った。
「またそれ?」
「うん。好きだから」
「なるほど」
「内田君は?」
「今日は焼きそばパン」
「そっちなんだ」
「今日はね」
長谷部さんが少し笑った。
お金を払って行こうとした時に長谷部さんが言った
「……内田君」
「ん?」
「今日、放課後に少し時間ある?」
「あるけど」
「話したいことがあるの」
「話?」
「うん」長谷部さんは少しだけ緊張したように笑った。
「ホームルームの後、帰るときに、昇降口で待っててくれる?」
「分かった」
「ありがとう」
長谷部さんはそう言って、自分の教室へ戻っていった。
僕はその後ろ姿を見送った。何の話だろう。まあ、本人が話したいと言っているんだから、聞けば分かる。僕は焼きそばパンを持って、教室へ戻った。
このときの僕は、まだ何も知らなかった。長谷部さんが、何を言おうとしているのか。
そして、それが僕にとって、思っていたより少し、いやかなり大きな出来事になることも。