いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 作:シン_クワちゃん
放課後。僕は約束通り、昇降口で長谷部さんを待っていた。
「内田君」
後ろから声をかけられて振り返る。
「長谷部さん」
「待った?」
「いや、そんなには待ってないよ」
「そっか」長谷部さんは少し安心したように笑った。
「どこで話す?」
「う~ん……」長谷部さんが周りを見回す。
「中庭、行かない?」
「いいよ」
僕たちは中庭へ向かった。
放課後の中庭は、まだ何人かの生徒が残っていたけど、ベンチの周りは静かだった。
二人で並んで座る。
「それで、話って?」
「うん……」
長谷部さんはすぐには話さなかった。少し考えてから僕を見る。
「内田君ってさ」
「うん」
「いつも、あの五人と一緒にいるよね」
「あの五人?あぁ割とそうかも。この前長谷部さんに会ったのは図書室で勉強会って時だったし、ってかいつもって?」
「まぁそこは突っ込まないでね。それで、仲いいの?」
「まあ、仲はいいとは思う」
「そうなんだ」長谷部さんは少し俯いた。
「五人の中に、好きな人とかいるの?」
「え?」思わず聞き返した。
「好きな人?」
「うん。もしかして誰かが彼女さんとか」
「好きな人はいないし、誰とも付き合ったりしていないよ」
「……そうなんだ」
「なんで?」
「え?」
「いや、なんでそんなこと聞くのかなって」
「それは……」長谷部さんが黙った。
僕も黙る。
しばらくして、長谷部さんが顔を上げた。
「……なんとなく」
「なんとなく?」
「うん。なんとなくだよ」何か言いたそうなのに、言わない。
「そう」
「うん」
また沈黙。
僕にはよく分からなかった。
長谷部さんは何度か口を開きかけて、そのたびにやめた。
「じゃあ、今日はこれで」
「え?」
「ごめんね。急に呼び出して」
「いや、いいけど」
「ありがとう」長谷部さんは立ち上がった。
「じゃあ、また明日」
「あ、うん。また明日」
長谷部さんはそのまま歩いていき、僕はベンチに座ったまま、その後ろ姿を見送った。
結局、何の話だったんだろう。よく分からなかった。
それから数日後。学校では体育祭の準備が始まった。
教室では出場種目を決めたり、クラスの係を決めたりしていた。
「まだ種目が決まってないのは……内田か、おまえ何に出る?」杉田先生に聞かれた。
「何でもいいです」
「一番困る答えだが、空いてるのは借り物競争だぞ」
「じゃあ借り物競争で」
「お前、足速かったっけ?」
「普通です」
「じゃあ普通に走ってこい」
「はい」
そんな感じで出場が決まった。
女子の方では、東田が騒いでいた。
「ねえねえ、アツミン、騎馬戦出るんでしょ?」
「うん、まかせて!」種村は自信満々だった。
「絶対勝つから」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ応援する」
「奈央も出ればいいじゃん」
「私は無理、怖いもん」
「東田さんらしいわね」早田が笑った。
「サオリンにも言われた」
「ごめんなさいね」
小森が隣でクスクス笑っている。
体育祭当日。朝から学校中が騒がしかった。
グラウンドにはテントが並び、クラスごとの応援席には生徒達が集まっている。
「ウッチー!」東田が声をかけてきた。
「頑張ってね!」
「何を?」
「全部!」
「雑だな」
「いいの!」
「内田っち、借り物競争で変なもの引いたら面白いね」種村が笑っている。
「できれば普通のがいいなぁ」
「普通って、例えば気になる異性とか」種村はニヤニヤしていた。
「何それ、普通じゃないよ」何を考えているのか、よく分からない。
しばらくして、借り物競争の集合がかかった。
スタートに並んでピストルの音で走り出す。トラックを一周すると札がコースに並んでいる。普通に走って、真ん中の札を引いて開く。
「歌の上手い人」
「……」すぐに一人、頭に浮かんだ。
長谷部さん。
隣のクラスの人だかりに彼女を見つけた。
「長谷部さん!」僕は走っていった。
「え?」
「来て!」
「私?」
「そう。頼むよ」僕は長谷部さんの手を取った。
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
「早く!」
「えっ、あの……!」
そのまま手を引っ張りながら二人で走った。結果は惜しくも二位だった。
ゴールしてから、審判がマイク片手に札を確認する。
「お題は『歌の上手い人』ですね。本当に歌が上手いんですか?」
長谷部さんが何か言おうとしたけど、その前に僕が答えた。
「間違いないです。僕、彼女とデュエットして確信しました」
「……」長谷部さんが僕を見て固まった。
「長谷部さん?」
「……彼女?」
「あ」言い方を間違えた。
「いや、そういう意味じゃなくて」
審判が笑う。
「はいはい。じゃあ、歌の上手い人ということでOKです!」
長谷部さんは顔が赤かった。
そのあとも競技は続いて、綱引きでは東田がやたら張り切っていた。
「絶対勝つよ!」
「奈央、綱が切れるぞ」種村が声をかける。
「切れないよ!」
早田が苦笑している。小森はやたら受けて拍手をしていた。
悠木は競技の合間にも何か本を読んでいる。横から種村がのぞき込む。
「やよいは体育祭でまで勉強してるの?」
「勉強ではないわ」
「何読んでるの?」
「太宰治」
「もっと分かんない」
次は騎馬戦だと放送が流れると、種村は急に表情が変わった。
「行ってくる」
「頑張って、アツミン!」戻ってきた東田が声をかける
「任せて」
開始の合図とともに、騎馬が一斉に動き出した。
「おお……」思わず声が出た。
種村は小さい体をうまく使って、相手の動きを見ている。
「そこ!」相手の帽子を狙って手を伸ばす。一つ。また一つ。
「取った!」種村が叫んだ。
「すごい!すごい!」東田が立ち上がって拍手している。
最後まで残った種村の騎馬が、クラスの勝利を決めた。
戻ってきた種村は汗だくなのに、ものすごく嬉しそうだった。
「どうよ!」
「すごかった」
「でしょ?」種村は胸を張った。
そして、僕らのクラスは学年二位で体育祭は終わった。
閉会式の後は片付け。テントを畳んだり、椅子を運んだりする。
「内田、体育倉庫にボールとコーン、戻してきてくれ」杉田先生に言われた。
「分かりました」体育倉庫へ向かう。
体育倉庫の中に入ると、長谷部さんがいた。
「あ」
「長谷部さん」
「先生に頼まれて、こっちの道具を片付けてたの」
「僕も」
二人で黙々と片付ける。
外からは、まだ生徒たちの声が聞こえているけれど、体育倉庫の中だけは妙に静かだった。
「今日、楽しかったね」長谷部さんが言った。
「うん、そうだね」
「借り物競争」
「ああ」
「……私、びっくりしたのよ。急に手を引っ張られたから」
「あれはごめん。時間なかったから」
「ううん」長谷部さんは首を振った。
「嫌ではなかったかな」
「そう?」
「うん」
また少し沈黙した。
長谷部さんが、手に持っていたコーンを置いた。
「内田君」
「ん?」
「この前、中庭で話したこと覚えてる?」
「うん」
「五人の中に好きな人いるのかって聞いたこと」
「うん」
「……あれね」長谷部さんが僕を見る。
「私、気になってたの」
「何が?」
「内田君は、誰かを好きなのかなって」
「どうして?」
「……私が、内田君のことを気にしてるから」
「……」
何と言えばいいのか分からなかった。
長谷部さんは顔を上げて僕を正面から見た。
「私、内田君ともっと話したい」
「うん」
「もっと内田君のこと知りたい」
「……うん」
「だから……」
長谷部さんが顔を上げる。
「私と付き合ってください」
体育倉庫の中は静かなまま、グラウンドから声が聞こえる。僕はしばらく何も言えなかった。
付き合う。
そういうことを考えたことがなかったわけじゃない。でも、自分から誰かを好きになったこともなかった。恋愛に興味がないわけじゃない。ただ、誰かを好きになったり、なろうと思ったことがない。
でも。
長谷部さんとは、確かにもっと話してみたい。もっと、この人のことを知ってみたい。
「……僕でいいの?」
「内田君がいいの」
「そっか」
少し考える。
「じゃあ……付き合ってみる?」
「え?」
「僕、まだ長谷部さんのこと、そんなに知らないから」
「うん」
「だから、付き合いながら、もっと話したりして長谷部さんの事を知りたいなって」
「……うん」長谷部さんが笑った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
恋人になった、という実感はまだない。ただ、今までより少しだけ特別な関係になった。
「じゃあ、これからは育美って呼んでね」
「えっと、いきなりはハードル高いかも」
「じゃあ、努力目標にしてね」
「了解です」ちょっと照れくさい。
「おぉ~やったな内田っち」体育倉庫の外。扉越しに種村は中を覗いていた。
「アツミン?」
「しっ!」
「何してるの?」隣から奈央が顔を出そうとする。
「あ、だめだめ!」アタシは東田を押し戻した。
「内田っちが隣のクラスの女子に告白された」
「えっ!」
「声!」
「ご、ごめん」
アタシと東田は再び扉の隙間から中を見る。二人とも恥ずかしそうに顔が赤い。
「いやー、青春だねえ」
「アツミン、なんか楽しそう」
「だって面白いじゃん」
「何が?」
「それは……」人の気配がして振り返った。
「何やってんの?」
「うわっ!」後ろから声がして、二人は飛び上がった。
「石田!」
「どしたの?」
「しっ!」
「だから何が?」
「今、内田っちが……」アタシは言葉を止めた。石田が体育倉庫を見る。
「……内田?」
「うん、それがね……」思わずニヤけた。
「隣のクラスの女子に告白されてOKしてた」
「……え?」石田は目を丸くした。
と後日、まるで「家政婦は見た!」のような話を、あざとい笑顔で種村と東田から聞かされ、僕は思わず机に突っ伏した。