いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 作:シン_クワちゃん
「俺、種村のことが好きだ」
石田の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
「……え?」それしか出てこなかった。
「ゴメン、急に言われても困るよな」石田は少し困ったように笑った。
「でも、真面目なんだよ。でもさ、返事は今じゃなくても、急がなくていいから」
「……いいの?」
「うん。俺も急に言ったし」
「うん……わかった」
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
石田はそう言って帰っていった。私はしばらく、その場から動けなかった。手に持っていたアイスが少しずつ溶けていく。
「……なんなの、これ」
家に帰ってからも、ずっと石田の言葉が頭の中に残っていた。
『俺、種村のことが好きだ』何度思い返しても、あいつはやっぱりそう言ってた。
「アタシのこと、好き……ねぇ」ベッドに寝転がって、天井を見る。
石田のことは、もちろん嫌いじゃない。と言うかむしろ好きだ。
一緒にいると楽しいし、話していても気を使わない。部活の帰りに一緒に歩くのも、コンビニでアイスを買って食べるのも、いつの間にか普通に楽しい日常になっていた。
この前だって、試合に負けて泣いているところを石田に見られた。
あんなところは人には見せたくなかった。でも、石田に見られたことは嫌じゃなかった。
「……むしろ、ちょっと安心したんだよね」
あのとき、石田は何も言わずにそばにいてくれた。アタシが泣き止むまで何も聞かずに。
まぁアタシがジャージを引っ張ったからなんだろうけど。
「頼りになるんだよなぁ、石田って」そう思ったところで、また考えてしまう。
じゃあ、それは恋なのか。
「……分かんない」
今まで男子を恋愛目線で見たことなんて、ほとんどなかった。
男子と話すこと自体は普通にあるし、友達だっている。でも、誰かと付き合いたいとか好きだから一緒にいたいとか、そういうことを考えたことがない。「好き」ってどういう気持ちなのかも、いまいち分からない。
「石田と一緒にいるのは好き」
これは間違いない。でも、それだけで恋愛ってことになるのかな。
「……それが分からないんだよね」
そのまましばらく天井を見ていた。すると、別の顔が浮かんできた。
「奈央……」
奈央が石田のことを好きなのは、たぶん間違いない。本人が認めたわけじゃないけど、アタシには分かる。奈央とは去年からずっと一緒のクラスだし、奈央が石田を見るときの顔も知っている。石田と話した後に、ちょっと嬉しそうにしていることもある。
この前だって、内田っちと長谷部さんのことを話していたときに、「……私も、あんなふうにできたらな」なんて言っていた。
あれを聞いて、分からないほどアタシは鈍くはないつもり。
「奈央は石田が好きなんだよね」
だったら、アタシはどうすればいいんだろう。
石田の告白を断れば、たぶん石田とは今まで通りにはいられないと思う。もちろん、石田はそんなことで友達じゃなくなるような奴じゃないと思う。でも、今までと同じように話せるかと言われると、自信がない。
もうすぐ夏休みだけど、運動部は割と部活もある。バスケ部と卓球部の活動日が重なることもあるだろうし、そうなったらその日は一日中同じ体育館にいることになる。
「ゼッタイ……気まずいよねぇ」
逆に、石田と付き合うことにしたらどうなるんだろう。
それはそれで、嬉しい気もする。石田と一緒に帰るのも楽しい。もっと話したいと思うこともある。
でも、奈央は?
「そうなったら奈央に、どう接すればいいんだろ」
今まで通りにできるだろうか。アタシにはたぶん無理だ。奈央が何も言わなかったとしても、こっちが気にしてしまう。
「なんか、ややこしいなぁ」布団を頭までかぶる。
自分の気持ちが分からない。
石田の気持ちが分かった。奈央の気持ちも、たぶん分かっている。なのに、自分だけが分からない。
翌日、学校へ行くと、いつものようにみんなが集まっていた。
「アツミン、おはよ」
「おはよ、奈央」
「なんか眠そうじゃない?」
「昨日ちょっと寝るの遅くてさ」
「珍しいね」
「まあ、ちょっと考え事してて」
「何考えてたの?」
「秘密」適当に笑ってごまかす。
東田は「ふーん」と言って、それ以上は聞かなかった。
そのとき、少し離れたところで石田が男子と話しているのが見えた。
目が合った。
石田は少し笑って、軽く手を上げる。手を上げるのは奈央になんか言われそうな気がしたから軽くうなずくだけにした。それだけなのに、石田の事がなんとなく昨日までとは違って見えた。
「アツミン?」
「ん?」
「今、石田君見てた?」
「見てないよ」
「いや、見てたでしょ」
「見てないって」
東田が少し不機嫌そうな顔をした。
危ない危ない。奈央には、まだなにも言えない。というか言っていいのかも分からない。
昼休みになって、いつものようにみんなで弁当を食べていると、奈央は石田のいる方をちらっと見た。
「……」
やっぱり奈央は石田が気になっている。それを見ていると、昨日のことを思い出してしまう。
「アツミン?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「なんか変だよ」
「そう?」
「うん」
「ちょっと寝不足なだけ」
「ふーん、そっか」
東田はまだ少し納得していない顔だったけど、それ以上は聞かなかった。
向かいではこころが黙って弁当を食べながら、時々こっちを探るような目で見る。
「……」
この子はなにか気づいてるかも。こころは、人のことをよく見ている。
アタシがいつもと違うことに、もしかしたら気がついているかもしれない。
「こころ、何?」
「え、いや、なんでもない……です」
「そう?」
「はい」こころはそう言って、また弁当に視線を戻した。
放課後。部活に向かう途中の廊下で、石田が後ろから軽く肩を叩いてきた。
「種村」
「ん?あ」
「昨日のことだけど」
「……うん」
「本当に急がなくていいから」
「分かってるって」
「それだけ、じゃあ、また後で」
「うん、また」
石田はそのままバスケ部の部室へ行った。私は卓球部の練習に向かう。
「……急がなくていい、か」
そう言われると、余計に考えてしまう。石田はアタシにすぐの答えを求めてこない。でもだからこそ、自分で決めなきゃいけない。今日は練習が始まっても、どうしても集中できなかった。
球を打って、拾って、また打つ。いつもなら何も考えずにできることなのに、今日は妙にミスが多い。
「種村、今日ちょっと変じゃない?」ラリーの相手をしてくれた部長に言われた。
「そうですか?」
「なんかボーッとしてる」
「暑いからじゃないですかね?」
「それだけ?」
「それだけですよ」笑ってごまかす。
仕切りネットの向こうではバスケ部が練習している。石田がドリブルからシュートをするのが見えた。
ボールがポストから落ちてきてそれをつかんだ石田と目が合った。石田はすぐに視線をコートに戻した。私もラケットに視線を戻す。でも、また考えてしまう。
付き合ったら、今までみたいに一緒に帰ったりするのかな。部活が終わった後に、またコンビニでアイスを食べたりするのかな。そういうことを考えると、少しだけ楽しい気持ちになる。
「……これって、何なんだろ」
明日はいよいよ一学期の終業式。教室でも自然と夏休みの話が出るようになった。
「ねえ、夏休みどこか行こうよ。海とか?」奈央が言った。
「暑そう」やよいが言う。
「プールは?」
「外はどこでも暑いじゃない」
「いや、プールは水に入るからいいじゃん」奈央が粘る。
「そういう問題?」
みんなでそんな話をしている。
沙織は予定を確認しながら、「塾の予定を見てからじゃないと、何とも言えないわね」と言っていたし、やよいは「私は宿題を早めに終わらせて自由研究をやりたいの」とか言ってる。
こころはみんなの話を聞きながら「私はどこでも大丈夫です!」って胸を張ってる。
アタシは少し違うことを考えていた。
夏休みになったら石田とどうなるんだろう。付き合うのか断るのか。まだ答えは出ていない。
そして、もう一つ。奈央にどう話せばいいんだろう。考えたけど結論が出ないまま、終業式の日になった。
「明日から夏休み!」奈央が嬉しそうに言った。
「宿題は早めに片付けないといけないわ」沙織が言う。
「それは今は考えない」
「それは現実逃避よね」
「そうとも言う」
みんなが笑う。その笑い声を聞いていると、ふと思ったので口に出してみた。
「ねえ、今日みんなでご飯食べて帰らない?」
「いいね」奈央がすぐに賛成した。
「賛成」やよいも頷く。
「私も大丈夫です、行きます!」こころは右手を上げた。
「でさ、内田っちも来なよ」と声をかける。
「え?」前の席から振り返って内田っちが、自分を指差した。
「僕?」
「うん」
「いや、僕は何も言ってないけど」
「いいじゃん。どうせ帰るだけでしょ?」
「いや、僕は育美と「決まり。ほら、行くよ」、ちょっと、種村さん」
「何?」
「せめて連絡だけはさせてくれよ」
「大丈夫大丈夫。歩きながらやればいいじゃん。ほら、奈央たちも待ってるし」
ふん、ラブラブな内田っちならこれくらいいじっても問題なし!と言うか、今日は内田っちに聞いてみたいことがあるから、ちょっと強引に誘ってみた。
六人で駅前のファミレスに入る。
少し遅めのランチだったけど、夏休み前だからか、店内には同じような高校生が何組かいた。
「何食べようかな」
「アツミン、さっきまで散々パスタ食べたいって言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「言ってたよ」
「じゃあ、カルボナーラかな」
そんな話をしながら、それぞれ注文する。
食事が来ると、夏休みの予定についてまた話し始めた。
「やっぱり、みんなでどこか行きたいよね」
「うん」「そうね」「いいよ~」「僕はいなくていいよね?……」
「ほーほー、まぁ彼女優先で空いてたらでいいよ」やよいは結構辛らつだな。
「じゃあ、予定合わせないと」
「部活の予定もあるしね」
「私は塾の予定があるわ」
「グループ作ればいいんじゃない?」奈央がスマホを出した。
「それがいいわね」沙織もスマホを出す。
「内田っち、スマホ」
「僕も?」
「当たり前じゃん」
「でもみんなと一緒に遊びに行くんでしょ?いく……長谷部さんも誘っても大丈夫?」
「なに?彼女とは別にデートすりゃいいじゃん」
「私はお二人の様子を観察したいかも」お、こころ言うじゃん!
「まぁ、何をするかによるよね。さすがに海とかプールは長谷部さんに悪い気がする」やよいは一応気を使ってるみたい。
「グループできたよ」奈央が早速作ってくれた。
「じゃあ、一応登録だけしておいてください……」肩を落としながら内田っちが言う。
みんなで笑った。
その後、しばらく夏休みの予定を話してから、ファミレスを出た。
海かプールは女子五人だけで、あと、カラオケとボーリングの一日は内田っちと長谷部さんも誘うことになった。うん。結構充実の夏休みかも。
ファミレスを出て駅まで歩く。
「じゃあ、また連絡するね」
「うん」
「夏休み楽しみ」
「部活もあるけどね」
「それはそれ」
駅で、それぞれ帰る方向が分かれていく。
「じゃあね、アツミン」
「またね、奈央」
「ココロンも、またね」
「はい、またです」
みんなと別れてから、私はスマホを見た。新しく作ったグループには、もういくつかメッセージが入っている。でもアタシは今日一日考えていて、まだやっていないことが一つだけある。
私は内田っちとの個人のメッセージ画面を開いた。
『内田っち、今ちょっといい?』
少しして、返事が来る。
『どうしたの?』
『相談したいことがあるんだけど、ちょっと話をきいてくれない?』
『分かった』
『場所はここね』Mapを送る。
『了解。一五分後位かな』
私は公園のベンチに座って、内田っちを待った。夕方になってもまだ暑い。蝉の声がうるさい位に響いてる。
しばらくすると、内田っちが歩いてきた。
「待った?」
「ううん」
「それで、相談って?」
「……」
どう話そう。さっきまで考えていたのに、いざ本人を前にするとなかなか言葉が出てこない。
「内田っちさ」
「うん?」
「長谷部さんと付き合い始めたときってさ、長谷部さんから告白されていたじゃん?」
「そうだね」
「内田っちは長谷部さんを好きかどうか、最初から分かってた?」
「自分がってこと?」
「そう」
「いや、最初はよく分からなかったよ」
「そうなんだ。でもOKしたんだよね?」
内田っちは少し考えてから続けた。
「自分も一緒にいて楽しいとか、会ってないときにも彼女のことを考えるとか、そういう事が自分にあるなって思っていたから、もっと彼女の事を知っていきたいって思ってOKしたんだ」
「……そっか」
「何かあった?」
「実はさ」私は少しだけ息を吐いた。
「石田から告白された」
「……え?いつ?」内田っちが驚いた顔をする。
「昨日」
「そうだったんだ。あいつ意外と……いや、何でもない」
「返事はまだしてないんだ」
「そっか」
「それで、どうすればいいのか分かんなくなって」
内田っちは黙って聞いている。
「アタシ、石田のこと嫌いじゃないんだよ」
「うん、だろうね」
「一緒にいると楽しいし、話も合うし。頼りになるし……この前も、ちょっと甘えちゃったし」
「そうなんだ」
「だから、石田と一緒にいるのは好き」そこまで言って、自分の言葉が気になった。
「……好き」もう一度、小さく呟く。
「でも、それが恋愛なのかって言われると、分かんない」
「そうか」
「それにさ」私は少し間を置いて、内田っちを見る。
「たぶん、奈央も石田のことが好きなんだよね」
「それって、東田さんがなんか言ってたの?」
「本人は違うって言うけど、アタシには分かる」
「そうなんだ」
「だから、アタシが石田と付き合ったら、奈央にどう接すればいいのか分かんない」
「なるほど」
「奈央は何も悪くないし、アタシだって悪いことをしてるわけじゃない。でも、だからって何も考えなくていいってことでもないでしょ」
内田っちは、しばらく黙っていた。
「難しいね」
「でしょ?」
「うん」
「それに、もし断ったら、石田とも今までみたいにいられなくなるかもしれない」
「それは嫌なんだよね?」
「うん」私は苦笑した。
「アタシ、欲張りなのかな」
「そうは思わないけど」
内田っちは少し考えてから言った。
「僕は長谷部さんの事を好きな男子が他にいるのかなんて考えもしないで返事をしたよ。結局、種村さんがどうしたいのか、それが一番大事なんじゃないかな」
「……」
「東田さんのことを考えるのも友達だから大事なのはわかるけど、種村さん自身がどうしたいのかで決めないと、たぶん後で後悔したり苦しくなると思う」
「それに、石田は種村さんに告白したんだよね。東田さんとどっちにしようとか、あいつはそんなことは絶対に考えないよ」
「……そっか」
その言葉を聞いて、少しだけ気持ちが軽くなった。
奈央のことを考えなきゃいけない。石田の気持ちにも答えなきゃいけない。でも、自分の気持ちだって、ちゃんと考えていい。
「ありがと、内田っち」
「いや、僕は何もしてないけど」
「そんなことないよ。さすが経験者は語るって感じ。なんかありがと」
私はベンチから立ち上がった。
「お礼なんて言わなくていいよ。悩んでいる女子をほっとけないさ」
「あ、そういうところはちょっとなぁ……内田っちって意外とたらしかも」
「何だいそりゃ、僕はいく……長谷部さん一筋だよ」
「はいはい、ご馳走様」
空を見ると、夕焼けが少しずつ薄くなっていた。
「じゃあ、もうちょっと考えてみる」
「うん」
「夏休み中には答え出さないとって思ってる」
「急がなくていいって、石田も言ってたんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、ゆっくり考えればいいよ」
「そうだね」
駅へ向かって歩き始める。
石田のこと。奈央のこと。そして、自分のこと。今まで考えたこともなかったことばかりだ。
でも、逃げていても仕方がない。アタシは、自分の気持ちをちゃんと考えてみようと思った。
「アタシの気持ちは……」