いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 作:シン_クワちゃん
夏休みも気がつけば後半、アタシと石田は図書館で宿題を頑張っている。
「宿題、半分くらいは終わった?」
「終わるわけないだろ。種村は?」
「聞く?」
「聞かない方がいい気がする」
「正解」
二人で顔を見合わせて笑う。
付き合い始めてから、何かが大きく変わったわけじゃない。
部活が重なった日は、一緒に帰って途中でコンビニに寄る。暇な日(いやもうそんな余裕はないけど)は図書館で宿題をやる。そんなことの繰り返しだ。
ただ、今までなら「たまたま一緒にいる」だったのが、今は「一緒にいたいから一緒にいる」になった。少しの変化だけど気持ちは大きく違う気がする。
「種村、ここ分かる?」石田が問題集をこちらに寄せる。
「この問題」
「それ、昨日アタシがやったところ」
「じゃあ教えて」
「しょうがないなぁ」アタシは問題集を覗き込んだ。
「ここは、この公式使えばいいじゃん」
「なるほど、分かった」
「じゃあ自分でやってみ」
「おう、任せろ」石田が問題を解き始めた。
アタシも自分の宿題に戻る。静かな図書館の中で、二人とも黙って問題集に向かう。
こういう時間も悪くない。ふと顔を上げると、石田が真剣な顔で問題を解いていた。
「……ふふ」
「何?」
「いや、なんでもない」
「なんだよ」
「別に」また問題集に目を戻す。
付き合うって、もっと特別なことをするものだと思っていた。でも、今はこうしているだけで楽しい。それなら、それでいいんだと思う。
帰り道、グループのメッセージに奈央から着信が入った。
(奈央)みんな、宿題どこまで終わった?私はあと少し!
(やよい)私は終わったよ~
(沙織)私は明日には終わる予定よ
(こころ)私は自由研究がまだです!
(敦美)アタシもまだまだ
(奈央)アツミン、部活ばっかりしてるからだよ
(敦美)奈央だって遊んでるじゃん
(奈央)私は計画的なの!
(やよい)ほんとかなぁ
(奈央)ほんとだって!
スマホを見ながら笑っていると、石田が覗き込んできた。
「何?」
「みんな宿題やってるって」
「種村もやってるじゃん」
「今日は頑張っただけ」
「俺も」
「じゃあ仲間だね」アタシはスマホをバッグに入れた。
「雄太、今日はどこ行こうか?」育美がスマホを見ながら聞いてきた。
「見て、このちょっとオシャレっぽいカフェ行ってみたい」
「そんなに遠くないし、いいよ」
「じゃあ行こう」
「はいはい」
夏休みに入ってから、育美とは何度も会っている。図書館で勉強したり、映画を見たり、買い物に付き合ったり。基本的にどこへ行くかを決めるのは育美だ。
「雄太、こっち」
「はい」
「ちゃんとついてきて」
「迷子じゃないんだから」
「でも、雄太ってぼーっとしてて気がついたらいなくなってそう」
「ひどいな」
そんなやり取りをしながら歩く。育美が楽しそうにしていると、こっちまで楽しくなる。最近は、それが結構好きになってきた。
マンションの前で別れるときも、「じゃあ、またね。雄太」「うん。またね、育美」って、自然に名前で呼ぶようになった。最初の頃は少し恥ずかしかったけど、今はもう慣れた。むしろ、そう呼ばれるのが嬉しい。
夏休みの終わりが近づいた頃、みんなでカラオケとボーリングに行くことになった。
(内田)男子一人って、やっぱりきついから石田を誘ってもいいかな?
(やよい)いいんじゃない?
(こころ)私も賛成です!
(沙織)石田君なら気を遣わなくていいわよね
(内田)じゃあ、石田を誘ってみるよ
アタシと石田のことは、まだみんなにはというか奈央にはまだ言えない。
グループのやり取りを見て、石田に速攻でメッセージした。
(敦美)内田っちからボーリングとカラオケ誘われたでしょ?
(石田)おう、何で知ってるんだ?
(敦美)だって、グループで内田っちが石田を誘うって
(石田)いつものグループで集まる話か。なるほど、俺も行くよ
(敦美)それでね、付き合い始めたことはみんなには秘密にしてほしいの
(石田)ん~分かった
あっさり了承してくれた。たぶん、恥ずかしいのかな、くらいに思っているんだろう。実際、ちょっと恥ずかしい。でも、それだけじゃないんだ。
当日。まずはカラオケから始まった。部屋に入ると早速奈央がマイクを取った。
「最初、私!」
「はいはい」
「アツミン、何歌う?」
「アタシ? 歌えそうなの適当に入れるよ」
奈央が楽しそうに歌い始める。やよっちが手拍子をして、こころはタブレットを見ながら次に歌う曲を探している。サオリンは飲み物を飲みながら、時々奈央の歌に拍手している。
内田っちは育美ちゃん(アタシはそう呼ぶことにした)の隣に座っている。
「雄太、これ歌おうよ」
「うん」
「いいよ」
「じゃあ入れるね」
「はいよ」
なんか、いつもの二人だ。育美がやりたいことを言って、内田っちがそれについていく。
でもそれで内田っちは楽しそうだ。その様子を見ていると、なんとなく微笑ましい。
「種村」
「ん?」
隣に座っていた石田が、小さな声で言った。
「この前言ってた曲、入れる?好きなんだろ?」
「……まあね」
「じゃあ入れよう」石田がリモコンを操作する。
「ねぇちょっと」
「何?」
「そういうの、あんまり言わないでよ」
「何が?」
「いや……」
「なんか、恥ずかしいから」アタシは小声で言う。そのやり取りを、沙織が見ていた。
「……あら?」
「何?」
「いえ。種村さんと石田君って、そんなに仲が良かったかしらと思って」
「え?……いやいや普通だよ、普通!」アタシは両手をブンブンと振る。
「そう?」サオリンは少し考えるように首を傾げた。
「まあ、いいけれど」
向こうでは奈央が歌い終わった。
「じゃあ次、ウッチーとイクミン!」
「はいはーい。はい雄太もマイク」
曲が始まって育美ちゃんが歌い始める。
「なにこれ、超ウマ!」
「この後に歌うのプレッシャーすぎます」こころがビビってる。
あ、でも内田っちが歌い出したら安心したみたい。
カラオケの後は、ボーリング。バスケットボールよりは重いけど球技ならまぁ任せてくれ。
「私、結構得意なんだよ」東田がボールを持ってレーンへ向かう。
「この前もそう言ってガーター出してたじゃん」
「やよっち、それ言わないで!」
「ふふっ」
「サオリンまで笑わない!」
東田が投げる。ボールは真ん中を外れて、端のピンを一本だけ倒した。
「……まあまあかな」
「どこが?」
「うるさい!」
みんなが笑う。俺も笑った。
「次、種村だぞ」
「分かってる」
「一番ピンのちょっと右を狙った方がいい」
「もう、余計なこと言わないでよ」種村がボールを持ってレーンへ向かう。
「アツミン、頑張れ!」
「はいはい」
投げる。今度はかなりいいコースを球が進む。ストライクだ!
「おお!」
「やったじゃん!」
「でしょ?」種村が戻ってくる。
「石田、さっきのアドバイスのおかげ」
「だろ?」
「調子に乗るな」二人で笑う。
「……やっぱり」早田さんがつぶやく。
「何?」悠木が聞く。
「種村さんと石田君って、息が合ってると思わない?」
「え、そう?」悠木は二人を交互に見てる。
「石田君は種村さんが気になるの?」早田さんが突っ込んでくる。
「いやいや、違う違う」俺は慌てて否定する。
「でも、さっきから種村さんのことをよく見ている気がするわ」
「見てないって」
「そうかしら?」
「ほんとだって」
「……ふむ」小森さんが、唸る。
「小森、何?」
「いえ」
「何か考えてるでしょ」悠木が突っ込んでくる。
「いえいえ、特には何も」
「こころはいつも一人で唸って怪しいから」悠木が笑いながら言った。
みんなで笑った。俺も笑っていた。そんな楽しい時間は、あっという間に終わった。
駅でみんなと別れる。
「じゃあ、またね!」
「またねー」
「宿題、ちゃんとやってね」
「それ、奈央が言う?」
「私はやってるの!」
「はいはい」
みんながそれぞれ帰っていく。俺は種村と駅の反対方向へ向かった。
「今日は楽しかったな」
「うん」
「じゃあ、また明日も図書館で宿題な」
「うん。またね」
二人が並んで歩いていく。
東田は改札を抜けてから振り向いて二人の背中を見ていた。
「……」
さっきから、なんとなく気になっていた。
カラオケでもボーリングでも、石田君はアツミンのことをよく見ていた。アツミンも、石田君のことをよく見ていた。今までの二人と何か違う気がする。でも、何が違うのかは分からない。
「……石田君って」小さく呟く。
「アツミンのこと、好きなのかな」
もちろん、聞くことなんてできない。アツミンにも石田君にも、他の誰にも。
ただ、その疑問だけが頭の中に残った。
夏休みは、もうすぐ終わる。
私はその答えを知らないまま、新学期を迎えることになった。