遂に目的地へ!
ミハル達の旅をお楽しみください
「あたしは星々を放浪していた船団の生き残りなんだ」
「待って、さっそくちょっと待ってね」
「早くない……?」
「しょうがないじゃん、急に、規模が……」
ルーシェの一言目でさっそく躓いてしまう。
仕方ない、予想より規模の大きい話が出てきたんだもの。
少しして、心の準備ができた。
「よし、いいよ、ルーシェ。続けて」
「じゃあ、続けるよ。宇宙に逃れた人類は、コロニーや惑星に定住せず、船団として転々としている人もいるんだ。船団って言っても、リーダーがいるんじゃなくてなんとなく一緒にいるだけなんだけどね」
「そうなんだ」
「うん。それでね⸺」
私は、次第にルーシェが話す景色を頭に思い浮かべていく。
あたしが乗っていた宇宙船はおっきくてね。あたしはお父さん、お母さんと一緒にそこで住んでたんだ。
でもある日、その宇宙船に小天体がぶつかった。
小天体って言っても、全長数100メートル。宇宙船の全長より少し小さいくらいの大きさだったんだ。
それが、宇宙船にぶつかって、宇宙船が壊れた。
壊れ方はすごくてね。隔壁が閉まる前に、あたしのお母さんは宇宙に吸い込まれていった。
大人たちはなんとか修理しようとしていたけど、無理だと悟って脱出を図った。
お父さんはあたしをコールドスリープと同時に宇宙に脱出させるポッドに入れて、宇宙に放り出した。
それが、あたしが見た最後の親の顔だった。
そしてその時見た宇宙は、綺麗だったけど……すっごく怖い場所だったんだ。
これが、あたしが6歳の時の事。
「ストップ、一旦ストップ」
「また?」
「短時間に摂取していい情報量じゃないってこれ」
「そうかなぁ?」
ルーシェの話を一旦中断してもらった私は、何度か深呼吸をして頭を整理する。
なんでケロッとした顔してるのこの子。
この重さで……?
「ルーシェ、宇宙苦手なんじゃないの?」
「んー、ちょっと苦手かも」
「そうだよね……だから今日、歯切れが悪かったり呼吸が……」
「あはは、うん、そうかも。あの隕石さ、ミハルが助けてくれなかったらあたし死んでたかもだし」
「うん……」
「あと、シールベイにぶつかった時に聞こえた音がね」
宇宙で音がするのかと思ったけれど、確かにあの時音がしていた。
シールベイの中と通信が繋がっていたから、ノイズや中の空気の振動だったんだと思う。多分その音は、ルーシェが乗っていた宇宙船が壊れた時もなっていたんだ。
「そっか……それでも、1人で修理しようとしてくれたんだね」
「ミハルが付いてきてくれて、正直嬉しかったよ。でも心配が勝っちゃって」
「ルーシェがなんて言っても、私絶対行ったよ」
「素人には危ないって話!」
「話だとルーシェも船外活動した事ないんじゃん」
「この後ちょっとだけあるの!だから素人じゃないの!」
「へぇ……?」
「疑わないでよ……」
ルーシェに笑いかける。
この話で、私の頭もだいぶ整理できた。
これで落ち着いて聞けるはず。
「続けて、ルーシェ」
「はいはい、じゃあ続きね」
次に目が覚めた時、あたしは研究所にいたの。
そこはミハルがいたあの惑星。ミハルに出会う18年前、あたしは一度コールドスリープから目覚めた。
あたしを保護してくれたのは、ハルトさんとイチカさん⸺ミハルの、お父さんとお母さん。
あたしは生まれた時から宇宙船に乗ってたから、子供だったけどそれなりに知識はあったんだ。だから2人は、あたしを研究助手として研究所で使ってくれた。
コールドスリープで書類上死人になったあたしは、死人のままだったから居場所が必要だったの。
もちろん、2人からミハルの事は聞いてたよ。とっても可愛くていい子だって。だから、あたしも会いたいなって思ってたの。あたしが目覚めた時、ミハルは0歳だったのにさ。
でも、2人は宇宙船について先進的な研究をしていたし、ミハルは赤ちゃんだったから会えなくて。
そんな時、あるニュースが世に流れた。
あの星に対する環境破壊が深刻だって。いつか脱出する時が来るかもしれないって。
それがいつになるかは分からない。けど、ハルトさんとイチカさんは準備を始めた。
宇宙船はなんとか完成を間近に見たところだった。ミハルを助けるためだけの宇宙船がね。
「待って、ちょっと待って」
「えーまたぁ?」
「情報量が多すぎるんだけど……」
「そう? めーっちゃ圧縮したんだけどなぁ」
「気遣いはわかるんだけど、ちょっと落ち着かせてね……」
ルーシェが目覚めたのは18年前、私が生まれた年だ。
その時から、ルーシェはお父さんやお母さんと一緒にいたんだ。
あの写真は、その時の写真だったんだ……。
私の記憶にあるお父さんとお母さんは、私から見ても私を愛してくれていた。
でも、私が6歳の時にいなくなって、私は孤児院に入った。
孤児院に入った後はいじめもあったし、友達が8歳でどこかに行ったりしていたけど、私は入ったのが遅かったから普通に成長してこられた。
でも確かに、孤児院でも私の話は盗み聞きした事がある。研究施設、厄介、とか、そんな話だった。
そう思うと、お父さんとお母さんの立場は私を守るためにもなっていたんだ。
……それより、ちょっと待って。
「ルーシェ」
「なに?」
「ルーシェって、お父さん達のところに何年いたの?」
「6年だよ? 勉強教えてもらいながらね」
「その、お父さん達が作ってた宇宙船って」
「この船だよ。シールベイ。本当はミハル、ハルトさん、イチカさん、あとあたしを乗せてくれるつもりだったって聞いたことあるよ」
「4人で乗る気だったんだ」
「そうだよ。ユリアちゃんが乗ってもお部屋余ってるでしょ?」
「確かにね」
暗い部屋の中、優しい目で私を見つめる彼女は、ゆっくりと私を抱きしめる。
「もうちょっとだけ、話させてね」
「うん……もう大丈夫だよ」
「わかったよ、ミハル」
ミハルを助けるための宇宙船は、完成しなかった。完成する前に、ハルトさんとイチカさんが事故に遭ってしまったから。
ミハルも知っている通り、2人はそのまま先に旅立ってしまって。
あたしは、ミハルと同じ、ひとりぼっち。
そこであたしはミハルと合う12年前に、ハルトさんの言いつけを守ってもう一度コールドスリープに入った。
長期間のコールドスリープは記憶の混濁を招く。それと同じくらい、複数回のコールドスリープも記憶の混濁があるの。
ハルトさん的にも、多分賭けだったんだと思う。もしコールドスリープから覚めたあたしがミハルの事を忘れていたら。あたしがミハルの事を覚えていても、ミハルにもしものことがあったら。ミハルの事を見つけられなかったら。ミハルが何らかの手段で脱出していたら。
でもやっぱり、やらずにはいられなかったんだよ。2人にとって、やっぱりミハルが1番大事なんだからね。
ミハルに会う1年前に目覚めたあたしは、自分で書き残したメモを見て、ミハルっていう女の子を助けなきゃと思ったんだ。
だからまず残されていた設計図とプログラムから宇宙船を完成させて、そして残っていた音声ファイルとデータを乗せて、一年でなんとかシールベイを完成させたの。まあもうほとんど完成してたから、あたしほとんど何もしてないんだけどね。
多分だけど、ベルがミハルを認証できたのは、ミハルが赤ちゃんの時にDNAデータを取っていたからだよ。あたしはまだ取ってなくて、自力で組み込んだんだけどね。
そのあとはミハルも知ってる通りだよ。あたしはミハルを探し当てて、ミハルはあたしを選んでくれた。こうして、今旅をしている⸺
「⸺っていう顛末なんだけど」
「そっか……」
「反応薄くない?」
「頭の処理でそれどころじゃなくて……」
ルーシェの話は、どれも信じられる内容だった。
シールベイは初めて見た宇宙船だったのに、内装は驚くほど私が使いやすい内装だったし、私を認識していた。
パッと見て新しい船だったのにところどころ少し古い様式なことも、前に作られていたものなら納得できる。
でも、これだけは確認しなくちゃ。
「ルーシェ」
「なぁに?」
「初めて会った時に、シールベイ墜落させたよね」
「軟着陸だけど」
「どっちでもいいけど、あれは何で?」
「宇宙船作れても操縦できると思わないでよね。あと、プログラムが不完全でピンポイントに着陸しにくくて、ああしないと降りられなくて」
「なるほど?」
「ミハルが荷物を取りに行ってる間にちょっとだけ直してホバリングできるようにしたんだ。あとは宇宙に出てから色々考えてたの」
思い返せば、ルーシェは家事をサボっている時とか暇な時、設計図やなんかよく分かんないものを見ては頭を悩ませていた。
アレは全部、お父さん達からもらったものだったんだ。
「もう一つ聞いても?」
「ん?」
「お金と最初の食料は?」
「それはね、シールベイの倉庫部屋と空き部屋にたんまり積んでたんだよ。こう、現金と売ったらお金になりそうなものをたくさん」
「そうなの?」
「そうなの。ハルトさん達がコツコツ貯めていたやつでね。本当は違う星とかコロニーに家を買いたかったみたいなんだけど」
「この船の建造費とかは?」
「分かんない。研究費とかじゃない?」
「雑……」
「知らないんだから仕方ない!」
何も解決してないのにドヤ顔のルーシェ。
私はそんな彼女の額にデコピンを当てた。
「あたっ!」
「もう、仕方ないんだから」
「えっ、なに、キュートアグレッション?」
「そうかも」
私はそのままルーシェをぎゅっと抱きしめる。
「ルーシェ、一つだけ訂正だよ。お父さんとお母さんは、確かに私を大事にしてくれたんだと思う。でもね、ルーシェのことも同じくらい大事だったんだと思うよ」
「だったら、いいな」
「きっとそうだよ。少なくとも、今の私はルーシェの事を大切に思ってるし、大好きだし……」
そう言うと、彼女は少し力を緩めた。
「あたしさ、実はミハルに一目惚れしてたのかもしれない。でも、あたしはそれが、ミハルを守りたいから大切だと思ってるんだって……分かんなくなってたんだ」
「そっか」
「ミハル、ミハルは……どう?」
「今言ったじゃん。大好きだよ」
「最初は?」
「変わった子だなって思ってた」
「やっぱり⁉︎」
「でも、それも含めて私はルーシェの事が大好き……ううん、ちゃんと言うね」
きょとんとするルーシェの上に身体を重ねて、おでこをくっつけながら。
「愛してるよ、ルーシェ」
私達は、そのままお互いに想いを打ち明けあった。全部、全部。
好きだって気持ちを、確かめ合った。
翌朝。
「まったく、お寝坊さんですね」
「「ごめんなさい……」」
2人揃って朝ごはんを作る時間を寝過ごした私達は、腰に手を当てるユリアちゃんの前で座っていた。
あれ、これ私達……早くもこの子に逆らえなくなってない?
「仕方ないから、今日はユウがご飯作ってみたの」
「そうなの?」
「だから……その……た、食べてみて……?」
ユリアちゃんに促されるままテーブルの前に座った私達。
目の前には、ちょっと焦げた焼きたてのトースト、白身のサイズが小さめな目玉焼き、焦げたベーコン。
……初めての料理にしては上手すぎる。ベーコン、絶対最初焦がすでしょ、焦げてはいるけど原型残ってるしカリカリしてそうで逆にいいでしょこれ。
いや、えっ、既に親バカ? えっ、そんな事ないよね?
「うゅ……ちょっと失敗しちゃったんだけど……」
「そんな事ないよ!」
「そうだよ、あたしもっと大失敗する時あるし!」
聞き捨てならない事が聞こえた気がしたけど、とりあえず今はユリアちゃんの成長を感じておこう。
「今度、しっかり教えて……ミハルお姉ちゃん」
「ミハルだけ⁉︎」
「もちろんだよ、ユリアちゃん」
「ちょっと⁉︎」
こうして、いつもの日常が過ぎて行く。
まあ、私とルーシェの仲はもう揺らがないし、ユリアちゃんの愛おしさは増してるんだけどね。
⸺あの日から数ヶ月が経った。
半年は過ぎていないはずなんだけど、宇宙船が長いとどうしてもね。
コロニーで船体を直した私達は、ベルの提案で急ぎつつ目的地を目指す。
何回か目的地を確認したんだけど。
「わっかんないよ! あたしもガチで分かんないの! どこ目指してんの⁉︎」
「「えぇ……?」」
と、私とユリアちゃんがただただ困惑するばかり。
とはいえ、ベルに聞いたところで。
『着イテカラノ、オ楽シミ』
と、茶化した声で言われるだけなのは実証済みだ。
これは成り行きに任せるしかない。
とはいえ。
「ねぇ、ベル」
『ハイ』
「目的地までどのくらい?」
これは何度となく繰り返された質問だ。いつもなら、いつか着きますとか、数ヶ月以内とか、変な答えしか言われていない。
そしてこの日。
『恐ラク、次ノ朝ニハ見エルハズデス』
「次の朝⁉︎」
「本当⁉︎」
「急に近いじゃん!」
私、ユリアちゃん、ルーシェの順で反応する。
既に今は夜7時、既に目的地には近いっていう事は。
「ベル、今周りに惑星ある?」
『アリマス』
「映像、見せてくれる?」
『……分カリマシタ』
なんか、出し渋った?
釈然としないけど、出してくれるなら。
そう思って見てみる。
「なんこれ……輪っか?」
「こっちは青一色だね、お姉ちゃん」
「これは惑星の表面に……目……?」
『ドレモ、がす惑星デス』
「ガス惑星……目的地はあそこじゃないって事?」
ルーシェの質問に、ベルは『ハイ』と答える。
『搭載サレテイル望遠鏡デハ、コレガ限界デス』
ベルがそう答えるってことは、なるほどそういう事なんだ。
「そっか、じゃあやっぱり朝までお預けなんだね」
「じゃあ……もう寝る?」
ルーシェは至って真面目な顔で言う。
「子供か」
「んー、ユウもちょっと眠たい……」
「そっかぁ、じゃあ夜ご飯も食べたし寝よっか」
「やっぱりミハル、ユリアちゃんに激甘だよね⁉︎」
「当たり前じゃん、ルーシェのことも大事だけど、ユリアちゃんとは別の大切さだよ」
「うん、まあそっか、そうだよね」
「じゃあ寝よっか、ユリアちゃん。ルーシェも一緒に寝る?」
「いいね、3人で寝ようか」
「ユウもみんなで寝たい……ふわぁ」
あくびをするユリアちゃんを抱き上げて、私達は寝室へと向かった。
そして⸺。
『目的地ヲ映像デ出シマス』
翌朝になって、朝ごはんを食べた私達にベルがそんな事を言い始めた。
モニターに映し出されたのは、青い海、緑の陸地、白い雲……惑星の上下に白い陸地……?
「この星は……」
綺麗な星……そう言おうとした矢先、ベルのスピーカーにノイズが走る。
「何、故障?」
「まっさか、そんな予兆無かったでしょ」
私とルーシェが言葉を交わした直後、スピーカーから音声が鳴り響く。
『こほん。聞こえてる? ちゃんと流れてるかな』
突然の流暢な言葉、そして聞き覚えのある声……ベルと同じ声だから? いや、違う。
膝の上に乗せているユリアちゃんを抱きしめる。
『流れてると信じて。ミハル、ルーシェ。あなた達は、無事に目的地に辿り着いたみたいね。わたし達、パパとママは何かの理由で一緒に行けてないみたいだけど……』
「これ……」
「イチカさんだ……」
「……お母さん……」
私とルーシェがそれぞれ呟く。
そう、この声は紛れもない。私の、お母さんだ。
ベルと同じ声だと思ったのは、ベルのベース音声がお母さんだったからなのかも。
『さて、まずはこの音声についてだね。この音声は、ミハルとルーシェが乗っていて、パパとママが乗っていなくて、そしてそれ以外の人が乗っていたりいなかったりする時に流れます。予備的に撮ってるけど使うのかなこれ……。きっと2人きり……と思ったけど、何人か一緒に乗っているかもね。ミハルとルーシェと一緒に乗ってくれているあなた。わたし達の娘たちが認めたって事は、あなたも家族です。ようこそ、わたし達のまだ見ぬ子どもたち。あ、孫かも? まあいいや。そしてこれが流れている間に、シールベイは惑星をスキャンするの。あっ、そんな事聞きたいんじゃない? そうだよね』
「自己解決してるし……ルーシェ、お母さんに影響受けすぎじゃない?」
「ルーシェお姉ちゃんと確かに似てるかも」
「えっ、マジ?」
私とユリアちゃんの言葉に少したじろぐルーシェ。
音声はそんな会話を待たずに続いている。
『それでは、目的地の発表です。シールベイの目的地は⸺地球です』
地球。
歴史の授業に出てきた惑星だ。およそ1000年前、人類は地球環境を破壊し過ぎた事を反省し、地球を離れてスペースコロニーや別の惑星に向かった。
人類がいなくなった事で、地球が再生する事を願って。
『地球がどうなってるかは分からない。もしかしたら、人が住めない土地になっているかも。だけど、たとえそうだとしても、シールベイには何とかなる性能を持たせたので、安心してね』
私の両親、解決方法が脳筋すぎるでしょ。
『ちなみに、ベルは目的地を言ってないわよね。言わないようにお願いしたの、わたし達のプログラムでね。だって、最初から地球に行きますって言って、いざ着いたら地球が無いなんて嫌でしょ』
そこまで聞いて、私はルーシェを見る。
「……地球に着いて引き返しますの方が嫌じゃない?」
「うわ、嫌かも……」
「でしょ?」
さすが、私のお母さん。絶妙に思慮が浅い。
『さて、そろそろシールベイは地球に入るわ。ってことは、ベルは地球に住めると判断したみたいね。でも、地球にあなた達だけで住むには、地球は広すぎる』
確かに、正直シールベイですら持て余し気味なのに惑星一つはあり得ない。
『だから、シールベイは地球に着いた後、地球の宇宙船に地球が住める事を教えるビーコンになるわ。あっ、でもあなた達の生活は邪魔させないから安心して。じゃあ、地球で幸せに暮らしてね』
プツッと、音声が切れる。
……そういう人だった。自分勝手で、子供だった私よりお母さんの方が楽しんでたことも多かった。
外が赤く染まる。断熱圧縮で外は高温にさらされているんだと思う。
宇宙船に響く大きな音に隠れて、私は泣きそうな息を整えた。
わかったよ、お母さん。ルーシェとユリアちゃん、大切な家族と、私は生きて行くよ。
大気圏を抜けたシールベイはしばらく飛行して、数十分経ってから今度はしっかり軟着陸した。
開いた扉から入る風は涼しく気持ちよくて、どこか懐かしい。
「ここが……地球……」
地面は草むらになっていて、半ば森みたいになっていた。
でも不思議なことに、目の前に見えたのは人工物だ。
日本の柱で作られた門のようなものだけど、扉はない。
「これは……?」
「鳥居、だね」
その門に見惚れていると、ルーシェの声が聞こえた。
「とりい?」
「そうだよユリアちゃん。これは鳥居、石だからかな、結構残ってるみたいだね」
彼女の言葉を聞きながら、鳥居と呼ばれた石を触る。
どこか、暖かい感じがした。
「懐かしい気持ち……不思議、来たことないのに」
鳥居を抜けて、階段の名残りのような構造物を歩いて行く。
やがて、大きく開けた場所に辿り着いた。
かつて建物があったと思われる石の上に根を張った、美しいピンクの花をつける木。
花びらは散っているのに、生命の息吹を感じる。
「春だったんだ……」
ルーシェが呟きながら、その木の下に歩いて行った。
「春?」
「あの星に季節はなかったもんね。この場所は昔、日本って呼ばれてた土地なんだ。この土地には、春、夏、秋、冬の四つの季節が巡る。春は全ての始まりの季節……」
彼女は美しい指で木をなぞる。
舞い散る花びら、木漏れ日に照らされたルーシェは、どこまで美しくて。
「この木は、桜の木。桜の木は、美しい春の象徴なんだ」
木に触れたまま、振り返った彼女が私を見る。
「ハルトさんとイチカさんに聞いたの。ミハル、あなたは日本人だって。あなたの名前は、『桜木美春』。美しい春の日に、桜の木の下に来たのは偶然じゃないのかもね」
あの星では、苗字なんてない方が普通だった。孤児院に行った時には既にないものだと思ってたから。
ルーシェにも、ユリアちゃんにも苗字は無いはず。
でも……そっか。私には、あったんだ。
「繋がってるんだね、いつまでも」
「あたし達も、もう繋がってるでしょ」
「うん。ルーシェ、ユリアちゃん」
2人を見て、私は微笑む。
「この星で、家族になろうよ」
人類が地球を去って、1000年が経った春の日。
ひとりぼっちだった私達は、本当の家族になれたんだ。
他の宇宙船も、だんだん地球にやってきている。みんな故郷に帰ってきているみたい。
ここからやり直さなくちゃ。3度、同じ過ちを繰り返さないために。
今度こそ、家族が生きるこの星のために。