初投稿です、よろしくお願いします。
ノルマン国は元々貧しい国でしたが、一人の少女が国を変えたのです。
その少女の名はアデラ。彼女は孤児院で育ちました。一見するとそこらにいる少女と変わりはありませんが、天気をあてる特技を持っていました。
孤児院の誰かが出かけるときは雨具の用意をしたほうがいい、嵐になるから出かけないほうがいいと声をかけ、それらは驚くほど当たったといいます。
やがてそれは村を越え街を越え王宮へもうわさが届くようになりました。ノルマン国は貧しい国です。自然のことがわかる人物がいれば国は豊かになるかもしれないと、孤児院に勧誘の知らせが来ます。
「きみが王宮で働いてくれるのであれば兄弟たちのおかずの品を一品増やすことができるだろう」
アデラは二つ返事で了承しました。記憶にあるおぼろげな両親の顔を思い出し、今はそれよりも大切な孤児院の兄弟のほうが大切でした。アデラが孤児院にきて9年が経った12歳のことでした。
王宮についてすぐに仕事、ということはなく、まずは国の地理や環境の勉強、水害や災害などの過去の被害それらを見て覚えること、勉強が先でした。
並行して礼儀作法を教わり、魔法使いに魔法を教わり、王宮にきて一年たつ頃には魔法使いの基礎として教えることがないと先生に太鼓判を押されるほど優秀でした。普通の魔法使いよりも魔力の多かったアデラは失敗を恐れることなく次々に挑戦することができたのです。
そんな魔法の授業の中でアデラは自分の能力がどのような名前かを教えてもらいます。
『星読み』
過去にも聞いたことのない能力でどのような効果があるかわからない、だけど非常に強力であることは間違いないと、魔法使いの先生はおっしゃりました。
13歳になったアデラはすっかり王宮に溶け込んでいました。天気を聞かれれば答え、嵐が来そうな場所へは事前に訪れ少しでも被害を減らす取り組みをしたことにより、その存在感を確かなものにしました。きれいになったローブにやはり少し大きめの帽子、高そうな杖。帽子には王宮魔法使いの証である国の意匠が施された銀環が通されていました。
当時の王は、アデラが天気や不作を予言するたびに「よくやってくれた、我が国の宝だ」と頭を撫で、時には孤児院の兄弟たちの近況を気遣ってくれました。アデラにとってその温もりは、かつての両親の記憶の代わりであり、働けば働くほど兄弟が笑顔になるという確かな手ごたえがありました。顔色が悪く痩せこけているような兄弟はいなくなり、皆健康的に見えるようになりました。アデラはもっともっと頑張らないといけないと考えました。
1年では対策ができなくても数年かければできることもある。そうやって地道にアデラは頑張ってきました。10年、20年と歳月を重ね確実に成果が上がっていきました。
作物の収穫量は増え、水害なども減り、飢えで死ぬこともない。
こうしてノルマン国は豊かな国に生まれ変わったのです。
皆がひもじい思いをすることなく食べ物があり、幸せに暮らしましたとさ。
と、物語であればそれで終わりでよかったでしょうが、そうはいきません。
二代目の王の時代になると、人々の態度の色が変わりました。
ある年のことです。アデルが「来年は大干ばつになる。早めに灌漑用水の確保と備蓄を」と進言した際、当時の宰相はこう言いました。
「アデラ様がいるのだから、きっと今度もどうにかしてくれますよね」
それは頼み事ではなく、免罪符のようなものでした。予言を聞いて対策を講じるのではなく、「アデルが何とかしてくれるから、我々は努力しなくていい」という依存へと、いつしかすり替わっていたのです。
ですが、その時のアデルにはちょっとした違和感にしか思えませんでした。いつも通りこれから来るであろう干ばつへ対応に追われてしまったからです。
そして決定的な出来事が起こります。
今、目の前で頭を抱えているのは、三代目の若き王でした。
祖父や父から「ノルマン国の豊かさは星読みのアデルのおかげだ」と教え込まれて育った彼は、災害の前にはアデルを神のように崇め、いざ人災である戦争が目の前に迫ると、壊れたおもちゃのようにアデルの名前を叫びます。
「おい、星読みのアデルを、これからどうしたらいいのだろうか教えてくれ……!」
いつしか、城で働く人間は自分より若い者ばかりになっていた。それもそのはずだ。アデルは潤沢な魔力によって15歳の頃の容姿のまま歳を取らなくなっていましたが、周囲の人間は当たり前のように年老いていきます。
初代の王の温もりを覚えている者はもう誰もいない。天気を読み、被害を未然に防ぎ、飢えもない。皆最初は感謝してくれたが、世代が変わり、最初からアデルがいることが「当たり前」になった世界では、感謝はいつしか依存へと変わっていったのです。
人とはなんと暴慢なんでしょう、誰も今のアデルの心を見た者はいませんでした。
東のエスタ帝国が攻めてきたのです。世界的な蝗害が起こり、皆が食べるものがない中、そんな時でもノルマン国は豊かでした。食料を手に入れる、それは十分に狙う価値のあるものだったのです。
「我が国の食料を盗んだ」
理由はなんでもよかったのでしょう。国民への食糧がないことへの説明と一方的な難癖から戦争の理由を作り出し、攻めてきました。
ですがアデラには人と争うという考えはありませんでした。人を殺す魔法も使えませんし、軍隊を止めるほどの魔法など使えるはずがないのです。アデラは兄弟が皆お腹いっぱいご飯を食べ、笑顔で過ごすことが原動力で頑張ってきたただの少女なのですから。
何も答えることができないアデラにしびれを切らし、王様はわめき散らしました。
軍部の一番上である将軍は「防備を固めていきます」と戦の準備をしに行きました。各々ができる事をするだけ。それだけのことですが行動を起こすまで非常に時間がかかりました。
その隙に帝国はどんどん進行してきました。戦に負けたら国民が飢えてしまうかもしれない帝国はまさに、死に物狂いでやってきたのです。
ノルマン国の王城にたどり着くまでは一か月もかかりませんでした。わずか二週間で国を落としたのです。前線で戦う帝国兵はまさに背水の陣、道すがらの街々から食料を要求し、従わなければ焼き討ちという非道な行いを徹底しました。
それらの報告は今まで国を支えてきたアデラには悲鳴のように聞こえました。
「十分そなたの世話になった、このまま誰にも言わず国を出るといい」
そういったのは現国王の長男でした。まだまだ若いが賢く、現状アデルの能力に頼り切っている国情を憂いている一人でもありました。アデルの能力は断じて悪いものではなく、非常に優れている、ただし周囲の人の考え方次第では毒にもなる。そのようなことを優しく現王に伝えていました。しかし、今まで何も問題がなかったアデラの能力を信じ切っていた現王は何も行動を起こしませんでした。
「我々はおぬしに頼りすぎたのだ。それは我々の罪、自らで考え工夫し対処する。それをすべておぬし一人に任せてしまったのだ、すまなかった。王族の一人としておぬしに詫びよう」
国は豊かになり、口減らしで孤児院に来る子供はいつしか減っていった。兄弟はとっくに孤児院を出て仕事をし、家庭をもって子をなした。そして土に返り、もう二度と笑顔を見ることはかなわなかった。
「ノルマン国は終わる、そこにおぬしを付き合わせる気はない。帝国にも伝わっているであろう星読みの魔女を、まだ少女のようなおぬしがそうだとは思いもしないであろう。なんせ三世代にわたり国王に仕えていたのだから」
アデラは潤沢な魔力によりその姿を15歳頃で老化を終えてしまった。いつまで生きるかわからないし、ある日突然寿命を迎え死ぬのかもしれない。
「さらばだノルマン国星読みの魔女アデル、大儀であった。父上は極度の緊張で錯乱しておられる。正式ではないが任を解く」
「……今までお世話になりました」
王子は手を差し出します。アデラには一瞬何かわかりませんでしたが、帽子を脱ぎ、つけてあった銀環を返しました。
「おぬしを国に迎えられていたことを誇りに思う、ありがとう、そしてすまなかった」
王子はアデラの後ろ姿が見えなくなるまでその背を見つめていました。
そうして王城が陥落する一週間前にアデルは城を出たのでした。
行く当てもなく歩いていると自然と向かったのは孤児院があるアデルの住んでいた村でした。
兄弟たちが生きているうちは暇を見つけて兄弟に会いにきていたが、だんだんと足が遠のいていった。兄弟は兄弟ですが、兄弟の子供は兄弟の子供でしかない。嫌いなわけではないが兄弟と同じように大切にしたいという気持ちはどうしても持てなかったのです。アデラのことを覚えいている人はもちろんいるでしょうがわざわざ会いに行くようなことはしませんでした。
村の奥にはさびれた孤児院。アデルの育った孤児院でもすでに見知った顔はなく、育ててくれた恩師などはもうすでにいない。それでも何かしらで親を失う子供はいるわけで数人が今も住んでいるようだ。
「城が落ちたらここへの支援も終わる」
アデルの守りたいものはもうすでになく、孤児院も今は全然知らない人が住んでいました。いつまでも続くと思っていた平和はある日突然に崩れ、形を失いました。
「私がしたかったこと、私がしたこと……それが私の罪」
孤児院の前にそっと金貨が数枚入った袋を置き、アデルはその場を立ち去りました。まだ戦争に
負けたわけではない、まだ国がなくなると決まったわけではない。孤児院や村がなくなったわけでもない。それでも郷愁の念に駆られたアデルいてもたってもいられませんでした。
ふと脳裏に浮かびます。お腹いっぱいにならなくてもみんなで食べた肉が入ってない野菜スープ。寝ず喧嘩して怒られて泣きながら寝た夜。そして幸せそうに笑いながら結婚した兄弟たちの顔。
「城の様子を見るから遠くへはいけない」
かといって街中にいて万が一ばれたら連れていかれる可能性もある。
孤児院近くの森の中で待つことにしました。
『ノルマン国王族斬首の刑』
10日後、アデラが村にちょっとした買い物で訪れた時に聞いた話でした。
ノルマン国領土だった街や村は食料を出すことを条件として処罰を免除と、実質食料を出さなければ皆殺という布告を出しました。
アデラは急いで森へ向かい、静かな場所で考えをまとめ始めました。
「あれだけ何十年頑張ってきたのにこんなあっけなくなくなってしまうなんて」
初めに浮かんだのは初代王。仕え始めて初めての王様でしたが、やさしくアデラのことを人として見てくれて沢山ほめてくれた。国のためだったかもしれないけれど。親のことを知らないアデラにとって、親とはこういう感じなのかと考えさせられた相手でもありました。なのにこういった結果で申し訳なさでいっぱいです。
次に浮かんだのは第一王子、別れ際の少しのやり取りでもアデラを人として見て気遣いまでしてくれた。
「そう、もういないのか」
そう考えると二代目三代目はアデラのことを便利な道具として見ていなかったことに気が付く。便利すぎる能力は時に人の考える力すら奪ってしまう。
「私は何のために今まで頑張ってきたんだろう」
アデラには今まで張り詰めていたものが切れてしまったような虚無感に襲われました。立ち止まって自分を見つめなおすと、守りたかった兄弟たちはもういない。恩義を感じていた先生や初代王様もいない、そして仕えていた国さえもなくなってしまったのです。
「どうしたらいいのか」
あと二話投稿します。