アデルは、かつて自分が何十年もかけて豊かにした領土の境界に位置する、険しい渓谷の「関所」へと向かっていた。
エスタ帝国の占領下に入った今、その関所は鉄の扉が閉ざされ、厳重な検問所へと姿を変えていた。元ノルマン国の民の移動は厳しく制限され、税の払えないものは出国を認められていないという。
そしてアデラという魔法使いを探しているらしい。
「そのまま関所に向かわなくてよかった」
長年生きていて学んだことは情報収集。いきなり行動しようにも事前情報がなければ動けないし、失敗しやすい。今回の関所通過では失敗すると後がないかもしれない。関所から一番近い町で情報収集していてよかった。
トリヴァル国に一番近いノルマン国の西に位置する、隣国の入り口に一番近い街リット。普段なら交易や行商人が行きかっているほどにぎわっている街なのだが、今は人通りが少なく、どこかさびしい雰囲気をしている。
リットに来て早三日目、朝昼はなるべく外へ出ず、夜出るときはぼろいローブを羽織り、いかにも旅の冒険者らしい恰好で浮いていしまわないように気を付けている。
アデラを探していることはわかったが、少女の姿で探されているのか、それとも老婆として探されているのかわからないため、なるべく人目につかないほうがいい。
他国の通商人は通行税を払えば問題なく通ることができるが、以前に比べ通行料が比べ物にならないくらい跳ね上がっているらしいこと。身分証がないと通してもらうことは不可能に近い、それでも依頼があり冒険者出入りしているらしいということ。三日間で集めた情報はこのくらいであった。
「マスター、エールとつまみを適当に頼むよ」
「あいよ」
今日も情報収集としてまた違う店に来ていた。店内にはすでに何組かの冒険者らしき人たちが飲んでおり、冒険者はどこにでもいるといった印象を覚える。酒場のマスターは年季が入っており、なかなか手ごわそうな見た目をしている。
「しかし、いつまでこんな感じなのかねぇ」
「さあね、ここいらはまだいいほうさ。帝国からみたら端っこだから帝国の奴らも大勢は来にくいんだろう。帝国領との境目はとんでもない状況らしい」
マスターはエールを出し、料理を作りながらもこちらの声に耳を傾けてくれるらしい。反対側、東の国境沿いはどこで聞いても同じ内容だ。
「この関所のせいで商売あがったりじゃない?」
「まぁ客足はだいぶ減ったけど、国境沿いは冒険者の出入りも多いからまだ何とかなるぜ。ただ、中心に近いほどばらけてしまうからあっちのほうはもっとひどいかもな。はいよおまち」
「どうも」
行商人があまり通らなくてもまだ大丈夫なのか。確かにちらほら冒険者っぽい人はこの街にきて何組も見かけたけど、通行税は高くないのだろうか。それにしてもつまみの量が多い。肉の量がとにかく多く、野菜は少なめ、そして味付けはしっかりついている。
「ここいらの食料は足りているの?」
「ああ、魔女様のおかげで食べるものはあるさ、帝国が攻める前は隣国にも売りに出していたくらいさ……帝国の奴ら魔女様も探しているみたいだが、捕まらねーといいがな」
「魔女様が?」
後半小声で店主が話してきたので私もそれに倣って小声で伝えた。私が探されていることはすでに知っているが、驚くようなふりをして話を続ける。
「ああそうさ、ノルマン国民に魔女様の悪口をいうやつなんか早々いないさ、なんせ小さいころからあの人のしてきたことを教えてもらってきたんだかな。……噂では国を見限ったって話も出ているらしいが、それは王様が悪かったって話よ」
「そんな話まで?」
「おっと、注文分はここまでだぜ」
これだ、この街のどこのマスターも商魂たくましいというか、情報を小出しにする。おかげでお腹がどうにかなりそう。量が多いから安いんだろうけど、多すぎじゃないかな。あまり大柄ではない私ではお腹が苦しくなる。
「ふぅ……エールを」
「まいどあり! そうさなぁ、住民は何かあったらここを統治している貴族様に要望を出すだろ? その返答がお決まりで魔女様に相談しますの一点張りよ。もちろん魔女様が素晴らしい方ってのはわかるがあの方ができるのは天候を知るとか予測らへんだろ?」
すぐにエールを差し出してくれたが、お腹をさすりながらゆっくりと飲んでから答える。ちょっと薄めだから今は飲みやすくてたすかる。
「たしかに、天候のこととか干ばつとか水害だけ」
「そう、なのに全然関係ない部分までその
返答でさぁ! 頼りにならねぇってありゃしなかったぜ。」
「なるほど、それで王様が悪いってのは? 」
「単純な話、地方の役人でそれなら、一番近い王様が頼りすぎていてもおかしくないって噂よ。何十年も国を支えてきたんだ、頼られすぎて疲れてしまったのかねぇって」
「確かにその話もあり得そうだ」
改めて話を聞くとそう思っている国民もいるということか、それにしても噂話の伝わり方は恐ろしい。想像豊かというか、関わりが薄いからこそ、そういった憶測が出てくるのだろうか。いくつもの店でも同様の話を聞いた。目新しい情報はもうなさそう。
「そうか、お腹も膨れたし、そろそろお暇するよ」
そう言って多めのチップをカウンターに置いて店を出ようとすると、控えめだが声がかかる。
「今のご時世、金を持っている奴なんて多いもんじゃないぞ。どこでもかしこも多めに出すのはやめたほうがいい」
「そうか、忠告どうも」
振り返ってマスターの顔を見ると、どうにも眼光が鋭く顔が険しい。
「なぁ、あんたは何が真実だと思う?」
「そうさねぇ、大方クビにでもなったんじゃないか――」
「そりゃあいい! また来てくれよな」
マスターは険がとれ、途端に白い歯を見せた。
店を出て宿泊先の宿へと向かう前に、日持ちする食料品をある分だけ買い込んでおこう。
「そろそろ動きますか」
空を見上げると雲一つない星空が見える。
「明日の天気は一日中快晴、ですが魔女の気まぐれにより早朝雨が降るでしょう」
一件目のお店で……
ア「店主、エールを」
店「未成年にはお酒はだせねぇ」
ア「何を言う!私はこう見えてもなな……」
店「なな?」
ア「じゅう……15歳なんだ、こう見えて成人している!」
店「そうは見えないんでミルクでいいか」
ア「くぁwせdrftgyふじこlp」
後日、店主買い出し中――
店「昨日変な客がきた、15歳と言い張ってエール頼んだやつ。めちゃくちゃごねるからお前らもl気をつけろ」
他店主「……」
店「どう見ても15歳には見えなかったが、あれは――」
といったやり取りがあったとかなかったとか