人造兵士は夢を見る〜あぁ魔王になりたいなぁ〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
『実験体PL358……安定期に入りました』
『よし……ドラゴンと魔族の体液を素体にした人造兵だ。この300番代が安定すれば魔王軍による地上の侵略はより進むだろう』
液体にぷかぷか浮かびながら、ボクは意識を覚醒させる。
ボクは実験体PL358番……透明な容器の外にいる白衣を着た人達がそう呼ぶ。
魔王軍って言っているから、魔族の人達によって作り出された人造の魔族っていうのがボクなのだろう。
〈たぶんじゃなくてそうだっていってるだろ? 〉
ボクにはもう一人の人格? 魂が宿っている。
もう一人は自分のことを《オレ》って言っているし、変なことをよく言う。
この世界はゲームの世界だ。
ゲームって単語がなんなのかは置いておいて、《オレ》はその世界について細かいことまで色々知っている……と。
液体の中でぷかぷか浮いているだけで、暇だからボクはよく《オレ》の話を聞いている。
《オレ》曰く、こういうのを憑依系の亜種って言うらしい。
魔王軍の人造兵として肉体が成長しきったら働かされることになるらしいけど、《オレ》によると、ボクの体はだいぶ恵まれていると言われた。
ドラゴンと魔族の遺伝子を組み合わせたドラゴノイド……竜に似たものという種族になるって。
生まれた時から高い才能を持ち、強靭な肉体、魔族よりも多い魔力……それに空を飛べる翼を持ち機動力もある。
(じゃあボクは生まれながらの強者ってこと?)
〈と言いたいが、生まれたばかりは高い才能があっても、そこそこの強さでしかない〉
《オレ》によるとゲームの駒だとレベルというのがあって、ドラゴノイドのレベルは50……これは人間の精鋭兵と同じくらいの実力らしい。
(人間……)
〈魔王と敵対している存在だ。もっとも《オレ》も元々は人間だったが〉
(ええ? じゃあなんでボクと共存してるの? じゃあ敵でしょボク達)
〈だから、《オレ》の世界はこの世界がゲームとしてあったんだって……《オレ》からすればこの世界は物語の世界なんだ〉
(物語……なるほど……埋め込まれた知識にあるよ。昔話とか武勇伝とか……ゲームって言葉は物語の一種ってこと?)
〈まぁそんな感じだ。だからこの世界の大まかな流れはなんとなくわかる。もっとも魔王軍側かつ、ドラゴノイドで遊んだことはないけどな〉
(ダメじゃん)
〈お前はそう思うかもしれないけど、生き抜く知識を《オレ》は豊富に持っているからな。アドバイスは聞いておいて損は無いと思うぞ〉
(まぁ……暇な今の時間は話し相手がいるだけで暇つぶしになるからありがたいけど……)
〈とりあえず……生き抜くだけだったらなりふり構わなければなんとかなると思うけど、お前は何か成りたい目標みたいなことはあるか? 〉
(いや……ボクは魔王様の為に働くって命令されているけど……)
〈それじゃあ使い潰されるだけだぞ〉
《オレ》はそう言うと、目標をじゃあ決めようって言ってきた。
〈そうだな……《オレ》達の今の体って無性だよな〉
(う、うん……たぶん)
〈よし……じゃあ【チンコ】を手に入れよう〉
(ち、チンコ?)
〈言い方悪かったな、男根とか生殖器とか〉
(ちょ、ちょっと……意味はわかる! でもボク達には必要無いって切り捨てられた機能なんじゃ……)
〈チンコがあると気持ちいいぞ〉
(気持ちいい?)
〈そうだ。子供を作る行為や自慰行為は気持ちが良いんだ〉
(そうなの? というかチンコって手に入れられるものなの?)
〈普通は無理だが、言ったろ……この世界はゲームの世界だって〉
(言っていたね……そう言えば……)
〈男性器を生やす魔法だったり、性別を変える魔道具や薬だったりそういうのが実はある。なんなら種族を変える魔法とかもあるぞ〉
(そ、それじゃあ……)
〈ああ、魔王軍として働きながら、その手段を探すっていうのが大きな目標にできるだろう〉
ただそれらの薬や魔道具、魔法は伝説としてなかなか手に入れることはできないから、手に入れやすくするには魔王軍でも自由に行動できるほど偉くなる必要がある……と。
(ボクは何をすれば……)
〈最初のうちはとにかく強くなることを頑張るしかないな。それに研究員に愛想よく媚を売ったりとか……とりあえずオレがそれとなく誘導するからそれに従いながら、自分でも考えてみてくれ〉
(考えてみてくれって……ボクには埋め込まれた知識と君しか居ないんだよ?)
〈まぁ、《オレ》を上手く使えってことだ。どうにもお前が体の主導権をオレに渡さない限り、指一本も動かすことができないからな〉
(そうなんだ……とりあえず今は何をすればいいの?)
〈疲れるまで《オレ》と喋っていれば良い。眠っているより脳を動かしていたほうが、覚醒が早くなる……はずだ〉
ボクは数日間……《オレ》とのお喋りを続けるのだった。
そんなに《オレ》が言うほど生殖器って使うと気持ちいいのかな?
液体が床から抜かれて、透明なケースが格納される。
「けほ……けほ……」
喉の中にまだ液体が詰まっていて上手く呼吸することができなかったが、液体を体に取り込む感覚をしていると、お腹の中や喉にへばりついていた液体が体にスーッと取り込まれて不快感はなくなった。
ペタペタと裸足の足で装置から降りる。
部屋の中には他にもボクと同じ人造兵……ドラゴノイドが居て、皆同じ姿をしている。
どうやら《オレ》が言っていた様に、会話をすることで、頭の覚醒が早かったらしく、ボクが他の個体に比べると一番早く調整が終わったらしい。
〈皆同じ顔だな〉
「あーあー……そうだね……」
発声の練習をしながら、隣の装置を見る。
赤い髪に先端に行くほど黄色っぽくなる人差し指サイズの角。
お尻の付け根からは、ゴツゴツとした鱗の生えた太ももを2回り大きくした様な太い尻尾が生えている。
ボクは意識して尻尾を動かしてみると、手前に持ってくることができた。
見た目よりも手触りはスベスベしている。
〈どうだ? 自由に動かせるか? 〉
(うん、手足みたいに自由に動かせるよ)
〈ちょっと《オレ》に尻尾を動かす許可をくれ〉
(……こうかな?)
ボクは《オレ》に体の支配権の一部を渡すと、ボクの意思とは関係なく尻尾が動き始めた。
〈よし、オレの仮説の1つはわかった〉
(仮説?)
〈いや、尻尾を使って緊急時にお前を援護することができそうだなって思ってな。翼とかでもいいが〉
(それは追々ね……上司か製作者か分からないけど、白衣の人が来たよ)
ボクと《オレ》が脳内で会話をしていると、人型のスライムがボクに近づいてきた。
「ふむ……PL358番」
「はい!」
ボクは名前を呼ばれたので反射的に返事をする。
「よろしい。君達の上司であるスライムのロゼリーだ」
「PL358番です……博士の丁寧な対応感謝します」
「ふむ? ずいぶんと礼儀がなっているな……いつもだったら暴れだすものが多いが……当たりの個体だったか? まぁ良い部屋に案内する。着いてきたまえ」
ロゼリー博士に連れられて、ボクは始めて研究室の外へと移動するのであった。