量産兵のボクにチートなアドバイザー(オレ)がつきました 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
ボクはスクエニーを連れて、その集落に向かうと、黒い装束を着た集団が現れた。
「魔族か、我々は細々と生活しているのみ……もし我々を奴隷にするようであれば抵抗させてもらうが」
「まぁまぁ、ボクらは別に争うために来たわけではありません。我々と同じ魔族になりませんか……というお誘いです」
何を言っているんだこいつはと思われたかもしれないが、敵意がないことは通じたらしい。
集落の中でも一際大きな屋敷に案内してもらう。
(普通の村とは違う感じだけど……)
〈ここは邪教を信仰している村だ。神様ではなく過去の先祖を信奉しているはずだけど〉
(ふーん)
屋敷に案内されると、集落の長が出てきた。
黒い衣服をめぐり、顔を見せてもらう。
一見普通の人間に見えるが……。
「集落の長をしているジンだ」
「ボクはドラゴノイドのバーン。こっちが悪魔のスクエニー」
「どうも」
「魔王軍が堂々とこちらに接触してきたってことは砦が陥落したということだな」
「はい、つい先日に陥落しました」
「ふむ、そして魔族の所領にここもなると」
「そうなります」
ボクは交渉を持ちかけたのが、この集落は他の村や町とは違い、領主の統制下に入っていないこと、神ではなく先祖を祀っていることは突き止めていると話す。
「然り、我々の集落は他の村とは違い、神をあがめていない。宗教的な価値観で言うと魔族の方が近い」
過去……まだ魔族と人間が共存関係にあった頃はもっと魔法が発展していた。
その中で人間側の魔法使いが生み出したホムンクルスがこの集落の人々の祖先に当たり、魔王軍の侵攻が始まるまでは人間と同じように暮らしていたらしいのだが、魔王軍の侵攻が始まると、ホムンクルスの血が濃い人々は魔族と同類と見られ、迫害された後に僻地へと追いやられ、他の村々と関係を絶って生活をしていたのだとか。
「ホムンクルス……つまり人造人間ってことですかね」
「ああ、うちの領主は人造人間技術を禁忌とし、製造されてから10世代以上経過した我々を事前淘汰する動きをしていた」
ホムンクルスの特徴……それは分かりやすい。
額に埋め込まれている魔石だ。
ジンさんも髪で隠しているが、髪をたくし上げると赤い小指程の大きさの魔石が額に輝いていた。
魔法使いとしての適性や普通の人よりも力が強いと遺伝子改造された人間の上位種として作られているのだが、世代を重ねるごとに遺伝子の劣化が起き、どんどん短命化が進んでしまっているのだとか。
「私が何歳くらいに見える」
「……50歳くらいでしょうか」
スクエニーが答えるが、ジンの答えは、まだ18歳。
人間と混じって血を薄めていけば、この呪縛は解き放たれるらしいのだが、領主の迫害政策によって、僻地にホムンクルスだけで隔離された結果、生まれてくるのはホムンクルスのみ。
最盛期には1000人以上いたホムンクルスの自治領も今では20歳以下の50人を残すのみとなっていた。
「なので奴隷としても繁殖用の母体としても我々は活用できないのですよ。魔族側としても使い道に我々は困るのでは?」
「ならなおさらボクが交渉に来てよかった。魔族に生まれ変われば短命の呪縛から解き放たれることができるでしょう」
「魔族に生まれ変わる?」
ボクは人間を魔族に生まれ変わらせる魔法が使えること、直ぐにであれば15人分の触媒があるし、時間をかければ50人全員の魔族化を短期間で行うことができると話す。
ジンさんは少し悩んだ後に、証拠を見せてほしいと言い出した。
「長老……と言っても20歳ではあるのだが、死にかけている女性が村に居る。今にも死にそうであるが、魔族化による寿命の延長があるのであれば……彼女を生き永らえさせてほしい」
「わかりました」
ボクはそれに了承し、死にそうな女性の家に案内してもらうと、70歳くらいの白髪の老婆がベッドの上で眠っていた。
彼女の娘と思われる子もいるが、娘さんも30歳くらいに見える。
「お母さんをどうするの!」
「生きながらえさせる魔族化させることによって!」
抵抗する娘さんは黒装束の人たちによって部屋から連れ出され、部屋の中にはボクとスクエニー、ジンさん、そして御老体の女性のみになる。
「スクエニー、やるよ」
「う、うん!」
今後の部隊の為にも失敗は許されない。
スクエニーは直ぐに魔法陣を書き込み、ボクは尻尾の一部をナイフで斬り落とす。
ビチャビチャっと血が飛び散るが、直ぐに治癒魔法で尻尾を再生させる。
魔法陣の真ん中に女性を乗せて、切り落とした尻尾も置き、スクエニーが呪文を唱え始めると……黒い煙が立ち込めて、眠っている女性に流れ込む。
煙が晴れると、女性は年齢相応……20歳くらいの若さに若返っており、悪魔やサキュバスといった種族特有の尻尾と翼……そして額にあった魔石の部分は瞳が出現していた。
魔眼を有する種族……サードアイ。
普通の瞳とは違い、常に開きっぱなしで人間とは違い、猫の様な細い目をしていた。
「あら? ジンさん……えーっと……あれ? 体が痛くないわ」
「よかった……ヒトミ……ヒトミなんだな!」
「ええ、ヒトミよ? ジンさんそんなに抱きついたら擽ったいわよ……」
数分間ジンさんは泣いていたが、部屋の外で待機していた他の人達や娘さんも先ほど魔族にした女性……ヒトミさんだったか。
彼女の面影を残しながら魔族に生まれ変わっているのを見て、最初は絶句していたが、意識がしっかりしているのを見てざわついた。
「とりあえず……大人の者で集落の今後を話し合います。なるべく魔族化の方針で纏めますので、明日バーンさんの隊長も含めていらっしゃってください」
「わかりました」
上手くいったかな〜ってボクは思うのだった。
私……ジンは人間が嫌いだ。
祖先がホムンクルスで自身もホムンクルスというだけで隔離されて、100年あまり。
私の先祖はさぞ無念だっただろう。
どんどん短くなっていく寿命に抗えず、過去の先祖が残してくれた立派な建物や魔法の技術も幾つも失伝してしまった。
人間に気を使って迫害が始まった当初に疎開し、辺境で開拓を行い……そして一気に衰退してしまった。
過去の何人もこの現状を変えようと動いた者は何人もいたが、人間はホムンクルスと分かった瞬間に牙を剥いた。
私の父親も現状を打開しようと動き、人間によって殺された。
10年も前のことであるが、昨日のことのように覚えている。
ただ交渉しようとした父がなぜ人間の兵に殺されなければならなかったのか今でも私にはわからない。
12歳以上の者達を屋敷に集め私は切り出した。
「魔族に組みそう」
「しかし……魔族も元人間の我々を受け入れるのだろうか」
「価値観が違うのではないか?」
「先祖代々のこの土地を失うのでは……」
「我々は人間の為に作られた存在なのではないのか」
不安、恐れ……皆思うことはある。
しかし、私達が苦労しているのは人間のせいである。
「我々は何処まで行っても人間もどき……人間ではない。それに私達でも寿命が短くなっているのだ。更に短くなれば本当の滅び……先祖の思いを受け継げる人が居なくなり、本当の滅びを迎えることになる……それに私達を苦しめているのは人間ではないか!」
私の叫びを否定する人はいなかった。
その日、この集落は魔族に下る選択を決めるのだった。