量産兵のボクにチートなアドバイザー(オレ)がつきました 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
自室に戻ってから、《オレ》の指示に従って、腕立て伏せや腹筋、背筋、スクワットとかの筋トレと呼ばれる運動をする。
ボクの知識では筋トレについては教えられてないけれど、《オレ》のゲームでの知識で、筋トレをすると少しだけ筋力が身につくと教えてくれた。
ここで監視されているのであれば、何らかのアクションがあるはずだと《オレ》は言う。
(《オレ》によるとボクの体で筋トレの負荷は寝れば治るくらい自己治癒能力が高いらしいし……できれば食事の量が多くなってくれたら嬉しいけど)
そんな感じで筋トレを続けていると、食事の時間。
たぶん昼食なのだろう。
1日3食出るのは恵まれていると《オレ》は言う。
それだけ期待されてるってことらしい。
出された料理を見て、ボクはちょっと唸った。
「増えてる……量もそうだし1品も」
こぶし大のパンが2つから3つに増えているし、ちょびっとキャベツの漬物? ポイ何かと肉の塊。
それにやたらとどろっとした緑色のスープ。
今までは容器を傾けて飲んでいたけど、なんかスプーンがご丁寧に付いてきた。
「すっごいどろっとしてる……」
〈これ……回復のポーションが混ざってるんじゃないか? 〉
「回復のポーション?」
《オレ》に聞くと、緑色でどろっとしていて、苦ければ回復のポーションだろうとのこと。
たぶん筋トレで筋疲労が溜まるから、回復のポーションを使って回復を促したいらしい。
それに回復の為にエネルギーを多く使うから食事量がちょっと多くなったんじゃないか……とのこと。
〈見られているけど、努力しているのは評価されているんじゃないか? 〉
「そうかな? ……よし!」
スプーンで一口……苦い!
「うう……キツイ!」
〈一気に飲み込め……いや舌の感覚を《オレ》に預けろ〉
(え? キツイよ?)
〈食べれないよりマシ〉
味覚を《オレ》に預けると、どろっとした飲みづらい感触が喉を通る。
《オレ》は悶え苦しんでいるが、おかげでボクはだいぶ楽になった。
「ふーふー飲み切った」
〈苦しみの分だけ体に良いから……おえっ! 〉
とりあえず洗面台で水をがぶ飲みして、口を整えてから、パンや肉を食べていく。
「ケプッ」
〈こういうときはごちそうさまって言うんだ〉
(そんな知識はないけど?)
〈《オレ》のもといた世界だと食事を作ってくれた人に感謝を伝える言葉だ。まぁ思うだけでも良いから〉
(ごちそうさま……こう?)
〈そうそう〉
食後少し休憩してから、筋トレを続けていると、夕食が出されて、また回復ポーションを混ぜたスープが出され。
苦しみながらも食べきった。
やることもないからすぐに眠りに就いた翌日。
ボクが意識を覚醒させてから体操をして、朝食が出される前に、アナウンスが。
『PL358番赤色の部屋に移動しなさい』
ボクは武器を持ちながら部屋に移動すると、中は今までで一番広い部屋だったが……部屋の床には血痕が付いていたり、今さっきまで亡骸があったのだろうというのが連想できる。
〈いよいよ序盤の山場だ。《オレ》もサポートするから気合い入れろよ〉
(うん!)
入り口から距離を取ると、少し後にロングソードを持った青痣が幾つもあるドラゴノイド……ボクと同じ顔の子がそこにいた。
『これより両者は殺し合いをしてもらう。生き残った方は十全に治療を施す。両者1時間で勝負がつかなければ能力無しと判断し、両方殺処分とする。始め』
突拍子もなく始めの合図がされた。
いきなりで意表を突かれるけど、深呼吸をした後に覚悟を決める。
(悪いね……ボクも死にたくないから……)
ボクは盾を構え、叫びながら襲いかかる。
相手はロングソードを構えて斬り掛かってくるが、《オレ》が相手の顔の前でファイヤーボールを炸裂させる。
怯んだ瞬間に盾を腹部に押し込んで思いっきり押し倒す。
ロングソードが相手の手から離れ、ボクは倒れた相手の首に斧を振り下ろした。
ボクと同じ顔が恨めしそうな……唖然としたようなよくわからない表情を浮かべながら、体と頭が離れる。
(うっ……)
〈堪えろ! それは死んだ相手への冒涜だ〉
(……くうう!)
込み上げてきた胃液を飲み込んで、ボクは転がった首に対して体の近くに持っていくと、まぶたを下ろして目をつぶらせた。
「実験体PL358番」
部屋の扉からロゼリー博士がやってきた。
「見込んだ通り、君は優秀な個体のようだ。1週間ほど他の合格した個体と共に魔王軍について簡単な教育を受けた後に前線に行ってもらう」
「前線では……もっと沢山食べられますか?」
「ああ、強ければ沢山食べられる。強ければ望むものが手に入る。活躍すれば名前も得られるかもな」
「名前……PL358番ではなく?」
「それは個体識別番号だ、名前を与えられた魔族は強さを得られるぞ」
ということはスライムなのに個体名を与えられているロゼリー博士も……ということなのだろうか?
聞いてみると、
「これでもスライムの中では天才だからね。もっとも私も最初は末端の兵士から成り上がった口でね」
ロゼリー博士に色々聞いてみると、自慢げに語ってくれた。
最初は末端の兵士から始まって、小隊の隊長をやった後に頭脳が認められて、後方で働くようになって研究者となったのだとか。
研究者になり、量産兵の技術確立で魔王軍の幹部の方より名前が与えられたのだと。
(となると名前を得てはいるけど、ロゼリー博士はそんなに偉い立場ではないのかな?)
〈ゲームだとエリート研究員って表記されてたな。まぁ本当のネームドは強いから〉
(そうなんだ……名前欲しいなぁ)
〈《オレ》のアドバイスを聞いていたらそのうちなれるから。まぁ死ななければ……な〉
(そうだね……死んだら全部が終わりだから……)
合格した後の訓練は《オレ》が見ても真っ当な学習だった。
上官に逆らわない、許可なく仲間と揉めない、指示された行動をする。
知識として知っているけど、それを体に叩き込まれてから現場に出荷。
ボクの行き先は南東戦線……《オレ》によるとだいぶ当たりの戦場なのだとか。
(なんで当たりなの?)
〈食料の自給自足がマシだからな。自生している食べ物や野生動物が多い〉
(なるほど)
相変わらず《オレ》の知識は頼りになる。
途中までは馬車に揺られていたが、大きな基地に到着すると、そこで降ろされ上司が紹介される。
「ふむ……君が私の部下になる量産型ドラゴノイドか……私も名前はまだ貰ってないが、種族はハーピー……おっと、鳥頭ではないぞ? ハーピーさんと呼ぶように」
手足が鳥の翼や足になっている女性しかいない種族ハーピー。
なんか上司は独特な形の帽子を被っていた。
「ん? これか? これは綸巾(りんきん)と言ってな! 他のハーピー達とすぐに見分けられるように被っているんだ」
綸巾……《オレ》曰く諸葛孔明が被っている帽子なのだとか?
いやだれ?
〈あの綸巾は被り続けていると頭が良くなる効果がある。ハーピーはほとんどが戦闘能力はあるが馬鹿で有名な種族だ。頭の良いハーピー……これは当たりの部隊に配属されたかもな〉
「私の部隊は30人ほどいる。ほとんどが使い捨ての兵士……て上は見ているけど、私はどの子も生き残れば上に行ける素質はあると思っているんだ。私の作戦は明瞭……生存優先。上から無茶言われなかったら無茶な作戦はしないから安心してくれ」
(凄いいい隊長……)
〈大当たりだな〉
ボクはそのまま営舎に案内されて先輩達に挨拶をするのだった。