量産兵のボクにチートなアドバイザー(オレ)がつきました 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「リーダー本当に魔族がここに居たの?」
「そこそこの魔族が遠方からこちらを見ていた。リリー」
「は〜い!」
魔族に占領した町を解放した我々水の勇者一行はパーティメンバーで魔族の将軍が使っていた屋敷を使い、先ほど見つけた魔族の生き残りについて語る。
「でもでもリーダーがぶっ殺した魔族の将軍弱かったねぇ〜勝てないと分かると無様な命乞いをしてさ! 僕笑っちゃったよ」
シーフの男がゲラゲラ笑う。
それを僧侶の格好をした女性が咎める。
「もうパールは性格悪いんだから……リーダーやリリーさんからも忠告した方がいいですよ」
「そういうパーティの良識はマーズさんが担ってくれるからね〜」
魔法使いの格好をしたリリーと呼ばれた女性がのんびりとした口調でそう答える。
水の勇者……装備を青色を基調にした格好をしている幾人かいる勇者の1人とそのパーティである。
「勇者……それは国家の戦略兵器……どれだけ勇者足りうる人物を保有しているかがその国の外交的な発言力にもなる」
「まーたリーダーが難しい話をし始めた。何々、地方ドサ回りさせられているの根に持ってるの?」
このこのとシーフ姿のパールという男が水の勇者を指で突っつく。
リーダーと呼ばれている水の勇者はそれを受け流して、窓から次々に処刑される魔族や魔族に協力していた人間の様子を眺める。
「獣共め……」
処刑に酔いしれる兵や民衆を水の勇者は吐き捨てる。
「ここら周辺の村はまだ魔族の占領下にあるので、それを解放していきませんとね! まぁもう壊滅してしまっているかもしれませんが」
「だねー、領主様も残酷だね。勝つために戦力を温存して、僕達勇者一行が到着するまでは遅滞戦術に留めて、勇者が到着したら調べた魔族の急所である指揮官のいる場所に戦力の大半を送り込んで強襲させるなんて」
「リーダーが行った結界が一番でしょ。あれで魔族は町から逃げ出せなくなったし、それ以前にも前線の部隊をすり潰したのが良かったかもねー」
「地方に送られてくる魔族はそこまで強くありませんし……光の勇者がいる大陸中央は地獄らしいですけどね」
人間側は教会の教義に反する人造人間を量産し、魔族側も日々強力になっていく量産兵を量産し、地獄の消耗戦が繰り広げられていた。
「僕的には勝っても負けても死体が山積みになっている大陸中央に配属されなくて良かったと思うけどね。まぁ世間は光の勇者が大々的に持て囃されているけどね」
「……光の勇者は確か水の勇者の姉弟子でしたっけ?」
「そうだ」
国が勇者としての才能のある子供を集めて、教育と鍛錬を施す。
今代一の勇者とされる光の勇者は水の勇者の姉弟子であった。
「光の勇者の負担を少しでも減らせるように……地方の魔族を殲滅するのが私の役目。リリー逃げた魔族の探知はできたか?」
「いえ……恐らく転移系の魔法を使ったわ。探知に失敗したけれど、戦線が崩壊している以上、村にいる魔族が集団で逃げ出したとしてもこちらの脅威ではないわね」
「ふむ」
すると執務室の扉が開き、女の剣士が入ってきた。
「水の勇者様のお陰でここの戦線は人類側に大きく戦局が傾いた。このまま失った領地を奪還し、戦線を押し戻していきますが、同行いただいても」
「私は私の役目を全うする。魔族の殲滅を……軍隊は領地奪還に勤しめばいい」
「……わかりました。今日はごゆっくりしてください。それでは!」
水の勇者は剣士が退室するのを見てから、仲間達も解散させると、ゆっくりとベッドに体を投げ出す。
「私は何時まで勇者を演じればいいのだ? 領地に凝ったところで魔族は殲滅させることは出来ぬのだぞ……馬鹿ばっかり……」
その言葉は誰にも聞かれることなく、部屋に響くのだった。
「ここらにホムンクルスの集落があるんだよな?」
「ああ、うちの数代前の領主と教会がしたホムンクルス隔離政策か……その地区がそう言えばこの先だったか……」
水の勇者が魔族の将軍を倒して魔族に占領した村々を兵士達が解放していく中で、地図を見るとホムンクルスの集落があることに気がついた兵が居た。
「魔族の根城になっていても不味いから偵察だけでも行くか?」
「うーむ、そうだな……うちの小隊だけでも確認氏に見に行くか」
領主に温存されていたが故に、まだ質の高い真面目な兵士が残っていたため、その小隊はホムンクルスの集落を確認しに行くことに決めた。
「できれば何事も無ければいいが」
「領主や教会的には全滅していたほうがいいだろうな」
「確かに」
そんなことを呟きながら2日かけて進んでいくと、地図には集落となっていたが、人の気配が全く無くなっていた。
「人っ子一人いねぇ……」
「家は綺麗なのが残っているが……生活に必要な道具とかがなにもない……魔族に持ち去られたか?」
「にしては荒らされた痕跡がない……なんだ……この気持ち悪さは」
兵士達は道中で解放してきた村々と違い、争った痕跡も無ければもぬけの殻になっている集落を見て不気味さを覚えた。
「畑も生きているんだよな……」
集落近くの畑には収穫されていない作物が植わったまま残されていた。
気持ち悪いと思いつつも、その小隊は基地に戻ると上司にホムンクルス達は全滅していた……という報告を行った。
上司は書類でホムンクルスの集落は全滅とだけで処理し、誰も気にすることは無かった。
もし水の勇者の魔法使いが瞬間移動の魔法の痕跡を辿れる程探知魔法の精度が高かったら。
ホムンクルスの集落に来るのが1ヶ月近く前だったら。
そもそもサキー隊長とバーンが町が陥落していることに気がつくのが遅れていたら……彼らの未来は大きく変わっていただろう。
しかし、バーン達は誰にも気が付かれずに逃げ切った。
これによる影響は魔族の未来をゆっくりと変えていくことに繋がっていくのだった。
〈ボクの方は眠っているか……〉
時は少し遡り、隊長が部隊の脱出を指示したその日の夜。
《オレ》はボクが眠ったのを確認してから、思考に耽っていた。
ボクの眠りが深くなったら《オレ》も強制的に思考がシャットダウンすることになるが、まだ浅い眠りの時であれば、こうして《オレ》だけの時間を作ることができる。
〈恐らくボクが見つけたのは水の勇者だったはずだ〉
プレイヤーからは人型決戦兵器とも言われていた勇者。
水の勇者は勇者達の中でも弱い部類に位置する勇者だったはずだ。
それでもあの圧力……瞬間移動で逃げてなければ殺されていたかもな。
〈順番を間違えなくてよかった……〉
これでもし瞬間移動の魔法を覚えていなかったら、避難場所を確保していなかったら……アイによって魔力量が増やせていなかったら……。
〈フランは時間をかけて探さないといけないって思っていたから、こればっかりは大当たりだったが……お陰でゲームをしている時よりも余裕を持って次に挑むことができる〉
そしてゲームと違い、時間的な断続が発生しない。
元のゲームが人間と魔族の戦争を主軸とし、人間の勝利を正史としていたが為に、第二次魔王軍時代、第三次魔王軍時代とゲームのナンバリングが更新されるためにレベルやキャラクターの関係性はリセットが入っていた。
〈それがゲームと違って、今回は地続きだ。どのルートでも死ぬはずだったフラン本人を仲間に引き入れることができたし、第一次魔王軍時代だとモブでしか無かったエレンとミラからアイという聖女の力を宿す魔族がちゃんと生まれてきてくれた〉
理解ある隊長と、スクエニーという友人に恵まれたのも大きい。
〈さて、エデン島に避難したら生活基盤を整えてから、フランの手伝いと……まだ世界各地に散らばる引き抜けそうな人材、魔道書……ゲームの知識を生かしてのハックをしていって……ボクを強くしていかないと……〉
いつか……いつか魔王にお前をしてやるからな。
バーン。