泥蓮転生-ドロドロータスリインカーネーション- 作:環状線EX
その日は、農園主の男を見た。
その日はと言うと、滅多に見ないように聞こえるかもしれないが、正確には早朝にと言う言葉が頭につく。
普段俺たちに目を光らせているのは、首に紐で鍵をくくりつけた男──つまり、鍵の男である割合の方が多く、朝早い時間ともなると彼を見ることは少なかった。
ただ、普段の俺ならば無駄に関わる必要もないので特に興味を示すことはなかったのだが、周りの子供たちがコソコソと何か話しているので気になって顔を上げたのだ。
それにしても、農園の規模に対して子供の人数が相変わらず多い。
その分一人が喋ると他の子供もざわめきあった。
「おい、手は止めるなよ」
「わかってるって」
「お前見惚れすぎ」
そんな声が聞こえてくるのは、やはり農園主の後ろについて回る女がいるからだろう。
顔立ちの整った女で時々姿を見せる大人の一人だった。
ここで働いているときに関わる大人の内唯一の女性である。
そんな彼女を見ていた子供に他の子供がからかうようにして言葉を掛ければ、否定するようにして言葉を吐いた。
「ちげぇよ。珍しかったから」
「ホントかよ?」
「ホントだって。つーか、お前も知ってるだろ。俺は……」
そう言って視線はこちらを向いた。
向けられたのはもちろん俺ではない。
俺の隣にいるスガレにである。
「?」
スガレは不思議そうに首を傾げるも、気付いては居なさそうであった。
途中、少年は俺と目が合うと舌打ちをして顔を戻した。
そんなことをしていると、農園主の男と女は居なくなっていた。
◆
「おい、お前。ホンハのとこ行ってこい」
前回のおつかいから数日、俺はまた袋を押し付けるようにして渡された。
鍵の男は無造作にどの子供に行かせるか決めているようだった。
と言うか、彼の様子を見ればろくに子供の顔を覚えていないことは分かった。
恐らく俺に前回おつかいを頼んだことも覚えてないのだろう。
そんなことを感じつつ俺は一人で農園を出た。
前回道は覚えたので、迷うことはない。
と言うか、道なりにまっすぐ行けば迷うことはない。
都市部のように入り組んでいないため、方向さえあっていればつくだろうことはなんとなくわかった。
「それに今回は一人じゃないとな」
俺は物陰に隠れて、袋を開けて中身を取り出した。
農園の大人たちからは一応してはいけないとしつこいくらいに言含められていることだ。
バレればただでは済まないだろう。
まずないとは思うがバレてスガレも巻き添えにすることはできない。
だからこそ、一人になるまで機を待っていた。
中には前回予想した通り、硬貨のようなモノと紙切れが入っていた。
紙切れには、何か書いてある。
「こんな感じか……」
呟きながら俺は落ちてた枝で、紙に書かれた模様のようなモノを模写した。
いや、これは文字だろう。
この身体にも文字の知識はないのか読めないが、これを見て老婆が商品を入れることを考えればこれはメモなのだろう。
なら、少なくとも老婆から商品を受け取った後に、中身を確認すればどれかに当てはまるはずだ。
これだけで、文字を習得できるなんてことはないが、教科書などないので地道にこういったことをするしかない。
農園を出てもっといい暮らしをするにしても、読み書きは必須だろう。
「ほらよ」
長く立ち止まることなく、さっさと袋に紙と硬貨を戻した俺は老婆にスガレがやったようにして袋を渡した。
そして、硬貨と交換するように中身が変わった袋を受け取って、暫く行ったところで袋を開いた。
「酒と煙草か?」
ザ・嗜好品と言わんばかりのそれに俺は声を洩らす。
口にしたように袋に入っていたのは、酒の瓶と煙草だった。
酒瓶は汚れていて文字を見ることが出来なく、煙草もひと箱入っているがとても新品には見えなかった。
タバコの箱は酷く汚れていて、開封した後を隠そうともしていない。
ただ、毎回こうなのだとすれば、鍵の男はそれを承知であの老婆から買っているのだろうか。
他より安価で買うことが出来ると言った理由がありそうだが、それでもこの商品の質は許容できるものなのかは疑問が残った。
ただ、考えても分からないので、中身を確認した俺はさっさと農園へと帰った。
「おつかい行ってきました」
「ああ。かせ」
丁度農園を見張るように外に出ていた鍵の男を見つけると俺は袋を渡した。
例のようにひったくるように袋を取られる。
俺もそれに気にとめることなく、早々にその場を離れた。
「アリ。遊んじゃだめだよ」
「ああ、ごめん」
スガレのところに戻って暫く、俺が膝を曲げて地面に落ちる枝を拾っていると注意を促される。
一応確認をしているため大人が近くにいないことは分かっているが、あまりサボっていてもだめだろうと立ち上がる。
そうしてその場に枝をポイと投げるとスガレがまたも口を開いた。
「アリ、絵描いてたの?」
そう言ってスガレが指を指すのは、俺が地面に書いた文字だった。
メモに書かれた二つの単語だろうそれを復習するかのようにして、俺は地面に書いていた。
ただ、どちらが酒を意味する言葉で、どちらが煙草を意味しているのか分かってはいないのだが。
俺は適当に反応しつつ地面に書かれたそれを足で払って消す。
見られてどんな不利益があるかは想像できないが、消しておくことにこしたはないだろう。
それにしても、字を書いて認識できる地面が限られているのは面倒だ。
絶対に書いて文字を整理しなければならないと言う事はないのだが、それでもどこかに書きたいと思ったとき、土が極端に湿っていたり凸凹としていると書きにくいのだ。
入り口に近い方はそうでもないが、奥に行けば行くほど湿っていたり落ち葉があったりでやりづらい。
どこかで紙でも手に入れられればいいのだが。
そんなことを思っていた時、不意に聞こえた足音に俺は飛び跳ねるようにして身体を翻した。
遠い。だが、こちらに目を向けるその人物に文字を消していて良かったと息を吐く。
こちらをみていたのは女だった。
何か気に障ることでもしたかと一瞬思考を巡らせるが、こちらを見る女は一瞬こちらに目を向けただけのようですぐに視線を逸らしていた。
そして、それに胸を下ろそうとして木々の死角になっていて見えなかったところから農園主の男の姿を見つけて、俺とスガレは反射的に身を隠すようにして仕事をしている最中だと示すように木に向き直った。
そんな俺たちの様子に農園主は気付かなかったのか、さっさと通り過ぎた。
そして、女の方は一度だけまたこちらを向いたように見せると農園主の男についていくようにして去っていった。
「ふぅ。危なかったね」
「うん」
危なかったと言っても、俺を注意するために身体をこちらに傾けることになってしまったスガレには申し訳ないと思いながらも俺は頷いた。
俺は反省して、真面目に仕事をしようと気を改めた。
そして、本格的に仕事に取り掛かったところで、スガレは手を動かしたまま俺に話しかけて来た。
「綺麗な人だね」
「うん? ……ああ、さっきの」
何の話だろうかと考えながら、先ほどの女の事だろうと思い到る。
確かに彼女の言う通り、端正な顔立ちだった。
まあ、この身体の年の影響かそれ以上は何も思わなかったが。
「あの髪も綺麗だよね。黒くて長い髪。アリと同じ色だし」
そんなことを言われて思い出す。
確かに俺と同じ黒髪だったか。
前世の髪色は覚えていないが、特に新鮮味もないと思うのはきっと前世でも典型的な日本人的な黒髪だったのだろう。
そして、この身体でも俺は黒髪だ。
スガレは俺の横で「いいなぁ」なんて言っている。
「スガレの髪色も綺麗だよ」
スガレにそう言ってみる。
実際、彼女の髪は綺麗だった。
満足に手入れを出来ない環境だろうに、俺の髪となんかとは比べ物にならないくらいにサラサラだ。
色も薄い茶髪で彼女によく似あう。
「ホント!? うれしい」
素直に受け取った彼女はそう言った。
やけに喜ぶので気になったが、ここにはスガレ以外の女の子はいないので、髪を褒められる機会などないのかもしれない。
◆
魔法。
この世界でどういった名称で呼ばれているか知らないが、それに類するもの。
その存在がある可能性は俺自身考えていた。
農園で収穫する木の実はうっすらとではあるが、光を発している。
そんなものがあるくらいなのだから、不思議な力が存在してもおかしくないだろうと。
そしてついに遭遇したのが先日の話だった。
俺はその日もいつものように、仕事をこなしていた。
そして、鍵の男がおつかいを頼むであろうタイミングを見計らって、男から見えやすい位置に移動した。
俺は鍵の男を観察し、男がいつおつかいを頼むか把握をしていた。
鍵の男が、おつかいを頼むときのパターンは二つある。
それは『二人で行くおつかい』と『一人で行くおつかい』である。
簡単な話で、二人でおつかいに行かされるときは、間接的に農園主が関わっている。
農園主の直接的な指示であるときと、鍵の男の指示であるときの割合はまちまちではあるものの、その内容は基本的に同じである。
そして、都市部に近い所までおつかいに行くことになる。
二人で行く関係上、まだ、見たことはないが袋の中身に入っている物は、農園に関わる物なのだろう。
そして、一人で行くおつかいは、鍵の男からしか指示がされない。
これは恐らく鍵の男の私用だろう。
嗜好品を子供に買わせに行かせて、自分は動かなくて済む。
そんなところだろうか。
そして、当然鍵の男の独断であり、個人的なことだ。
だから、彼は農園主がいるときはその指示は出さないし、ついでに子供が帰って来た時農園主の男がいるとそれに隠れるようにして受け取ることが常だった。
とは言え、帰って来た時に農園主がいるようなことはそうそうない。
恐らく鍵の男は予定を把握していて、農園主の男が予定外の行動を起こした時がそれに該当するのだろうか。
そう言ったわけで、鍵の男が『一人で行くおつかい』を任せるときは、基本的に農園主の男がいないことが関係してくる。
だから、農園主の男が外出した時に、鍵の男がこちらに姿を現すのを見計らって目に付く場所に移動するのだ。
そして、その日も無事に俺はおつかいを任されることになったのだ。
俺は袋を持ってホンハと呼ばれる老婆がいる建物へと進む。
そこで、何気なく老婆が咥える煙草を視界に入れた時、魔法と表現するに相応しい力を見たのだ。
派手な力ではなかった。
ただ、老婆のしわがれた枝のような煙草を掴む指が一瞬ほのかに光ったような、まるで電気でも走ったかのように見えた。
だけど、それは確実に電気ではないだろうことは俺にもわかった。
それが何であるのかなど、知ることもないほどの一瞬でそれを見て、次の瞬間には煙草に火が付いたのを見た。
直前の電気が走ったように見えた光景がなければ、俺は消えかけた火が再びついたと思うだろう。
だが、それを視界に収めた時超常的な力であると確信していた。
「ほらよ」
そこで、老婆の声にビクリと身体を動かした。
老婆は気付いていないのか、こちらを見ることもなく袋だけを渡してきた。
我に返った俺はひとこと「ありがとうございます」とだけ言ってその場を去った。
◆
メモと老婆に渡された袋の中身は確認し、いつものように俺は鍵の男に袋を返した。
そして、暫く魔法(仮称)について考えていた。
そもそも、あれが一般的な力なのかどうか分からない。
ごく一部の者にしか使えない様な代物なのか、この世界では当たり前のように使われているモノなのか。
少なくとも、子供たちは使っている素振りを見せたことはない。
農園の大人はどうかは知らない。
もし使うにしても、一日中姿を見せるわけでもないし、見えないところで使っている可能性もあるか。
老婆のように煙草に火をつける程度であれば、至近距離で視認していなければ俺が気付くことは出来ないだろう。
「アリ。ボーとしてどうしたの?」
「いや。なんでも」
食事中、考え込んでいたからかスガレは声をかけて来た。
仕事中も色々と考えてはいるのだが、手を動かさざるを得ないために熟考できるのは今のような時間しかないのだ。
ただ、それだってノロノロと食べていれば、スガレが心配する。
俺は一旦思考を切り上げて食事を口に運んだ。
相変わらずうまいとは言えない飯だが、一番最初に食べた家畜の餌よりはマシだ。
子供たちに「残飯野郎」と名前を付けられてからたびたび俺の食事を家畜の餌と入れ替えようとする嫌がらせをされるので、ただ食事をするだけでも一苦労だ。
そして、俺は食事を終えて寝床についた。
暗くなれば何も出来ないので、再度俺は魔法について考えることにした。
魔法の存在を知ったからには、習得が必須であると言う考えはずっと俺の中にある。
だから、当分の指針の一つに魔法の習得と言うものが増えた。
簡単な話、魔法がごく一部の者にしか使えない技術なのであれば、それを覚えることが大きな武器になるだろう。
反対に魔法が一般的な力であれば、それこそ覚えなければここを出て生活をするのは難しい。
そう言った理由から来た考えだった。
「取りあえず、なんでも試してみるか」
誰にも聞こえないくらいの声でそう言って俺は思いついた方法を実践する。
とは言っても、前世で見た漫画などと言ったフィクションの真似事だ。
身体を流れるエネルギーのイメージをして、それを操作して体外へ放出する。
こんなんで使えるようになるのかは知らないが、何もしなければ始まらない。
とりあえず、自分の中にあるエネルギーを意識するようにして努めた。
もちろんと言っていいかは甚だ謎だが、エネルギーを認識、なんてことは出来なかった。
暫くやって、進展がなさそうであったため、エネルギーを指先から出すようなイメージをしてみる。
別にエネルギーを運用して使う技術であるとも限らない。
最悪の場合イメージが大切、なんてことになりえない為、早々に俺は方法を変えた。
そしてそんな行動が寝る前の日課になりつつあった三日後の夜、俺は大きく息を吐いた。
「だめだ……」
全くと言っていいほど、その片鱗を見せなかった。
三日間色々と試しては見たが、魔法は使えなかった。
少し残念に思いながらも、俺はそこまで落ち込んでいるわけではなかった。
正攻法は分からないが、とにかく魔法は確実にあるのだから不可能ではないはずだ。
ただ、自分で試しているだけだと埒があかないか。
老婆に教えを請いたいところではあるが、現実的じゃない。
そもそも、俺がここを抜け出せるのはおつかいの時だけだ。
それに、老婆と俺の関係は教えを乞えるようなものではない。
大体教えてもらえたところで、対価もなければ時間もない。
どうするべきか、そう考えていたからか気付くのに一瞬遅れた。
「オイ! この袋持ってつかい行ってこい」
そう言ったのは農園主の男だった。
どうやら声を掛けられたようだ。
今回ばかりは狙ったわけではなかったのだが、目のつく位置にいたらしい。
そして、農園主の男が頼んだと言う事は、二人で行くと言う事。
そのため、近くにいたスガレが指名されると思ったのだが……。
「もう一人はお前だ」
「はい!」
選ばれたのは別の子供だった。
確かこいつは、俺に対して手押し車を当てて嫌がらせをして来た奴だ。
他の子どもも似たようなことをしているが、一番目立つのがこいつで、しかもスガレに対しての思いも飛びぬけているように見えた。
「おい!残飯野郎。早くしろ!」
「ああ」
張り切っているのか、それとももたもたとした俺が憎いのか睨む彼はずかずかと先陣を切るようにして進んでいった。
俺が受け取った袋も彼に奪い取られてしまった。
ただ、ぼーっと見てるわけにもいかないので、俺もそれについて行った。
二人でのおつかいは、一人の時と比べて距離が長く、それでいて都市部に近い所まで行くことになる。
よって、ホンハと呼ばれる老婆のもとに向かう時と比べて比較的道が分かりやすかった。
道が整備されているのもあるが、それよりも遠くからでも見えるビルを目指せばそうそう迷うこともない。
そして、前を歩く彼もビルを目印にしているようで、一直線に進むようにして進んでいた。
目印と言っても、ビルに向かうわけではない為、もっと早く移動できる道などはあるのだが、まあ、迷うことはないのでこの進み方が一番良いのだろう。
そして何気なく俺は少年の後姿を眺めた。
赤みがかった黒髪の少年で、名前は確かカタバとか言っただろうか。
良くつるんでいる子供たちにそう言われていた気がする。
歳は俺と同じくらいで10歳ほど。
彼はずんずん歩いていく。
俺はカタバの持つ袋を眺める。
鍵の男の袋は毎度覗いているが、農園主の男が持たせた袋は未だ中身を見たことはない。
単純な話、二人で行動している最中に袋の中を見るのは難しいためだ。
俺が物陰に消えれば、怪しまれるだろうし、大体もしバレてチクられでもすれば大変だ。
「農園のつかいで来ました」
暫くして目的地に着いた俺たちはとある店へと入った。
都市部から離れたところにある寂れた店だ。
とは言っても、俺たちが道中通って来た道に並ぶ建物の中では上位の部類。
「はいはい。これね」
老婆とは打って変わって明るい声を出す店主は袋に次々と詰めていく。
一応客であるため、最低限の接客は行うのだろう。
とは言え、俺らを見る目は笑ってなかったが。
老婆の時とは違い、一度裏に戻ってから重くなった袋をこちらに返した。
カタバはそれを受け取って、速足でその場を離れた。
それは、ここに居たくないと言うことではなく、俺と一緒に長時間いたくないと言う気持ちから来ているのだろう。
油断すれば俺が置いて行かれるような速さで彼は歩いた。
おつかいが終わり、俺が思ったことはやはり、一人のおつかいと比べて二人でのおつかいにおける袋の中身の確認の難易度だった。
監視が付いているようなもので、なかなか行動が起こせない。
一番、やりやすいのはスガレの時だろうが、バレる可能性は低いとはいえ彼女を共犯関係にしてしまうだろう。
スガレにバレずに確認したとして、彼女以外の原因でバレた場合、俺と一緒にいたスガレも罰を受ける可能性が出て来る。
とは言え、俺に良くしてくれる彼女を巻き込みたくないと思う反面、もしバレてしまったとして態々チクるようなことをしないのも彼女であるだろうと俺は考えていた。
◆
「おい、何考えてる?」
俺がおつかいから農園に帰ってしばらく、そんな声が掛けられた。
俺よりも高い身長ではあるが大人には及ばないその姿を見て、俺は首を傾げた。
態々自発的に話しかけてくるのは、スガレくらいだと思っていた。
それに、他の誰かが俺に話しかけるなんてことをするのなら、少なくとも一言二言交わしたことのあるカタバで精々だ。
そんな考えがあったが故に、俺は口をすぐに開けなかった。
そして話しかけて来た人物は、俺より年上であろう子供たちの中でもリーダー的な立ち位置にいる少年だ。
よくカタバが属しているグループにいるようだが、そんな彼が俺に何の用であるのかを俺は測りかねていた。
「聞いているのか?」
ついにたまらなくなったのか、無言の俺に声を向けた。
ただ、俺としてもどう返していいのかは検討が付かない。
「どういう意味?」
子供らしく敬語など使わずにそう訊いた。
すると、彼は顔をしかめて言葉を吐いた。
「カタバからは聞いてるんだぞ。お前が自分から言えば許してやろうと思ったが」
彼は叱るように俺に言う。
そして、不意に彼の背後を見ればカタバの顔が見えた。
目があった彼は視線を逸らした。
「身に覚えがないんだけど。良かったら説明してくれないかな?」
「この期に及んでそんなことを……」
よくわからないが、怒っている様子。
ただ、教えてやるとばかりに言葉を続けた。
「お前、カタバとのおつかい中に手伝いもせずに遊んでたんだってなぁ!」
「は?」
「言い訳はするなよ。カタバから聞いてるんだ」
遊んでいたと言う言葉には全くの心当たりがなく、俺は不意に声を洩らせば少年は血管を浮かばせた。
ただ、彼が農園主の男ないしは鍵の男に俺が遊んでいたなどと言いふらせば面倒なことになりかねない。
穏便に済ませたいところではあるものの、俺はため息をはいて反論した。
「俺は遊んでいない。それに遊んでいたと言うなら何をしてたんだ?」
カタバの口から適当な出まかせを聞かされているであろうとかえってきた言葉の矛盾を突こうと考えた。
ただ、そんな俺の予想に反して少年は言葉を詰まらせた。
「……カタバ、こいつは何をしてたんだ?」
まさかの発言にわずかにでも張り付けていた笑みが固まった。
この少年は何を俺がしていたかも聞かずに、先ほど俺に掛けられたおつかい中に遊んでいたという言葉だけで俺を詰めてきていたのだ。
この歳とは言え、彼の年齢は12から13程度と考えれば流石に疑問に思わざるを得なかった。
そしてそんな俺を他所に、カタバに少年は声をかけるも回答は芳しくなかった。
ただ、すぐに彼はこちらに向き直り俺を責めるように言った。
「俺はここでリーダーを任されているんだ。とにかくお前のせいで皆が困ってるんだ。勝手な真似をされては困る」
「だから、俺は何もしてないよ。彼も俺が何をして遊んでいたか言えてないじゃないか」
そう反論してみるも、彼は俺の言葉を聞き入れるようなことはなかった。
そこからは堂々巡りで、似たような会話が続き、俺がそろそろ折れようと思ったときにスガレの乱入にて幕は閉じた。
幸いなことにその後、俺が遊んでいたと言う濡れ衣を大人たちに言いふらさせることはなかったようだ。