4代目に憧れて   作:ryyonn

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小さな発見

 

 

翌朝。

 

「レオン、準備はできた?」

 

「うん!」

 

 俺は玄関で靴を履き、ビスケの隣に並んだ。

 

 今日は神字に関する資料を見に行く日だ。

 

 念の修行を始めてから、毎日が新しい発見の連続だった。纏、絶、練を覚え、放出系だと判明し、そして神字という技術にも出会った。

 

 自分が目指す能力の形は、まだ見えていない。

 

 けれど、少しずつ必要な知識が集まっている気がした。

 

「そんなに楽しみ?」

 

「もちろん!」

 

「ふふっ。じゃあ、行きましょうか」

 

 ビスケは俺の手を取った。

 

 十歳になった今でも、こうして手をつないで歩くことがある。

 

 俺はそれが嬉しかった。

 

 いつか大人になって、ビスケより強くなる日が来たとしても、この人は俺にとって大切なお母さんだ。

 

 その気持ちは、きっと変わらない。

 

     ◇

 

 目的地は、ビスケが以前から利用している資料室だった。

 

 念に関する古い書物や、神字について記された資料が保管されているらしい。

 

「ここには、神字だけじゃなくて、古い念能力者たちが残した記録もあるのよ」

 

 ビスケは棚を見渡しながら説明した。

 

「もちろん、すべてが正確とは限らないわ。昔の人の経験や解釈が書かれていることもあるから、何でも鵜呑みにしないこと」

 

「わかった」

 

「じゃあ、まずは神字の基礎に関する資料を探しましょう」

 

 俺たちは棚を調べ始めた。

 

 しばらくして、ビスケが一冊の本を取り出した。

 

「これなら、今のレオンにも読めそうね」

 

 机に置かれた本を開く。

 

 そこには、神字の基本的な考え方や、文字を書くときの注意点が記されていた。

 

 俺は一文字ずつ、丁寧に目を通していく。

 

 神字は、ただの文字ではない。

 

 念を込めることで、特定の働きを補助するための技術だ。

 

 文字の形だけでなく、意味を理解し、正確に扱うことが重要になる。

 

 ここまでは、ビスケに教わった内容と同じだった。

 

 ただ、資料を読み進めるうちに、気になる記述を見つけた。

 

「……お母さん、これってどういう意味?」

 

 俺は一つの項目を指さした。

 

 そこには、神字を組み合わせて、複数の働きを持つ仕組みを作ることについて書かれていた。

 

「神字を一つだけ使う場合と、複数を組み合わせる場合では、考え方が変わってくるの。複雑な仕組みを作るなら、それぞれの文字の意味と役割を理解して、全体として矛盾がないようにしなくちゃいけないわ」

 

「文字を組み合わせて、一つの仕組みにするんだね」

 

「そういうこと。ただし、複雑にすれば強くなるわけじゃない。扱いきれなければ意味がないし、念の消費が大きくなる可能性もあるわ」

 

 俺はうなずき、再び本に目を落とした。

 

 複数の神字を組み合わせる。

 

 それぞれに役割を持たせる。

 

 そして、全体として一つの仕組みを作る。

 

 その考え方は、俺の中にあった漠然とした構想と、どこか重なっていた。

 

 けれど、今はまだ、それ以上のことは思いつかない。

 

 知識が足りないのだ。

 

 俺は焦らず、続きを読み進めた。

 

     ◇

 

「そろそろ休憩にしましょうか」

 

 ビスケの言葉に、俺は本から顔を上げた。

 

「もうそんな時間?」

 

「ええ。集中しすぎよ。少し体を動かしましょう」

 

 俺たちは資料室の外へ出た。

 

 建物の裏手には小さな庭があり、周囲には木々が立ち並んでいる。

 

 俺は軽く伸びをした。

 

「ねえ、お母さん」

 

「なあに?」

 

「神字って、念能力を作るときにも使えるの?」

 

 ビスケは少し考えた。

 

「使い方次第では、念能力を補助する仕組みに組み込めるでしょうね。でも、神字そのものが念能力の代わりになるわけじゃないわ」

 

「じゃあ、能力を発動する条件とか、仕組みの一部を補助することも?」

 

「理屈の上では考えられるわ。ただし、実際に何ができるかは、使う神字や念の扱い方によるわね。簡単にできることではないと思うわよ」

 

「そっか……」

 

 俺は考え込んだ。

 

 やはり、可能性はある。

 

 神字が能力の仕組みを補助できるなら、俺が作ろうとしている能力にも応用できるかもしれない。

 

 だが、今の段階では、まだ仮説にすぎない。

 

 神字の意味を知らなければ、組み合わせ方もわからない。

 

 念の制御が不十分なら、能力を成立させることもできないだろう。

 

「レオン」

 

「ん?」

 

「考え込むのはいいけれど、今から何でもできると思わないこと。まずは目の前のことを覚える。それが一番の近道よ」

 

「うん。わかってる」

 

 俺は笑顔で答えた。

 

 ビスケは、俺の頭を優しく撫でた。

 

「いい子ね」

 

 その言葉が、妙に嬉しかった。

 

     ◇

 

 帰宅後。

 

 俺は机に向かい、今日学んだことをノートにまとめていた。

 

 神字の基本。

 

 文字の意味。

 

 正確に書くことの重要性。

 

 複数の文字を組み合わせるときの考え方。

 

 一つずつ整理していく。

 

 その途中で、俺はふと筆を止めた。

 

 ――そういえば。

 

 前世の記憶の中に、瞬間移動を使うキャラクターがいた。

 

 もちろん、俺が憧れているのは四代目火影だ。

 

 飛雷神の術。

 

 あの能力は、ただ速いだけではない。

 

 目印を利用して移動し、敵の意表を突き、戦場の位置関係そのものを支配する。

 

 俺が目指す能力も、そういうものにしたい。

 

 だが、今の俺にはまだ、移動をどう成立させるかという根本的な問題が残っている。

 

 神字は、その答えにつながるかもしれない。

 

 それでも、今すぐ完成形を決める必要はない。

 

「……まずは、もっと勉強しないとな」

 

 俺はノートを閉じた。

 

 明日も修行がある。

 

 神字の勉強だけではなく、念の基礎も続けなければならない。

 

 強くなるためには、地道な努力が必要だ。

 

 それは、前世の物語でも、この世界でも変わらない。

 

     ◇

 

 数日後。

 

 俺はビスケと一緒に、神字を書く練習をしていた。

 

「レオン、ここの線が少しずれているわ」

 

「うわ、本当だ……」

 

「神字は正確さが大事よ。もう一度書き直しなさい」

 

「はい、師匠」

 

 俺は新しい紙を取り、慎重に筆を動かした。

 

 以前よりも、文字の形を正確に再現できるようになっている。

 

 念を込める感覚も、少しずつつかめてきた。

 

 ただし、まだ複雑な仕組みを作る段階ではない。

 

 今は基本を身につけることに集中する。

 

 そのとき、ビスケがふと思い出したように言った。

 

「そういえば、レオン。神字の勉強も大事だけど、あんた自身の念能力についても、そろそろ考え始めていい頃ね」

 

 俺は筆を止めた。

 

「自分の能力?」

 

「ええ。今すぐ完成させる必要はないわ。でも、自分が何を得意としていて、どんな戦い方をしたいのか。それを少しずつ考えておくといいわよ」

 

「……うん」

 

 俺は静かにうなずいた。

 

 自分の能力。

 

 それは、俺がずっと考えてきたことだ。

 

 けれど、今までは漠然とした憧れにすぎなかった。

 

 飛雷神のような移動能力。

 

 どこにいても、必要な場所へ駆けつけられる力。

 

 大切な人を守るための力。

 

 それを、念能力として成立させる。

 

 そのために必要なことを、これから一つずつ学んでいく。

 

「お母さん。俺、いつかすごい能力を作りたいんだ」

 

「ええ。期待しているわよ」

 

 ビスケは笑顔で答えた。

 

「でも、どんな能力を作るにしても、最後にものを言うのは基礎と経験よ。そこだけは忘れないこと」

 

「わかってる!」

 

 俺は力強くうなずいた。

 

 まだ、具体的な形は見えていない。

 

 神字をどう使うのかも、移動をどう成立させるのかも、これから考えなければならない。

 

 それでも、少しずつ前へ進んでいる。

 

 焦らず、確実に。

 

 いつか必ず、憧れを現実に変える。

 

 ――そのための修行は、明日も続く。

 

 

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