4代目に憧れて   作:ryyonn

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師匠の教え

 

 

「レオン。最近、神字の勉強に夢中なのはいいけれど、少し気になることがあるわ」

 

翌朝、修行場へ向かう途中で母さんが言った。

 

「気になること?」

 

「あなた、神字を使えば自分の望む能力が作れると思い始めていない?」

 

俺は思わず足を止めた。

 

……図星だった。

 

神字を知り、念と組み合わせる方法を考えるうちに、俺は少しずつ期待を膨らませていた。

 

もしかしたら、これを使えば。

 

もしかしたら、あれも実現できるかもしれない。

 

そんな考えばかりが頭を巡っていたのだ。

 

「……少しは思ってる」

 

正直に答えると、母さんは小さく息を吐いた。

 

「神字は、あくまでも念の働きを補助する技術よ。神字を使えば、本来できないことまで何でもできるようになるわけじゃないの」

 

「うん」

 

「あなたが目指しているのは、離れた場所へ瞬時に移動する能力だったわね?」

 

「そうだよ」

 

「なら、まず考えるべきなのは、どうやってそれを実現するか。神字は、そのために本当に必要なのか。ほかの方法では駄目なのか。そういうことも考えなくちゃ」

 

俺は黙って頷いた。

 

母さんの言う通りだ。

 

神字を使うことが目的になってはいけない。

 

俺が欲しいのは、神字を自在に扱う力ではなく、目標を実現するための能力なのだから。

 

「それにね、レオン」

 

母さんは少しだけ声を和らげた。

 

「あなたには、まだ時間があるわ。十歳になったばかりなのよ? 今から何もかも完成させようとしなくていいの」

 

「……わかってる」

 

「本当に?」

 

「本当だってば」

 

母さんはくすくすと笑った。

 

「なら、今日は神字の勉強をお休みしましょう」

 

「えっ!?」

 

思わず声が裏返った。

 

「どうして!?」

 

「どうしてって、あなたが神字のことばかり考えているからよ。今日は念の基礎を徹底的に鍛え直すわ」

 

……しまった。

 

完全に母さんの思惑通りだった。

 

     ◇

 

修行場に着くと、母さんは俺に向かって手を差し出した。

 

「まずは纏。いつも通り、全身にオーラをまとって」

 

俺はすぐに纏を発動させた。

 

身体の表面をオーラが覆う。

 

以前と比べれば、ずっと自然にできるようになっている。

 

「いいわね。じゃあ、その状態を維持したまま歩いて」

 

俺は歩き始めた。

 

「次は走って」

 

走る。

 

「片足で立って」

 

片足立ち。

 

「目を閉じて」

 

……なんだか、だんだん要求が増えていないだろうか。

 

それでも、言われた通りに続けた。

 

纏を維持するだけなら、今ではそれほど難しくない。けれど、別の動作に集中すると、オーラの状態が微妙に乱れる。

 

母さんは、そのわずかな変化も見逃さなかった。

 

「今、右肩のオーラが薄くなったわ」

 

「えっ、そこまでわかるの?」

 

「もちろん。自分のオーラを扱うなら、そのくらい意識できるようにならなくちゃ」

 

俺は思わず苦笑した。

 

母さんの要求水準は高い。

 

けれど、その指導のおかげで、俺の念の制御が急速に上達しているのも事実だった。

 

「次は練よ。オーラの量を増やして、そのまま維持してみなさい」

 

俺は全身からオーラを引き出した。

 

纏のときよりも濃いオーラが身体を包み込む。

 

「その状態で、さっきと同じ動作をするの」

 

「……全部?」

 

「もちろん!」

 

母さんは満面の笑みだった。

 

俺は天を仰いだ。

 

今日の修行は、長くなりそうだ。

 

     ◇

 

昼を過ぎた頃。

 

俺は地面に座り込み、荒い息を整えていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

疲れた。

 

本当に疲れた。

 

纏と練を維持しながら身体を動かすだけなのに、集中力を保ち続けるのは想像以上に難しい。

 

まして、母さんの要求は少しずつ厳しくなっていく。

 

「どう? 神字のことを考える余裕はあった?」

 

「……ないです」

 

「ふふっ。なら、今日の目的は達成ね」

 

母さんは楽しそうに笑った。

 

俺は抗議する気力もなく、差し出された水を飲んだ。

 

けれど、休みながら考えてみると、今日の修行には確かに意味があった。

 

念能力を作るとき、能力の仕組みばかりに意識を向けていた。

 

だが、実際に能力を使うのは自分自身だ。

 

戦いながら能力を発動することもあるだろうし、状況に応じて細かく制御する必要もある。

 

そのとき、基礎が不安定では話にならない。

 

「母さん」

 

「なあに?」

 

「念の基礎って、どこまで鍛えれば十分なのかな?」

 

母さんは少し考えてから答えた。

 

「十分、なんて基準はないわ。どれだけ強くなっても、磨ける部分は残るもの」

 

「じゃあ、ずっと鍛え続けるしかない?」

 

「そういうことね」

 

母さんは俺の隣に座った。

 

「ただし、基礎ばかりを続ければいいというわけでもないわ。基礎を鍛えながら、自分に何ができるのかを試していく。それが大切なの」

 

「……なるほど」

 

基礎と応用。

 

どちらか一方だけでは駄目なのだ。

 

俺はその言葉を心に刻んだ。

 

「それと、もうひとつ」

 

母さんが俺の顔を覗き込んだ。

 

「あなた、強くなりたい理由を忘れていない?」

 

「忘れてないよ」

 

俺はすぐに答えた。

 

「大切な人を守りたいからだよ」

 

母さんの表情が柔らかくなった。

 

「そう。なら、覚えておきなさい。強くなることそのものが目的になってしまったら、きっと大事なものを見失うわ」

 

俺は母さんの目を見つめた。

 

彼女がどんな思いでその言葉を口にしたのか、すべてを理解できたわけではない。

 

けれど、ひとつだけ確かなことがある。

 

母さんは俺を強くしたいだけではない。

 

俺が自分を見失わずに成長できるよう、ずっと見守ってくれているのだ。

 

「……うん。忘れないよ」

 

「よろしい!」

 

母さんは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「さあ、休憩はおしまい。もうひと頑張りよ!」

 

「ええっ、まだやるの!?」

 

「もちろん!」

 

……やっぱり、母さんは容赦がなかった。

 

     ◇

 

その夜。

 

俺はベッドに横たわりながら、今日の修行を振り返っていた。

 

神字の勉強を休んだことで、かえって考えが整理された気がする。

 

俺が目指す能力には、まだ多くの課題がある。

 

念を離れた場所に維持すること。

 

目的地をどのように指定するのか。

 

移動を成立させるには、どんな条件が必要なのか。

 

神字がどこまで役立つのか。

 

どれも、答えは出ていない。

 

それでも、焦る必要はないのだろう。

 

母さんが教えてくれたように、基礎を磨きながら、少しずつ可能性を探っていけばいい。

 

俺は目を閉じた。

 

前世で憧れた四代目火影のような力。

 

それをこの世界で再現するのは、きっと簡単ではない。

 

だが、簡単ではないからこそ、挑戦する意味がある。

 

そして、俺にはこの世界で生きていくための時間と、支えてくれる家族がいる。

 

今はまだ十歳。

 

急ぐには早すぎる。

 

明日も修行をして、勉強をして、少しずつ成長していこう。

 

いつか、自分の目指す力を手に入れるその日まで。

 

――俺の修行は、まだ始まったばかりなのだから。

 

 

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