――ネテロ視点――
「ほっほっほ。あの小僧、面白いことを始めたようじゃな」
心源流総本山。
ワシは茶をすすりながら、ビスケットから聞いた話を思い返していた。
あの娘の息子――レオン・クルーガー。
初めて会ったときは、まだ幼い子供じゃった。
あれから一年ほど。
十歳になり、念の修行を本格的に始めたと聞いておったが、どうやら順調に成長しておるらしい。
特に興味深いのは、あやつが自分の念能力について考え始めたことじゃ。
放出系の適性を持ちながら、遠く離れた場所へ瞬時に移動する能力を目指しておるという。
「ふむ……」
ワシは顎に手を当てた。
放出系の念能力者が、遠隔地への移動を実現しようとする。
それ自体は不可能と決まったわけではない。
しかし、単純にオーラを放出するだけでは、自分自身を瞬時に移動させることはできんじゃろう。
念能力は、想像だけで成立するものではない。
自分の系統。
能力の仕組み。
必要な条件。
それらを考え、試し、失敗を重ねて、ようやく形になるものじゃ。
じゃが――。
「ビスケットの教えを受けておるなら、基礎を疎かにすることはあるまい」
あの娘は厳しい。
それでいて、教えるべきことはきちんと教える。
レオンにとって、これほど恵まれた師匠もおらんじゃろう。
いや。
母親としてのあの娘を考えれば、師匠という言葉だけでは足りんかもしれん。
「それで、ネテロ会長。興味があるんですか?」
傍らにいた心源流の門下生が尋ねた。
ワシは笑った。
「当然じゃろう。若い者が自分の頭で考え、壁に挑む。これほど愉快なことはない」
「では、様子を見に行かれるのですか?」
「いや、今はまだよい」
ワシは茶碗を置いた。
「自分で考え、自分で答えを見つける。その時間もまた、修行じゃからのう」
それに、ワシが顔を出せば、ビスケットに何を言われるかわかったものではない。
あの娘は、レオンのことになると少々……いや、かなり過保護になる。
「ほっほっほ。いずれ、あやつの成長をこの目で確かめるとしよう」
そのとき、レオンがどんな念能力を生み出しているのか。
それを想像するだけで、ワシは愉快な気持ちになった。
強さとは、ただ生まれ持った才能だけで決まるものではない。
才能をどう磨くか。
何を目指すか。
そして、壁にぶつかったとき、どう乗り越えるか。
その積み重ねが、やがて大きな違いを生む。
レオンがどこまで行くのか。
今はまだ、誰にもわからん。
だからこそ、面白いのじゃ。
----------------