4代目に憧れて   作:ryyonn

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最初の手応え

 

 

その夜、俺は机に向かっていた。

 

今日の修行で得た気づきを、忘れないうちにノートへ書き留める。

 

少ないオーラを、安定した状態で放出する。

 

距離を伸ばすことと、維持することを分けて練習する。

 

どちらも基本的なことだ。

 

だが、実際にやってみたからこそ、わかったことがある。

 

頭の中で考えているだけでは、気づけなかっただろう。

 

俺はペンを置き、しばらく考え込んだ。

 

瞬時に移動する能力。

 

それを作るために、何が必要なのか。

 

まだ答えは見つかっていない。

 

けれど、今日の修行を通して、ひとつだけ確信したことがある。

 

今の俺に必要なのは、派手な能力を作ることではなく、念を思い通りに扱うための技術を磨くことだ。

 

その技術があれば、将来の選択肢も増えるはずだ。

 

神字についても、引き続き学んでいこう。

 

ただし、焦らずに。

 

俺はノートを閉じ、窓の外を見た。

 

前世で憧れた四代目火影。

 

その力をこの世界で再現する道は、まだ遠い。

 

だが、少なくとも、何もわからないまま立ち尽くしていた頃とは違う。

 

今は、自分が何を学ぶべきなのかが少しずつ見えてきている。

 

そして、その一歩一歩が、いつか大きな力へ繋がると信じている。

 

「……明日も頑張ろう」

 

小さく呟き、俺は灯りを消した。

 

まだ、能力は生まれていない。

 

けれど、そのための土台は、確かに育ち始めていた。

 

 

第二十二話 残されたオーラの謎

 

――レオン視点――

 

十歳になってから、半年ほどが過ぎた。

 

念の修行にも慣れ、纏や絶、練といった基本技術は、少しずつ安定して使えるようになってきた。

 

もちろん、母さんにはまだ敵わない。

 

実戦形式の修行では、今でも何度も地面に転がされている。

 

……本当に、あの人は十歳の息子に対して容赦がない。

 

とはいえ、最近の俺には、楽しみにしている修行がひとつあった。

 

放出したオーラを、どこまで正確に扱えるか。

 

そして、身体から離したオーラを、どれだけ長く維持できるか。

 

移動能力を作るために役立つかもしれないと考え、続けている練習だ。

 

「よし……」

 

修行場の地面に、小さな石を三つ並べた。

 

一つ目は俺の足元。

 

二つ目は三メートルほど先。

 

三つ目は、さらに離れた場所に置いてある。

 

今日の目標は、オーラをそれぞれの石まで飛ばし、どこまで安定して維持できるか確かめることだ。

 

まずは一つ目。

 

右手にオーラを集め、ゆっくりと放出する。

 

小さなオーラの塊が、手のひらから離れた。

 

そのまま、少しずつ前へ送り出す。

 

一メートル。

 

二メートル。

 

三メートル。

 

石の近くまで届いたところで、俺は放出を止めた。

 

オーラの塊は、数秒ほどその場に留まった。

 

だが、すぐに形が崩れて消えてしまう。

 

「……やっぱり、長くは維持できないか」

 

距離を伸ばすほど、制御は難しくなる。

 

これは以前からわかっていたことだ。

 

けれど、今日はもうひとつ、確かめたいことがあった。

 

俺は石の近くにしゃがみ込み、意識を集中させた。

 

オーラが消えた場所。

 

そこに何か痕跡が残っていないか。

 

もちろん、目に見えるものは何もない。

 

念の気配を探ってみても、ほとんど何も感じられなかった。

 

「うーん……」

 

やはり、そう簡単にはいかないらしい。

 

ただ、ここで諦めるつもりはなかった。

 

俺はもう一度、同じ練習を繰り返した。

 

今度は、オーラを石の近くまで飛ばしたあと、急に消すのではなく、少しずつ弱めていく。

 

何度も試すうち、あることに気がついた。

 

オーラが完全に消える直前、ほんの一瞬だけ、石の周辺に微かな気配が残ることがある。

 

毎回ではない。

 

気のせいかもしれない。

 

それでも、何かが違うように感じた。

 

「……もう一回」

 

俺は集中を切らさないよう、慎重にオーラを放出した。

 

石のそばまで届け、維持し、ゆっくりと弱める。

 

そして、オーラが消えた瞬間。

 

ほんのわずかに、気配が残った。

 

「っ!」

 

思わず身を乗り出す。

 

だが、次の瞬間には、それも感じられなくなっていた。

 

「今のは……何だったんだ?」

 

残留したオーラなのか。

 

それとも、オーラを消した直後の感覚が残っていただけなのか。

 

まだ判断できない。

 

けれど、確かめる価値はありそうだ。

 

俺はノートを取り出し、今の実験を書き留めた。

 

『放出したオーラを消す直前、対象付近に微かな気配を感じることがある。再現性を確認する』

 

今は、これだけでいい。

 

いきなり能力の仕組みに結びつけるのは早すぎる。

 

まずは現象を正確に把握すること。

 

それが、今回の収穫だった。

 

     ◇

 

「レオン、何をしているの?」

 

背後から声がした。

 

振り返ると、母さんがこちらへ歩いてきていた。

 

「あ、母さん。ちょうどいいところに」

 

「その顔は、また何か思いついたのね?」

 

母さんは俺のノートを見て、苦笑した。

 

「今度は何を調べているの?」

 

俺は、さっきの実験について説明した。

 

放出したオーラを消す直前、石の近くに微かな気配を感じたこと。

 

それが何度か起きたこと。

 

ただし、毎回同じように感じられるわけではないこと。

 

母さんは真剣な表情で聞いていた。

 

「なるほどね。面白い観察だわ」

 

「でも、これが何なのかはわからないんだ」

 

「それでいいのよ。わからないことを、わからないまま記録しておくのも大切なことだから」

 

母さんは石のそばにしゃがみ込んだ。

 

「ただ、気をつけなさい。念の修行では、自分が何かを感じたと思っても、実際には集中の仕方や思い込みが原因ということもあるわ」

 

「うん。だから、何度も試してみるつもり」

 

「ええ。できれば、条件をひとつずつ変えて確かめるといいわね」

 

俺は頷いた。

 

さすが母さん。

 

実験の仕方まで、きちんと教えてくれる。

 

「それと、もうひとつ」

 

母さんが俺の頭に手を置いた。

 

「何か発見したからといって、すぐに自分の能力へ組み込もうとしないこと。まずは念そのものを理解しなさい」

 

「……はい」

 

「よろしい!」

 

母さんは笑顔になった。

 

「じゃあ、今日はその実験を続けてみましょう。私も見てあげるわ」

 

「本当?」

 

「もちろん。ただし、夕食までには終わらせること」

 

「わかった!」

 

俺は再び石の前に立った。

 

まだ、何も確かなことはわかっていない。

 

それでも、母さんと一緒なら、きっと今まで見えなかったことにも気づけるはずだ。

 

     ◇

 

その日の実験では、いくつかのことがわかった。

 

まず、放出したオーラを急激に消した場合、石の周辺に気配が残ったように感じることはほとんどなかった。

 

一方、オーラをゆっくりと弱めた場合には、同じような感覚が何度かあった。

 

ただし、毎回ではない。

 

また、石を置かずに同じ実験を行った場合にも、似たような感覚が生じることがあった。

 

「……うーん。石が原因とは限らないんだね」

 

「そうね。今の段階では、そう考えるべきでしょうね」

 

母さんが答えた。

 

俺はノートに結果を書き込んだ。

 

石があるかどうかに関係なく、似た感覚が起きる。

 

つまり、少なくとも今の実験では、石そのものが特別な役割を果たしているとは言い切れない。

 

「じゃあ、次は何を調べるの?」

 

母さんが尋ねた。

 

俺は少し考えてから答えた。

 

「まずは、同じ条件で何度も試してみる。毎回同じことが起きるのか、確かめたいんだ」

 

「いい考えね」

 

母さんは満足そうに頷いた。

 

「急いで答えを出すより、確かなことを増やす。その姿勢を忘れないでね」

 

「うん」

 

俺はノートを閉じた。

 

今日の成果は、能力の完成にはほど遠い。

 

瞬間移動の方法がわかったわけでもない。

 

神字の新しい使い方を発見したわけでもない。

 

けれど、実験を通して、ひとつの現象を見つけることができた。

 

それだけでも、今の俺にとっては十分な進歩だった。

 

     ◇

 

――ビスケット視点――

 

夕食のあと、レオンは自分の部屋でノートを整理していた。

 

私はその様子を、廊下からそっと眺めていた。

 

もちろん、本人に気づかれないように。

 

……いえ、別に隠れて見ているつもりはないのだけれど。

 

母親というのは、息子が何かに夢中になっていると、つい様子を見たくなるものなのだ。

 

今日、レオンが試していたことは、まだ小さな発見にすぎない。

 

実験の結果も不確かで、能力に結びつくかどうかさえわからない。

 

けれど、私が感心したのは、発見そのものではなかった。

 

レオンは、感じたことをそのまま事実だと決めつけなかった。

 

何度も試し、条件を変え、違いを記録していた。

 

十歳の子供が、自分の感覚を疑いながら、地道に確かめようとしている。

 

それは、簡単なことではない。

 

「……本当に、熱心な子ね」

 

私は小さく微笑んだ。

 

才能があることは、もちろん素晴らしい。

 

けれど、才能を正しく使うためには、努力と慎重さが必要になる。

 

レオンには、その両方が少しずつ育っている。

 

もちろん、まだまだ教えることは山ほどある。

 

念の基礎も、戦い方も、神字の知識も。

 

これから先、壁にぶつかることもあるだろう。

 

それでも。

 

「大丈夫よ、レオン」

 

私は誰にも聞こえない声で呟いた。

 

「あなたなら、きっと自分の答えを見つけられるわ」

 

息子が目指す力は、まだ形になっていない。

 

けれど、その未来へ向かって歩いている姿を、私は誰よりも近くで見守っていこう。

 

――それが、母親である私の役目なのだから。

 

 

 

 

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