4代目に憧れて   作:ryyonn

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届いたオーラ

 

 

右手をゆっくり伸ばす。

 

その先には、木片が一つ。

 

昨日までと何も変わらない、ありふれた木片だ。表面には、僕自身のオーラがわずかに残っている。何度も触れ、オーラを流し込んで、感覚を確かめてきたものだった。

 

僕は目を閉じた。

 

木片の位置を探る。そこに残されたオーラを感じ取る。自分の身体から放出したオーラを、細く、ゆっくりと前へ伸ばす。

 

――焦るな。

 

昨日、オーラの先端がほんのわずかに木片の方向へ傾いた。

 

あれは偶然だったのか。それとも、僕のオーラが木片に残ったオーラを何らかの形で捉えたのか。

 

確かめるには、条件を一つずつ変えるしかない。

 

「レオン。今日は何を試すつもり?」

 

隣に座るビスケが尋ねた。

 

「昨日、放出したオーラの先端が、木片のほうへ向いた気がしたんだ。だから今日は、オーラを伸ばす距離を短くして、もっとゆっくり動かしてみたい」

 

「距離を短く?」

 

「うん。今までは木片まで届かせようとしていたけど、まずは途中で何が起きているのか、確かめたいんだ」

 

ビスケは少しだけ目を細めた。

 

「いい考えね。届かせることばかりに集中していたら、途中の変化を見落とすかもしれないもの」

 

彼女は木片を僕の正面、三メートルほど先に置いた。

 

「ただし、無理にオーラを伸ばさないこと。違和感があったら、すぐに止める。いい?」

 

「分かった」

 

僕はうなずき、再び集中した。

 

まずは自分の身体を覆うオーラを確認する。次に、右手から少量だけ放出した。

 

細い帯のように伸びていくオーラ。

 

一メートル。

 

二メートル。

 

そこで止める。

 

木片までは、まだ一メートルほどの距離があった。

 

僕は放出したオーラを保ったまま、木片に残る自分のオーラを探った。

 

最初は何も起きない。

 

ただ、自分から伸びたオーラと、木片に残ったオーラが、それぞれ別のものとして感じられるだけだった。

 

僕は呼吸を整え、放出したオーラをほんの少しだけ前へ進めた。

 

その瞬間。

 

「……っ」

 

感覚が変わった。

 

伸ばしていたオーラの先端が、かすかに揺れた。

 

風に吹かれたわけではない。僕自身が意識して方向を変えたわけでもなかった。

 

まるで、そこにある何かを見つけたように。

 

次の瞬間には、元の感覚に戻っていた。

 

「今、何かあった?」

 

ビスケの問いに、僕はすぐには答えられなかった。

 

胸の奥が熱くなる。けれど、ここで「分かった」と言ってしまうのは違う。

 

「オーラの先が、一瞬だけ木片のほうを向いた。昨日と似てる。でも……昨日より、何が起きたのか分かりやすかった気がする」

 

「それで?」

 

「それだけ。木片に触れたわけじゃないし、つながったとも言い切れない」

 

「よく言えました」

 

ビスケは満足そうに笑った。

 

「じゃあ、今の条件を記録しましょう。何をしたときに、どんな変化が起きたのか。再現できるかどうかは、そのあとよ」

 

僕はノートを開いた。

 

放出したオーラの長さ。木片までの距離。集中の仕方。変化を感じた瞬間の動作。

 

思い出せる限りを書き込んでいく。

 

そして、同じ条件でもう一度試した。

 

一回目。何も起きない。

 

二回目。オーラの先端がわずかに揺れた気がしたが、確信は持てなかった。

 

三回目。変化なし。

 

四回目、五回目と続けても、最初のような感覚は戻ってこなかった。

 

僕は放出したオーラを消し、深く息を吐いた。

 

「やっぱり、再現できないか……」

 

「でも、前より一つ進んだわ」

 

「そうかな?」

 

「ええ。今までは、オーラを木片まで届かせることばかり考えていたでしょう? でも今日は、届かせる前の変化に気づいた。あなたが観察すべきものを、少しずつ絞れてきているのよ」

 

ビスケは木片を手に取った。

 

「ただし、今の段階では、あなたのオーラが木片に引き寄せられたとは言えないわ。あなたの意識がそちらへ向いていたから、そう感じただけかもしれない」

 

「うん。だから次は、木片の位置を変えたり、オーラを残していない木片を使ったりして、違いがあるか調べたい」

 

「その調子。仮説を立てるのは自由。でも、仮説を事実にするには、証拠が必要なの」

 

その言葉を聞きながら、僕はノートに一行を加えた。

 

――放出したオーラは、残留した自分のオーラを意識しているとき、先端の向きに変化が生じる場合がある。

 

まだ、たった一度の観察にすぎない。

 

それでも、以前の僕なら見過ごしていたかもしれない小さな違いだった。

 

 

 

 

 

第33話 同じオーラ、違う場所

 

翌日、ビスケは木片を三つ用意した。

 

一つ目は、僕のオーラを十分に残したもの。

 

二つ目は、ほとんどオーラを残していないもの。

 

三つ目は、まだ一度も触れていないものだった。

 

「今日は、この三つを使って比べてみるわ。どれがどれか分からないように並べるから、見た目に惑わされないこと」

 

「分かった」

 

「それから、木片の位置も毎回変える。あなたは目を閉じて、オーラの感覚だけで探すの」

 

ビスケは三つの木片を部屋の異なる場所へ置いた。

 

僕は目を閉じた。

 

まずは、残留したオーラを探す。

 

右手を軽く前へ出し、周囲に意識を向ける。自分のオーラを感じ取ることには、少しずつ慣れてきた。けれど、三つの木片を区別するのは簡単ではない。

 

一つ目の木片には、確かに自分のオーラが残っている。

 

二つ目と三つ目は、はっきりとは感じ取れない。

 

僕は一つ目の位置を選んだ。

 

「そこね」

 

ビスケが答えた。

 

「正解よ」

 

思わず口元が緩みそうになる。

 

だが、これは昨日までにもできていたことだ。今日確かめたいのは、その先だった。

 

僕は選んだ木片から少し離れた場所に立ち、右手からオーラを放出した。

 

昨日と同じように、少量ずつ伸ばしていく。

 

一メートル。

 

二メートル。

 

そこで止める。

 

木片の位置を意識する。

 

しかし、オーラの先端に変化はない。

 

今度は、二つ目の木片を探した。

 

残留オーラをほとんど感じ取れないため、正確な位置を特定するのに時間がかかった。ようやく場所を選び、同じようにオーラを伸ばしてみる。

 

何も起きなかった。

 

三つ目も同様だった。

 

「どうだった?」

 

「残留オーラがある木片は、位置を探すのが簡単だった。でも、オーラを伸ばしたときの変化は、どれも再現できなかったよ」

 

「なるほど。じゃあ、今度は条件を一つだけ変えてみましょう」

 

ビスケは一つ目の木片を僕の近くへ移動させた。

 

「今度は、木片を探すことに集中しないで。まずは、放出したオーラを一定の形で保つ。それができたら、木片の位置を意識してみて」

 

僕は言われたとおりにした。

 

これまでの僕は、残留オーラを探し、それを目印にして放出したオーラを伸ばそうとしていた。

 

けれど、二つの作業を同時に行うと、どちらかが曖昧になってしまう。

 

放出したオーラを保つ。

 

その状態で、木片の位置を意識する。

 

しばらく続けていると、奇妙なことに気づいた。

 

木片の位置が分かることと、伸ばしたオーラがそちらへ向かうことは、別の現象なのだ。

 

木片の場所は分かる。

 

そこに自分のオーラが残っていることも分かる。

 

それでも、放出したオーラは僕の意識どおりにしか動かない。少なくとも、今のところはそうだった。

 

「……そっか」

 

「何か分かった?」

 

「位置が分かるだけじゃ、オーラは勝手にそこへ向かってくれないんだ。僕が場所を感じ取ることと、オーラをそこへ導くことは、別々に練習しなきゃいけない」

 

ビスケはゆっくりとうなずいた。

 

「そのとおり。感覚が鋭くなることと、技術が身につくことは同じじゃないわ」

 

「じゃあ、まずは別々にできるようにする」

 

「ええ。ただし、最後には両方を同時に使えるようにする必要があるわね」

 

僕は自分の手を見つめた。

 

前世で読んだ物語の中には、空間を一瞬で移動する技があった。

 

僕が目指しているのも、それに似たものだ。

 

でも、あのとき何が起きたのか、まだ答えはない。

 

残留オーラを目印にすればいいのか。

 

神字を組み合わせれば、何かが変わるのか。

 

そもそも、僕のオーラに空間を移動する性質があるのか。

 

どれも、今は仮説ですらない。

 

だからこそ、焦るわけにはいかなかった。

 

「お母さん」

 

「なあに?」

 

「明日は、オーラを伸ばす練習と、残留オーラを探す練習を別々にやってみたい。それで、慣れてきたらもう一度合わせてみる」

 

ビスケは一瞬だけ目を丸くし、それから嬉しそうに笑った。

 

「いいわよ。ちゃんと考えているじゃない」

 

その笑顔を見て、僕も笑った。

 

今すぐ瞬間移動ができるようになるわけではない。

 

それでも、分からないことを分からないままにしておくのではなく、一つずつ確かめる方法は見えてきた。

 

僕が求めているのは、偶然起きた奇跡じゃない。

 

自分の意思で使えて、必要なときに大切な人を守れる技術だ。

 

そのために必要なものが何なのか。

 

僕はまだ、その入り口に立ったばかりだった。

 

 

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