4代目に憧れて   作:ryyonn

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重ねるための基礎

 

 

翌朝、僕はいつもより早く目を覚ました。

 

窓から差し込む朝日を眺めながら、昨日の実験を頭の中で整理する。

 

残留オーラを探すこと。

 

放出したオーラを一定の形に保つこと。

 

そして、その二つを同時に行うこと。

 

どれも単独なら少しずつできるようになっている。問題は、それらを組み合わせた途端に精度が落ちることだった。

 

「……まずは、別々の技術をちゃんと身につけないと」

 

そう呟いて、僕はベッドから降りた。

 

朝食を終えると、ビスケが訓練場で待っていた。

 

「今日は予定どおり、基礎を分けて練習するわよ。最初は放出したオーラを保つ訓練。残留オーラのことは考えないこと」

 

「うん」

 

僕は床に置かれた小さな木製の球を見た。

 

以前、僕が放出したオーラを球状に保つ練習に使ったものだ。今日はそれを目標にするわけではない。自分の身体から少し離れた位置にオーラを出し、その形と量を維持する。

 

ビスケの指示に従い、僕は右手の前に小さなオーラの塊を作った。

 

最初は安定している。

 

しかし、意識を少しでも別のことへ向けると、形が歪んだり、量が減ったりする。

 

「力を入れすぎよ。維持しようとするあまり、余計なオーラを使っているわ」

 

「分かってるんだけど、意識するとどうしても……」

 

「だったら、維持することだけに集中するんじゃなくて、変化を感じ取りなさい。崩れたら直す。小さくなったら調整する。最初から完璧な形を保とうとしないの」

 

僕は一度、オーラを消した。

 

それから、もう一度作る。

 

今度は、形を固定しようとするのではなく、変化を感じながら少しずつ調整した。

 

すると、さっきよりも長く保てた。

 

「そう。それでいいわ」

 

ビスケの声に、少しだけ自信が戻る。

 

午前中は、ひたすらこの練習を繰り返した。

 

劇的な変化はない。

 

ただ、同じ量のオーラを維持するために必要な集中力が、少しずつ減っている気がした。

 

昼食を挟み、午後からは残留オーラの感知に取り組んだ。

 

今度は放出したオーラを使わない。

 

少し離れた場所に置かれた木片を前に、目を閉じて意識を集中する。

 

自分のオーラが残っている場所を探す。

 

以前よりも、感覚をつかむまでの時間は短くなっていた。

 

「見つけた」

 

「じゃあ、木片を動かすわね」

 

ビスケが木片を別の場所へ移動させた。

 

僕は一瞬、位置を見失いかけた。

 

けれど、すぐに気づく。

 

僕が探しているのは、木片そのものではない。そこに残った自分のオーラだ。

 

木片が移動すれば、木片に付着したオーラも一緒に移動する。

 

頭では理解していたことだが、実際に感知しながら確かめると、以前よりはっきりと区別できた。

 

「今度は、ちゃんと追えたね」

 

「うん。木片が動いても、残ったオーラを感じ取れれば、位置を探せる」

 

「ただし、いつでも正確に分かるとは限らないわ。時間が経てばオーラは薄れていくし、あなたが感知できる範囲にも限界がある。そこは忘れないこと」

 

僕は頷き、記録をつけた。

 

今日のところは、これで十分だろう。

 

だが、訓練を続けるうちに、一つ気になったことがあった。

 

「お母さん。残留オーラって、時間が経つと消えていくよね?」

 

「そうね。量や性質、周囲の環境にもよるけれど、ずっと同じ状態で残り続けるわけじゃないわ」

 

「じゃあ、もし残留オーラを目印として使うなら、目印が消える前に使わないといけないのかな」

 

ビスケは少し考えた。

 

「それは、あなたがどんな仕組みを作りたいかによるわね。単に残ったオーラを感知するだけなら、今言ったとおり。でも、それを特定の技術の中で利用するなら、別の工夫が必要になるかもしれない」

 

「別の工夫……」

 

「以前、神字について教えたでしょう?」

 

その言葉に、僕は顔を上げた。

 

神字。

 

オーラの働きを補助し、組み合わせ方によっては複雑な仕組みを作ることもできる、特殊な文字。

 

僕はこれまで、神字の形や意味、オーラとの関係を少しずつ学んできた。けれど、実際の訓練では、まず自分自身のオーラを理解することを優先していた。

 

「神字を使えば、残留オーラを長く保てるようになるの?」

 

「可能性はあるわ。でも、必ずできるとは言えない。神字は便利な魔法の文字じゃないの。どう使うか、どんな仕組みを与えるかによって、結果は変わるのよ」

 

「そっか……」

 

僕は木片を見つめた。

 

今の僕にできるのは、残留オーラを感知すること。そして、放出したオーラをある程度制御すること。

 

その二つを結びつける方法は、まだ見つかっていない。

 

神字を使うのは、その先だ。

 

焦って文字を書き込み、何かが起きるのを期待するのでは意味がない。

 

「もう少し、基礎を続けるよ。ちゃんとオーラを扱えるようになってから、神字のことも考えたい」

 

「ええ。それがいいわ」

 

ビスケは僕の頭を軽く撫でた。

 

「でも、忘れないでね。基礎を身につけることと、目的を考えることは両立できるのよ。あなたが何を作りたいのか。それを見失わないことも大切だから」

 

僕は頷いた。

 

僕が作りたいのは、ただ遠くまでオーラを飛ばす技ではない。

 

一瞬で場所を移り、大切な人のもとへ駆けつける技だ。

 

そのために何が必要なのか。

 

まだ答えは出ていない。

 

けれど、昨日よりも自分のオーラを理解できた。

 

それは確かな前進だった。

 

夜、自室にて

 

訓練を終えた僕は、机に向かってノートを開いた。

 

今日の成果を整理してから、最後に一つだけ書き加える。

 

「残留オーラを感知する能力」と「放出したオーラを制御する能力」を、別々に鍛える。

 

その下に、もう一行。

 

「二つを結びつける仕組みは、まだ分からない」

 

以前なら、何も分からないことに焦りを感じていただろう。

 

けれど今は、少し違う。

 

分からないことが明確になれば、次に何を調べるべきかが見えてくる。

 

僕はノートを閉じ、窓の外を見た。

 

いつか、この世界の誰もが驚くような移動技術を完成させる。

 

その目標は変わらない。

 

ただし、そのために必要なのは、ひらめきだけではない。

 

積み重ねた基礎と、失敗から得た知識。そして、偶然の出来事を何度でも再現できる技術に変えること。

 

僕はもう一度、机の上の木片に目を向けた。

 

今夜は、もう訓練をしない。

 

明日になれば、また新しいことを試せる。

 

今は、そのために休むことも必要だった。

 

 

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