4代目に憧れて   作:ryyonn

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同じ場所に、もう一度

 

 

翌日、僕は訓練場に入るなり、ビスケに一つの提案をした。

 

「お母さん。今日は、残留オーラを感知する練習と、放出したオーラを制御する練習を、交互にやってみたいんだ」

 

「交互に?」

 

「うん。別々なら、前より安定してできるようになってきたから。片方をやった直後にもう片方をやれば、何か違いが分かるかもしれない」

 

ビスケは腕を組み、僕をじっと見た。

 

「いいわ。ただし、違いが出ると決めつけないこと。何も変わらなかったら、それも立派な結果よ」

 

「分かってる」

 

「本当に?」

 

「……分かってるってば」

 

ビスケはくすくすと笑った。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

訓練場の中央に、二つの木片が置かれた。

 

一つには、昨日までの練習で僕のオーラが残されている。もう一つは、まだ何もしていないものだ。

 

まずは、残留オーラを感知する。

 

僕は目を閉じ、意識を集中させた。

 

以前よりも早く、一つ目の木片の位置を把握できた。二つ目については、木片そのものを感じ取ることはできない。

 

次に、木片から意識を離し、自分の右手の前に小さなオーラの塊を作る。

 

大きさを一定に保ち、形が崩れたら修正する。

 

数分後、ビスケが声をかけた。

 

「はい、交代。もう一度、残留オーラを探して」

 

僕はオーラを消し、木片に意識を向けた。

 

――あれ?

 

ほんのわずかだが、さっきよりも感覚が鈍い。

 

集中力が切れたのか。それとも、放出したオーラを維持するために意識を使ったせいか。

 

僕はその違和感をノートに記録した。

 

同じ手順を何度か繰り返すと、似た傾向が見られた。ただし、毎回はっきりと差が出るわけではない。疲労や集中の具合も影響しているのだろう。

 

「何か分かった?」

 

ビスケに尋ねられ、僕は考えながら答えた。

 

「二つの練習を続けてやると、残留オーラを探す感覚が少し鈍くなることがある。でも、それがオーラの制御そのもののせいなのか、集中力の問題なのかは、まだ分からない」

 

「いいわね。今の段階で原因まで決めつけなかったのは正解よ」

 

彼女は木片を片づけながら続けた。

 

「ただ、今日の目的は二つの練習を交互にすることだったでしょう? 次は、同時にやることを考えてみてもいいんじゃないかしら」

 

「同時に……」

 

僕は右手を見つめた。

 

残留オーラの位置を感じ取りながら、放出したオーラを維持する。

 

今まで何度も試してきたことだ。

 

けれど、どちらかに意識が偏ると、もう一方が不安定になる。

 

「やってみる」

 

僕は木片の前に座り、右手を伸ばした。

 

まずは残留オーラを探す。

 

場所が分かったところで、少量のオーラを放出する。

 

意識を二つに分けるような感覚だった。

 

一方では、木片の位置を捉え続ける。

 

もう一方では、放出したオーラの形を保つ。

 

最初の数秒は、うまくいった。

 

しかし、木片の位置を確かめようと意識を強めた途端、放出したオーラが揺らいだ。

 

「……っ」

 

すぐに修正しようとしたが、今度は残留オーラの感覚が曖昧になる。

 

結局、両方とも維持できなくなってしまった。

 

僕はオーラを消し、肩の力を抜いた。

 

「難しいな……」

 

「そうね。でも、さっきより長く続いたわよ」

 

ビスケは僕の正面に腰を下ろした。

 

「あなたは、一つのことに集中すると、かなり高い精度でオーラを扱える。でも、二つの作業を同時に行うと、意識の配分が崩れやすい。これは、これから先も課題になるでしょうね」

 

「つまり、もっと慣れればいいのかな?」

 

「慣れも必要。でも、それだけじゃないわ。毎回、頭で細かく指示を出さないとできない動作は、実戦では間に合わないこともあるでしょう?」

 

僕は黙って頷いた。

 

たしかに、そのとおりだ。

 

敵の攻撃を避けながら、残留オーラを探し、放出したオーラを制御し、移動先を選ぶ。

 

もし、すべてを一つずつ考えなければ動けないのなら、完成したところで実戦では使い物にならないかもしれない。

 

「だから、まずは一つ一つの動作を安定させる。そのあとで、少しずつ組み合わせていくのよ」

 

「うん。焦らずにやるよ」

 

「その言葉、最近よく聞くわね」

 

「……お母さんが毎日言うからでしょ」

 

「あら、ちゃんと覚えてくれて嬉しいわ」

 

ビスケは悪戯っぽく笑った。

 

僕は苦笑しながら、ノートを開いた。

 

今日の結果は、派手なものではない。

 

新しい現象も起きなかったし、空間跳躍に近づいたと確信できるような発見もなかった。

 

それでも、一つだけはっきりしたことがある。

 

僕が目指している技術には、オーラの量や放出距離だけでなく、複数の感覚と操作を同時に扱う能力も必要になる。

 

これは、今後の訓練方針を決めるうえで重要な発見だった。

 

僕はその一文を書き、ペンを置いた。

 

「お母さん。明日は、歩きながら残留オーラを探す練習をしたい」

 

「いいわよ。ただし、歩くことに慣れているからって、簡単だと思わないこと。身体を動かすだけでも、意識は使うんだから」

 

「分かってる」

 

今度は、ビスケも疑わしそうな顔をしなかった。

 

数日後

 

歩きながら残留オーラを探す練習は、思った以上に難しかった。

 

止まっているときなら簡単に感じ取れる木片も、歩き始めると途端に見失いやすくなる。足運びに意識を向ければ感覚が薄れ、感覚に集中すれば歩幅が乱れる。

 

それでも、何度も繰り返すうちに、少しずつ変化が現れた。

 

最初は数歩で見失っていた残留オーラを、十歩、二十歩と歩きながら追えるようになったのだ。

 

まだ放出したオーラを同時に制御する余裕はない。

 

けれど、できることは確実に増えている。

 

そして、その日の訓練を終えようとしたときだった。

 

木片の横を通り過ぎた僕は、ふと足を止めた。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの、レオン?」

 

僕は振り返り、自分が歩いてきた道を見た。

 

歩きながら木片の位置を探っていたとき、一瞬だけ、木片の位置を意識し直さなくても、その方向が分かるような感覚があったのだ。

 

ほんの短い時間だった。

 

何かがつながったわけでも、オーラが勝手に移動したわけでもない。

 

ただ、位置を探すために集中し続けなくても、そこにあると分かった。

 

「今、木片の位置が……いつもより自然に分かった気がする」

 

ビスケはすぐに僕を止めた。

 

「もう一度、同じことが起きるか確かめたい?」

 

「うん。でも、今すぐ同じ感覚になるかは分からない」

 

「なら、今日はそこで終わり。疲れているときに無理をしても、条件が変わってしまうでしょう?」

 

僕は少し迷ったが、頷いた。

 

確かめたい気持ちは強かった。

 

けれど、今の感覚を無理に再現しようとすれば、何が起きたのか分からなくなるかもしれない。

 

僕はノートに、感じたことをそのまま書き留めた。

 

まだ技術とは呼べない。

 

空間跳躍への手がかりかどうかも分からない。

 

それでも、動きながら残留オーラを捉える感覚には、止まっているときとは違う可能性があるのかもしれなかった。

 

僕はノートを閉じた。

 

明日からは、歩く速度や距離を変えながら、同じ感覚が現れるかを確かめていこう。

 

今度こそ、偶然を追いかけるだけではなく。

 

自分の意思で、その感覚に近づくために。

 

 

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