午後、ビスケは訓練場の中央に木片を一つだけ置いた。
「今度は、私が条件を変えるわ。あなたは、何を変えられたのか分からない状態で試してみて」
「分かった」
彼女は木片にオーラを残す量を変えたり、僕との距離を変えたりしながら、実験を進めた。
僕は歩きながら残留オーラを探り、放出したオーラを伸ばす。
だが、何度試しても、あの感触は現れなかった。
それでも、途中で一つの違いに気づいた。
残留オーラが強いときは、木片の位置を捉えやすい。
弱いときは、意識を集中しなければ位置を見失ってしまう。
ここまでは以前から分かっていたことだ。
しかし、放出したオーラを伸ばす際、残留オーラが強いほうが、伸ばす方向を調整しやすいように感じられた。
それは、木片の位置が分かりやすいからなのか。
それとも、残留オーラそのものが何らかの影響を与えているのか。
今の段階では判断できない。
僕はその違いを、ノートに書き加えた。
「今日はここまでね」
ビスケが告げた。
「えっ、もう?」
「もう、よ。あなた、さっきから何度も同じことを試しているでしょう。集中力が落ちてきているわ」
言われて初めて、自分の疲労に気づいた。
確かに、最初の頃よりも残留オーラを感じ取るのに時間がかかっている。
「……分かった」
僕はオーラを消した。
今日、新しい技が完成したわけではない。
瞬間移動を再現できたわけでもない。
けれど、これまで漠然としていた現象に、一つの具体的な目標ができた。
放出したオーラの先端を、残留オーラの位置まで正確に導く。
まずは、それを安定してできるようにする。
その先に何があるのかは、まだ分からない。
けれど、少なくとも今は、追いかけるべきものがはっきりしていた。
その夜
僕は机に向かい、今日の記録を読み返していた。
二つのオーラが触れたような感触。
あれが本当に接触だったのなら、僕のオーラは、自分の残留オーラをただ感知するだけでなく、何らかの形で反応する可能性がある。
もし、その反応を自由に起こせるようになったら?
僕はペンを止めた。
まだ、その先を考えるには早い。
けれど、ひとつだけ思い出したことがあった。
神字は、オーラの働きを補助するために使われる。
今の僕には、残留オーラと放出したオーラを安定して結びつける技術がない。
だが、もし将来、その仕組みを理解できたなら、神字によって何かを補助できる可能性はあるのかもしれない。
もちろん、今すぐ試すつもりはない。
先に必要なのは、自分のオーラで何ができるのかを理解することだ。
僕はノートの最後に、今日の目標を書き加えた。
――残留オーラを、ただ感じ取るだけで終わらせない。
――自分のオーラを、そこまで確実に届かせる。
そして、その先へ。
四代目のように、誰よりも早く大切な人のもとへ駆けつけるために。
僕は静かにノートを閉じた。
今度の進展は、偶然の感触だけでは終わらせない。
次は、あの感覚を再現できるかどうか。
そこからが、本当の勝負だった。